死者と準備と時間稼ぎと
遅くなった。反省も後悔もしている。だから許してお兄さん。
階層全体にこれでもかと詰め込まれたゾンビを薙ぎ払いながら突き進む。
白光を纏った腕を振るい、肉塊に変え、前方を塞ぐ棺桶の山を正面から喰い破る。
不気味な咆哮を上げ、右側の壁を突き破って出てきたフランケンシュタインの喉笛に牙を突き立てて嚙み千切る。
四方八方から撃ち出された肉槍を掻い潜り、その奥で待ち構えていた骨槌を、すれ違いざまに木端微塵に刻んで押し通る。
上から降ってきた融合ゾンビを華麗に躱して、反撃の一撃で八つ裂きに。
出口を塞ぐように一塊に癒着し合う一般ゾンビ達。その結果出来上がる腐肉の壁。
やはりどこか、遅延戦略のようなものを感じる。
だが関係ない。
「どうするの?!お兄ちゃん!!」
「正面突破だ!!」
「馬鹿なの?!」
失礼なことを言われたが気にせず加速。
肥大化させた右腕を全力で叩き付け、道を開いた。
「しっかし…………………やっぱこれキツイな」
5,6ほど階層を通り過ぎた。
ゾンビを全滅させて階層に作った安全地帯の中で、膨張させ拡張していた四肢を腐らせ、切り離す。
便利には便利だが違和感が凄い。
楔を打ち込み、天幕を繋いで機構を作動させる。
繰り返し過ぎたせいでいい加減慣れてきた作業を終わらせる。
血液瓶を飲み干して一息。
コレが無いとやってられない。
そして瓶が残り少ない
。結構な量を持って来ていたのだが、残りは6本。
早いとこ迷宮を攻略しないと、本格的にマズいことになる。
漠然とした不安を感じる俺の隣で、幸せそうに携帯食を頬張るギンカ。
とっつきの点検をするオネットさんと、道中で回収した書類を読み耽るアヤメ。
「なぁ、アヤメ。何か分かりそうか?」
「ある程度わかってきた、かな?かなり読みにくいけど何かの召喚が目的だと思う」
「何か…………か」
嫌な予感がするな。
ふと、目に映った1枚の羊皮紙を手に取る。
黒いインクで描かれた異形の怪物の絵と、謎の魔法陣。
全くわからんが、なんとなくヤバそうなのはわかる。
「アヤメ、コレって何なの?」
アヤメの横からギンカが覗き込んできた。
相変わらず小さいな、こいつら。
「正体不明のマズそうな何かの召喚陣?」
「……………どうする?」
「進むしかないでしょ?」
諦めたように肩を竦めて言うアヤメ。
色々酷いな。
「レン君、ちょっと手伝ってくれないかな?」
オネットさんに呼ばれて行く。
「で、何をしたらいいんですか?」
「パイルハンマーの装填をね。金属発条と歯車が思ったより硬くて……………………」
「そうですか」
言われた通りに機構の内部にバネと歯車を仕込み、杭を填め込む。
意外に入れにくいが、どうにかなった。
「やっぱり、男子は筋力があるね~」
「それは関係ないでしょう」
レバーを引いて骨格を動かし、蒸気を吹きあげて元の筒に戻す。
「レン、私はもう寝るから」
「分かった、お休み」
腹が膨れて眠たくなったのか、目を擦りながらテントに入るギンカ。
本当に子供みたいだな。
そしてそれに続くオネットさん。
あんたもか。
そして未だ書類を読み続けるアヤメ。
「おい、アヤメ。もうそろそろ寝たらどうだ?」
「………『月』『棲む』『獣』、いや、『ケダモノ』?そして『手負い』………『槍』?ああっ、めんどくさい!!」
こちらを見もせずに呟き続けるアヤメ。
どことなくオーバーヒート寸前のような気もする。
流石に根を詰めすぎだろう。
「夜更かしたら背が伸びなくなるぞ?」
「うるさい!」
怒られた。
階層に入ると同時に襲い掛かって来た肉槍を、膨張させた自身の体で防ぎきる。
変異させた四肢を踏ん張り、背中に3人を乗せて走り出す。
自殺志願者か何かの様に立ち塞がるゾンビ共。
目的が足止めとしか思えないが上等だ、押し通る。
「ガッ、アアァアアァァァ!!!」
雄叫びを上げ、死肉の壁に牙を突き立て、爪で引き裂き、質量で押し潰す。
時間稼ぎなんぞさせてたまるか。それに何より気に喰わない。
右腕を限界まで引き絞り弓の様に構えて──────────────────貫いた。
立ち止まらず、一歩も引かず、只々戦列を喰い破る。
目の前の門に飛び込む寸前で。
突如、迷宮が大きく脈打った。
壁に天井、更には周囲の床。それら全てが渦を巻いて、扉の様に出口を塞ぐ。
相変わらずの遅延戦術。いい加減にしやがれ。
腹立ちを込めて身体強化を使い、壁を打ち崩す。
四方八方から押し潰すように迫りくる、無数の腕。
それらに体の一部を引き千切られながらも、階層を抜け出した。
階層に躍り出ると同時に戦闘態勢を整え、襲撃が無い事に訝しみつつ3人を背中から降ろす。
肥大化させていた肉塊を切り離し、体を起こす。
眼前に建てられた巨大な門。
悍ましいケダモノの紋章が刻み込まれた異様な大扉と、それに掛けられた漆黒の閂。
恐らく此処が、この迷宮の終着点なのだろう。
血液瓶を一本飲み、念の為にもう一本。
この先、間違いなく戦闘になる。
準備は念入りに行うべきだろう。
更に門の前で堂々とテントを張り、休息の用意を整える。
鬼が出るか蛇が出るかは知らないが、出来る限りの事はやっておきたい。
そんな俺の後ろでテントに潜り込むアヤメ。
やっぱりと言うべきか、昨日の睡眠不足が祟っているようだ。
オネットさんがクロスボウの点検を始め、その隣で黒い腕を布拭きするギンカ。
それでいいのかと突っこみたくなるが、きっと問題無いのだろう。
一応、周囲の警戒をしながら、夜を明かした。
次回、決戦になると思うかもしれなくもない。
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