ボスと不死と盾と
中途半端になったから頑張って今日中にもう一本あげたい。
6層目を発ってから5回ほど休息を挟んだ。
我武者羅に突き進んだせいで現在の場所すらもはっきりしないが、恐らく40、50階層ぐらいだろう。
水増しされるゾンビに増加するデカブツ。
遂に一般通過と化したフランケンシュタインに加えて融合ゾンビ。
新規採用のよくわからんサムシング(死体製の六足の棺桶)との愉快なパレード。
ひたすらに精神が摩耗しそうな闘争と逃走の繰り返し。
迷宮の主は殺す。
可能な限り惨たらしく、苦痛を味あわせたうえで、生きていたことを激しく悔い改めさせて殺す。
それはともかく。
目の前に聳え立つ漆黒の大扉。
あの羊皮紙に描かれていた奇怪なケダモノと同じ物が描かれたソレの両脇には、備え付けられた篝火台。
立ち込めるは危ない香り。
「………………コレ、明らかにヤバいよな」
「だね。明らかにラスボス戦前のセーブポイントだよね」
「わかる」
「ねぇ、みんな。それなに?」
ここにきて浮き彫りになる、地球出身と現地人の差。
そりゃあ、この世界にラスボスなんてモノがあるわけもないか。
いるとすればそれこそ魔王ぐらいだろう。
……………ってことは、俺たちはラスボス側の存在ってことになるな。
さしずめ、序盤のストッパー辺りか。
まぁいいか。
「準備はいいか?行くぞ」
両開きのドアを押し開け───────────────直感に従って刀を振り払う。
確かな手応えと共に真っ二つになりながら落下したのはフランケン君。
チッスチッス、出待ちご苦労さんです。
「アヤメ、気をつけろ!」
「お兄ちゃん、避けて!」
アヤメの警告に従わず、繰り出された鋼の鉤爪を自分自身の体で受け止める。
俺の腹を引き裂いて飛び出した切先に引っ掛けられて宙を舞う。
滞空狩りとでも言わんばかりに繰り出された円盾に、全身の肉と骨を纏めて砕かれた。
少し、痛いな。そしてそのまま放り捨てられた。ぶん殴ってやる。
追い打ちをかけるように振り下ろされた刃を太刀で受け流す。
相手は…………鎧の戦士。
2メートルは下らないであろうその巨体に見合わぬ、左腕に括り付けられた小振りな円盾と鉤爪付きの棍棒。
油断無く構えられた右手の剣断ち。
総身を包む金属鎧と、王冠付きの兜に隠されているせいで素性は判別できないが、漂ってくる腐臭からして、奴もまた同類。
つまりぶっ殺せ。
奥に控える鎧の騎士三人衆。
恐らくあれらも不死。
集まられると面倒くさくなりそうだな。
さっさと片付けるか。
「アヤメ、オネットさん!呪文頼んだ!!」
「任せて!」
「暫くかかるけどいいかな?」
「ギンカ、時間稼ぐぞ」
「分かってる」
俺の後ろでギンカが黒い腕を構える。
一泊の後、戦闘が始まった。
詠唱を開始した後衛組を尻目に、鎧の騎士の顔面を掴み、引き摺り倒して首に刀を突き刺し、そのまま力任せに捩じ切る。
右腕から生やした無数の触手を硬質化させ、未だに蠢く胴体を迷宮の床に縫い留める。
殺せないならこうするのが一番手っ取り早い。
ギンカがこちらに投げ飛ばしてきた騎士を、同じようにして床に固定する。
背後からの衝撃と鈍痛。
円盾の一撃に吹き飛ばされながら太刀を鉈に変える。
ガラ空きの胴目掛けてその鈍刃を叩き込み─────────鎧に弾かれる。
想定以上の硬度、というかカッチカチ過ぎる。
刃物より鈍器の方が相性が良さそうだ。
戦槌に持ち替えて大ぶりの一撃を振り下ろす。
あっさり盾で防がれた。
泣きたい。
仕方がないので顎にアッパーをかまし、掲げるようにして持ち上げ、叩き落す。
地べたで転がってる騎士を巻き込んで、触手に変えた右腕で雁字搦めに縛る。
自らの腕を噛み千切って離脱。
背後で収束しだす、獰猛さを感じさせる気配。
アヤメの持つ錫杖の先端が狂的に赫灼と輝き、オネットさんの構えるクロスボウが神秘性を感じさせる紫光を放つ。
「─────────【焦土】!」
「─────────【雷鳴の貫槍】!」
前方の地面を根こそぎ薙ぎ払いながら放たれた必殺の一撃が、鎧の集団を飲み込む直前で。
「【城砦防御】」
しゃがれた様な声で紡がれた奇跡が黒い靄の波動になり、二人の攻撃を防いだ。
いや、それよりもアレは…………………
「……………………レン、あれって」
「ああ、間違いない。あの人と同じ業だ」
何時ぞやの戦闘訓練で喰らった俺が言うんだから間違いない。
尤も、少しばかり見た目が違って見えるが。
「お前ら、コレどうする」
「ああっ、もう!なに防いじゃってんの?!生意気だからさっさと死んでよ!!」
「アヴィンと同じ業を使った。殺す」
「というか、僕納得いかないんだけど?なんであのタイミングで防ぐの?潔く死のうとは思えなかったのかな?これだから不死者って連中は…………………どうせ地獄に落ちるんだからさ」
うちの女性陣が物騒すぎる。
向こうも心なしかビビってるし。
溜め息を吐き、太刀を構える。
「アヤメ、オネットさん。何か策はあるか?」
「階層ごと焼き払っていいならいけるけど?」
「やめてくれ」
こいつが言うと洒落にならない。
「…………レン君、あいつらを暫くの間拘束してくれる?出来るなら多分殺せるけど」
「マジか」
自信ありげなオネットさん。
何をする気かわからないが、やれるって言うのなら、そうなのだろう。
太刀を下段に構え、走り出す。
振り下ろされた騎士剣と鉤爪の合間を滑り抜け、喰剣と身体強化を発動。
体に力が漲り、抜身の刀身が白い極光を纏う。
だが、恐らく俺の攻撃では致命傷になりえない。
騎士の方は殺せても、少なくとも鎧の戦士を殺すには至らない。
そしてまさかのインファイトで鎧の戦士と殴り合うギンカ。
男前かよ、コンチクショウ。
「【螺鈿蓮彫り】!」
鎧に弾かれた勢いすらも利用して斬る。
騎士には通じる、がやはり鎧の戦士には刃が通らない。
切り口が爆ぜ、相手を吹き飛ばす。
後退した一体に肉薄し、鎧の隙間から手を突き入れ、臓物を引き抜く。
すぐに再生されるだろうが、時間稼ぎにはなる。
もう片方の騎士の喉笛に咬みつき、喰い千切った。
黒い血が噴き出し、もんどりうって騎士が倒れるのを確認。
残り一体に飛び掛かり、組み伏せ、首を落とす。
ギンカが戦士を足止めしている間に、せめてこいつ等だけでも殺す。
前に魔王様が言っていた不死者の殺し方は確か─────────
「─────────共喰いだったっけな」
全身から怒涛の如く生やした大百足が連中の臓物に嚙みつき、肉を削る。
逃れようと騎士が藻掻くが、させる筈も無い。
丁度腹も減ってきたところだ。肉体を再生させる端から喰ってやる。
まるで一つの巨大な生物のような捕食者の群れが不死者を喰らい尽くし、終わらせた。
無理そう。




