ゾンビと教会とタイツと
中途半端になったんゴ。
あれから一晩が過ぎたが、特に怪しまれたりもせずに出発できた。
……………………もっとも、前衛職としての勘か、はたまた神職者としての経験則からなのかはわからないが、ギンカが不審そうにあたりを見渡していた。
…………………バレないように気を付けないと。
それはともかく。
「アヤメ、携帯食を食べながら歩くのはやめておけ。吐くぞ」
「いやだなぁ~、お兄ちゃん。乙女がそんな事するわけないじゃん!!」
「そのセリフが既に怪しいんだよ」
「………アヤメ、そういうのはあまり良くないと思う」
「アヤメちゃん、自意識過剰は命取りになるから気を付けてね」
「酷い!!」
よよよ、とわざとらしく崩れ落ちるアヤメ。
何処から取り出したのか、ご丁寧に黒猫のアップリケの施されたハンカチで目元を覆う振りまでする始末。
「それ、何処で買ったんだ?」
「リリアナちゃんが作ってくれたよ?」
「マジか」
だから猫のアップリケなのか。
……………あれ、でもアイツって猫じゃなくて獅子だったような………………いや、猫だったか?
猫だな、うん。
気の迷いを振り払って前に進む。
坂道を上った先に見えるのはもう見たくもない例のゾンビ溜まり。
アヤメが錫杖を構え、詠唱を開始する。
4回も繰り返したせいで最早、手馴れつつある一連の工程。
火球の着弾に合わせて飛び込んだ。
並み居るゾンビを総スルーして、奥へ突き進む。
こんなのを相手にまともに戦ってやる必要も無し。
ダンマスがクソなんが悪いんや。
ワイは悪ないんや。
アヤメを背負ったまま、ゾンビの猛攻を潜り抜け、立ちふさがるゾンビを蹴り飛ばして道をつくる。
後ろからギンカがオネットさんを担いで走ってくるのを確認。
更に追ってくるゾンビ。
踵を返して立ち止まり腕を掲げ───────────────膨張させた自身の肉で轢き潰した。
階層を超えてなお進む。
休息用の天幕を張るためのクリアリング以外はすべて無視する。
この数を相手にしてたらキリがなさすぎる。
というかめんどくせぇ。
つまり戦略的撤退。
遠慮はいらんのだよ。
ゾンビの腕やら爪やらが肉を引き裂いて突き刺さるがお構いなし。
自らの身を盾にしてアヤメを庇いつつ、坂道を駆け上がった。
6階層目、これまでと全く同じ構造の窪地だと思っていたその場所は、少々毛色が違っていた。
もう既に見慣れた肉々しい床の上に貼られた、黒曜石の様な石畳と、周囲の異様に似合わぬ石造りの荘厳な建築物。
中世ヨーロッパの教会か聖堂の様な不可思議な物体。
明らかに何かある。
正面から突っ込むのは愚の骨頂。
裏手へ回れば壁面に飾られた巨大なステンドグラス。
ガラス越しに中の様子を確認する。
人骨で造られた篝火が生贄台の様なナニカを囲んでいた。
今まで以上におどろおどろしい気配が立ち込める室内。
台の上に安置された黒金の大盃。
人面のレリーフが刻まれたソレに、自らの手首を切り裂いて生き血を注ぐ全身黒タイツの覆面集団。
…………………うん、全身黒タイツの覆面集団。
奥の壁に掛かっている複雑怪奇な紋章の施されたタペストリーを見るからに、所謂『秘密結社』という奴なのだろうが……………何故、ソレにしたのかと問い詰めたい。
もっとこう、色々あっただろと言いたい。
きっと何か意味があるんだろうがそれにしてもこれは酷すぎる。
他人の価値観を否定するなとは言うが限度がある。
覆面にしても見た目が完全に某トラウマ量産機のソレ。
つまりキモイ。
というか、普通にバレそうなものなのだが……………………どうやらこちらに気付いてはいないようだ。
丁度いいし、このまま不意討ちを決めさせて貰おう。
自身の体表を黒く変色させ、四肢の爪を太く鋭く伸ばす。
トカゲの類の様に壁に張り付き、よじ登る。
一気に駆け上がり、屋根の上に到達。
尖塔のようになった装飾に、触手状に変化させた左腕を巻き付けてゆっくりと降りる。
目の前には嵌め殺しの硝子窓。
虚空から太刀を取り出し、窓枠を刻む。
僅かに空いた穴から潜り込むように入り、梁に飛び移る。
足音の一つも立てずに移動して、中央付近に。
真下には、儀式っぽい何かの指揮を執る、恐らくは幹部か何かなのでだろう覆面黒タイツ。
音もなく梁から飛び降りて───────────────頭蓋を上から貫く。
首筋に足を絡め、刃を横にかえし、滑るように回転しながら、首を斬り落とす。
どよめく黒タイツを他所に、盃を一刀のもとに斬り伏せる。
砕けた盃が怨霊のような叫び声を上げ、血が零れた。
原理がわからん。
刀を槍に持ち替え、全力で薙ぐ。
乱れ吹き飛ぶ黒タイツ。槍を片手で構え、身を捩じって───────────────
「【柘榴】!」
纏めてぶっ潰す。
突き出された湾曲したナイフを半歩横にずれて回避。
石突で引っ掛けながら引き摺り倒し、始末しようとして頭部に衝撃。
ゆらりと体が傾いだ瞬間に、あべこべに押し倒される。
見れば先程、確かに殺したはずの幹部黒タイツ。
首無しと化してなおも動く様は正しくゾンビのソレで………
「≪雷鳴の一閃≫≪唸る電光≫≪神槌を以て≫≪遍くを穿て≫──────【喚槌の嚆矢】!」
次の瞬間、石壁をぶち抜いて飛来した矢が俺の足元に突き刺さり、一泊の後、迅雷が落ちた。
辺りに立ち込める妙な刺激臭。
更に赤く燃え盛る火球が放たれ、俺ごと黒タイツを消し炭に変える。
相変わらずの超火力。
何度も喰らった俺が言うんだから間違いない。
こんがり焼かれた頭だけでそんな事を考える。
体を生やして手近な黒タイツを引っ掴み、投擲する。
身体強化を最大出力で発動し、生贄台を持ち上げる。
頭上に掲げたソレを叩き付けて床や諸々を纏めて粉砕。
破片を槍で突き刺し、振り回し、思いっ切り薙ぎ払って黒タイツを纏めてミンチに。
床板を引き剝がし、正面に構えて突撃してこれまたミンチに。
「避けてお兄ちゃん!詠唱簡略──────【緋色の斬焔】!!」
避けて、と言いつつ、回避させる気の無い横薙ぎの一閃に刻まれた。
上半身がずれ落ち、爆散する。
即座に体を生やして後退。
よろめきながら立ち上がった黒タイツを斬り捨てて、戦闘が終了した。
全身黒タイツの秘密結社っていいよね(発狂済み)
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