書類と移動と金属と
楽。
各種ポーション瓶────濃縮された人血─────に白紙の地図。
火種に寝袋、おまけに携帯食料。
その他諸々の必要な物品を背嚢に詰めていく。
どことなく懐かしさを感じると思ったら、地龍の迷宮だった。
「レンさん、今回は私は行かなくていいですよね?」
おずおずと尋ねるリリアナ。
「そう…………だな」
実際、迷宮の中に連れていく訳にもいかないだろうし。
「…………本当にいかなくていいんですか?」
「ああ」
「じゃあ代わりに書類仕事でも手伝って貰おうかな」
安堵するリリアナの肩を叩く魔王様。
リリアナの表情筋が一瞬で凍り付いた。
「あの、レンさん。やっぱり私も」
「居残りたいんだろ?ならそうしろよ」
「レンさん?!」
悲痛な叫びをあげるリリアナを見捨てて、竜車に乗り込んだ。
「ねぇ、お兄ちゃん。リリアナちゃんも連れてこなくてよかったの?」
幌の中から御者席で手綱を取る俺に話しかけてくるアヤメ。
「流石に今回は死にそうだしな。それはダメだろ」
「えぇ~、私の抱き枕が…………………」
「おい」
ナチュラルにヒトを物扱いする妹。
どこかで情操教育を間違えたのかもしれない。
それと……………
「なぁ、オネットさん」
「僕に何か用でも?」
何食わぬ顔のオネットさん。
「…………………それ、そんなに要りますか?」
「何言ってるの?これでもまだ足りないぐらいだよ?」
竜車の中に大量に放り込まれたクロスボウの矢。
恐らく500はくだらないであろうそれらを、どうやって持ち運ぶのか。
「それをどうやって携帯する気ですか?」
「もちろん君が」
「……………無理ですよ?」
「え?」
「自分の分ぐらい自分で持ってください」
「そんなぁ~…………」
しょんぼりと項垂れるオネットさん。
微妙に罪悪感を感じる。
「兎に角、自分の物資ぐらいは運ぶように」
「…………はい」
「レン、私の分もお願いしていい?」
「話聞いてないだろ、お前」
溜め息を吐き、車を進めた。
山影から朝日が昇るのを眺める。
国を出てから2日ほど、一睡もせずに竜車を進めた。
進めてしまった。というか眠れなくなっていた。
夕暮れ時に目を瞑って、睡魔すら訪れずに朝日が昇った時点で全てを察してしまった俺がいた。
それなのに寧ろ調子がいい。
「お兄ちゃん、体は大丈夫?」
「多分な」
幌の中からしゃべりかけてきたアヤメに返事を返す。
いよいよ人間離れしてきた気もするが、あまり深く考えない方が良さそうだ。
「あとどれぐらいで着くの?」
「今日中には着くだろ」
知らんけど。
「………………朝から五月蠅い。寝ている人の事も考えよう?」
「起きたか」
ゴシゴシと目を擦り、不満げな顔をするギンカ。
そしてその奥で眠りこけるオネットさん。
暢気だな。
手綱を取りながら硝子瓶に詰められた血を飲み干す。
「……………気持ち悪い、有り得ない、理解できない。さっさと成仏しろ」
「ああそうかよ。だったら残り1日の間、お前が御者をしろ」
「………………ゴメン、やっぱ無理」
顔を背けるギンカ。
溜め息を吐き、手綱を握り締めた。
虚無を抱えたまま竜車を走らせること、およそ1日。
向こうの方へと沈みゆく夕日に照らされて城塞が見えた。
黒く塗り潰され、艶消しの施された金属で造られた大砦。
恐らくアレだろう。
「着いたぞ、って………………」
幌の中を覗き込めばぐっすり眠る3人。
羨ましいな。
「おい、起きろ」
駄目だ。
返事がない。
「……………………仕方ないか」
諦めて門の方に向かった。
番兵さんに通されて門を通り抜けて街の中へ。
異様なことに、建築物の大半が金属で構成されていた。
不思議な場所だな。
そのまま案内されて一際大きな奥の屋敷に。
「纏め役から話があるので暫くの間お待ちください」
そのまま部屋に送られた。
内装まで金属製。
住みにくくないのだろうか?
3人を叩き起こし、椅子に座らせる。
「レン、これからどうするの?」
「どうするもこうするも、待つしかないだろ」
実際、今の状況でできることがあるわけでもないし。
「お兄ちゃん、ここってドワーフの拠点的なヤツって認識でいいんだよね?」
当たり前のことを聞いてくるアヤメ。
「それがどうかしたのか」
「じゃあ、アレが今回の原因ってことだよね」
「あれって何、だ………………」
アヤメの言葉に釣られて振り返った俺の視界に映ったのは………………くすんだピンクに近い色合いの腐肉で構成された巨塔。
不気味に不可思議に蠢き鼓動し脈を打つ、生命に対する侮辱のような何かを感じさせてくれる、実に肉々しいモノ。
「………………おぅ、ジーザス」
思わずそんな言葉が漏れた。
気のせいだった。




