世界樹とエルフと貝と
壺焼きサザエが喰いたい。
広々とした木製の通路の上を竜車で進む。
樹上に建てられた家々から俺達を見下ろす耳の長い人達。
その目に宿った感情は猜疑、嫌悪、怨憎、不信、恐怖等々。
分かっちゃいたが、案の定、歓迎はされてないらしい。
「…………………なぁ、やたらと敵愾心を持たれているように感じるのは、俺の気のせいか?」
「エルフって基本排他的だからねぇ……………諦めた方がいいよ」
「了解した」
希望なんてなかった。
「それで、今からどうするの?お兄ちゃん」
「あぁ、それに関しては……………」
「私が直接、話をつけてくるよ。…………久し振りに一家団欒を楽しみたいし」
そんなことを言って笑うオネットさん。
微妙に表情が硬いのは、気のせいなんかじゃないのだろう。
「レン、どうする?」
俺に尋ねられてもな。
「……………本人がそうしたいって言うんなら、そうさせるべきだろ」
「そうじゃない、前」
「前ってなん」
ギンカに言われて前を向いた俺の頭蓋に、ブスッと鏃が突き刺さる。
いってぇな。
「大丈夫お兄ちゃん?!」
「レンさん?!」
「いや、問題ない」
頭にぶっ刺さった矢を引っこ抜き、折り捨てる。
流石に、これは酷すぎると思う。
俺じゃなかったら即死だぞ?
明らかに敵意を持った一撃。
おもてなしの精神を学んで来い。
「………………はぁ、もう着いちゃったか………………やっぱり帰っていいかな?」
「ダメに決まっているだろ」
目の前には、大木の洞に掘られた巨大な建物。
中空になった空間に吊られた、蜂の巣のような印象を受けるソレが、きっとこの都市の心臓部なのだろう。
そして今渡っている吊り橋と、それの間の門の前に陣取る、二人の人影。
こちら…………というより俺に向けて、油断なく弓を構えた長耳の少年少女。
異様なまでの敵意と殺意を感じる。
「久し振りだね、君たち。僕の伯母さんは元気にしてるかな?」
「………ええ、最近は、どこぞの一族の恥のお転婆娘が他所をほっつき歩いているので特に」
「サタリー、口を噤みなさい。オネット様、貴方にも一因はあるのですよ?」
「僕は別に、この国が後継者不足で滅んでもいいんだけどね」
アカン、これは部外者が口挟んだら、余計拗れる奴や。
ワイ知ってるんよ。
「…………………まぁいい。陛下がこの先でお待ちだ。部屋に入って大人しくしていろ、貴様だけ、ついてこい。分かったな?」
「はいはい」
こちらに敵意を剝き出しにする門番二人を放置して、内部に入った。
装飾も何もない、木製の簡素な部屋に通された。
扉のすぐ外には武装した兵士。
素晴らしい歓迎だ。
カルチャーショックも裸足で逃げだすぞ。
簡素なテーブルの周りに集い、簡素な椅子に腰掛ける。
俺の啓蒙が低すぎて侘び寂びすら感じ取れない。
「そうだ、オネットさん。一つ聞いておきたいことがあるんだ」
「どうかしたのかな?」
「…………………この里の中に入ってから、ずっと体調がおかしくてな。活力が満ち溢れてくるのに体が妙に重くて……………………」
「ああ、それはアレのせいだね」
ほら、と指差された方を見れば、聳え立つ世界樹の姿。
「レン君、君には、アレが何に見える?」
「木だろ?」
「その通り。木には普通、根っこがあるよね?あの木は何処まで根を張っていると思う?」
俺にそんなことを聞かれても。
「……………あの世だよ」
はぁ?
「あの世って、死人が墓から蘇ってくるアレの事ですか?」
ゴースト〇スターズ的な。
「あれだけ大きくても所詮は植物。養分を得ない事には、立ち枯れるのみ。かといってあのサイズを陽の光の恵みだけで保つのは不可能に近い。……………ならば、どうして立っていられると思う?」
嫌な予感がする。
「アレは、死者の魂を捕まえて貪り喰らっているんだよ。そうでもしないと数日も持たずに崩壊が始まるからね。そしてその『お残し』が里の大気中に濃密な魔力として漂っているわけさ。君みたいな不死者はそのおこぼれにあずかれる一方で、また、自らも餌として削られているんだよ」
意外にドロドロしてたな、この里。
てっきり、もっと清く正しいものかと。
「死人を食い物にして、因習に縛られて、革命も革新も認めず、若い芽を握り潰すような国なら、いっそ滅んだ方がいいでしょ?僕が考えているのはそういう事だよ」
地獄の窯で煮詰められたような、黒々とした狂気を湛えた目で、笑顔のままそんなことを言うオネットさん。
部屋の空気がめっちゃ重い。
あのアヤメが若干たじろいでいる。
「時間だ、ついて来い」
部屋の外から呼び声。
席を立つオネットさん。
「それじゃあ、行ってくるね」
こちらに手を振って軽やかに部屋を出ていくオネットさんを見送った。
「ああ~………疲れたよぉ~~」
フラフラとゾンビの様に歩いて帰ってきたオネットさん。
そのままベッドに倒れ込んだ。
「結局どうなったんですか?」
「頑張って、設備と情報の提供だけ取り付けてきた」
「……………それだけかよ」
というか、寧ろ普通の事のように思えるが………………
「仕方ないじゃん!あいつら頭悪すぎるんだもん!!!」
駄々を捏ねるように手足をバタつかせるオネットさん。
「で、何かわかったことは?」
「コレ」
テーブルの上にドサリと置かれた紙の束。
それに書かれた幾つかの文章。
その一枚に描かれた絵。
「………………サザエ?」
モノクロで書かれた巻貝の絵。
やや細長くはあるが見慣れたソレは間違いなくサザエで。
「龍亀だよ」
「はぁ?」
「それが龍亀、今回のターゲットだね」
「龍でも亀でもねぇな」
詐欺にも程があると思うんだ。
「ちなみにこれで50メートル位あるからね」
「マジかよ」
旨そうだな。
「矢も剣も魔法も通らないうえに速すぎて当たらないからどうしようもなくて」
「クソかよ」
酷い話だな。
「となると後は…………………………」
「撃滅魔法、だね」
悪い顔で頷き合う、アヤメとオネットさん。
やめて欲しい。
しかしそれが一番確実………というかそれで無理ならほかに手段が碌に存在しないのもまた事実。で、あれば。
「なぁ、オネットさん。ここに書庫はあるか?」
「あるけど……………どうかしたの?」
「そこに、魔物関連の図鑑ってあるか?」
「もちろんあるけど…………」
「よし、ちょっと勉強してくるわ」
「…………………はぁ?」
うまうま………………かゆ、うま………………………
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