書き忘れ:葬儀
タイトルに深い意味はありません。俺がついうっかり書き忘れてたとかないから。有り得ないから。
あの人の仇を討ってから、暫らく経った。
少しずつ、空回り死ながらとはいえ、この部隊も安定してきた今のタイミングで葬式をするのは、寧ろ当然なのかもしれない。
魔王様命令の強制参加なのが気に喰わないが。
そんなことを考えながら、古着屋で買ってきた仕立ての良い喪服(に似た何か)に袖を通し、必要最低限の礼装を整える。
服装に乱れがないか姿見でよく確認する。
特に違和感は無し。
これでいいか。
「お兄ちゃん、準備できた?」
「ああ、今終わったところだ」
後ろを見ると、いつもの魔法少女じみたローブではなく、貴族令嬢のドレスの様に絢爛な装飾の施された、黒と赤の軍服を纏ったアヤメ。
「どう?似合ってるでしょ」
にこやかに微笑みながら言うアヤメ。
疑問形でないのが気になるが、似合っているのも事実。
「似合っているとは思うが……………派手過ぎないか?」
「ギンカちゃんに聞いたけど問題ないっぽいよ?」
ならいいのだが。
「ほら、早くいくよ、お兄ちゃん」
「わかった」
アヤメに急かされて部屋を出た。
魔王城の一室。
普段めったに使われることのないらしいその部屋が、今は厳かな空気に包まれていた。
オーガじみた巨体の偉丈夫に、両腕を羽毛で覆われた修道女。
蛇の下半身に人間の上半身が生えた人(?)と大盾と突撃槍を携えた、腰から下が馬の大男。
場違いな程に大きいガラス張りの水槽に浸かった人の、肌のところどころに生えた鱗と魚類の尾を見るに、あれが俗に言う人魚という奴なのだろうか?
そしてその後ろにずらりと並んだ、一々挙げるのも億劫な数の異形の兵達。
『異世界版なんちゃって百鬼夜行』とでもいうべき異様な連中が一堂に会している。
俺達?
壁際で萎縮してますが何か?
「あのぉ、レンさん?私なんかがここにいていいんでしょうか………………」
おずおずと俺に尋ねるリリアナ。
そんなの決まりきった事だろうに。
「一蓮托生、死なば諸共。そういうことだ」
道連れは多ければ多い方がいいって偉い人も言ってた。
「前々からうっすらと勘づいてはいましたが………レンさんってたまに人間性が腐ってますよね」
「辛辣だなぁ、おい」
まったく、酷いことを言うもんだ。
涙がちょちょ切れそうだよ。
「二人とも落ち着きなよ、ただのお葬式でしょ?」
そんなことを宣うアヤメ。
人の気持ちを考えろ。
そしてお前がそれを言うのか。
「………………あの、今日はありがとう」
「ギンカか」
何時ぞやの蛮族の鎧を着たギンカ。
葬儀に出る服がそれでいいのか?
「似合ってる?」
こっちはちゃんと尋ねてきた。
この差が何かわからない。
「似合ってるぞ」
「……………そう、ありがとう」
俯きながら礼を言うギンカ。
妙にしんみりとした空気が流れる中、葬儀が始まった。
静まり返った部屋の中に朗々と響く謎詠唱。
広間の中央に安置された棺桶、その中に納められたあの人の遺体。
棺の前に跪いて、それぞれのやり方で祈りを捧げる人たち。
涙を流す人もいることを考えると、恐らくこの人たちも、あの人と親しくしていた隊長格か、それ以上の地位にいる人なんだろうな。
ほかの方々に倣って膝をつき、目を閉じ手を合わせる。
ただ何を想えばいいかよくわからない。
俺の隣で黙禱するギンカ。
微妙に気まずい。
戸惑うリリアナに、大人しく手を合わせるアヤメ。
棺桶の中に花を入れて元の位置に戻る。
「「「「【浄火】」」」」
複数人の神官の詠唱に合わせて、棺桶が燃え上がる。
純白の聖火をもって死者を焼くのは、その肉体と魂魄が不死者として黄泉返るのを防ぐためなんだとか。
不死者的にアレに近付きたくない。
あっさり成仏しそうだ。
あちらこちらで集まり話し合う皆様方。
これって、俺はどうすればいいのだろうか?
「お兄ちゃん、私達どうしたらいいの?」
「知るかよ」
「私もう帰っていいですか?」
「ダメに決まってるだろ」
「ねぇ、ここからどうすればいいの?」
「知るか」
そんな会話を続けながら用意されていた椅子に腰かけて待つ。
小一時間程した辺りで炎が揺らめくように掻き消え、焦げ跡一つない棺桶が現れた。
そして焼かれた中の骨。
代表して、工房の二人組が遺骨を壷に納めていく。
どこか物悲しいな。
そしてわらわらと外のバルコニーへと向かうお偉いさん達。
外を見れば、いつの間にか魔王城を覆い隠すように広がっていた漆黒の天蓋。
光すら飲み込むようなソレに覆い尽くされた空間を遡って、幾条もの閃光が迸り駆け上り。
──────────沈黙の後、一斉に爆ぜる。
夜空にも似た空間に咲き乱れる無数の花火。
色とりどりの炎の花が描かれるそれは、まさしく葬送のための物なのだろう。
「奇麗だねぇ、お兄ちゃん」
「あぁ、そうだな」
なんでも、優れた神職者が死んだときにはこうやって派手に送り、神様に見届けてもらうんだったかな。
というか。
「おいギンカ、泣いてるのか?」
「泣いてない」
目元を赤く腫らした奴に言われても説得力がないが。
それ以前に………………………
「そもそも、今は泣くべきじゃないだろ」
少なくとも今するべき事は、死んだ人を笑って見送ることであって涙を流すことじゃない。
泣きたいなら、後で一人で、気が済むまで泣けばいい。
「せめて、あの人に心配されるような無様だけは晒すな」
「ちょっとお兄ちゃん!?」
俺を睨むアヤメ。
別に構わない。
「わかってる」
「ならそれでいい」
押し殺したような声を絞り出すギンカに、煽るような言葉と嘲笑をぶつける。
案の定、ぐしゃりと表情を歪め足早に立ち去るギンカ。
これでいいだろう。
「………………ねぇ、お兄ちゃん?なんであんなこと言ったのかな?このまま畳まれたい?」
「発破かけてやったんだよ。あいつもいい加減向き合うべきだ………………死ぬほど嫌でもな」
やるべき事や目標があれば、人間は心が折れていても動けるものだ。
父さん母さんが死んだときの俺も、そうだったっけな。
二人がいなくなってから部屋に閉じ籠って。
締め切った薄暗い部屋の隅で、膝を抱えて蹲って何も出来なくて。
3日間ぐらい碌に何も喰えずにいて。
ずっと泣き通しで涙も出なくなって。
二人がもういない事を受け入れられなくて。
アヤメがリビングの床に倒れたのを偶々見つけなかったら、きっと俺はあのまま乾涸びて死んでいただろう。
爺さんの時も、もう長くないのは薄々感づいていたし、ある程度心構えが出ていたから、何もできない程に身内の死で打ちのめされたのは、俺の体験の中ではあれだけ。
当然、それ以外を俺は知らない。
だから俺がギンカに対してできるのは、せいぜい怒らせて、無理矢理動いてもらうぐらいだ。
「お兄ちゃんってさ、器用っぽく見せかけて不器用だよね」
「酷いな」
「ぶっちゃけ結構拗らせてますよね?」
「酷いなぁ!?」
まぁ、ちょっと、幾分か、半分、8割ぐらい、悪気があったのは否めないが。
………これで少しぐらい張り合いが出れば、儲けものだろう。
「私たちもそろそろ中に戻ろ?いい加減、立ちっぱなしなのもしんどいし」
「そうですね。私もちょっと座って休みたいです」
「俺もそうするか……………この服窮屈すぎんだろ」
好き勝手に愚痴を零しながら中に戻り───────────────視界に過ぎる棺桶。
役目を終え、既に空の筈のソレに、何故か目を奪われる。
些末事と割り切り、重い足を引き摺って部屋を出た。
数日後、怒気を滾らせたギンカに、訓練と称したリンチを食らった。
煽るんじゃなかった。
本当に。
ライ・エヒト「死なば諸共、一蓮托生」
わかるか、これ?伝わるとええんやけど……………………
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