漁と鯖と怪我人と
明日 投稿 無理
瀕死のギンカを抱えてひた走る。
最後の最後で無茶な動きをしやがったせいで、塞いでいた傷が広がって血が止まらない。
後ろで息を切らすアヤメ。仕方ないか。
「悪いが置いていくぞ!」
「お兄ちゃん?!」
叫ぶアヤメを置き去りにして山道を駆ける。
余力を振り絞り、四肢を獣のソレに変容させる。
形作るのは弾性と強靭性を併せ持つ、筋骨による発条の様な剛脚と、太く短く鋭い爪。
脈動する剝き出しの筋繊維を、ギシリと軋ませて跳躍する。
全身を撓め、手頃な木の枝を足場に更に跳び、視界を確保。
辺りを見回し斜め右に谷を発見。
あそこか。
重力に身を任せ自由落下、着地の衝撃を足の関節で殺し、止まることなく走り出す。
「………………怪我人だぞ、もっと丁寧に運べ」
「言ってる場合かよ」
こちらを見上げながら愚痴をこぼすギンカに気を抜かれつつ運搬開始。
安全より早さだ。
出血多量からか見るからに顔色が悪くなっている奴の我儘なんぞ、聞いている暇はない。
昆虫版テゲテゲみたいなナニカの股下を潜り抜けてスルー。
構って欲しそうな波動を感じるが気にしてはいけない。
襲い来る野生のワンニャンふれあいパークを全弾回避して突き進む。
皆様揃いも揃ってパーサークしていらっしゃる。
華麗なステップで襲撃を躱し、自分の肉を壁にしてギンカを庇い前にでる。
段差を飛び越え、前方に見えるのは集落のある谷間。
今からすることに躊躇いそうになるが気合で堪え──────────
「───────清水の舞台からナントやら、だ!!」
「え?」
────────飛び降りる。
「ちょっ、この馬鹿!?」
「よいしょっとぉおぉぉっ!」
ギンカの抗議を無視して意識を集中、背骨を歪め棘状にして壁面に突き刺し、ブレーキをかけながら落ちる、完璧な作戦。
そして急いで作った故の強度不足からか、速攻で砕け散る骨棘。
クソが。
「悪い、落ちる」
「死んでしまえ」
心に突き刺さる無慈悲な言葉。
目からしょっぱい水が零れそうになるのを我慢して着地、足から嫌な音がしたが気にしてはいけない。
「雑過ぎる」
「文句言うな」
愚痴を言うギンカを抱えて、集落に戻った。
「すまないがコイツの治療頼む」
「巫女の姉ちゃん!?おい待ってくれ、何が」
「後から来るチビに聞いてくれ」
適当なお爺ちゃんにギンカを預けて、仰向けに倒れ伏す。
変異させていた両足とその他諸々が膿のような色合いになり、腐るように融け落ちる。
さて、どうしようか。
「誰がチビだって?」
「いたのか」
上を見れば、眉間に皴を刻み、こちらを睨みつけるアヤメ。
意外に早いな。
「早かったな」
「まぁ、空飛んできたし」
マジですかい。
そして、ノーモーションで俺のドタマを錫杖でカチ割ろうとするアヤメ。
なんでや。
「ねぇ、スカートの中、覗こうとしてたよね?」
「需要がないだろ」
頭を潰された。
燦々と光を放つ、クソ忌々しい太陽。
赤く濁りきった海の中、槍を構えて獲物のどてっぱらをぶち抜く。
ジタバタと藻掻く、いつぞやの鯖。
味噌が欲しい。
〆鯖にしてもいいな。
生食しても大丈夫なら刺身もアリか?
脳天を一突きし息の根を止め、鰓のあたりを深々と裂いて血を抜き、下処理完了。
どうやって食べるか吟味しながら陸に上がる。
「………………何してたのお兄ちゃん?」
「今日の夕食」
「いや、それはなんとなくわかるけどさぁ」
納得いかないとでも言いたそうな顔をしたアヤメ。
槍に突き刺していた鯖を引き抜き、肩に担いで持っていく。
村の門を通り中央の広場へ。
下水路に繋げられた解体台の上に鯖を乗せ、頭を落とし腹を裂き臓物を抜き3枚におろす。
切り身を木串に刺し軽く塩を振って焚火で炙る。
旨そうだな。
「ほんと何してるの、お兄ちゃん?」
「あぁ、ほら、ギンカが寝込んでただろ?村の人に迷惑かけてるわけだし、飯ぐらいこっちで担当しようかと」
ギンカを村に運び込んでから、既に3日がたった。
容体は悪化せず、じわじわと回復に向かっているが、未だ安静が必要とのこと。
なんでもどこぞの不死者の肉と接触したから云々で、こうなっているらしいが、何処の吸血鬼なんだろうな。
「お兄ちゃん……………………何か隠してる?」
「いいや、何にも?」
「本当?」
「本当だ、もうそろそろ見舞いに行くぞ」
訝しげに眉を顰めるアヤメ。
少し気まずいが無視してギンカの家に向かった。
「おはよう」
「体調はどうだ?」
「まだ少し痛む、けどもう大丈夫」
ベッドの上で上体を起こすギンカ。
やや血色が悪いがそれでも大分マシになったように思う。
そんなギンカを抱きしめ撫でさすり揉みくちゃにするアヤメ。
怪我人相手にそれかよ。
「怪我は大丈夫そうか?」
「大体塞がった………………けど、跡は残ると思う」
着ていた病人服の裾を捲るギンカ。
その左脇腹に刻まれた────────大きな縫い傷。
白く透き通った肌に5、6針ほど縫われた、生々しく引き攣った痕。
なぜか、本当になぜか、その傷が、少しだけ尊くて、きれいなもののように見えて。
「…………取り敢えず魚食え」
「お兄ちゃん!?」
何故か悲鳴混じりの叫びをあげるアヤメ。
「どうかしたのか?」
「いや、落ち込んでる女の子相手に『魚食え』は鬼畜過ぎるでしょ!!」
「知ったことかよ」
アヤメに叱られつつ、ベッド脇に焼き魚の乗った皿を置く。
「食えるか?」
「………………多分」
緩慢な動作で魚を手に取り、口に運んで咀嚼しようとして、口から零すギンカ。
意外に弱ってるのかもな。
「ギンカちゃん、食べれそう?」
「………無理だと思う」
「そう」
小さく頷いて、おもむろに魚を口に入れ、噛み解すアヤメ。
そのままギンカの頬を両手で挟み、顔を近づけて────────────────
「んむぅ!?………っぷはっ……………っ!?!?」
「………………っ、これで食べられるよね?」
やりよった。
なんとなく見ていられないので背を向けて部屋を出ようとして。
「っ………おい待て助け」
「………………お幸せに」
部屋を出た。
やったぜぇ(何がとは聞くな)
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