ニッキと炒飯と故郷と
激マズ。
引き受けさせられた。
あぁ、引き受けたともさ。
上司命令で。
制御の効かない狂魔法少女に、言う事を聞いてくれない近接担当。
非戦闘員のケモ耳メイドに、クソカス耐久性能の吸血鬼。
そしてまだ見ぬ問題児が一人。
終わってんな、このメンバー。
さらに止めとばかりに、目の前に絶望が一つ。
「どうすっかなぁ……………コレ」
明らかにマズい液体が入った硝子瓶。
二重の意味でマズい。
「さっさと飲みなよ」
「躊躇わずに覚悟を決めた方がいいと思いますが」
「グズグズするな」
「お前ら他人事だからって好き勝手言うんじゃねぇ!?」
「実際他人事だから」
「私は奴隷ですが…………」
「私は血縁者だけどねぇ」
「クソッタレが」
……………仕方ないか。
漢は度胸と自身に言い聞かせ、一息に呷る。
「…………………………」
「どんな味だった?」
聞いてくるアヤメ。
興味深そうな顔のギンカ。
「味、というか………ニッキ水、甘くないニッキ水にハッカぶち込んだら、こうなるんだろうな」
痺れるように喉の奥を焼く不快な刺激に、胃袋に流れ込む冷たく重い感触。
そして自分自身の内側にある『ナニカ』が拡張されるような妙な感覚。
「大丈夫お兄ちゃん?」
「ああ、多分な」
心配そうに聞いてくるアヤメに、特に問題は無いと返事を返す。
「………………お兄ちゃん。いつの間にか正気失ってたりしないよね?」
実際ありそうだから止めて欲しい。
「………………ちょっとこっち来い」
ギンカに服の袖を掴まれ連行される。
「模擬戦しよ?」
「は?」
「準備できた?」
「いや待て展開が速すぎ」
「死ね」
高速で走り迫ってくるギンカに向けて、拳を振りかぶり打ち下ろし────────斬り落とされた。
ギンカの手に握り締められた短剣は、まさしくあの人の遺品で。
「試し切りかよ」
「何か悪い?」
「いいや、全く!!」
笑みを浮かべ、太刀を構えて前進。
片手に刃を、片手に腕を携えるギンカ。
虚空から現れた掌に、刀を受け止められながらも強引に押し切ろうとして短刀に弾かれる。
相性が悪いか。
殺意と悪意を太刀に込め変化させる。
両手持ちの棍棒サイズの柄に長大な鎖で繋がれた鋭利な大棘の生えた金属球。
どこぞの無限デスポーン主人公をぶち殺してきたようなフォルムのソレは、俗に言う星棘鎖鉄球。
「オッ、ラアアァァアァアァァァ!!」
雄叫びをあげ、凶悪極まりないその一撃を叩き込む。
地面にめり込んだ鉄球を、鎖を振って引き抜き横に薙ぎ払う。
意外に扱いやすいが、太刀に比べると動きが遅い気がする。
仕方ないか。
鎖を片手で握り、ぶん回し投げつける。
そこから追加で左手を変質させ幾本かの触手────────といってもR18なゲームのカバーによくいるミミズではなく、岩の様な甲殻を纏った蛇みたいな奴────────を伸ばし撃ち込むがあっさりと避けられる。
もっと慣れるべきだな。
取り敢えず触手を追加して、広範囲を纏めて薙ぎ払おうとするが、腕の一撃で砕かれる。
やっぱりというべきか、数を増やせば増やすほど操作性も耐久力も落ちている気がするのか?
「【引き裂け】!!」
不可視の腕に肉を裂かれ血が零れる。
そのまま後退し目を閉じて集中、自分の血を固め操り一時的な服の代わりにする。
行けるとは思っていたが意外に上手くいった。
目の前に腕と短剣を逆手に構え跳躍するギンカの姿。
慌てず迷わず右手を膨張させ文字通りの肉壁に。
「【ぶち抜ッわぷっ?!」
霞むような速さで突き込まれた貫手が肉塊を穿つ寸前で、肉腫を爆散させる。
血霧が立ち込め、血糊が色白の顔面にへばりつき視界を塞ぐ。
珍妙な悲鳴を上げるギンカ。
「あらよっとおぉっ!!」
触手を生やし、駆け抜けざまに絡みつかせ一回転。
その先端を地面に埋め込み、拘束して押し倒す。
「はい、俺の勝ち」
勝利宣言してから触手を解き腕に戻す。
ゆっくりと地面に手をつき立ち上がるギンカ。
「……………まさか、か弱い乙女に体液を浴びせて触手で縛る趣味を持ってるとは思わなかった」
ジト目で俺を睨み、ぼそりと呟くギンカ。
まったく。
「お前のどこがか弱いんだよ」
「黙れ」
「ひでぶ!!」
殴り飛ばされた。
油で熱したフライパンに刻んだ厚切りベーコン(モドキ)と玉葱とピクルス(モドキ)を投入してじっくりと炒める。
その間に冷ました白飯に醤油と塩胡椒を適当に入れ味見。
物足りないのでオイスターソース(モドキ)を追加して味を調える。
幾分かマシになった気がするが、やはり物足りない。
コンソメ先生がこの世界に存在しないのが辛すぎる。
野球ボールサイズのタマゴを割り、溶き入れる。
火力をあげて米を投下し、勢いにまかせて全体に火が通るように、焦がさないように注意して炒める。
途中でネギを入れ、手早く掻き混ぜる。
最後にフライパンのふちに円を描くように醤油を垂らして出来上がり。
「飯作ったぞ」
「早く運べ」
「うおっ!?」
いつの間にか。ギンカが真横でこちらを見上げていた。
軽くホラーな光景。|
俺《吸血鬼》が言う事でもないんだろうが。
「アヤメは?」
「ずっと本読んでる」
厨房から身を乗り出して見れば、珍しく行儀よく椅子に座って、熱心にページを見つめるアヤメの姿。
なんだか新しい玩具を見つけたマッドサイエンティストの様な表情に見えるのはきっと気のせいだろう。
「おいアヤメ、飯できたぞ」
「………………あぁ、ありがとう。お兄ちゃん」
声を掛けられて初めて気づいた感じのアヤメ。
勉強嫌いのこいつがここまで熱中する内容。とても気になる。
「何を読んでたんだ?」
「えっ?いや、あのその……………………魔王様にご褒美でもらった魔道祈禱書をちょっとね?」
何故か口ごもるアヤメ。
怪しい、とても怪しい。
「どんな内容だったんだ?」
「いやあの違うから!!断じて火属性の洗脳魔法とか調べてないから!!やましいこととか考えてないから!!!」
「後で少しお話ししようか?」
「お兄ちゃん!?」
喚くアヤメと何故か頬を赤らめるリリアナをスルーして食器を運び席に着く。
スプーンを持ち手を合わせて食べ始める。
火加減は上々、味はイマイチ。
やはりコンソメ様の不在がネックか。
あれさえあれば献立がだいぶ作りやすくなるんだが………………無いもの強請りは愚の骨頂。
コンソメがないなら我慢すればいいじゃない。
悲しいけどコレ真理なのよね。
「………………意外に器用?」
「ジャパニーズサムライ舐めんな」
「お兄ちゃんホントこういうの得意だよね」
「やっぱり親御さんに教わったのですか?」
スプーンを咥えるアヤメを窘め、そんなことを聞いてきたリリアナに答える。
「自炊の必要性に駆られて独学で覚えたな」
主に人類の英知の結晶たるグーゴル先生のお力を借りて。
「そう、だったんですね」
僅かに俯くリリアナ。|
似たような境遇《親無し子》だからこそ、何か思うところもあるのかもしれない。
陰になってよく見えないその表情が、薄く微笑んだように見えたのは気のせいか否か。
「というかアヤメは手伝ったりしなかったの?」
ギンカ、ちょっと重めの空気を何とかするために別の話題を持ち出すのはありにしても、それはアウトだろ。
「お兄ちゃんに止められてたんだよねぇ」
懐かしむように言うアヤメ。
「毎日毎日風呂場を爆砕されたり出火されたり騒音苦情が来たりするより、俺が一人で全部やる方がよっぽどマシだ」
いや、本当に。
「え~、私そんなことしないよ?」
「嘘をつくな」
「しますね」
「聞いた私がバカだった」
「ヒドイ!?」
叫ぶアヤメ。
当然の結果だろうが。
昼食を食べ終えて片付け、指示があるまで各自待機となった。
呼び出された。
魔王様に。
心当たりがなさ過ぎて逆に不安になってきた。
部屋の前で立ち止まり、ゆっくりとノック。
気の抜けた返事を確認し室内に入る。
いつも通り玉座に座る魔王様と、そのそばに控える鎧の騎士さん。
「やあ、レン君。毎回ゴメンね?」
笑いながら話しかけてくる魔王様。
「で、何の用事ですか?」
「ギンカちゃんの出身の話はしたかな?ランチェルブス地方の、朱に覆われた神代の巨人の遺骸とそこに住まう人々。この国と彼らの間には一つの協定があるんだ。簡単に説明すればこちらからは食料や嗜好品の類、有事の際には戦力を派遣する。その引き換えとして彼らの領土で採れる希少な薬草や鉱石を提供してもらう、といった感じだね。そして今回は救援要請が入った。つまり君たちの出番だ」
そんな風に気軽に言う魔王様。
一つ気になるのは………………
「国の守りは大丈夫なんですよね?」
「その点は心配しなくていいかな?向こうも立て続けに勇者を殺されているから、暫くは何もできないだろう。とはいえこっちも散々荒らされたから結局のところ両方何も出来ない。だったら今のうちに協力関係にある相手に恩を売っておくべきだろうと思ってね」
なるほどね。
「という訳で頑張って来てね!!」
「やれるだけやってみます」
日本人らしく曖昧な返事を返し、退室した。
「ギンカ、帰郷することになったぞ」
「えっ?」
某世界最高峰の検索エンジンの名前の由来は10の100乗らしい。
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