血とゾンビと同類と
遅くなったんゴ
「皆さん、ルーシーさんが頼みがあるそうです」
来たか。
「王都の共同墓地に出た動死体の討伐だそうですが……………」
「ムリ嫌お断り。ほかのみんなで行って。アヴィンとレンとアヤメの3人なら最適。早く片付けて役目でしょ」
全力で拒否るギンカ。ホントそういうの嫌いなんだな。
「動死体を生産しているボス枠がいるかもしれないので全員で行くように、とのことです」
「分かった、音速でぶっ殺す」
いつになくキレ気味のギンカ。
なんだろう、自分まで罵倒されてる気分になってきた。
「ゾンビはよく燃えるから楽しいんだよね♫」
ハイテンションなアヤメ。
「ゾンビは潰すと飛び散ってきたないんだよなぁ…‥‥…」
げんなりとした表情のアヴィンさん。
というか、動死体なら俺の同類なんじゃ‥‥…
「おい待て、一応俺の同類の可能性が」
「ぶっ殺せば問題ないよね!!!」
やめろ、こっちからすれば親戚の可能性すらあるんだよ。
一抹の不安を胸に抱いて墓場に向かった。
立ち込める死臭に仄かに舞う燐光。
本来忌避感を抱くべき光景なのだろうが、何故か郷愁を感じてしまう。
藻掻くように突き出された骨だけの手に、朽果てた頭蓋骨。
無数に打ち立てられた鉄鋲のような墓標に、干からび茶色くなった献花。
暴かれた棺桶の隙間からカサカサと這い出る名もなき地虫。
虚ろな眼下をもってどこかを見つめる、無数のゾンビ達。
さらにその中央に佇む‥‥‥‥‥…ローブを来た人影。
それが人外であることは、陰になって見えない両眼に浮かぶ黒紫の熾火からも明らか。
確かに、アレは[ボス枠]だな。
なにやら青黒い魔法陣を中空に浮かべてゾンビを召喚してるし。
「…‥‥‥‥‥…闖入者よ。そこで何をしている?用があるのであれば早くしたらどうだ。我とて暇ではないのだぞ?」
こちらを見据えそんなことを言うローブ。
その陰の奥から見えた素顔は、肉の削げ落ちた骸骨。
「臭いし汚いからぶっ殺していいよね」
そんなことを言うアヤメ。
やめなさい、いい死体かもしれないだろ。
「さっさと殺して帰ろう」
物騒なことを言うギンカ。
心優しい死体だったらどうする。
「…………まあいい、やれ、お前達!奴らをわが戦列に引き摺り込め!」
墓場の全体の地面が爆発したように見えた。
そう勘違いするほどの勢いで這い出てきた腐乱死体の群れが、墓標を引き抜き長槍のように構える。
軍隊みたいだな。
あながち間違ってもいないのか。
フード君の仰々しい仕草に合わせてこちらに殺到するゾンビ達。
「どいてお兄ちゃん!──────≪始原の種火≫≪転じて劫火≫≪古き微風≫≪巻き込んで風穴≫≪祈りたる壊光≫≪捻じれて明星≫≪併せ造りし≫≪白明の一閃≫─────────【白炎の咆哮】!」
アヤメが撃ち込んだ白い火炎が、ゾンビと俺を焼く。
灰も残さず蒸発するゾンビ達と、いつもより再生の遅い俺。
さっそく全裸になってしまった。
煙の中から現れるローブ君。
だいぶこんがり焼かれてるが蒸発はしていない。
羨ましいな。
「おのれ…………【耐火】と【耐浄化】の重ね掛けを、こうも容易く砕くとは…‥‥‥っ」
「対アンデットカスタムだったけど‥‥‥‥‥‥…思ったより上手くいってよかった♪」
「俺にも突き刺さってんだが?」
「いいから死んで来い、変態ゾンビ」
「ふざけるな」
ギンカの容赦ない前蹴りが、俺を蹴り飛ばす。
とはいえどうにもならないので、槍を構えて突撃。
ゾンビを纏めてぶち抜き持ち上げ叩きつける。
潰れるゾンビ、拉げる俺の腕。
そのまま太刀に持ち替えて薙ぎはら。
「【叩き潰せ】」
俺ごと平べったくなるゾンビの群れ。
後ろを見れば顔をそむける戦犯の姿。
「おい、ギンカ」
「ゾンビと似てたからやってしまった。悪気はない」
「ふざけるな」
「【殴り飛ばす】」
不可視の拳を喰らい宙を舞うローブ。
そして巻き添えになる俺。
取り敢えず空中でぶん殴ろうとするが避けられた。
こいつ普通に強いな。
「来たる王都侵略に向けて、死霊兵は温存しておくべきか…………【地獄の呼び声】」
ローブ君の掲げた手から同心円状に広がる黒い波動と、葬送の鐘の様な不吉な音色。
一拍の後、ヒステリー患者の悲鳴に似た絶叫が解き放たれた。
「【耳を塞ぐ】」
「【城砦防御】」
「ん?」
「ああぁあああぁあ!?!?」
防御態勢をとるギンカにアヴィンさん。
そしてもろに喰らう俺と絶叫するアヤメ。
「ああっ、もう!うるっさいなぁぁああ!!」
キレたアヤメが炎弾をばら撒き、墓石やら棺桶やらごとローブ君を吹っ飛ばす。
「…‥‥‥‥…馬鹿な、【地獄の呼び声】を聞いて、なぜ生きている」
「抵抗されたんじゃないかな?」
「ふざけるな!高位アンデットの、不死の魔導士の魔術だぞ!?貴様の如き、貧相な体の小娘に破られる道理など、あるはずが」
「あ゛ぁ゛?」
馬鹿野郎が。
「逃げるぞギンカ!」
「なに言ってるの?敵前逃亡は死刑。私が殺す」
「うるせぇ黙ってろ!!」
何かパニックになっているリッチを放置して、ギンカを担いで全力で後退。
必死でついてくるアヴィンさん。
どうやら状況を理解したようだ。
…………というか。
「アヴィンさんなら大丈夫なのでは?」
「ダメージなくても熱いことには変わりないんだよ」
なるほど。
「おのれ…‥‥‥‥…脆弱な屍喰い人に高慢な人族のクソ餓鬼どもが!我が尖兵の一端に加えるのも気に喰わぬ!!じわじわと嬲り殺しにしてくれ」
逆鱗を撫でさすりながら地雷原でタップダンスを踊るフード君。
オイオイあいつ死んだわ。
「誰が、貧相な小娘だって?」
「あ?」
背筋を這う、魂を握り潰されるような悪寒。
静かに杖を掲げるアヤメと、鬼火のように舞う炎の群れ。
「おまけにさっき、私のことをクソ餓鬼って言ったよね?数え役満だ、死ねよ腐れ死体が」
冷え冷えとしたアヤメの声音。
真夜中の墓場を、太陽のように火球が照らす。
「黙れ小娘!お前に何がわかる!!あの忌々しい魔王の側近に滅ぼされかけ、永き雌伏の時を終え!漸く反撃の手掛かりを得たこの機に!なぜ貴様らのような部外者が」
「≪始原の種火≫≪転じて劫火≫≪灯篭の煌≫≪尽きることなく≫≪雷火をもって≫≪燃ゆる夜明けと為せ≫────────────────【浄炎の燈明】」
生存本能が逃げろと叫ぶ、久しぶりの感覚。
ギンカを放り投げ、前方に跳んだ俺の背後で…‥‥‥‥‥…光が爆ぜた。
暗く重い墓地を消し飛ばしながら迫りくる、純白の火柱。
必死に走り、押し寄せるそれから逃げようとして、極光に飲み込まれた。
「…‥‥…死んだ。今回はマジで死んだと思った」
「頭だけだけど大丈夫?」
頭部のみで転がる俺。
それを見下ろすアヤメ。
「いや、やたら再生速度が遅い、というか傷がふさがらない」
俺の顔を踏みつける誰かの足。
「…………ギンカ、人の顔は踏むものじゃないぞ」
「私を物みたいにぶん投げた罪は重い」
ひでぇ。
「こうすればいいのかな?」
俺の頭を鷲掴みにしてローブで包むアヤメ。
我が身の事ながら、小包みたいだな。
「振り回していい?」
やめろ、重傷者だぞ。
そして俺を振り回すギンカ。
だんだん意識が薄れて…………………
酔っぱらったおっさんが頭にネクタイ巻いて小包持って千鳥足でうろついてるデイドリームから啓示を受けた。




