血と徒労と敗北と
遅くなってすまない!(キリッ)
「これだああぁぁぁ!!」
早朝の室内に反響する絶叫。
「うるさいよお兄ちゃん!?」
室内に乱射される炎の槍。
本を抱えたまま全弾回避。
「………で、何か言い残すことは?」
錫杖の先に揺らめく獄炎を収束させるアヤメ。
「大変申し訳ございませんでした」
取り敢えず土下座。
これでいざこざの8割は治まる。
「ハァ…………結局何があったの?」
「ちょっとこれ見てくれ」
徹夜して探し出した目当ての項を開き見せる。
「時の吸血王ロイ・ドラゴニールは戦場にて自らの血をもって鎧と為していた…………つまり自分の血液を操作して纏っていたということだ。これで全裸ゾンビにならなくて済む!」
「お兄ちゃんはそれ出来るの?してるの見たことないけど……………」
溜息をつきながらそんなことを言うアヤメ。
そんなもの決まってるだろうに………………………
「為せば成る」
「馬鹿なのかな!?」
叫ぶアヤメを放置して訓練場に向かった。
夕暮れの空。
寝転ぶ俺。
訓練場にばら撒かれた血痕。
空がきれいだ。
「どう?進展はあった?」
俺の顔を覗き込むアヤメ。
「一応、だけども成果はあったな」
左手を顔の前に持っていき、人差し指を嚙み千切る。
飛び散る血液。
顔をしかめるアヤメを傍目に、溢れる血に意識を集中する。
今日1日の訓練で得たコツは血の1滴一滴に精神を巡らせるイメージ。
目を閉じ精神を統一し………………
「……………成果ってそれ?」
「ああ、これでもマシになったんだぞ?」
俺の指先で複雑怪奇な回転運動をする血液製の長さ6㎝ほどの触手。
ジト目のアヤメ。
「これを続ければいつかきっと服を作れるようになるはずだ」
「ならいいけど」
「ああ君達、やっぱりここにいたのかい」
突然乱入してくる魔王様。
……………魔王が乱入してくるとか、どんな世紀末だよ。
「レン君、君に残念なお知らせがある」
悲痛そうな顔の魔王様。
いやな予感が止まらない。
「君は吸血鬼ではない。いや、正確には、というべきかな?」
………………はぁ?
「…………つまりお兄ちゃんがリリアナちゃんの血を啜ったのは、ただ単にお兄ちゃんの性癖だからってこと?……うわキモッ」
「誤解だ!?」
流石にそれは不名誉すぎる。
後退るアヤメ。
弁明する俺。
「レン君、幾つか確認するけど………君は日の光に焼かれたことはあるかい?」
「いえ、ありませんが」
「ニンニクで腹を下したことは?」
「いいえ」
「十字架に忌避感を感じたことは?」
「ないですね」
何だろう嫌な予感が。
「今言ったことはすべて吸血鬼にとって致命傷、或いは急所になるものだ。恐らくだが今の君は吸血鬼にとって≪芽≫のようなもの。つまり……………下級吸血鬼だろう」
つまりどういう事だってばよ。
「吸血鬼として不完全な状態の君には、血液の対外での操作は難易度が高すぎる。恐らくほかの放出系の技も壊滅的だろうね」
なんてこった。
「ということはお兄ちゃんはしばらくの間全裸維持ってこと?」
「プフッ………そうなるね」
この魔王笑いよった。
「まあ、自分の強化ぐらいならできるだろうし頑張ってね?」
んな無責任な。
「じゃあ、ご飯食べよっか。おなかすいてるでしょ?」
「ああ………………」
「今日の晩御飯私が作ったから、楽しみにしてよね?」
「ああ……えっ?」
不穏な言葉を吐くアヤメに引き摺られ自室に戻った。飯の味?勿論マズかったさ!
「ちいぃくしょうめええぇぇぇ!!」
「お、どうしたレン!今日はヤケに威勢がいいな!」
「アアアァアアアア!!!」
ヤケクソで大太刀を振るう俺と、それを完璧に捌き切るアヴィンさん。
刃渡り2メートル半の刀身は俺の記憶中のそれよりも肉厚になり更にはぬるりとした光沢を放っている。
「ほああぁぁ!!【身体強化】!」
身体強化を解禁し、全力の一撃を叩き込む。
盾と刀身が拮抗した瞬間を狙って。
「【氷棺】」
アヴィンさんの体表に一瞬氷が張り…………砕け散る。
抵抗されたか。
だが別に問題はない。
刀身を片手で握り、そのまま槍に変化させる。
半身を引き絞り……………
「【柘榴】!」
穂先から迸った無数の赤い氷が、盾に着弾し砕ける。
刹那のタイミングを見計らって槍を大槌に変える。
「お、ラアァアアアァ!!!」
雄たけびをあげ叩きつけた鉄槌が、盾をかちあげる。
瞬時に大槌を太刀に戻し、一気呵成に畳みかけようとして…………………
「【城砦防御】」
弾き飛ばされた。
見れば、アヴィンさんを取り巻くように十重二十重に重ねられ、束ねられ纏められた盾の群れ。
「ナイスファイトだったぜ、レン!」
こちらを照準するように構えられた盾。
まさか。
「ちょっま」
「【盾突進】」
シミになった。
「アヴィンさん強すぎやしませんか?」
「アヴィンが強いのは当たり前。私の彼氏だもの」
「なに言ってんのお前」
妄言を吐くギンカ。
そして何故か嬉しげに微笑むアヤメ。
「皆さん。魔王様から依頼が来てますよ!」
うわ来た。
「え~と?大量発生したスライムの討伐だそうですけど……………大丈夫ですか?」
見れば真っ青な顔をしたギンカ。
何故だ。
「あいつらは怖い。物理攻撃が殆ど効かないから相性が悪すぎる。みんなだけで行ってきて。私はお留守番しとくから」
「ダメ!ギンカちゃんも行くよ!!」
いつになく弱気なギンカを引っ張っていくアヤメ。
アヴィンさんと目を合わせ、溜息をつきながら現場に向かった。
次回、期待しとけやお前等。




