磔と飯と血と
遅くなってすまない!(キリッ!!!)
「ようやく起きたか、このお寝坊さんめ」
眼を開けると横向きに映った銀髪の少女。
自室の窓と見慣れた天井。
どうやら、生きて帰ってこれたみたいだ。
「……………ギンカか、今何時だ」
「朝の八時、眠り過ぎだ。密林から全裸の男と昏倒した少女を背負って帰ってきた私の身にもなれ。心が死ぬかと思った」
いつもより温度低めのジト目で睨んでくるギンカ。
「………悪かった」
「言葉ではなく態度で示せ。具体的にはサンドバックになれ」
「じゃあちょうどいいから私の的になってよ」
…………おい待て今の声。
「アヤメ、無事だったか」
普通に元気そうなアヤメ。
「いや~、ゴメンね?ちょっとはっちゃけたみたい」
あの地獄絵図が『ちょっと』なのか………えぐいな。
「ふざけないで。危うく私の銀髪が黒焦げになるとこだった」
「あ~うん。ゴメン」
ギンカの抗議を適当に受け流すアヤメ。
ベッドから起き上がり、冷蔵庫から輸血パックを取り出して一気に飲み干す。
途端に溢れてくる活力。
「よし、これで動けるな」
「………ホント、デタラメだよね」
「やめてくれ、俺もそう思ってるから」
「…………これでサンドバックに出来る」
「やめてくれ?!俺にも痛覚はあるから」
「………安心して半分くらい冗談だから」
「そうか、ならよかっ………半分?」
それはともかく。
「アヤメ、一つ頼んでいいか?」
「水臭いなぁ、お兄ちゃん♪膝枕ぐらいならいつでもしてあげるのに」
ベッドに腰掛けポンポンと太腿を叩くアヤメ、そうじゃなくて。
「…………魔法教えてくれ」
「えっ?」
「………蟲退治で気付かされたんだが、俺には広範囲遠距離攻撃手段が殆ど無い。【氷棺】は接触しないと使えないし、その他は未知数。だからこそ専門職のお前に聞こうと思ってな」
「既存の術式をアレンジすればいいじゃん。簡単でしょ?」
何でもないように言うアヤメ。
これだから天才肌様は………
「出来ない」
「………もう、私が手取り足取り教えてあげるからそれで」
「やり方の問題じゃない。そもそも既にある術を組み合わせて使うことはできても全く別の術を一から作るのは時間がかかりすぎる。アヤメだってそうでしょ?」
「場のノリで撃ってるけど?」
ギンカの説明に、斜め上から返すアヤメ。
呆然とするギンカ。
これだから天才肌様は………
「………せめて、効率的な運用方法とか」
「気にしてないよ?ああでも【緋色の衝動】は黒歴史かな?ぶっつけ本番で効率考えずに撃ったせいで消耗えぐかったし、威力の減衰も発生してたし………今なら2~3倍くらいの火力で撃てると思う」
はにかみながら『地龍もワンパンできるね♪』というアヤメ。
怖すぎる。
「という訳でお兄ちゃん!実戦逝ってみよう!!」
いつもの習練場に響く詠唱。
「≪始原の種火≫≪転じて劫火≫≪貫き≫≪穿ち≫≪わが敵を討て≫────────【炎弾】!」
詠唱に合わせて何かがごっそりと抜ける感覚。
俺の掌に生成された小指サイズの火の玉がゆっくりと飛び、消失した。
「……………よし、次行ってみよう」
「待て諦めるなそっぽを向くな、せめてフォローぐらいしろ!」
「ムリ」
「諦めんなよ!?」
「良いから早く、別の奴試してみて」
「わかった………≪恵む清水≫≪荒れ狂う大海≫≪主たる骸≫≪朽果てて朧≫≪其は地獄の最奥の如く≫≪ただ死の冬の尖兵と為れ≫──────────────【氷装之死兵】」
詠唱が終わると同時に地面を突き破って現れる、氷で形作られた鎧を着こんだ無数の死体。
手をだらりとぶら下げ、虚ろな声を上げるゾンビ達。
「うまくいった、のか?」
やった。
遠距離攻撃でなくとも手数は圧倒的に増え『ガシャン!』。
そんな音がして砕け散るゾンビ。
「………もろ過ぎない?」
アヤメが錫杖を振るうたびに倒れていくゾンビ達。
「………雑魚相手の肉壁ぐらいにはなるな」
「必要ある?」
「一応、死人の魂を現世に呼び戻す高等術式ではあるんだがな」
「はい、次!」
「分かった。………≪主たる骸≫≪朽果てて朧≫≪廻り廻る屍の螺旋≫≪その一端を我が身の内に≫──【身体強化:死霊術】」
黒く仄暗い光が俺の中に溶け込み、力が溢れだす。
死霊術の初歩の初歩、自分自身の身体能力を強化する技。
「………うん、こっちはうまくいってるね。自己強化の方が向いてるのかな?」
『ゴリラみたいだね』と笑うアヤメ。
失礼ではあるが。
「…………みたいだな。遠距離は壊滅、雑魚召喚も使えないし……振り出しだな」
「ま、元気出して!お兄ちゃんは私みたいに才能があるわけじゃないんだから一歩ずつ着実に進んでいこうよ!」
満面の笑みで毒を吐くアヤメ。
壊したい、その笑顔。
「………終わった?」
「ギンカ、見ていたならそう言え」
いつの間にか、ギンカが後ろにいた。
お前は背後霊か何かか。
「終わったなら約束を守って」
約束?
「サンドバック」
あっ。
「準備はいい?よくなくても行くけど」
「ふざけんな」
習練場に突き立てられた十字架。
それに括り付けられた俺。
遠くで黒い腕を構えるギンカ。
「レディゴー」
「くそったれがぁああぁ!!」
詠唱をすっ飛ばして身体強化。
縄を引き千切り駆け出しながら虚空から鉈を取りだし──────斧に変える。
初めて使うはずなのに、なぜか手に馴染む純白の片手斧。
斧を振り下ろしこちらに飛んできた腕を切り落とす。
やはりというか、切断力は高いな。
「【投げ撃て】!」
無数に飛んでくる武器の群れを被弾しながら進み、走りながら斧を三節棍に変える。
片手で持ち振り回し突貫。
中段へ放たれた蹴りを跳躍して回避、三節棍を振り下ろそうとした先に黒い腕を照準するように構えたギンカ。
突き出された一撃を三節棍で絡めとり──────ソレごと放り捨てる。
唖然とするギンカ。
一瞬の隙をつき着地し、足をかけて肩を掴み、押し倒しながら馬乗りになる。
そのまま首に手を添え───────────────
「俺の勝ち、でいいんだよな?」
「……………無念。このチーターめ」
「誰がチーターだよ」
「事実。動きがキモイし戦い方もキモイし最悪。禿げて泣き喚けばいい」
「………悪いが吸血鬼は禿げないし涙も出ないそうだ」
「滅びろ」
押し倒された体勢のまま、軽口を叩くギンカ。
俺を突き飛ばす小柄な躰。
「はい、二人ともそこまで!試合終了!お昼にするよ!!」
「お、もうそんな時間か」
「ん、リリアナの作るご飯は美味しい。今朝もご馳走になった」
腹を空かせて部屋に戻った。
自室のテーブルで昼食が運ばれてくるのを待つ。
「そういえば今日の昼飯何なんだろうな」
「さぁ、私は知りませんが…………ギンカさんは知ってますか?」
「知らない、そもそも誰が作ったの?」
「「「えっ」」」
全員が全員と目を合わせる。
今このテーブルにいるのは、俺とリリアナとギンカの三人。
つまり今昼飯を作っているのは……………
「最悪です、終わりました。今回こそ死ぬんですね」
「大丈夫だ、解毒ポーションならここにある。ギンカは持ってるか?」
「えっ、何、急にどういうこと?意味が分からない」
「解毒ポーションは持ってるか?」
「…………軍から支給されたものを一本だけ」
俺からの詰問に、渋々といった様子で答えるギンカ。
まったく。
「これ持っとけ。命綱だ」
「………何、この紫のポーション」
「解毒だ」
「………毒じゃなくて!?」
「死にたくなければ飲め」
「お~い、ご飯できたよ~?」
「来たぞ」
「ふふっ、もうすぐお母さんに会えるんですね」
「どういうこと!どういうこと?!」
混乱と諦観の中、アヤメが運んできたお盆に乗せられた、複数のどす黒いナニカ。
金属製の皿に入ったソレを見て白目を剝くギンカ。
「なに、コレ?」
「オムレツだよ?」
あっけらかんというアヤメ。
この世の全ての卵とフランス料理に謝れ。
「さぁみんな!早く食べよう?」
言うと同時に混沌をスプーンで掬い、口に運ぶアヤメ。
呆然とするギンカ。
嘆息するリリアナ。
諦めてスプーンを取り口に運び、そして意識が薄れ…………ないな。
苦味と生臭さとえぐみとが口の中を暴れまわるような味だが、気絶するほどではない。
どういう事だ?
俺の隣では、机に突っ伏すリリアナと昏倒したギンカ。
二人にポーションを振りかけておく。
「ご馳走様でした!………二人ともどうしたの?まぁいいか。2人運んでくるね」
リリアナとギンカを担ぎ消えていくアヤメ。
激マズ飯を一人っきりで掻き込んだ。
………………こういう時に涙が出ないのつらいな。
輸血パックで口直し兼栄養補給をし、午後に備えた。
第一話当たりの改稿します。(気に喰わないので)
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