蟲と弾幕と夕焼けと
遅くなってしまった。(何故か投稿できてなかった)
「っくうぅ…………」
重い瞼を持ち上げ、揺れる視界を巡らせる。
本当に不甲斐ないが、少しの間気を失っていたようだ。
右側にはアヤメが、左側にはギンカが、目をまわして倒れていた。
「取り敢えず、早く帰らな、い、と……………」
上半身を起こした俺の目の前に……………顎を開いた大百足が居た。
「だあぁああぁ?!」
密林の中、絶叫を上げて逃げる俺。
その後を追うムシ、虫、蟲。
一回目と違うのは蜘蛛や肉蟲、油虫といった奴らの代わりに百足やクワガタ、カブトムシのような連中が増えたこと。
直撃した連中は全滅。
その余波で熱に弱い虫が焼け死に、そうでない虫が残ったのだろう。
だがそれは同時に、生き残った蟲が火に強いことの証明。
手傷を追ってはいるものの勢いは衰えない。
つまりヤバい。
「うぅん………何が、あった……」
「手伝えギンカ!でないと全滅するぞ」
「えっ………ええっ?ナニコレ!えっ。どういう状況、ええぇ!?」
「何でもいいから早くしろ!」
「わ、分かった、【投槍】【撃剣】【擲斧】【飛棍】!」
ギンカの詠唱に合わせて、空中に出現した無数の巨大な槍に剣に斧に飛棍。
不可視の巨人の手で投げられたかのように勢いよく飛んだそれが、迫りくる蟲の群れを突き刺し斬り裂き叩き割り打ち据える。
前方には誂えたかのように開けた土地。
丁度いい。
「ギンカ!あそこで迎え撃つぞ!!」
「言われなくても!」
広場の中に入ると同時に振り返り、虚空から純白の十字大槍を取り出す。
同じように黒く干からびた腕を構えるギンカ。
先陣を切るかのように突っ込んできた甲虫の頭に矛先を突き立てる。
勢いに負けそうになるのを踏ん張り、脳髄をかき混ぜた。
ビクンと痙攣し動かなくなる甲虫。
槍を引き抜き、振るい、手近なところにいた百足に叩きつける。
甲殻を砕き、頭を地面に縫い付ける。
一瞬の隙が生じた俺に振りかざされた蟷螂の腕を、横から伸びた黒と銀の影が薙ぎ払った。
「…………油断大敵?」
「それはどうッ、も!!」
返答を返すと同時に飛び掛かってきた蜂を横刃で切り裂き撃墜する。
そのまま槍をまわし石突を構え頭を潰す。
蟲は生命力が強そうだし念入りに殺しておかないと。
「【お手を拝借】」
空間が拉げ、緑色の体液をばら撒いて叩き潰される虫達。
グロいな。
「【殴り飛ばせ】【引き千切れ】【擂り潰せ】」
連続で猟奇的殺虫現場を量産していくギンカ。
楽そうでいいな。
「………キモイ汚い危険。まさに3K」
「だな」
大槍を鉈に変化させ、接近してきたクワガタの頭を一撃で叩き割る。
杭を打ちつけるような異音を響かせて突撃してきた20メートル級のゲジゲジの脚を、すれ違いざまに刈り取り跳躍、背中に飛び乗り頭を踏み潰す。
のたうつゲジゲジの胴を斬り刻みサイコロカットに。
生存本能(吸血鬼だけど)の訴えるままに、その場から飛び退く。
直後、ゲジの死体を巻き込んで発生した大爆発。
空中で身を翻した俺の視界に映る、黒と黄色と緑のカラーリングの蟲。
確かミイデラゴミムシだったっけな。
その尻をこちらに照準するように向けるゴミムシ。
尻に向かって鉈を投げつけた。
鉈はゴミムシの外殻に喰い込み……周囲の蟲を巻き込んで爆裂。
……………なんで?いやまぁ、理屈は何となくわかるけどさ。
漂ってくるツンとした刺激臭。
「………臭いが追加された。もはや4K」
鼻をつまみ嫌そうな顔をするギンカ。。
「仕方ないだろ!死ぬよりかはマシっ………だ?」
ぞぶり、と音を立てて俺の腹から生える二本角。
口からごぶりと血が溢れる。
後ろを振り返ればいつの間にやら近づいてきていたクワガタ君。
傷を抉りながら無理矢理引き抜き、角をへし折り、そのまま甲殻の隙間に貫手を放ち、絶命させる。
ぶちまけられる緑色の体液。
クワガタの断末魔をBGMに鉈を回収しておく。
「…………虫類。どこで声出してるの?」」
「知らんな」
ギンカの素朴な疑問を斬り捨てる。
というか本当に蟲の数が減らない。
ギンカも僅かながら負傷が出てきたし、俺は自己再生があるがさっきから空腹が酷い。
このままだとじり貧で終わりそうだ。
範囲攻撃を持たない自分が恨めしい。
早く何とかしなければ本当に……………
「さっきから五月蠅いし臭いし騒がしいし!少しは私の安眠を気遣ってよ!!」
「「……………」」
叫ぶアヤメ。
黙る俺。
静かになるギンカ。
「………ね、ねぇ。私なにかマズいこと言ッタアァァ?!」
ギンカの放ったデコピンがアヤメの額に直撃する。
ひっくり返り、もんどりうつアヤメ。
「早く立てアヤメ!死ぬぞ!」
「…………もう、なんなの急、に………………」
愚痴をこぼしながら立ち上がったアヤメの眼前に、鋏角から毒々しい紫の液体を滴らせる大蜘蛛。
「いやあぁあぁぁぁ?!!」
「おいアヤメ!伏せろ!!」
「ひゃん?!」
アヤメに声をかけ、拾ったばかりの鉈を振りかざし投げつける。
アヤメの頭髪を僅かばかり切り取りながら直進した鉈が蜘蛛の頭部を絶ち割り、一撃で絶命させる。
緑色の体液がアヤメの顔に降りかかった。
「いいやああぁぁあぁ?!?!」
悲鳴を上げながらこちらにむけて火の玉を乱射するアヤメ。
……………はぁ。
「避けろおおぉぉおぉぉ!!」
「ーーーーーっ、やばいやばいやばいやばい!」
各々悲鳴を上げながら回避を試みる二人。
張り巡らされた弾幕はもはや幕というより壁のようで。
蟲の耐熱性も回避能力も生命力もお構いなしに、ただ一切合切を吹き飛ばし焼き尽す劫火。
「………………生きてるって素晴らしい」
何か悟ったように呟くギンカのそばまで転がって行って合流する。
「ホントだよなぁ。俺死んでるわけだけど」
「フフッ……笑えない冗、だ…………」
黙りこくるギンカ。
その前に首だけで転がっている俺。
「ぷぷっ、私より小さい…………お子様?」
笑うな。
えげつない密度の弾幕の中を、必死こいて被弾しながらかいくぐってきたんだ。
首だけにもなるさ。
じくじくと肉が疼き体が修復される。
後ろから噴煙を引いて滑空してきたカブトムシの角を抱えるようにして掴み、弾幕の方に投げる。
一瞬で粉微塵になるカブト。楽だ。
「……………で、アレどうする?」
「…………どうしよっかなぁぁ………………」
「ん。いいことを思いついた」
名案を思い付いた、とでも言いたげな顔をしたギンカ。
「聞かせろ」
「前みたいに鉈で魔法を斬りながら突撃すればいい」。
ドヤ顔のギンカ。
「…………………」
「やっぱり私は天才。これからは私を崇め讃えて………」
「そうだなぁ。いい案だよなぁ…………鉈があそこに転がってなければな」
「…………どうする?」
「突っ込む」
「………………そう、アナタはいい人だった。サヨナラ」
「ちげえよ、ちゃんと考えて言ってるから問題はない、はず、たぶん?」
「がんばれー」
「………分かったよ」
気の抜けた応援をするギンカに背を向け、歩き出す。
正面には弾幕を張るアヤメ。
何故かうつろな表情をしているが今は後回し。
クラウチングスタート(全裸)の体勢に入り覚悟を決め、走り出す。
無数の弾幕に体を穿たれるが問題なし。
どうせ再生する。
全身を吹き飛ばされながらも前に進み続ける。
次第に聞こえてくる異常な詠唱。
「『崇め祀り祈り讃え畏み申す』『其は雄大なる始原の篝火』『祈りを薪に』『心をくべて』『燈火と為すもの』『火は絶えず』『野火は止まず』『万象は只劫火の中に』『此の身を捧げ』『獄炎に費やし』『贄をもって汝が現身を望む』───────────────」
アカン、これガチでマズいやつや。
次第に強くなる熱と焦燥感に全身を焼かれながらも突き進む。
手が熔け落ち足が焼け焦げる。
関係ない。
眼球の水分が蒸発し肉体が自然発火しだす。
問題ない。
木々が炭化し、炎が渦のような鎌首を擡げる。
地獄の釜のふたが開いたような光景の中、ただ歩み続ける。
「『滅炎は絶えず』『太陽は輝き』『遍くを焼く』『烈火は猛り』『紅と赫の中で』『ただ万物を』『荼毘に附す』───────────────【啓示:浄界の」
「大事そうな場面で悪いが少し眠っててくれ」
アヤメの鳩尾に手加減しまくった拳を放つ。
肺腑を撃ち抜く確かな感触と、呻き声。
一瞬にして夢幻のように消え去る超常の炎。
周囲の気温が一気に下がり炭化していた肉が急速に再生する。
「………ふぅ」
疲れた。
本当に疲れた。
もう何もしたくない。
あと腹減った。
空を見上げれば丁度赤く夕日が沈む光景。
「……………お疲れ様。大丈夫だった?」
倒れこんだ俺を見下ろす声の主。
「………どこに行ってたんだ、お前」
「ずっと逃げ回ってた。しんどかった」
淡々と答えるギンカ。
「取り敢えず、おなかすいたから早く帰ろう?お昼食べてないから力が入らない」
「そうだな、今日はもう帰って…………」
あれ?何だろう、急に瞼が、おもくなって。
「どうかした?…………………おい馬鹿!!寝るな!おい!!!」
い、しきが、う、す………………………
今日は確実に上げます。
気に入って頂けたのなら、高評価、ブクマ登録など宜しくお願いします。モチベーションに直結するので。




