雪と猿と牛と
詐欺。
「………あなたたち3人も日本出身だったの」
「いや、日本から来たのは俺とコイツ……………アヤメだけだ。リリアナはこっちの」
「かっわいいぃ~~!!ねぇ身長は何センチ?あたしと同じぐらい?少し小さい?スリーサイズは?ぎゅってしていい!?するね!!うっは、 すべすべぷにぷにじゃん!ああ~もう可愛すぎる!食べちゃいたい!!」
「ちょ、ッこの女!離れっひゃうん!?やめっ……………」
OK、俺は何も見ていない。
残像を残して突っ込んでいったアヤメに押し倒されて、もみくちゃにされる下手人なんてものは見えないし聞こえないし存在しない。
「くっ、おいそこの変態全裸ゾンビ!顔をそむけてないでさっさと助けろ!!コラ耳を塞ぐな!」
割と気にしてる事を言いやがって。
文句があるなら服寄こせ。
「初対面の奴を初手で殺しに来るような奴に、言われたくないな」
「悪かった、謝るから!だから早くコイツを止めひぃん!?まっ、そこは本当にまず」
「……………………なぁ。アレ、どうすればいい?」
げんなりした顔で聞いてくるアヴィンさん。
「アレを止めるのは不可能です。1時間もすれば満足すると思うので待ちましょう」
「………………そうか」
「………………なんか、すみません」
閑話休題
「ハァッ………ハァッ…………ふぅ………なんなんだお前はッ」
「ごく普通の異世界転移した女子高生?」
「ウソだ!」
「だな」
随分とやつれた下手人────ギンカだったか────とやたらツヤツヤしたアヤメ。
うん、なかったことにしよう。
「紹介が遅れたが、俺が強襲部隊の隊長を務めているアヴィン・エスカドレだ。そんでもってこっちの小さいのがギンカ・オリバナ。あともう一人いるんだが親戚の結婚祝いで休暇をとっていてな。時間間隔のおかしいエルフのことだから半年は帰ってこない」
マジですかい。
「もっともいない方が負担は減るんだがな」
あっ。
………なんとなく、嫌な予感がする。
「……………初めまして。『巨人の里』出身のギンカ・オリバナ。【手】の加護を受けている」
不貞腐れた顔で告げる、銀髪の少女。
巨人?目の前のちんちくりんを見る。
小さい。
巨人?
「巨人ってのはあくまで先祖のことだ。こいつらの部族の始祖が巨人で、こいつらもその亡骸に住んでいる。だからこその『巨人の里』ってわけだ」
なるほど、遺骨に住んでるわけか。
「…………そう。海は真っ赤だし年中血生臭いし地面は筋繊維むき出しで最悪。だから出てきた」
流石異世界。
不思議な事もあるもんだ………筋繊維むき出し?どういう事だ?
「……………一つ、聞きたいことがある」
何やら深刻そうな顔で尋ねてくるギンカ。
「どうかしたのか?」
「●●●●●●●●●●●の劇場版、どうなった?」
「…………はぁ?」
よくわからない事を言うギンカ。
何が何だか分からない。
「続きそうな感じで終わって最新作を見る前に死んだから気になる」
「悪いが、作品自体知らん」
少なくとも、作品名自体に覚えが無い。
……………知っていたとしても、見に行くとは思えないが。
「使えない。どうせなら、3回ぐらい見てから死ねばよかったのに」
「コイツ……………………」
本気でぶん殴ってやろうか。
「はい注目、これからちょっとしたレクリエーションを行う。これを見ろ」
そういって渡された羊皮紙に描かれていたのは…………可愛くデフォルメされた牛。
アヤメに渡されたのは丸々としたタッチで描かれた猿。
ギンカの分が水玉らしき何か。
「任務の一環として、お前たちそれぞれにお題のモンスターを討伐してもらう。個人個人に合わせたものを選択してやったから経験を積む意味でも悪くないと思うが………………」
どうする、と視線で問いかけてくるアヴィンさん。
そんなもの決まっている。
「「「やります」」」
声をそろえて返答を返す。
目が合い、思わず口元がにやけた。
出会い頭は最悪だったが、思ったより悪くないのかもしれな「じゃあギンカ、引率頼む」……なんてこった。
「そもそも俺達『強襲部隊』の主な任務は、危険度の高いモンスターの討伐だ。王国との戦線に兵力を集中させるためにも後顧の憂いは絶つべき。つまりこのレクリエーションも任務の一環だ」
「この絵を描いたのは誰ですか?」
「俺だ」
「………………本当ですか」
「ああ、結構格好よく描けてるだろ?」
ニカッと笑うアヴィンさん。
格好良いというかカワイイというか……………………
深く考えない方がいいな。
「それと、レン、アヤメ。お前らに言っておく事がある」
急に真面目な顔になるアヴィンさん。
否応なしに引き締まる雰囲気。
「慣れないうちは、神の権能はあまり使い過ぎるな。制御を失えば暴発することもあるし、最悪、。レン、お前の吸血鬼化も恐らくは暴発だ。アヤメ嬢の方はなさそうだが………」
「アヴィン、その程度の常識ならこの二人でも知ってる。知らないはずがない」
「「………………」」
「…………知らないのか?」
「知らない!?この私が!?そんなこと、あるわけな」
「すみません、何分この世界のことに疎くて」
「お兄ちゃん?!」
アヤメが非難がましい目を向けてくるが、気にしなくていいだろう。
「まあいい、早く現場───大雪林──に行くぞ。まずは実戦だ」
「こんなの聞いてねえぞ、クソッタレがぁあああ!!」
響く絶叫。
舞う雪煙。
高らかに鳴る蹄の音。
疾走する俺。
後ろから迫りくる気配。
振り返れば、俺に出された『お題』の雄姿。
20メートルを優に超える体高に、異様に長い手足。
キリンのような首と、地面まで垂れ下がり全身を覆う漆黒の毛皮。
正面に一つ、深く呪いを湛えた独眼。
天を衝く、悪魔のような捻じれ角。
カトブレパス──────一つ目の牛に似た魔物。
その魔眼は、目が合ったモノを石化させる。
確か、ランクはAAだったか。
「にゃあぁぁ?!キッモ、こいつ気持ち悪すぎる!!」
叫ぶアヤメ。
追う魔物。
紫電を纏い、3対の腕を巧みに操り疾駆する、紫電纏う大猩々。
そのふざけたネーミングに似合わず、ランクはA。
しかもそれが2匹。
遠くから聞こえてくる地響き。
どうやら、ギンカも現在交戦中のようだ。
風切り音とともに振り下ろされた蹄を、ギリギリで避ける。
前方に都合よく突き出ていた木の枝を掴み、逆上がりの要領で一回転、カトブレパスの首につかまる。
「コノヤロー!このまま絞め殺してや」
言葉の途中で、カトブレパスがしがみついていた俺ごと首を木に叩きつけた。
ドン、と体の中でナニカが破裂する感触。
暴れまわるカトブレパスの頭に手をまわし。
「お、ッッラアァァ!!!」
空中で身を捻り、両腕を鞭のように振るって、ゴキャリと首をへし折る。
ぐらりと傾く巨体から離脱。
雪原に着地する俺から一拍遅れてズン、と重い音。
石化の魔眼からゆっくりと光が消えた。
シン・〇バ、面白かったな。
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