移動と謁見と愛娘と
非リアは注意。
「移動ってどういうこと!?そんなの聞いてない!!」
怒気を顕にしたアヤメ。
いいぞもっと言ってやれ。
「順を追って説明するって言っただろ。まず、お前等の所属している探索兵部隊は魔王軍に所属している。そのトップは当然魔王様だ。地龍の襲撃、及びにその討伐の報告が魔王様の耳に届いた。そして魔王様がお前らを、自身の直属の部隊にスカウトされた。よって移動だ」
んな急な。
「これでもだいぶ待ったんだぞ?そこのボウズがくたばっていたからな。…………という訳でさっさと竜車に乗れ」
「「?」」
何で?
「お前らはこれから王都に住むことになる」
わ~い都会暮らしだ~、じゃなくて。
「あの、俺達家買ってから半年もたってないんですが」
「諦めろ」
そんな横暴な。
「安心しろ、荷物を纏める時間ぐらいはやる」
そんな横暴な。
家に帰ると、リリアナが出迎えてくれた。
スカウトの話をした。めっちゃ喜んでくれた。
尻尾が小刻みに揺れていた。
移住の話をした。
めっちゃ悲しんでた。
尻尾が垂れさがってた。
アビスウォーカーが自宅に来た。
深淵製のポーションを大量にくれた。
めっちゃ怖かった。
ブライアンさんが来た。
「王都の家は広いのでもう一人ほど奴隷を買いませんか?」と言っていた。
リリアナが激怒した。
尻尾がたわしみたいに膨らんでいた。
宿のおばちゃんが来た。
アヤメとリリアナとおばちゃんの3人でガールズトークしてた。
3時間ぐらいずっと話してた。
激昂したおっさんが迎えに来て、話に割って入れずに右往左往してた。
賑やかなこの街の住人に激励され励まされお経を読まれ、慌ただしくこの町を立った。
日の光を反射し、黒く輝く城壁。
黒く彩られた荘厳な城。
その周りに広がる城下町。
様々な種族の集まる、この国の中心。
その中央に位置する魔王城の一室で、ガッチガチに緊張した場違いな三人組。
「ね、ねぇお兄ちゃん。魔王様への謁見ってこの服でいいのかな?かな?」
「お、落ち着けアヤメ。こういう時こそ平常心だ。…………スウゥ―、ハァー……ヤバい、余計緊張してきた」
偉い人との接点がほとんどなかったから、何をすればいいかもわからない。
なんだ?『今日はいい天気ですね』とでもいえばいいのか?
会話をつなげられる気がしない。
「ううぅ………なんで私まで行かなきゃなんですか?訳が分かりません!!」
「死なばもろとも、一蓮托生」
「いい加減にしてください!もう最近こんなことばっかりで…………」
「レン様、アヤメ様、リリアナ様。お待たせ致しました。どうぞこちらへ」
「「「あっはい」」」
迎えに来た黒尽くめの騎士に案内されて、廊下を歩く。
曲がり角をいくつか通り突き当たり、地獄門みたいな扉の前で止まった。
「どうぞお入りください」
ギィイィィッと軋むドアを開いて中に入る。
いくつかの燭台が仄暗く照らす大広間。
黒い壁。黒い床、黒い柱に唯一赤い絨毯。
真っ直ぐひかれた厚毛のそれの延長にあったのは、龍をかたどった玉座。
そこに腰掛ける淡い金髪の優男。
隣のアヤメから妙にテカテカしたオーラが漏れている気がする。
何故だ。
「初めまして。僕が魔王だ」
1人称僕なのね。
「………………魔王様?自分の呼び方に気を付けるよう、あれ程言いましたよね」
「ははっ、ゴメンね、ルーシー」
「…………その呼び方も二人の時だけにしてください」
隣りの人影と親しげに話す魔王様。
…………………隣の人影?
正面には魔王様以外いなかったはず。
一体どこから。
「…………ルーシー?すぐに気配を消すのは君の悪い癖だよ?」
「すいません、必要ないと思ったので」
必要ないからで消せてたまるか。
人影が揺らぎ移ろうように現れたのは甲冑の騎士。
声音から考えて、恐らく女。
……………魔王の側近か?
「少し話が逸れてしまったね、本題に移ろう。…………君達には僕の直属部隊に入ってもらう事にしたんだよ。魔王直属部隊っていう響きにあこがれて部隊を作ったはいいものの、実は3名しか人が集まらなくてね」
それで良いのか魔王軍。
「いや、まぁ、実際役には立ってるんだけど癖の強いメンバーが多くてね。実力的にも丁度よさそうだし君たちを呼んだわけさ。………………異世界の勇者様」
……………はぁ?
「え、えぇぇ?え、レンさんとアヤメさんが、ゆう、えぇ?!」
リリアナ、ハウス。
「あの国にも何人か『影』を放ってるからな。おかしい話ではあるまい」
淡々と告げる女騎士さん。
マジですか。
「それともう一つ、レン君。君の体についての話だ」
俺ですかそうですか。
…………自分では生きている実感があるのに死んでいるというのは、実に奇妙な気分だ。
「君が持っている『吸血』のスキルを取得できる種族はヴァンパイアだけだ。そして彼らの立ち位置は酷く曖昧でね。心臓は止まり呼吸も無く代謝も行われない。さらには痛覚も薄く、頭を吹き飛ばされようが死ぬことはない。にも拘らず食事をし、子を作るといった一部の生存本能に基づいた活動だけはする。理性をなくし、無差別に人を襲い血を啜る者もいれば、闇の貴族として君臨した者もいる。総じて身体能力が高く、火炎に弱く、攻撃力に反比例して防御力は低い。魔術にも近接にも長けるが、大飯喰らい。血を飲まないと理性と戦闘力を保てなくなる。ニンゲンに分類するには異質で魔物と呼ぶには異常な者たち。学会でもいまだに『ヴァンパイアはヒトか魔物か?』って騒がれてるよ」
説明ありがとうございます。
「さらに言えば、ヴァンパイアにもいくつか異常個体の確認例があるけど『吸血の厄星』は発見例がないんだよ」
…………いまいち話が飲み込めない。
「要するに、君は世界で前例のない怪物なんだよ」
レアモンスター枠なのかよ。
「僕としては安心して監視できる部隊に君を置いておきたいし…………『部隊』には君の同類もいるよ?」
ヴァンパイアがいるのか。
どんな奴なんだろうな。
話が合うといいが………………………
「違う違う、彼女は異世界出身だよ。もっとも、本人曰く『転生者』らしいけど」
まじかよ。
「この部屋の飾りつけも彼女のアイデアだよ。僕がやるよりお手軽に威厳とかが出せるからいいんだよね」
あ~、うん。
どっかで見たことあると思ったらドラ〇エだな。
「もっとも魔王様がしっかりしないと意味はありませんが」
溜息とともにいう騎士。
「私、この人と分かり合える気がする」と呟くリリアナ。
なんでや。
「そういうルーシーも意外と夜は甘えん坊だったr「魔王様!!」……ゴメンってば」
俺は何を見せられているんだ。
何だこの夫婦漫才は。
「だから魔王様はそういうところが「パパ~、ママ~、仕事まだ~?」ゴメンちょっと待ってて、すぐ行くから」
…………なんか今、子供の声が聞こえた気がする。
「………………えっと今の声は」
「うちの娘だよ。最近4つになったばかりでもう可愛くてかわいくて……」
訂正。
夫婦だった。
「というわけでこれでおしまい!僕はこれから家族サービスがあるから!!」
キラキラとした何かをばら撒きながら消えていく魔王様。
げっそりとしながら大広間を出た。
早く進めたいからもっと急ぎたい。
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