ミノと劇毒とモドキと
焼肉食べたい。
地龍の迷宮第65階層。
大理石の演舞場のような謎空間で俺とアヤメはかれこれ2時間近く戦い続けていた。
必殺の威力を持って振るわれる、白銀に光り輝く大振りの戦斧。
それを軽々と操る膂力。
白銀に金で瀟洒な装飾を施された全身鎧。
巨体を守る、煌めきを放つ壁盾。
そしてそれらで全身ガッチガチに固めた─────牛頭の巨人。
「ミノタウロスがそんなガチの武装していいのかよ」
依頼を見て回って選んだミノタウロス討伐依頼。
身長5メートルをこえる牛頭の巨人。
動きも遅く膂力に任せた攻撃しかしてこない雑魚。
の筈だったのだが………………………
「ちゃっかり全身板金鎧着てんじゃねぇか」
原始的なネイティブウェポンの代わりに文明の利器振るってるし。
何で、明らかに一級品以上の装備を使いこなしてるんだろうな。
…………………フザケるなよ。
まぁそれでも、本来ならちょっとよく切れる武器を持ったただのクレバーな牛頭なんだが………
「アアァアアァァッ!もぉ!!あの鎧クソうざすぎる!!!」
アヤメの放った蒼い炎の槍が、ボヒュッと音を立てて消失する。
……………………またこれだ。
俺が体勢を崩した隙にアヤメの撃ち込んだ炎弾が、コイツの鎧に弾かれたのだ。
ムキになって連射するアヤメ。
怯みすらしないミノタウロス。
そして今に至る。
「ほんっと、こいつどうすっかなぁ……………」
一応切れてはいるが、こいつがデカイせいで致命傷にはならない。
急所への一撃だけはしっかり避けてくるし、そもそも魔法は効かない。
…………………こいつ強くね?
「お兄ちゃん!避けて!!」
「んぁ?」
隙だらけの俺目がけて、斧が振るわれる。
斧の刃筋に沿って刀を走らせて弾き、そのまま腹に一撃。
浅く切れる鎧と舞う血飛沫。
叫ぶミノタウロス。
「斬れなくはないが……………やはり浅いな」
脂肪と革が分厚い上に鎧を着込んでいるせいで、肉や内臓に届かない。
……………ポリシーに反するが仕方ない。
とっておきの、奥の手を使う。
バックステップで距離を取り、懐から取り出したのは──厚ぼったい4本の小瓶。
中に詰められた黒々とした粘性の液体。
ミノタウロスの顔面を狙って、全力で投げつける。
硝子が割れ、バラ撒かれる中身。
絶叫するミノタウロスが、蹲り転げ回り苦悶と焦燥の声を上げる。
「………………………お兄ちゃん?何投げたの?凄く苦しんでるけど………………」
ドン引きするアヤメ。
あれ作ったのお前だろうに………………
「さぁな」
アヤメ謹製のミートボールらしき未確認暗黒物質。
その表面から流れ出た謎の液体。
干からびて使えなくなったテーブルに付着していたそれを瓶に詰めておいたのだ。
あれだけ強力な刺激物ならモンスターにも有効だと踏んだのだが……………想像を遥かに上回る効きっぷり。
苦しむミノタウロスの首に刃を振り下ろした。
「依頼達成の証明、確かに確認いたしました」
カウンターにミノの死体を提出する。
「それにしても……………………………この苦悶は一体……」
引き気味に言う職員さん。
地獄でも見たような表情だから仕方無い。
「はい。報酬の大金貨3枚です」
少し重い麻袋を受け取って、我が家へ帰還を果たした。
トントントンと小気味の良い音を立ててパプリカ(モドキ)を刻んでいく。
涙を堪えて玉葱をみじん切りにして鍋に。
人参のピクルス(モドキ)も刻んで醤油と肉(何の肉かは知らん)を投入。
卵(野球ボールくらいある)を溶き入れて塩胡椒で味を調節。
探し出してきた米(これだけ原型保ってた。何故だ)を目分量で入れ雑炊に。
「出来たぞ~」
「は~いって雑炊!?」
「あれ、お前って雑炊嫌いだったっけ」
「いやそうじゃなくて、米あったんだこの世界」
「おう、見つけた時俺もビビったわ。しかもこっちでも米って呼ばれているんだよ」
「いただきま~す!………………あっつうっま。久々のお米だぁぁ」
「人の話聞けよ。…………………あ~うめ~。懐かしい味がする」
醤油と肉の脂(何の肉かは知らん)の旨味。
そこに合わさる米の甘さ。
なんだろう。無性に泣きたくなってきた。
「あ~、懐かしいな日本」
「言うな。余計に悲しくなるだろ」
「ねぇお兄ちゃん。こっちにも餅ってあるのかな」
「探したらあるかもな。それより味噌が欲しい。何か物足りねぇんだよなぁ」
「味噌汁飲みたい」
「取り敢えず今日はもう寝るぞ。明日からまた潜るんだから」
「は~い。おやすみお兄ちゃん」
二階の寝室に上がっていくアヤメ。
食器をキッチンに持っていき洗って拭いて棚に仕舞う。
俺も自分の部屋で眠りについた。
米と焼き肉。……………………完璧ジャマイカ。




