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徒歩とグーパンと転移

第2話イックヨォオーーーー!!!!!

「あ~…………朝から、ついてねぇ」


 核融合全開の太陽光線と無慈悲なアスファルトからの照り返しが、容赦なく俺の頭を焼き体力を奪ってゆく。

 お天道様なんぞ滅んでしまえ。


「仕方ないよ、お兄ちゃん。仕方ない」


 この炎天下で少しの汗も流さずに宣うアヤメが、化け物に見えてき。


「お兄ちゃん?今、なにか言った?」


 正当な評価だ、この化け物め。

 汗だくの俺の頬を、嫌な汗が流れ落ちる。


「そもそもお兄ちゃん、去年までお爺ちゃんにさんざんしごかれてたじゃん。この程度どうってことないでしょう?」

「…………暑いのには変わりないんだよ」


 阿川源蔵────────爺ちゃんの家系が代々、古流の兵法を受け継ぐ一族だったらしく、俺もみっちり仕込まれた。

 爺ちゃんが生きてた頃、真夏の締め切った道場で半日ぐらい剣を振らされたこともあったな。  

 もっとも、爺ちゃんが1年前に死んで以来、碌に稽古も出来ていないが。

 ……………出来るだけやりたくなかったが、道場に置いてある諸々の品を売れば、多少の金にはなるか?

 爺ちゃんの遺してくれた金にはまだ余裕があるが、少なくとも、俺に何かあってもアヤメが生きていけるだけの貯えが欲しい。

 たった一人の家族を、不幸にするわけにはいかない。

 そんなことを考えながら歩いていたその時に、それは起こった。

 羽虫の唸りに似た音がして、俺の頭が硬質な何かにぶつかる。


「……………ッ、何なんだよ………お、い?」



 暑さによるストレスと金欠生活に苛立っていた俺の眼の前に、淡く輝く光の壁があった。

 唐突な怪奇現象と、理解を拒む脳味噌。


「……………………何、コレ。ねぇ、お兄ちゃん?!」


 ややキツメの口調で俺を問い詰めるアヤメ。

 しかし俺は何も返せなかった。

 返す余裕が無かった。

 純粋な恐怖。

 本能的、かつ感覚的な恐れ。

 人間として培ってきた18年が「逃げろ」と叫ぶ。

 今すぐ、全速力でこの場から逃げ出さなければいけないと、ただ死ぬより何千倍も恐ろしいモノがあると分かるのに、足が竦み切って何もできない。

 震える膝を堪え、アヤメを抱え、全力で逃げ出そうと振り返って、俺はそれが壁ではなく円柱であることを悟った。

 俺たち兄妹を包囲するように聳え立つ、怪異の円環。

 光が強まり、浮き出るように出現した幾何学模様が緩やかに回転を始める。

 煌めき、回転しだす壁を、俺は。


「ッ、アアァアァァアアァァッ!!!!」


 錯乱した意識の中、長年の鍛錬と生存本能の命じるままに拳を構え───────殴る。

 硬質な手応えと、尋常ならざる重量感。

 破れた皮膚から滴る血潮の帯を引き、裏拳を放つ。

 ピシリと、骨に罅が入る感覚。

 必死に足掻く俺を嘲笑うように、鳴動する光柱。

 薄れゆく意識の中、身体全体で庇うようにアヤメを抱き。 

 ──────落ちた。















 皮が剥がれ、肉が抉れ、むき出しの骨が砕け散った。

 薄く光を放つ円柱の中で、自らの肉体が分解され、粒子と化し、再構築される。

 自分が自分以外のナニカに変えられるおぞましい感覚。

 自我を食い荒らされ、脳髄を弄繰り回される、耐え難い激痛と、何かを注ぎ込まれる様な外圧。

 心臓が必死に脈を打ち、やがてそれすらも細切れになる。

 波濤のような狂気に呑まれそうになり、思わず絶叫し、そして()()を見た。


 ソレは、尋常ならざる白い鯨のように見えた。


 銀の海。


 銀の泡。


 銀の生物。


 見渡す限り、すべてが銀色に彩られた異質な世界の中で唯一、真白に輝く支配者。


 ソレと目があった気がした。


 自らより上位に在るモノとの邂逅。


 圧倒的な力の差。


 狂喜にも似た歓喜。

 こちらを見つめる白鯨が、獲物を食らうように大きくその顎を開きそして───────数瞬の浮遊感の後、俺とアヤメは赤い絨毯の上に落ちた。




まだまだエタランゼエ

※2021、4/18.誤字及ビ気二喰ワナイ表現ノ改稿並ビ二加筆修正。

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