事故物件とデスメタルと抹殺コンボと
君はこのタイトルの意味を知る。
「家の購入、ですか?」
役場のカウンターにて困り顔で尋ねる職員さん。
「はい。予算は大金貨15枚位まででお願いします」
袋に入ったお金を台の上に置く。
中身を確認する職員さん。
今の俺たちの全財産。
コレで足りなければ、しばらく風呂に入れない羽目に合う。
「確かに確認しました。目録を取ってくるので少々お待ち下さい」
奥に消えていく職員さん。
受付で待ち惚けることおよそ二十分、小脇に分厚いファイルを抱えて帰ってきた。
「提示された予算で購入できる物件はこの3つになりますね」
1つ目は裏通りの平屋。
治安は悪そうだが大金貨9枚と格安。
曰く事故物件なうえに風呂もないとの事。
論外だな。
2つ目は市場近くの3階建ての家。
値段は大金貨10枚と立地と物件から考えると価格崩壊並み。
だが…………………
「もしかしてこの近くに薬師堂ってあります?」
「ええ、まあ」
「じゃあ却下で」
「えぇ~なんでお兄ちゃん。安いし立地もいいしここ」
「却下だ!!!」
SAN値直葬してくる神話生物のいるとこに住めるはずがない。
よって却下だ。
3つ目は中央に程近い2階建て。
値段は大金貨15枚とギリギリ。
築53年の中古だが悪くはない、のか?
「お兄ちゃんここにしようよ。さっきの家も悪くないと思うけ」
「あ゛ぁ゛!?」
アヤメを黙らせて家の契約書にサインし、鍵を受け取る。
一旦宿で荷物を回収して、少し寂しそうな顔をしたおばちゃんにお礼を言って家に向かった。
新しい我が家は古ぼけた石造り。
小さいながら庭もついていた。
狭いながらも楽しい我が家。
「お兄ちゃん!キッチン!キッチンがあるよ!これで料理できるね!!」
「ああそう…………今なんて言った」
「そうだ!今日のご飯は私が作ってあげる!お兄ちゃんもそれでいいでしょ?」
手を体の前で組み、咲き誇るような笑顔で宣うアヤメ。
実に絵になるが中身が醜悪過ぎる。
「それじゃさっそく材料買ってくるね~」
鼻歌交じりのスキップでアヤメが出ていく。
夢想し得る最悪のシチュエーション。
完成待ったなしの抹殺コンボ。
「……………………腹くくるしかない、か」
ほんの一握りの絶望と圧倒的な諦観を溜息と共に吐き出して、俺は死刑の執行を待った。
アヤメが帰ってきてから約30分、俺はテーブルにいた。
少し手伝うという名目で俺が作ろうともしたのだが……………
「お兄ちゃんは待ってて!」
「いや、俺も作ったほうが…………」
「私が作ると何かまずい?」
「いいえ何も」
無力だと嗤うなら嗤え。
意気地無しだというのなら好きに呼べばいい。
血塗れの殺気をバラ撒くアヤメに、俺は頷くしかなかった。
「おまたせ~、お兄ちゃん♫」
お盆に何かの入った皿を乗せて持ってくるアヤメ。
「あ、ありがとう。ところで…………………それは何だ?」
銀色の大皿に入っていたのは、『ナニカ』としか形容できないものだった。
それは黒と紫色をしていた。
強いて言うなら炭化した心臓のような、それにしても異様なナニカ。
余りに冒涜的で退廃的でグロテスクで醜悪極まりない肉塊。
その表面から流れ出るどす黒い粘性の流体が、なみなみと皿の底を満たしている。
一瞬、かの忌々しいアビスウォーカーの大鍋がフラッシュバックした。
「ミートボールだけど?」
大皿を見る。
シュウシュウと音を立てて皿が変色していた。
…………………これがミートボール?
面白い冗談だ。
俺がどこで笑えばいいのか、誰か教えてくれないか?
「はい、召し上がれ♪」
お盆を前に抱え、蕾が綻ぶような笑顔で嗤うアヤメ。
アヤメ自身容姿が優れていることもあって、本来ならばとても絵になる光景なのだろうが……………………俺には悪魔か死神の哄笑にしか見えなかった。
大皿を見る。
流体が溢れ出し、木製のテーブルが黒く変色し干からびていた。
大きく息を吸い、呼吸を整えて。
「根っ、性ぉオォオ!!」
自分自身を叱咤し、決死の覚悟と共に肉塊を呑み込む。
脳味噌が揺れる。
脳が震える。
心臓が鳴動し、全身の肉が痙攣する。
感覚が途切れ途切れになり、魂が限界を訴える。
ドクンドクンと、自分の心音が五月蝿く響く。
脂汗が滴り、視界が明滅する。
本能の送る危険信号に無理矢理逆らって咀嚼。
半ばヤケクソで残ったなぞ汁を飲み込み……………
「おはようお兄ちゃん」
目が覚めた。
頭が痛い気持ち悪い吐き気がする眩暈がする。
バイソンとデスメタルが頭の中を超音速で行軍している。
「………………何がっ、あった」
「ご飯食べ終わったら気絶しちゃって……………………」
目の前のアヤメがあっけらかんと答える。……………………………目の前?
「ああ悪い。すぐに起き上がるから」
いつの間にか、アヤメに膝枕をされていた。
解せぬ。
解せぬが、せっかくの好意だし素直に受け取っとく。
と言うか起きれそうに無い。
「具合悪いなら寝込んでていいよ。お粥作っておいたから」
「大丈夫だ問題ない」
死ぬ。
これ以上は死んでしまう。
只でさえダメージがデカ過ぎるのに、そんなものただの死体蹴りだ。
霞む視界と震える膝を気力のみで動かして、背嚢から解毒ポーションを取り出し浴びるように飲み干す。
フラッシュバックするアビスウォーカー。
混沌の味がする。
「それにしても何が悪かったんだろう?…………お肉が傷んでたのかな?」
悪いのはお前の料理の腕だろうが、という本音を噛み殺し、伝家の宝刀ジャパニーズスマイルで誤魔化す。
「で、どうするお兄ちゃん?中央で依頼受けるつもりだったけど…………………行けそう?」
「いやもう大丈夫だ。ちゃんと治ったから」
致死の劇毒の症状を一瞬で完治させるとは……………………流石アビスウォーカー謹製。
「Bランクより上の依頼も受けられるみたいだけど…………受けちゃう?」
「行ってみる価値はあるんじゃないか」
バジリスクがCランクだから、そのひとつ上のモンスターか。
新しい太刀の試し斬りには丁度いいな。
「良し。何か良さそうな依頼があったら受けてみよう」
「動きが遅くて遠距離の無いデカイのがいますように」
ニマニマするアヤメを放置して我が家を出た。
ノルマ回収。設定詐欺回避。まだまだ続くぜ。




