杖とナラクとポーションと
カオスっていいよね
「と言うわけで武器を買いに行こうと思う」
「………………どうやらまだ反省していないみたいだね」
「いや違う、ちゃんと反省して」
翌朝、俺はアヤメにしばかれていた。
「いや、だからな。昨日の話も踏まえて、薬とか買っておいたほうが生存率上がるだろうし」
「ならよし」
「それにもっと硬い敵も斬」
「反省、してるんだよね?」
「………………悪い」
「宜しい。じゃあ今から中央に行って…………」
「いや、今日は市場を見て回ろう。薬を買っておきたい」
命を大切に。
バジリスク戦でも、少し間違えば石になっていた。
備えはしておきたい。
「なにかいい小物あるかな」
「それぞれの状態異常解除薬と回復薬。ナイフもほしいな」
各々の計画を練りながら市場に向かった。
市場にて買うものを探す。
回復薬一式に食料品もほしい。
金銭面も考えれば、無駄な物を買う余裕は無いのだが…………
「お兄ちゃん!このポーチ欲しい!」
「アヤメ、ここに来た目的忘れ「すいませんこれください!」………オイ」
……………少し前からずっとこの調子だ。
流石に、これ以上好き勝手させる訳には行かない。
「いい加減にしろアヤメ」
「あ、お兄ちゃん!このポーチ似合うと思わない?」
「………いいから行くぞ」
「え、ちょっと待って引き摺らないで」
喚くアヤメを引き摺り、場所を聞いた薬師堂へ向かった。
立ち込める澱んだ空気。
朽ち果てた木の看板。
漂ってくる実にケミカルな危ない匂い。
いかにもな外装の店を見て泣きじゃくるアヤメ。
……………………こいつ、こういうの苦手だったわ。
「ほらアヤメ。さっさと店の中入るぞ」
「ぴにゃあ!!」
泣き叫ぶアヤメを連れて店の中へ。
……………………………店の奥で、暗緑紫色のサムシングを煮込むクリーチャーがいた。
目があった。
急いで視線を逸らす。
何だアレは。
アレは何なんだ。
理解できない。
許容できない。
したくない。
人間としての経験と、もっと根源的な感覚が口を揃えて「アレはだめだ」と叫ぶ。
視認できてしまったが、それ故に脳味噌が認識を拒む。
簡潔に例えるなら、それは、女装したオッサンだった。
天を掴まんとする悪鬼の剛掌の如く、頭長から伸びた頭髪。
三メートル近い巨体を包む、装飾過多のファンシードレス。
其処から覗く、ゴン太が可愛く思えるほどの剛毛に覆われた四肢。
劇画か世紀末のアイツラのように濃い顔面。
まごうことなきアビスウォーカーの異形。
それが呪殺の劇毒を作り出すが如く、大鍋で何かを煮込んでいるのだ。
あんなものを見続けて正気でいられるはずもない。
「アラアラ、お客さんじゃないのぉ。そんなとこに突っ立ってないで早く入ってきなさいよぉ」
話しかけてきた。
図太い猫撫で声で。
なにか、人として正気であるために必要な何かがごっそり減った気がする。
混乱のあまり思考がまとまらない。
ウィンクしてきた。
飛んできた不可視の何かを全力で避ける。
あれを喰らって生きている自信がない。
アヤメはさっきから気絶している。
ヤツの放つ毒気に当てられたのだろう。
俺はこれ以上追撃が飛んでくる前に、いざというときは身を挺してアヤメを守れるように庇いつつ、奈落の底に踏みこんだ。
普通にいい人だった。
というよりすごくいい人だった。
何だあのギャップは。
落差がデカすぎるいい意味で。
親切丁寧に効果や消費期限などの注意点を教えてくれた。
あの独特の口調で。
しかしそれすらも何故か、本当に何故か寧ろ好印象を受けている自分がいた。
それにあの人…………かなり強い。
少なくとも手加減して勝てる相手じゃない。
そして何よりもあの得体の知れない雰囲気。
どんな奥の手を隠し持っているか想像もつかない異様なオーラ。
相手を勝手に疑心暗鬼に陥れる、名伏し難い気配。
あの異形が放つプレッシャーが相手の精神の均衡を破壊し致命的なミスを誘発する。
間違いなく強い。
俺が刻んだバジリスク程度なら、正面から潰されて終了するだろう。
なんで薬師堂にいるんだろうあの人。
一抹の疑問と戦利品を手に、宿に帰った。
「ねぇ、昨日何があったの?」
「知らない方がいい。ああ、アヤメにはまだ早すぎる」
「…………………ねぇ、ホントに何が」
「気絶していた幸運を噛み締めていろ。知らないほうが幸せなこともある」
好奇心から絶望を知ろうとするアヤメに釘を刺す。
それよりも。
「今日は忙しくなるぞ」
「なにか目当ての依頼でも?」
「うまく行けばこれで家が買える」
「おおっ、マジで!」
「その分危険だがな」
いや本当に。
うん。
「オーガの冠個体の討伐だとさ」
メイ○イン○ビス




