サヰドヱピソード:海
海鳥になりたい
異世界でも健全に猛威を振るう蝉時雨。
滅んでしまえ。
二日酔いで痛む頭を抱えて、大広間に向かっていた。
迷宮攻略明けなら魔王様に呼ばれることも無いだろうと思い、完全に油断していた。
扉をノックして中に入り、長椅子に腰掛ける。
爽やかな笑みを浮かべる魔王様に、1枚の書類を手渡された。
内容は…………………防衛任務?
「魔王様?流石にコレは酷すぎやしませんか?」
「取り敢えず、ちゃんと説明させて貰うね?この国の西端には入り組んだ海岸線がある。僕の専門分野ではないけど地脈やら龍脈やらの影響で、この時期になると海棲の魔物が上陸してくるんだ。……………例年ならなにも問題無いんだけど、王国対策で造った陣地を潰されると困るから守ってほしくてね」
「つまり?」
「君たちはいつも通りでいいね」
なるほど、分かり易い。
燦々と降り注ぐ真夏の日差し。
真白の砂浜に足の裏を焼かれる。
何処までも青く、蒼く。
空と海の境界が、水平線の向こうで消失していた。
悠々と滑るように海鳥が空を飛び、白波が砂を攫っては引き返していく。
少しばかり懐かしい潮風の香り。
肩に担いでいたビーチパラソルを開いて浜に刺し、丸めて脇に抱えていた敷物を広げる。
……………ひゃあ我慢できねぇ!!
いつもの軍服(すぐに破れる)ではなく、安っぽい短パンの水着を着込んで。
「ヒャッハァアアァァァー!!」
全力ダッシュ。
波打ち際一歩手前で踏み込んで跳躍、完璧なフォームで海に飛び込んだ。
勢いのままに海中を泳ぎ、水面から顔を出す。
久し振りの海、精々この機会に満喫して帰ろう。
………仕事?何の事だろうな。
後方で轟く爆音。
訝しく思い、後ろに振り向いて。
「どいてお兄ちゃん!」
「あ?」
アヤメの声が聞こえた。
真上から。
ピンクフリルの可憐な水着姿のアヤメ。
後ろ手に携えられた錫杖から豪炎が迸る。
空中で華麗に1回転したアヤメのボディプレスが、俺に直撃した。
「しっかし…………………さっそく酷い目に遭ったな」
パラソルの下に寝っ転がって、持参していたアルコールを喉の奥に流し込む。
どうせまだ仕事には早いんだ。
のんびりやろう。そんな俺を覗き込むギンカ。
何処で買ってきたのかは知らないが、スクール水着に酷似したモノを着ていた。
…………………いや、本当に。
「レン、どうかした?」
「なんでソレがこの世界にあるんだよ」
「知らない…………………というか任務は?」
首を傾げて尋ねるギンカに一枚の羊皮紙を手渡す。
事前に与えられた情報は、連中の進行が、龍脈の関係上3日程で終わるという事。
そして基本的に夜間戦闘になるという事。
「………レン。私は帰る」
「ダメに決まってるだろ。……………それにも書いてあるが、深海に棲む大型とか超大型が龍脈に惹かれて移動した際に、怯えた他の魔物が一斉に逃げ出すのが今回の事件だ。人手が足りないんだよ」
重なった龍脈の流れに釣られた強力な魔物とソレに怯えて逃げ出した大量の魔物。
相手の数が多すぎてキツイ。少なくとも、前衛が俺だけだとアッサリ抜かれて終わる。
「お兄ちゃ~ん!こっち来て~!!」
砂浜で手を振って俺を呼ぶアヤメ。
溜め息を吐いてパラソルの下を出た。
白い砂浜の上に置かれたドギツいビビットカラーのスイカモドキ。
何処から持ってきたのか、ドレスに似た水着を着込んだオネットさん。
その手に握られた細身の直剣。
…………………誰か状況を説明してくれ。
「お兄ちゃんもスイカ割りするよね?」
「なんで剣を使ったんだ?」
「木刀が無くて、支給品の中にコレがあったから」
「そうか…………………」
目隠しをしたオネットさんが、その場で回り始めた。
マジでやる気なのか。
「オネットさん、三歩前に。そう、そこから二歩右に行って…………………」
とても嬉しそうにオネットさんを誘導するアヤメ。
ふらつきながら構えられた直剣が全力で振り下ろされ────────
「えいっ!」
────────────盛大にからぶってオネットさんがズッコケた。
体全体を使った一撃が、俺の首を刎ねる。
砂塗れになりながらオネットさんが立ち上がる。
「ねぇ、当たった!?今完全に当たったよね!!」
「俺にな」
「次、私がやる」
直剣を手に取ったギンカが目隠しをつけた。
その場で回ったギンカがよろめきながら進んで剣を振り、真横にずれた剣先が、俺の胴を袈裟懸けに斬った。
「お前、今俺を狙ったよな?」
「外した。次は当てる」
そんな事を言いながら直剣をブンブンするギンカ。やめて欲しい。
「はい次、リリアナちゃんの番!!」
「えっ、あっはい」
ビキニっぽい水着の上からカーディガンを羽織ったリリアナに、直剣が渡された。
……………水着に関しては完全にアヤメの趣味の気がする。
剣を担ごうとしてよろけるリリアナ。
念のために下がっておく。
もう斬られとう無いんじゃ。躓きかけながら前進したリリアナが剣を構えて─────────
「うにゃああああ!!」
振り落ろされた剣がすっぽ抜け、俺の額を穿つ。
砂浜に咲く紅い花。突き刺さった剣を引っこ抜き、血糊を拭う。
目の前を見ると、パニック状態のリリアナ。
「あっ、あの、レンさん!違うんです、わざとじゃ」
「いや、別に問題ないぞ?この程度なら秒で治るし」
鉄剣を手に取り、目隠しをつける。
大上段に刃を構えたまま呼吸を整える。
意識を集中して─────
「ゼアァッ!!」
──────────存分に斬った。
刹那の内に手首を返して横薙ぎの一閃。
確かな手応え。
目隠しを外して確認する。
……………奇麗に4棟分になったスイカ。
やったぜ。
「レン、早く食べよう?」
「あ?」
振り返ると、ギンカが既にスイカを食べ始めていた。
俺を待とうとは思ってくれなかったのか。
というか、もう皆食べだしていた。……………仕方ないか。
鉄剣を砂浜に刺して、スイカに齧り付いた。
次回、勝ち取りたいします。




