落下と帰還と機関と
この後で幕間挟んで新章突撃します。
灰になって崩れ落ちるバケモノ。
その遺灰を適当な瓶に詰めておく。
取り敢えず持って帰ろう、何かわかるかも知れない。
というか、いっこうに右目が治らない。
本当にどうしよう。
更に体が重い。
立っていられなくなり、後ろ向きに倒れ込む。
仰向けになった俺の視界に映る、青く輝く三日月。
月がきれいですね。
「お兄ちゃん、大丈夫そう?」
「………あぁ、多分な」
頑張って手をつき、立ち上がる。
後ろで眠りこけるギンカ。
無防備な奴だな。
そして壊れたとっつきの前で失意体前屈の体勢をとるオネットさん。
どうやって声をかけようか。
「あの、オネットさん?」
「…………ねぇ、レン君?」
「ッ?!」
グルリ、と。
擬音のつきそうな勢いでこちらを見上げるオネットさん。
ハイライトが消し飛んだ目をしてらっしゃる。
そのままゾンビじみた速さで肩を掴まれた。
「アレ、僕の玩具の中でも最高傑作だったんだよ?!こんな、こんなスクラップみたいにしてさぁ!!責任取ってよね!!!」
「このシチュエーションでその台詞は聞きたく無かったな」
ガクガクと揺さぶられながら、泣き叫ぶオネットさんを宥めようとするが、話を聞いてもらえない。
いい加減に困り果てて、どうやって始末をつけようかと考えだしたその時、迷宮が激震した。
ドクン、と脈を打つ心臓のように、肉塊が蠢動する。
ギシリ、メキメキと不穏な音を立てて一際大きく身震いした地面が急速に膨張して───────────────弾け飛んだ。
………………あぁ、まぁ、うん。
迷宮の主が死んだ迷宮が崩壊するのは当たり前の事か。
って違う、そうじゃない。
迷宮が、俺達がいた巨塔が崩れたという事はつまり………………墜ちるという事。
「うおゎあぁぁ?!」
「わにゅあぁあぁぁぁ?!」
「………………」
「ああぁあぁあああぁぁぁ?!」
三者三様の悲鳴を上げて落下する、というか一人未だに寝ている。
高速で地表が迫りくる中、脳裏を過ぎる今までの光景。
視界が、世界が、目まぐるしく回転して。
死。
アヤメ、ギンカ、オネットさん、守、死、灰、逃げ、助け。
とめどなく、纏まりも無く流れる思考。
高所からの転落。たとえ地球じゃなくても、かのアイザック・ニュートンが見出した万有引力の巨人の手は容赦なく俺達を叩き殺す。
まさしく詰みに近い状況。
だが、それでも、まだ。
─────────────死にたくない。
死ぬ思いで死線を潜り抜けたんだ。
こんな場所で死ぬわけにはいかない。
久しく忘れかけていた生への渇望が、灰と化したアイツの最期が脳裏にちらつく。
走馬燈から掬い上げた一つの記憶。
実行できるかも、余力が足りるかも怪しいが、しないと全員死ぬ。
チャンスは一瞬、機会は一度。
極限状態の中、意識を高めて集中して。
「ァッ、アァアァァアアァァッッ!!!」
背中の肉が捻れ抉れ膨れ上がり、一気に弾けて広がる。
大笠のような形状に爆発的な勢いで成長した肉塊を、肥大化させた肋骨で支える。
思い描くは何かのサスペンス映画で見たパラシュート。
落下速度を殺した上で、伸ばした触手を3人の胴体に巻き付けて回収。
昔、爺ちゃんが教えてくれた5点接地法。
覚悟を決め、両足から着陸し────────盛大に骨折した。
「……………爺ちゃんの嘘吐き」
顔面から地面に滑り込み、ぶっ倒れた。
地上に降り立つと同時に、落下傘が解けて腐る。
呻きながら起き上がって、体の底でヘドロが渦巻くような音がした。
腹の奥からナニカがせり上がってきて口元を手で覆い、堪えきれずに吐く。
手のひらに、赤黒いゼリー状のモノがへばり付いていた。
視界が明滅して回って倒れ込む。
頭痛が痛い。というか体が動かない。
コレ、割とヤバいのではなかろうか。
「ねぇ、お兄ちゃん。生きてる?」
アヤメが話しかけてくるが、返す余裕が無い。
頭を振って起き上がるオネットさん。
頑張って首を動かした先で、ギンカが眠っているのが見えた。
元気そうで何より。
そしていよいよ本格的にマズくなってきた。目の前が明滅して赤く染まっていく。
「…………………ねぇ、お兄ちゃん?お~い?」
わざわざ近付いてきて、顔の前で手を振るアヤメ。
本当にやめて欲しい。
薄れゆく意識の中、誰かの声が聞こえた様な気がして……………………………
≪外敵≫≪抗争≫≪討滅≫≪奮闘≫≪褒賞≫
銀色の海、銀色の泡、純白の鯨。
またこの流れか、いい加減にして欲しい。
≪……………≫≪我≫≪神也≫≪汝≫≪信奉≫≪義務≫
だからどうした。
≪…………≫≪蛮勇≫≪資質≫≪覇者≫≪………≫≪了≫≪権能≫≪神授≫
ありがとうございます。
≪………≫≪但≫≪使用≫≪過度≫≪留意≫
使い過ぎるなと?
≪肯≫
……………せいぜい気をつけさせて貰います。
≪祈願≫≪闘争≫≪勝利≫
神が祈るのか。
目が覚めた頭痛い気持ち悪い吐き気がする。
腹の中が焼けるように熱いが、すぐに治まった。
今まで寝ていたベッドから起き上がり、頭の中を整理する。
あの吸血鬼に謎のバケモノの遺灰。
オマケに礼の組織的な連中の抹殺。
色々と腑に落ちないが、自力で調べるしかないのだろう。
溜め息を吐き、部屋の扉を開けて───────────────唐突に伸びてきた黒金の鉤爪。
咄嗟に躱そうとして足がふらつく。
体勢を崩し、4本爪に胴体を掴まれる。
ギリギリと音を立てて俺を締め上げる鋼鉄の獣。
目の前には、修羅の如き形相を浮かべて、パイルハンマーを構えるオネットさん。
「……………なぁ、オネットさん?これはどういう事だ?」
「パイルハンマーの恨みを果たすべく」
「だからアレは必要な犠牲で………」
「無茶な付与をしたせいで杭はボロボロ!骨格はオシャカになったし機関部は再使用不可!!せめて僕の手で仇を討たないと気が済まないの!!!」
「俺は悪くな」
「問答無用!!」
心臓を撃ち抜かれた。
物理的に。
カルボナーラおいちぃ
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