プロローグ 肘鉄と朝飯と遅刻
初めての執筆ゆえ至らぬ点もございますがどうか宜しくおねがいします。
穏やかな朝の光。
布団の温もり。
どこかさみし気な、蝉の声。
カーテンの隙間から差し込んでくる光が部屋の中を照らしているのを、半ば覚醒した意識で捉える。
微睡みの中、耳朶を打つ炸裂音が、自室のドアの断末魔に聞こえた。
「お兄………………起……………」
聞き慣れた妹の、アヤメの声が聞こえる
俺を起こしに来てくれたのに悪いが、人は睡眠欲に抗えないように出来ている。
特に、夜勤明けのバイト戦士は目覚めない。
よって狸寝入り。
「…………お兄ちゃん。寝てるの?」
寝てますよ。
「……………仕方無いなぁ」
アヤメの溜め息が聞こえた。
寝ぼけた頭に一抹の罪悪感。
だがしかし、まだ眠いから仕方がないと、自己欺瞞。
次の瞬間、可愛らしい掛け声と可愛らしさのかけらもない肘鉄が、寝たふりをしていた俺の鳩尾に叩き込まれた。
「ゴホッゴホッ」
「お兄ちゃん大丈夫?」
「誰のせいだよ」
寝起きに喰らうにはキツ過ぎる一撃を受けた俺は、朝食の準備を急いでいた。
昨日の晩作っておいた味噌汁を温め、冷凍しておいた白飯をレンジでチン。
卵を2個割り、フライパンで炒めスクランブルエッグに。
半額のレタスを手で千切り、水洗いして皿に盛り付けて、リビングで跳ねる焦げ茶色の癖毛と朱の眼の持ち主に、声を掛ける。
「アヤメ、皿運んでおいてくれ」
「分かった」
肩口で揃えられた焦げ茶色のショートヘアに、俺と同じ高校生とは思えないような、幼い風貌。
よく中学生と間違えられるが、これでも高校一年生。
ここ2,3年変わらなかった150cmの絶壁体型と、整ってはいるが子供の様な顔立ち。
いわゆる、チビッ子である。
「……………ねぇ、お兄ちゃん。どうかした?」
「相変わらず小さいよな、アヤメ」
「うるさい」
顎先を的確に刈り取る裏拳を寸前で躱す。
「ベ~っ」と、いたずらっ子の様に舌を出したアヤメに皿を運んでもらっている間に、日曜日に作り置きしていたキンピラと大学芋を追加して弁当箱に詰めて準備完了。
食卓に二人並んで。
「「いただきます」」
白飯を味噌汁で流し込む。
少々行儀は悪いが、どうせ咎める人もいないので無問題。
入れておいた余り物の鶏肉がいい仕事してる。
ありだなコレ。明後日あたりの晩飯に使おう。
アヤメも同じように思ったのか、早々と味噌汁を飲み終えスクランブルエッグをレタスで包んで食べていた。
冷蔵庫で冷やした麦茶を啜り、一息ついて…………というかのんびり食べて良い時間じゃない。
リビングの時計の針はもう既に7時58分を指している。
バスが出るのが8時6分。
バス停まで全力で走っても3分はかかるから…………
「マズイな」
いや、ホントに。
「美味しいと思うけど?」
「そうじゃない。バスの時間が」
「……………お兄ちゃん?」
「どうした?」
「とても急ごう」
全力で飯を咀嚼して皿を流し台に叩き込み、弁当箱をリュックにぶち込み早着替え。
このバスを逃がすと9月の炎天下の中、30分以上歩く羽目になる。
それだけはゴメンだ。
というか普通に遅刻してしまう。
「お兄ちゃん鍵は?!」
「大丈夫だ持ってる!!」
兄妹揃って家を飛び出した俺達は…………………約3分後、無慈悲に熱いアスファルトに膝をついて、バスを見送っていた。
短いって言わないで!次、次から伸びるから!!
非実在性妹にねだられて書いた、人肉が食べたい女の子と食べられる少年のラブコメ擬きです↓
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