蛇の罠
俺達は滑り込みで授業に間に合い一時間目が終わり、休憩時間になった。
窓際の一番後ろの席で、椅子にもたれながら、朝の出来事を思い出しながらぼーっと外をながめていると、俺の前に誰かが立ちはだかった。
「あなた乃亜さんよね?ちょっとお話しいいかしら」
「おお・・・蛇腹か、なにか用か?」
銀髪の髪をヒラリと靡かせ、蛇のような怪しい視線でこちらを見つめてくる、彼女の名前は、蛇腹愛無、性格の悪さからか、孤立していて一人でいる事が多い。
「朝、校舎裏で森園さんと一緒にいたでしょ」
「え・・・な・・・なんの事かな?ちょっとよくわからないんだけど、証拠でもあるのかい?」
「 しらばっくれるの?じゃあ、これは何かしらね」
彼女はスマホを取り出し、俺の目の前に差し出した、そこには服を脱いでいるマリアと赤面して呆然と立ち尽くしている俺が写っている。
「ふぁっ!?い・・・いや、これは違うんだ、これはそういう事じゃなくて・・・」
このままだと二人で朝っぱらからイケない事をしていたんじゃないかと疑われる危険性がある。それがバレたらクラスの男子からボコボコにされ、女子から汚物を見るような目で見られてしまう、仕方ないが、ここはごまかすしかないだろう。
「あ・・・あいつはちょっと人に見られるのが好きなだけなんだ」
「へえ、そうなんだ」
もう死にたい、もっと他に言い訳があっただろうに、大切な幼馴染を露出狂認定してしまった自分を呪い殺したい。できる事なら過去に戻りたい。
「蛇腹よ・・・一体何が望みなんだ、金か?それとも命か?
「うふふ、乃亜さんって面白いわね、だけど、そんな物騒なものいらないわ、ただマリアさんの露出癖が治るように私に協力させて欲しいの」
不敵な笑みを浮かべつつ、蛇腹はそう答える
「本当にそんなんでいいのか?だが・・・そんな事してお前に一体何のメリットがあるんだ?
「メリットなんてないわ、ただ私は、面白そうな事に目がないの。それ以上でもそれ以下でもないわ、それに私はあなた方の秘密を握っているから断れないと思いますけど」
蛇腹はまた不敵な笑みを浮かべ、俺の前にスマホの画面を揺らしながら見せつけてくる
「はぁ・・・分かったよ、でも協力するって言ったって具体的に何をするって言うんだ?」
蛇腹はおもむろに遠くの方を指差し俺に向かって呟いた。
「そうですね、それではあそこで脱ぎかけているマリアさんをどうにかしましょうか?」
蛇腹が指差した方向を見ると、パンツを脱いでいるマリアの光景が目に入った。幸いクラスメイトはおしゃべりに夢中で気づいていないようだ。
「のぉぉぉぉぉぉぉぉおお!!」
俺は光と音を置き去りにしてマリアの所に行き、脱ごうとしているマリアの手を止める。そして落ちているパンツを咄嗟にポケットの中に突っ込んだ。
「おい、正気か!ここで脱いだらマズイ、死にたいのか!!」
「死ぬ?どう言う事?私はおばあちゃんになるまで生きて、最後に幸せだったって言って死にたいよ、ここで死ぬ予定はないけど・・・」
「いや、社会的に死ぬ!最後に幸せだったって言えなくなるぞ!とりあえず・・・こっちだ」
マリアの手を引っ張り近くにあった教卓の下にマリアを隠す、ちょうど死角になっていて他の人からは見えない仕様だ。
「いいか、絶対に見られるんじゃないぞ、おれが注意を引きつける。おまえは脱いだらすぐ服を着るんだ、わかったな!!」
「わ・・・分かったよ」
般若のような形相をしていた俺が怖かったのか、マリアは怯えたように何回も頷く。
俺は急いで教卓の反対方向へと移動する、人の視線を集めるのは並大抵の事ではないが、人の生命がかかっているとなると、それはまた別の話だ。
「みんな!俺の歌を聞いーーーー」
「みなさ〜ん、あそこにゴキブリがいるみたいですわ、誰か退治してくれませんか?」
俺の声を遮って、蛇腹の声が教室全体に響き渡る、そして、教卓の前に皆の視線が注目する。どうやら蛇腹に裏切られたらしい。
「蛇め、人を騙しくらう・・・蛇め!!」
目の前が真っ白になった。瀕死の状態だ。たとえポケ○ンセンターに行っても無駄だろう。
蛇腹の裏切りによって彼女の人生が終わってしまう、俺は膝から崩れ落ち、全てを諦めた。
「マリア様はおらぬか〜〜〜〜!!」
向こうから数人でマリアを呼ぶ声がする、お迎えか?と思ったが野太いおっさんの声だったので違うだろう。
「そこの少年、マリア様のお姿が見当たらないのだが、どこにいるか知らぬか?」
この見た目が高校生とは思えない集団は、マリア様愛好団体と呼ばれていて、俺にとっては厄介な存在だ。しかし、今の俺にとってはこの集団が天使に見えた。
「ちょうどよかった、何も言わずに聞いて欲しい、あそこの教卓から一歩も生徒を近寄らせないでほしいんだ」
「それは、マリア様の為になるのか?」
「あぁ、お前達の行動で、彼女は助かり、それは後世へと語り継がれるだろう」
「ふむ、それではそれ相応の対価を支払ってもらおう」
集団グループのリーダーが、手を差し出してきた、図々しいが何かを要求するつもりらしい、あいにくお金は持ち合わせていない、ーーだが、これなら!
俺はポケットに手を突っ込み、マリアのパンツを差し出した。
「こ・・・これは?まさか・・・神々しい・・・間違いない!マリア様のものだ!」
リーダーは赤ん坊のように泣き出し、後ろの連中は喜びの雄叫びをあげている。
そして、なにか気づいたように、ふっと理性を取り戻し、俺に向かって話しかけてきた。
「なぜ、お前がこれを持っているのかは、今は聞かないでおこう、だが、それがマリア様の為になると言うのならば、私達は命を持ってその約束を果たす」
「「「「全てはマリア様の為に」」」」
その掛け声と共に、彼らは一斉に教卓の前に立ちはだかった。蛇腹が目を細めて、悔しそうな表情を浮かべているのが見える。
「ここは、我らの聖域だ、一切の干渉を禁ずる」
リーダーがそう言うと、彼らは腕を組み、まるで石像かのように動かずに教卓の前で整列した。ーーしばらくすると服を着たマリアがてできた。
「あぁ、愛しのマリア様、そこにおられたのですね!」
マリアが驚いた表情をするが、それは一瞬で冷めた表情へと変わる。
「授業はじまっちゃうから、もう行ってくれる?」
「はい!今日も美しいマリア様を見られて幸せです!私達はいつでもマリア様をお守りしますぞ!」
そう言うと、彼等は、マリアに手を振りながら帰っていった。