13:死闘! ドラゴン、そしてスライム!
前回のあらすじ
スライムチートによってドラゴンと対面!
見逃されるかと思いきや!?
グウウウウウウ。
すぐ後ろで、大きな音。
嫌な予感。
振り返ると、寝ていたはずのドラゴンが立ち上がってジッとコチラを見ていた。
グウウウウウウ。
ドラゴンの腹のあたりから、間抜けな音が漏れて洞窟内に響き渡る。
「……あの、ドラゴンさん? どうしたんですか?」
「うーん、あのさ。なんか、ワシ……ハラがへったんだよね」
声を震わせる私に、ドラゴンがボソリ。
「そ、そうなんですか……」
「うん、だからさ……お前、食べていい? ていうか、いちいち許可とらなくてもいいよね? なぜなら、ワシの方が強くて、お前の方が弱いんだから。しょせん、このダンジョンは弱肉強食よ。というわけで、いただきまーす!」
そう言うと、ドラゴンは大口を開けてコチラへ突っ込んできた!
「ぎゃああああああああ!」
私は、すんでのとこで横っ飛び回避。
洞窟の壁にドラゴンは衝突。
地面が揺れ、鍾乳石が矢のように降り注ぐ。
「ええい、逃げるな!」
壁に突っ込んだ頭を引き抜いて、ドラゴンは叫ぶ!
「ひいいいいい、ドラゴンさん落ち着いて! お願いだから、見逃してくださいいいいい!!」
「やかましい! こちとら少し前に小さいスライムを丸呑みして以来、何も食べてないんだ! いいから、黙って食われろ!! ゴアアアアアアア!!」
命乞いをする私に向かって、ドラゴンは突進!
だめだ、空腹で我を失っている!
ていうかスライム食べたんなら、ちょっとくらい我慢しろよ!!
……ん!?
スライム!?
「……うわ!」
急に私の視線が、ドラゴンの腹のあたりに注がれたかと思うと、キュイイイイイイン。
まるで望遠鏡でも覗いているかのように、腹部が拡大!
それだけではない。
私の視神経はさらに研ぎ澄まされていき、ドラゴンの体はレントゲンのごとくスケルトン。
太い骨やドクドク動く内臓が透けて見える。
その内臓の中に、うそっ!
小さなスライムが!
「……!」
瞬間、私の体は凄まじい早さで動き、迫り来るドラゴンの横をすり抜けた。
とっさに後ろを振り返ると、ドラゴンを透過していた視界は徐々に戻る。
「ええい、ちょこまかと……」
ドラゴンは再び、私を襲おうと体制を低くした。
しかし、急にその顔色は一変。
「き、貴様! その手に持っているのは何だ!!」
動揺するドラゴンに言われて右手を見ると、そこには!
ピクピク。
小刻みに脈打つ血まみれのスライム。
ドラゴンの腹部に、じわりと血がにじむ。
こ、これは!!
ドラゴンの口から発せられた”スライム”という単語に、私のスライムチートが発動!
視力が極限まで上昇し、目にも留まらぬ速さでドラゴンの胃からスライムを抜き取ったということか!?
スライムを片手に佇む私に、ドラゴンが言った。
「そ、それは、ワシの心臓!! か、返せええええ!!」
……ん?
いやいやいや、なんか勘違いしてる!!
これ、スライムだから!!
なんて私が説明する間も無く、
グシャ!!
スライムチートを宿した私の右手は、リンゴでも潰すかのごとくスライムを握りつぶした!
「グアアアアアアアアア!!」
それを見たドラゴンは、腹を抑えながら倒れる。
注:スライムを握りつぶしただけです。
「うううう、貴様……一体何者だ? ま、まさか本当に紺碧の神子!?」
ドラゴンが息も絶え絶えに言った。
注:スライムを握りつぶしただけです。
「確かに……紺碧の神子だとしたら、ワシの体から一瞬で心臓を抜き取ることも可能だろう。なんということだ、ワシは紺碧の神子を食べようとしていたのか……ハハハ、そんなのどだい無理な話だ。見ての通り、心臓を取られてこのざまだ」
「いや、あの……私が抜き取ったのは、心臓じゃなくてスライムなんですけど」
「フハハハ、謙遜しなくてよい。いや、そういう冗談を言われてしまう時点で、ワシとお主の実力差は相当のものだということか……!」
何だろう。
このドラゴン、めっちゃいい感じに勘違いしてくれちゃってる!
「心臓を取られたということは、ワシはもう長くないだろう」
「そうかなぁ?」
「目眩もしてきたし……」
「腹が減ってるだけでは?」
「しかし、最後にそなたと立ち会えてよかった。お礼に罪滅ぼしを兼ねて、できる範囲で神子殿の願いを何か一つ叶えて差し上げたいのだが、いかがだろうか?」
会話が噛み合わない中、ドラゴンが私に尋ねる。
「え? マジっすか! じゃあ、じゃあ、私を地上にいる仲間のところまで転送してください!」
「……」
私の要求にドラゴンの目が点。
「……そ、そんなことでいいのか? もっと強力な魔法を伝授したり、新たな装備を生成したりできるのだが」
「うーん……確かにそれは魅力的だけど、いまの私は一刻も早くエスカたちの元へ帰りたいっていうか……」
「……なるほど、すでに最強の神子殿は、ワシの力など必要ないということだな!」
何もかも勘違いしているドラゴン。
もうツッコむのも面倒なんだけど。
「しかし神子殿、地上に送り返すだけでは、ワシの気が収まらぬ……そうだ、これを持っていてくれ! オエエエエ!!」
そう言うとドラゴンは、ゲロを吐くカラスのAAのごとくオエーと口から野球ボールサイズの玉を吐き出した。
コロンと地面に転がった玉は、まばゆい金色に輝いている。
「これは?」
「ワシの核だ……そなたに授けよう」
「授けようって……そんなヨダレまみれの玉渡されても……」
「換金すれば、かなりの額になるぞ」
「いただきます!!」
私は食い気味に言って、ヨダレまみれの金の玉ゲット。
「それで良い……では、さらばだ紺碧の神子よ!」
ドラゴンは表情を緩めると、カッと口を開けた。
瞬間、私の体が光に包まれる。
転送が始まった。
ドラゴンに完全勝利! サンキュースライム!
読んでいただきありがとうございました!
次回更新は明日の19時ごろを予定しています!
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