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日本国憲法第九条の『取り扱い説明書』

敗戦の日。 日本国憲法第9条の取り扱い説明書《その2》

作者: 挫刹


※いきなり、同著者が別に連載している作品物語の途中から始まります。ご注意ください。


※この短編作は、前回の短編作「広島原爆の日《2》 核に『核の抑止力』を持たせているのは被爆地の声」並びに、短編作「長崎原爆の日《2》 再生可能エネルギーと領土問題に隠れているのは経済」のお話の、続きのお話となります。


※さらに警告!※


この作品の文章中の表現には、現在人類地球文明の思考、あり方、


特に現在の日本国の状態を含めて指して、


反社会的にではなく反世界的に、強く悪意に満ちて、強烈に嘲笑する、愚弄する、貶める、侮蔑する、蔑視する、差別する、冒涜する、暴言する、否定する表現や、


先の大戦で全ての国家が受け、与えた全ての戦災犠牲者や、あらゆる災害、事件、事故にあった、あわされた全ての被害者の方々を、完全に無関係で無責任な虚構の視点から、


非常に強く嘲笑する言葉や表現が、頻繁に含まれております。


予め、厳重にご注意ください。



※また、今回のこの虚構で語られる日本国憲法の使用方法は、完全な『理想論』です。


 使用上の注意をよく読み、用法・用量を守って正しくお使い下さい(ピンポーン!)。


 予め、ご了承ください。





 戦争と平和。


 永い間、それらは真逆の物だと思われていた。

 戦争が表なら、平和は裏で。

 平和が表なら、戦争は裏。


 それら両極端に位置する正反対な二つの側面は、

 決して、一つの場所で一緒に交わることはないのだと。


 しかし、

 それが誤解であったことを、

 これから現実そちらにいる、

 あなた(・・・)方は知ることになるだろう。


 戦争も……、

 平和も……、


 同じ……、

 人を加害をする(・・・・・)力なのだとッ!


 それを、いまから一人の少年が証明しよう(・・・・・)としている。

 目の前で相立つ、


 史上最強の、

 赤い衣を纏う少年に立ち向かってッ!


「……やっと、この時が来たね……?

ボクは嬉しいッ!

すごく嬉しくてうれしくて、たまらないんだッ!


さあッ!

ボクをいますぐ止めてくれッ!


ルールは何だったかなッ?


そうだッ!

確かまずは、ボクがキミの『平和』を用意するんだったなッ?

じゃあさっそくっ、これからキミに渡す『平和』を用意するとしようかッ!


それは、なんとね……ッ」


 楽しみが待ちきれない赤の少年が、いきり立って腕を掲げる。

 いつものように少年が、

 当然と、空からぼうとしていたものは自分の持つ『赤い剣』だった。


 自身を選び、この地獄に突き落とした元凶の熱剣。


 その主が呼ぶ声を天から待つ、

 赤い結晶の剣は絶大な力を秘めている。

 惑星に落ちてくるあらゆる隕石を墜とし!

 更には、その隕石と同じ力を惑星にさえ向けてしまう力が。


 彼の持つ剣は……、

 食事を摂ることを不要とさせ、

 呼吸することさえ忘れさせ、

 心臓の鼓動さえも必要とさせずに、

 自分が約束した者に、恒久の寿命ときを保証する。


 使いこなせば『地球をも断つ最強の剣』、

 斬星剣とも呼ばれる力の具現の象徴だった。


「……必要ないよ……」


「なにっ!」


 突然、自分の行動の中止を言い渡されて、怒りを浮かべた、

 赤い少年クベル・オルカノに……、


 日本人で中学二年生の少年、半野木はんのきのぼるは、

 他人事のように素知らぬ態度をとっている。


「必要ないっていうか……、

それは最後にお願いしたいんだよ。

まずはこっちから、きみに渡す平和てふだを見せるからさ。


それを知ってから、

きみは、ぼくに渡したいきみの平和を言えばいい。


じゃあさっそく、

ぼくが、きみに渡したい『ぼくの平和』から言うよ。

ぼくがきみに渡したい平和ようきゅうはこれだ。

『そのを……しまってくれ』」


 まだ見せてもいない存在を、指で差されて呟かれて、

 クベル・オルカノは大きく目を開いて昇を見る……。


「それが……キミの平和だって……?」


 呆気に取られたクベルの言葉を聞いて、

 昇は頷く。


「そうだよ?

それが、ぼくがきみに渡したい、ぼくの(・・・)平和(・・)』だ。


もちろんこの平和を、今のきみが考慮する必要はない。


きみはきみらしく、

きみが最初に思った、

ぼくに渡したい『きみの平和(ようきゅう)』を、

さっき出しかけた、そのままの形で言えばいい。

これは交渉(・・)なんだからね?

でも、それをするのはまだでいいんだ。


その前に、

ちょっとやっておきたい予行演習デモンストレーションがある……」


「予行演習?」


 クベルが訊ねると、

 昇は頷く。


「そう。

予行演習デモンストレーションだ。

ぼくは以前に、

いくつかのある『宿題(・・)』を出していただろう?

この周囲にいるすべての人たち(・・・・・・・)にね?


その答え合わせを、これからしなくちゃいけないんだ。

すこし長くなってしまうけど、そこは我慢してほしい。


もちろん、

それに見合うだけの報酬は用意しているつもりだ。


きっと、

この演習が終わったあと……、

ぼくは、いま持てるだけの最高の潜在能力ポテンシャルを発揮して、

史上最強のきみと対決することが出来るだろうっ!

その時にはきっと……。


コイツ(・・・)の持っている全ての能力が解放されている……ッ!」


 断言する半野木昇が、

 満足そうに何度もコクコクと『承諾』を頷く赤いクベルに、自分の『剣』を見せている。


 赤い少年が有する赤く美しい結晶の剣とは違い、

 実体の姿さえない無色透明の自分の剣を。


 昇が握る無色の剣はもちろん、

 刀身や柄やその全てが、金属や鉱物では出来ていない、

 ただの単なる文章で造られた剣だった。


 その実体のない剣を握って、

 昇は一人で、

 最終の自然災害さえ巻き起こすことのできるクベル・オルカノという赤い少年に、

 これから決闘を挑もうとしていた。


「じゃあ、

まずは宿題にしていた一つ目の『問いかけ』に対しての答え合わせだ……。


以前、

ぼくは、コイツ(・・・)を『剣』だと言った。


その答え合わせを、今からしよう。


あなた方(・・・・)には、もう分かりましたか?


この文章が……なぜ?

『剣』なのか?という理由が……?」


 手に持った『剣』を見せて言って、

 昇はこちら(・・・)に向かって問いかけてくる。


 その相手とはもちろん、

 いまの今まで、

 この永い間に、こんな下らない虚構に付き合ってくださった、


 現実そちらに住む、

 あなた(・・・)や私や、

 平和を求める、

 我々(・・)にむけてッ!


「……どうやら、

あなた方が今こそ、答えるために必死で叫んでいるかもしれない懸命な声は、

ぼくの耳には届いてこないようだ……。


では、残念ですが……、

転星こちらにいるぼくたちは、

こちらの住人らしく、

こちらの住人たちだけで、

その答えに辿り着いてみせるとしましょうか……。


では、

どなたか、

いまここにいらっしゃる方で、その理由が分かった人はいますか……?」


 静かに言った昇は、思わせぶりなままで周囲に目配せをする。

 自分と目の前の赤い少年との、

 この一大決闘劇を一目、観にきた、

 お伽の町の噴水広場に集まった観客たちに向けて。


 だが、

 その問いに答えられる者などただの誰一人も存在することはなく、

 沈黙だけが深まっていく。


「……はい」


 沈黙が垂れ込む人だかりばかりの噴水広場の中で、

 たった一人の手が挙げられた。


 挙げた手の持ち主は、

 半野木昇と共にこの巨大惑星『転星リビヒーン』に来た、

 咲川さきがわ章子あきこという、

 中学二年生の日本人の少女だった。


「……じゃあ、

咲川さん……。


この法律がなぜ『剣』なのか……?

その理由を答えてみてくれる……?」


 昇の促してくる言葉に続いて、


 章子も深い息を吸うと、

 すぐに自分の見つけた……答えを述べる。

この文(・・・)はきっと……、

誰かに、取り返しのつかない加害をしてしまった人(・・・・・・・・・・)の書いた文……」


 章子の一息に出した答えに、

 黙って耳を澄ませて聞いていた昇は、大きく頷く。


「……大正解だよ。咲川さん

よく見つけたね?


その通りだッ!

第九条これはね、加害者が書いた文(・・・・・・・・)なんだ……っ。

加害者が、自分で書いた反省文(・・・)


……でも、実はそれは半分だけの正解でね?

この文には、更にもう一つのある重大な側面も隠されている……ッ!」


「もう一つの重大な側面……?」


「そう。

この文はね?


それと同時に、

加害者が、被害者に書かさ(・・・・・・・)れてしまった文(・・・・・・・)でもあるしっ、

被害者が、加害者に書かせ(・・・・・・・)てしまった文(・・・・・・)でもあるんだよッ!


これは、

加害者によって被害を受けた『被害者』が、

被害者自身から望んで、加害者に書かせた(・・・・)文でもあるんだッ!


だから、この文の状態は……、

『全ての人』が「平和」だと言うっ!


加害者も……っ、

被害者もだ……ッ!


だからコイツの文章は、

全ての人に『平和』だと言わせてしまうんだッ!


加害者が自覚し……っ!

被害者さえもが願う『平和』として……ッ!


このッ!



日本国憲法第九条。


 1.日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動た

   る戦争と、武力による威嚇または武力の行使は、国際紛争を解決する手段とし

   ては、永久にこれを放棄する。


 2.前項の目的を達する為、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。

   国の交戦権は、これを認めない。



という文章の法律はねッ!」


 叫んだ昇が、

 周囲にいる全ての人間を見る。


「だから、

これは『剣』なんですッ!

だから、この法律は『剣』なんですよッ!


誰かを加害してしまった『加害者』が、

その加害の時に使ってしまった『凶器(・・)』の代わりに使う『剣』なんですッ!」


「きょ、凶器……?」


 思わぬ言葉に意外な顔を浮かべる章子を見て、

 昇はとうとう核心に辿り着いた章子を見る。


「……そうッ!

凶器だッ!


これは加害者が書いた文(・・・・・・・・)なんだからね?


加害者は、被害者に加害をする時には絶対に凶器を使うッ!

その凶器によって、加害が向けられた人は被害者となる!

その時、その被害者は、向けられた凶器によって被害を受けるッ!

この時の『凶器』が、被害者にとっては戦力として受け取られるんだッ!


そして、この時、

また被害を受けるのはもうイヤだから、

加害者には、加害した『凶器』は永遠に捨てて欲しいんだッ!

だから、いまも持っている他の(・・・・・・・)『凶器』も『戦力』として永遠に放棄して欲しいッ!

そうすれば被害を受けてしまった自分だけは、いつまでも安心していられる(・・・・・・・・)……ッ!


この文はそう言ってるんだよ……ッ!」


 断言する昇を、

 章子はしばらく声も上げずに茫然となって見る。


「え、

ちょ……、

ちょっと、まって……っ?

ちょっとまって、それ……っ。


それ、てっ、

それって、ひょっとして……ッ?」


「そうだよ?

これはね?

犯罪を実行した全ての加害者と!

犯罪を受けた全ての被害者が望む(・・)!『共通の願いを表した文』なんだッ!」


 昇の断言に、章子はその先を意味することが予想できてしまった。

 優秀な章子には分かってしまった。

 この文の示す意味が。

 これから予想できる、最も残酷な事実の先が……。


「……これは、全ての罪と罰が辿り着く最終地点だ……っ!


この日本国憲法第九条という文はね?

事件という、

あらゆる全ての犯罪事件に精通する、究極の断罪場だッ!


犯罪を犯した全ての加害者が自覚し!

または、

犯罪事件を自覚していない無自覚な犯罪加害者に対してもッ、

その犯罪被害者が純粋に求めている刑罰っ!


これが、

この日本国憲法第九条の文章の真の内容だッ!


だから、

この文は、被害者には使えない。

この文は、確実に、

何かを失った被害者である復讐者の望みは完全に叶えられない(・・・・・・)ッ。

これは、

犯してしまった罪を償う為に、

これから罰を受けようとしている加害者にしか使えない(・・・・・・・・・・)

そういう()なんだッ!」


 言って、

 叫んだ昇は、現実の我々(・・)を見る。


「この日本国憲法第九条が意味する究極の『刑罰』は、戦争被害だけにとどまりません。

あらゆる犯罪事件の全ての被害者と、加害者に当てはまる、最終の刑罰です。


あらゆる事件の全ての加害者が、この文に忠実に従えば、

その事件によって危害を加えられてしまった被害者に、それまでにどのような危害を加えていたとしても、

その状態を『平和』だと、呼ばせてしまうことに成功するでしょうッ!


一方で、

あらゆる軽犯罪、凶悪事件を問わない全ての事件で危害を加えられた全ての被害者は、

この文に忠実に従った加害者の姿を見れば、

その状態を全て『平和』だと不本意でも理解してしまうことにも繋がってしまいます。


そして、

この第九条が要求する『刑罰』を拒否する加害者は、被害者にとっては確実な『再犯』を意味しッ!

また、忠実に刑罰を受けている加害者をみれば、それは『更生』と『克服』だという姿に受け取ってしまいますッ!

ただしッ!

この『克服』は……、

事件の加害者にとっては、『永遠の地獄』を意味しますッ!

なぜなら、もう永遠に……全ての凶器は持てない(・・・・・・・・・・)のですから……」


 言って昇は、

 我々にさらに語り掛ける。


「……戦力の放棄とは、

『凶器』の永遠の放棄に他なりません。

しかし、問題はここからですッ!


この時、全ての事件の犯罪被害者(・・・)はッ!

事件に使用された『凶器』だけ(・・)を『戦力』として受け取っている訳ではありませんッ!

この時の被害者が認識している、加害者が保有する『戦力』とはッ!

使用された凶器ッ!凶器を使用した動機!さらにはその現場まで用いた交通手段!のみ(・・)にとどまらずッ!

加害者本人そのもの全てを、一つの凶器という『戦力』として見なしていますッ!


つまり加害者本人の存在自体(・・・・)を『戦力』として見なしているのですねッ!


これは被害者側による、日本国憲法第九条の『法解釈』ですッ!


そして、

この被害者の、最も怒りある望みの先に行き着くものが……、


死刑……です」


 昇の放った最後の言葉に、

 先回りして気付いていた章子は深く、俯く……。


「死刑は、犯罪刑事罰上の最高刑を意味し、

別の名では『極刑』とも呼ばれますッ。


その極刑を持ってしかッ!

全ての犯罪被害者の『平和(・・)』は永遠に訪れないッ!


……しかし、それもまた……、一つの『幻想』でもあります……」


「……え?……」


 俯いて呟く昇を、

 章子は顔を上げて見る。


 昇は章子を見て、自分の『法解釈』を言った。


「理不尽な犯罪にあってしまった被害者は、もちろんその加害者に対して極刑を望むだろう!

でも犯罪被害者の方たちの中には、それでも『溜飲が下がらない』という人たちがいるッ!

または、もっと別の納得の仕方を求めている人たちだっているッ!

新聞やなんかで、

ぼくが、その手の記事の内容なんかを、親から半ば強制的に読まされていると、

大体、理不尽な事件に巻き込まれた被害者のみなさんのおっしゃていることは、

最後は〝同じ〟なんだ。


〝真実を知りたいッ!〟


これに行き着くんだよね。


でも、その真実を胸中にしまっているだろう事件を起こした張本人である加害者側のほとんどは黙秘する。

もしくは自分の主張などを一方的に展開するか、自己を弁明する。

おおかた、ここら辺の行動が関の山だろう。

でなきゃ、

犯罪事件の容疑者や加害者になんか、なったりしないし、

されたりしない。


残念ながら、

自分のやってしまった事を直視して、

反省して、自分から省みることをするような人間の加害者は非常に稀だ。


ぼくだって、

偶発的に起こしてしまった事故で思いがけずに加害者とかになったら、

きっと前者の行動を取ることだろう。それは今は、関係ないけど。


問題なのは、

この時にっ、事件や事故にあわされた被害者は二重に傷つけられるという事だッ!」


 昇の指摘する言葉に、

 章子はまだ俯いたままでいる。


 そんな章子をほったらかしにして、

 昇は、現実こちら側の我々(・・)を見る。


「ここで……最初に言っておくことがあります。

基本的に、

死刑を超える極刑は……存在します(・・・・・)


「……え……?」


 また顔を上げた章子に、

 昇は、表情を噛み潰して笑いかける。


「死刑を超える極刑は存在できるよ?

ただ、それは死刑よりも重いためにどこの国でも実装しないし実装されないッ!という話なんだ。

じゃあ、

その死刑よりも上にある極刑の刑罰とは、いったい何なのか……。

分かる人はいますか……?」


「……人権の……剥奪……?」


 呟いたのオリルだった。

 このメルヘンというお伽の町のある地球上で栄えた二番目の文明世界ヴァルディラよりも一昔前に存在していた、

 地球上で一番最初に現われた世界文明、リ・クァミスの少女。


 薄紫のワンピース状の衣服を着たオリルは立ったまま、

 人垣の最前列の中で、地面に目をやり、自分の放った答えを見つめていた。


「さすがリ・クァミスの首席、オワシマスさんだ。

そう、

死刑よりも重い極刑は「基本的人権の剥奪」になるんだッ!


これはぼくたち現代世界の地球上では、死刑以上に禁止されている刑罰です。

なぜなら国際的に、死刑制度の廃止よりも最優先で取り組まれているのが、

奴隷制度の廃止などを目標として発端とする『人権保護』だからですッ!


よく見落とされがちですが……、

あくまで日本の死刑制度だけをみれば……、

それは基本的人権が(・・・・・・)尊重された上で(・・・・・・・)執行されているッ!」


「……ぇえっ?

……な、なにそれ……」


 昇の発言に、

 意味が理解できない章子は女子特有の嫌悪の表情を浮かべて見る。


「日本だけに限定すれば、

驚くべきことに、

その死刑制度は、実際には『基本的人権』に限りなく配慮されて行われているんだ。

その根拠は、日本の死刑制度の執行手段が、絞首刑一つ(・・)に限定されていることだ。

死刑の手段が『一つ』に限定されているという事は、

すくなくとも受刑者に対しての、

現時点でできる限界までの人権には配慮がなされている、という証には(・・)なるんだね。

これが逆に、

死刑の手段がいくつもあれば、

当然、罪の重さに対しての死刑執行の手段も選ばれることになってしまうッ!

これが、死刑が向けられる受刑者に対しての最大の基本的人権の侵害にあたってしまんだよッ!

日本では、その死刑の執行手段が一つに限定されている事っ!

これが現時点での、

受刑者の基本的人権を可能な限り保護し!配慮していることにも繋がってしまうんだッ!


つまり、

『基本的人権の剥奪』とは、

執行手段が固定されている死刑という極刑よりも、

より高度な極刑の刑罰であるとして、世界的に認識され禁止されているッ!

人権の剥奪とは、死刑執行手段を選べられる死刑よりも、なお重い極刑であるとねッ!


これが、ぼくたち現代世界の現実の答えなんだよ。


この場合、ぼくが主張したいことは死刑そのものが人権を侵害しているかどうかじゃない。

死刑よりも重い極刑罰は、現実として存在できる、ってことが言いたいんだッ!


この『基本的人権の剥奪』による刑罰の種類の主な予想図は、単純に受刑者を奴隷そのものにすることで想像ができるだろう。


しかし、現代社会ともなれば、そんな面倒なことをしなくても、簡単に受刑者を死に追いやることはできる。

それは受刑者本人の個人情報の保護の廃止をしてしまうことだ」


「……あ……」


「そうでしょ?

この第二世界のラテインという国では、自然に行われている事だよ。

受刑者本人の個人情報を法が保護をしない事。

これで受刑者は何をしても、どこにいても、いつでも丸裸だ。

その人は、すぐに放り込まれた社会の中で追い詰められて死を選ぶ……」


 昇の躊躇いない声に、

 その場は、一瞬で凍りつき静まり返る。


「でも結局、行き着くところは『死の刑罰』だ。


犯罪被害者が、加害者の処遇で本当にそれを望んでいるかと言えば、

日本の現行の死刑制度の問題と、それほど変わりはしないでしょう?


結局は、犯罪を起こした加害者の存在の喪失で解決が図られている。


問題は、犯罪被害者の人たちが抱く、

〝真実を知りたいッ!〟という声だッ!


ここで、

また思い出して欲しいのが、

日本国憲法第九条だッ!


日本国憲法第九条は、

被害者が加害者に書かせた文であり、

また、

加害者が、被害者に書かせられた文でもあるッ!

……と、ぼくは言ったよねッ?


そして、

ここでもう一度、一番思い出して欲しいのは、

咲川さんがさっき言ってくれた『答え』なんだっ。


咲川さん、

きみっていったい、

さっき、この九条の文の事をなんて言って、答えてくれた?」


「え……?

えーっと、

加害者の人が……書いた文……?」


「そうだッ!

そこなんだよッ!


この文章は、『そこの部分』でも大事なんだッ!


これは被害者が、加害者に求めている文であると同時に、

加害者が、

自分から進んで(・・・・・・・)自分の罪と向き合おうとして書いた文でもあるんだッ!


これがッ!

この日本国憲法第九条という文だけがっ!

特別に持っている能力なんですッ!


第九条これはッ!

被害者と加害者の『両方の願い』が込められているッ!


だから被害者と加害者の双方を、この剣は『平和』で繋げてしまうんですッ!


第九条は……犯罪の被害者と加害者の『望み』を映しだした鏡だ……。

コイツの刀身は、人の願望を映しだす。


それは『法解釈』によって機能する。


コイツの心臓部は、第九条の二項目目に在る『戦力』という単語の部分です。


この『戦力』という単語がある位置に、

リボルバー拳銃のシリンダーのような形で、

様々な単語を、入れ替わりで入れて見ると、被害者と加害者の立ち位置がはっきりとしてくる。


例えば、『戦力』の代わりに『喜び』という言葉を入れてみる。

この単語を入れた状態で、

加害者側がそれを実際に実践して、

きちんと喜びが放棄されて保持されていないことを、被害者側が確認すると、

その被害者の方は、その状態が自分の『平和』だと認識するでしょう。

喜ぶことを放棄したり持たないと誓って実践する加害者は『反省』を意味しますからね?


逆に加害者側が、自己に罪の意識がまったく無くて。

『喜び』を保持しない、という被害者が書き換えた九条の文の内容を見て、

それを自分が実施することが『自分の平和』ではないと受け取れば、

それは被害者側にとっては『再犯』と映ります。


これによって、被害者と加害者の間には、認識の完全な食い違いの齟齬が生まれてしまいますよね?

しかし、

これだけでは、ぜんぜん何の役にも立っていないし、何の解決にもならない。


それは、それでいいんです。

第九条これは、その為にあるものではない(・・)のですから。


第九条は、加害者側に向けられる「ウソ発見器」ではないんですッ!」


「……ん?……、

んん……っ?」


 章子はどこかで期待していた願望を外されてしまい、

 昇を見てしまう。


第九条これはね……?

容疑者が本当に犯罪をやったかどうかを調べるための『ウソ発見器』じゃないんだよッ!


コイツの本当の役割(・・・・・)はね……?


取り返しのつかない罪を犯してしまった加害者の人たちがっ!

どうやって、

その罪を償おうかと必死で考えている時の為に必要になるモノなんだッ!」


「はぁ?

ん、?

え、……ええッ?」


 章子の理解できない声に、

 昇は苦笑する。


第九条コイツにだって、事件の容疑者や加害者が胸の内に秘める真実や嘘は見抜けないよ。

見抜けないけどね?


実際に加害を加えてしまったことを自覚してしまった人でッ!

これからどうやって自分のしてしまった取り返しのつかない罪を償っていけばいいんだろうかと、

本気で悩んでいる人には、

第九条コイツは、明確にその『答え』を与えるんだッ!


なぜなら、第九条はッ!

自分が加害してしまって、生み出してしまった被害者がッ!

自分という加害者の何の部分を放棄すれば、

その被害者が、被害者の求める「平和」になれるのかを、教えてくれるのだからッ!」


 言い切った昇を、

 章子は、まだ理解できずに見る。


「これは……、

真に自分の犯した取り返しのつかない罪に、死ぬほど悩んで苦しんでいる加害者の人の心を、

救うための法律なんだよ。


自分が何を保持しなければ、被害者はそれを「平和」と呼んでくれるのかを示す剣。

それがコイツの真の能力なんだ……。


例えば、

偽る心を保持しなければ、真実を話すしかない。

自分を守る心を保持しなければ、自分の醜い心を晒すしかない。

そして、

そんな醜態をさらして、恥をかき苦しむ加害者の姿を見て、

凶悪な事件で被害を受けた被害者の人はきっと、その状態を『平和』だと言ってしまうんだよ。

苦悩して真実を吐きだす加害者を見て。

『平和』だと言ってしまうんだっ!


もう、いなくなってしまった、あの人は還ってこないのにッ!

もう、それまではあった、あの時は取り戻せないのにッ!

加害者がそれをしてしまうことで、

哀しみに暮れる被害者は、それを苦痛の『平和』だと受け取ってしまうッ!


こいつは、それをさせてしまう悪魔の剣(ほうりつ)なんだッ!」


 叫んで、

 昇は、自分の剣を見る。


「……最悪だよな。オマエ……」


 少年に睨まれた第九条は、

 少年に向かって無邪気に『テヘペロ』している。

 この法律はそれほどに非情で残酷な剣だった。


 故に、

 この剣は、復讐者の望みを叶えることはしない。

 復讐者の望みは、被害者の望みであり、

 被害者が真に望むものは、

 加害者が苦痛を受ける姿では無くッ!


 加害をされる前の『元通りの生活』なのだからッ!


 昇は、そんな狂気の剣を持ちながら、

 我々を見る。


「この法律は……、

自分の犯した罪で苦しみ、苛まれて悩んで叫び続けている人にしか、その救済の効果は発揮されません。


したがって事件の容疑者(・・・)にされてしまった方で、

自分は何の罪を犯していないと認識している人たち、

あるいは

冤罪によって容疑者に祭り上げられてしまった無実の人には、その効果が発揮されることはありません。

その為

真実の加害者であれ、

冤罪などの、無実の罪を着せられた人であれ、

第九条コイツによって、救われることもまた、ありません。


コイツが救うのは『罪を自覚する人』だけだからです。


では、冤罪によって強制的に、不本意的にも無関係の事件の容疑者にされた方は、

むりやり、してもいない無実の罪を受け入れなければ、

第九条によっては救われないのか?


……その事に関しては……、

……ぼくが強く言えることは何もありません。

ぼくはただの中学二年生の子供です。

ここまで言っといて、ほんとに今さらなんですが、

そんなぼくに、そこまでを言及してもいい資格はない。


でも自分がされたらどうするか?ってことを考えることはあります。

その時の、冤罪を受けたぼくは、

きっと心の調子が良かったら、こう考えることでしょう。


その時、冤罪で拘束されたぼくは被害者のはずです。

で、あるのならば、

被害者の立場で、第九条コイツを使えばいい。


そうすれば、

冤罪を受けたぼくが、周りの誰に何をすれば、

冤罪を受けたぼくは『平和』になれるのかが分かると思うんです。

そして、もっと生意気な意見を言うと……、


その時の冤罪を受けたぼくに対して、真の加害をしてくる人は、

目の前で理不尽な拘束をしてくる警察の人ではないと、ぼくは受け取ります。

冤罪を受けているぼくに、真の加害をしている人物は、

目の前の警察官では無く、

ぼくに、冤罪として、その罪を被せている実際には見えない加害者の人なんだと思うからですね。

警察は、ぼくを冤罪で捕まえてはきても、

ぼくの真の加害者では無い(・・・・)、と。

そこから抜け出すためのカギは、

その『警察』という組織をどこまで『平和』にできるかにかかっています。

そしてこの時の警察の平和とは、真の加害者の確保にあると思うんですよね。

そこに至る為の鍵には、

冤罪にされたぼくの、その当時の「平和」を語る必要があります。


この時、なにか後ろめたい事があって、

警察に、他の余罪ととられそうな事実があったとしても、

それは黙っていてはダメだと思いますから、ぼくはそれも話します。


冤罪にならなければ、語らなくてもよかっただろう、

醜い余計な罪で罰を受けてしまったという被害者感情は、冤罪を被せてきた真の加害者の罪でしかないんです。


冤罪を被ったぼくでも、

冤罪にならなければ言わなくても良かった罪だけは、

たとえ隠したくても、自分の罪なのでしっかりと申告して償わなければならない。と、ぼくはそう考えています。

他人の罪を被りたくなければッ。


冤罪にされた人は、

その時、自分のやましいことや後ろめたいことがあってもなくても、当時の平和の状況を語る必要があると思うんです。

それを言わせたのはやっぱり、

間違えた警察の責任でもありますが、一番大きいのは真犯人の責任です。

警察は、冤罪にしてきたぼくの、真の敵ではない。

だから絶対に真犯人を捕まえてもらうために、

自分のことは洗いざらい話すっ!


……べきだ、……とぼくはそう思うんですよね?

ぼくだったら、その時が来たら、今はそうしようかと思っています。


……ですが、

これらはあくまで中学二年生の半人前な子供の、ぼくの個人的な意見です。


これがそのまま、現実の冤罪にされた人に当てはまるかって言われたら、

それはムリです。


だからこれは、あくまで『子供のたわごと』だと思ってください。

ですので……、

あまり……真に受けないで下さいね?

子供の言う事は、子供の言う事ですから……」


 言って、

 我々(・・)に頭を下げる昇が、

 気持ちを切り替えて、章子に向く。


「で、話を戻すと、

……これが、

この憲法が『剣』だという、主な理由なんだってことなんだ。


これは、

罪を犯した加害者が平和の為に、凶器の代わりにつかう剣なんだよ。


コレには、すでに『悪魔の実利(・・)』が装填されている。


どんなに凶悪で、

残虐な被害を受けた人でも、戦力さえ保持しなければ『平和』だと言わせてしまう最悪の実利がね……ッ!


だから……、


凶悪事件かなんかを起こして、

自分の死を強く望んでくる被害者の方に、心から救われたいと願っている加害者の人たちがいたらですね……?

第九条コレに忠実に従っていると、

その被害者の人は、きっと必ず(・・)それを『平和』だと言ってくれますよ?


あなたがどんな罪(・・・)を犯していてもね?


でも……気を付けてくださいね?


世の中には……、

第九条コイツの言っている『保持してはならない戦力』って言葉に、

絶対に当てはまらない言葉(・・・・・・・・・)もありますから……」


「……え?……」


 章子は、

 怖い声で怖い言葉を呟く昇を、


 怖くなった声と目で見る。


第九条コイツは、加害者に戦力の不保持を迫って言ってきている。

でもね……?

そこには……加害者が、絶対に手放してはならない力(・・・・・・・・・・)もあるんだッ!


この現実せかいには、


第九条の中で、

『戦力』という言葉が書かれている場所には、

絶対に当てはまらない言葉も存在していますからッ!


それが……、

もう一つの『宿題』の答え(・・)です。


憶えていますか?


・食べられる命は、食べてくる命に対してどういう感情をもっているのか?


というあの『宿題』。

その宿題の答えが、『それ』なんです。


それが……、

第九条の『戦力』や『武力』にも、絶対に当てはまらない言葉の答え……」


 静かに言いはじめた昇は、眼窩の陰で隠した目で

 章子を見る。


「咲川さんには分かる?

その言葉が」


 聞かれた章子は、

 思いつくこともできずに首を振る。

 周囲にいた人々も、ただ分からずに顔を見合わせて、

 ざわざわと首を振っているだけだった。


「じゃあ、言うよ。

しっかり聞いていてくれ。


苦しんで(・・・・)っ、生きろッ〟!!だ!」


 昇の叫んだ言葉で、広場は呆気に取られる。


「もう一度、言うよ?

〝苦しんでッ、生きろ(・・・)ッ!〟だ。


これが、

ぼくが今まで生きるために、

生まれた時から奪ってきた命たちから、今も常に叫ばれている『言葉』なんだ!


だから……、

せめて、ぼくはこの人生を、苦しんで生きいこうと思っています……っ。


命を奪って生きているぼくは、

奪ってしまった命から、

死んでちゃダメだといわれている。

苦しんで死んでちゃダメだといわれている。

死んで、苦しんでてもダメと言われているっ。


苦しんで生きろ(・・・)ッ!ですッ!

苦しんで死ね(・・)、じゃ無いんですッ!

この生き地獄をッ!


いままで命を奪われてしまってきた、

全ての命が、ぼくにそう言っているッッ!


すくなくとも、

ぼくが奪って来た『命』は、そう言っているッッッ!

だから、ぼくは『苦しんで』生きますッ!

これからもずっと苦しんで『生きて』行くッ!


ぼくは、それをやっていく……つもり(・・・)です……っ。


では、

あなたは、どうですか?

自分が食べられても、

食べてきたやつが、

ぜめて、どこかの何かの所為で苦しんで、もがいているのを知ってしまったら、どう思うんでしょうか?

すこしだけ考えてみてくださいね?


だから、

せめて、ぼくだけでも自分なりに苦しんで生きていくんです……ッ。


え?

何様のつもりでそんなこと言ってるのかって?

そりゃ当然、お互い様(・・・・)のつもりですよッ!


ぼくもいつかは絶対に、

『何か』から、どこかを奪われて食べられる運命にありますからね?


食べた命の数なんて、いちいち数えてなくてもいいんですよ?

その場その場で、いちいち苦しんでいれば、それでいいんですよ?


だって……、

この現実では……、

勝手に自分から苦しんでいる人たちは『戦力外(・・・)通告』を受けますからねッ!

勝手に苦しんでいる(・・・・・・)人や命は……『戦力外』になるんですよ……ッ?


この現実世界ではねっ?


社会でも、学校でも、教室でも、会社でも、職場でも、そうでしょ?


この言葉の意味が。

わかりますか?


そうですッ!

加害者はッ!

『苦しみ』だけは、戦力にも武力にも出来ずに、不保持も放棄も許されないし、

できないんですッッッ!

できないんですよッッ!


第九条コイツはそう言っているッ!

日本国憲法第九条は、そう言っているんだッッ!


『苦しむ』ことはッ!

戦力ではないッ!とッ!

だから放棄も、保持しないことも許さないとッ!

ずっと持って、『苦しんでいろ』とッ!

そう言っているッ!


だから、

せいぜい……。


〝苦しんで、生きろッ〟


そうすれば……あなたは『平和』になれる……ッ!」


 全ての世界に敵となって、吐き捨てて断言する昇が、

 振り返って顔を上げる。


「もちろん、笑っていても『平和』にはなりますが……、


笑顔は……『戦力』にもなりますからね?

笑顔を見ていると力湧いてくるでしょ?

幸せになると笑顔になるでしょ?

それは『戦力』だからなんですよッ?


まあ、好きに生きてください……。


どうせ、笑顔だけで生きていると……、

その笑顔に殺されることだってありますからね……?

この現実では、

『戦力』ですから……。

『笑顔』は……ッ」


 昇は、嫌味ったらしく笑って(・・・)

 そう言って、現実を生きる我々を嘲りながら忠告する。


「……では、

これで四つあった『宿題』の内の、二問は片付いた。


あとは残り半分の二問。

じゃあ、残った『答え』をこれから導くために、

また一つ、新しい予行演習っていうか、

劇をしてみようかっ?」


「劇?」


「うん。

劇だ。劇をしてみよう。

これはちょと、ぼくの知り合いの人たちにも手伝ってもらうよ。


えっと、

咲川さんと、オリルさんとトラ、

そして真理マリさんにオルカノくんだ。


ちょっと、

きみたち五人には、いまからぼくの前に集まってほしい。

ああ、オルカノくんはやっぱりそのままそこで残ってていいよ。うん、そのままでいてくれ。」


 言われて呼ばれて、

 名を挙げられた章子たち少年少女の四人と電気子猫の一匹の内、

 呼び止められたクベル以外の三人と一匹だけが昇に歩み寄り、正面に整列する。


「よし、

いま、ここに集まってもらったきみたちには、

これから日本周辺にある国家の役をやってもらうよ。


ぼくは日本役だ。


オワシマスさんとトラは、アメリカとイギリス役。

きみたちは二人揃って、

日本の沖縄にある在日米軍基地がある位置にいればいい。


で、オルカノくんはフランス役だからそのままでいい。

きみはそのまま、そこの遠い位置で待機しててくれ。たぶん残念ながら出番はこない。


それで、真理マリさんがロシア役で、日本海を越えたぼくの北西側にいてくれ。


そして、

きみが……、

『中国』役だ……ッ。


咲川さん……ッ!」


 声で名指しされて、

 章子は思わぬ大役の指名に呆然となる。


「わ、わたしが中国役……っ?」


 いきなりの抜擢に驚く章子に、

 昇は頷く。


「そうだよ。

きみには中国役(・・・)をやってもらう。


念願の『拒否権』をもった国家だ。


その君が演じる国家、中国に、

日本ぼくはこれから『領土問題』を仕掛けるッ!


きみは、

それに、実際の中国を想像しながら演じて対応してくれればいい。


分からないことがあれば、

きみの下女しもべである真理マリさんに聞いてみればいいよ。

……たぶん答えてくれるから」


 そう言って昇が真理マリを見ると、

 綺麗に先鋭されたオカッパ頭をした同い年で神秘の少女、

 シン真理マリは、

 主である章子に深くお辞儀をする。


「じゃあ、さっそく劇を始めよう。


みんなそれぞれの役の国家の位置には着いたよね?


なら、これから日本ぼくが動き出すまでに、


四つほど、警告も含めた宣言を先にしておくことがある。


その、

まず一つ目、


それは、日本国憲法第九条の削除、および改正は、

国連憲章が定める『敵国条項』に引っかかるという事ッ!」


「えっ?」


 何のことを言ってるのか分からずに声を出して言う章子に、

 昇は笑う。


「たぶん、引っかかるよ。

日本国憲法第九条の改正や削除をすることは、

間違いなく国連憲章の『敵国条項』に引っかかるッ!

あれはブービートラップだ!


いまの国連加盟国の国々が、それに気付いているのか、気付いてないのかは、

ぼくは知らない。

でも、気を付けた方がいいよ?


あれはまだ死文化なんかされてはいないッ!

生きてる(・・・・)

生きて鼓動してる……ッ。

ぼくの『法解釈』だったら、間違いなくアレ(・・)は蘇生できるッ!

まずいよね……。

誰かが気付いて、それをやろうとすれば実行はできるんだからさッ!


国連憲章にある敵国条項は、

敗戦国である日本国が、戦勝国から強いられている制限の解除をすることを禁止しているからねッ!

つまり第九条コレの事だ。

第九条の変更は、それが微かであったとしても、すぐに敵国条項に抵触するッ!

その場合。

日本は即座に、拒否権の効力を無視した、世界中からの私刑リンチに晒されるッ!」


「リ、私刑リンチ……?」


「そうだよ。

敵国条項は、

常任理事国の判断を待たなくとも、独自の判断で国連加盟国たちが動いて日本国を合法的に虐殺攻撃することを可能とさせる条項だからねッ!

この時!五つある全ての拒否権は、完全に効力を失くすッ!

ブレーキが機能しないんだッ!」


 昇の放った言葉の意味がよく呑み込めなかった章子は、

 分かった単語だけを聞いて顔を唖然とさせるしかない。


「ちょっと難しいかな?

つまり『第三次世界大戦』が起こるんだよッ!


これから未来で起こるかもしれない、

第三次世界大戦は恐らくっ!

常任理事国が、拒否権に利益を感じなくなった時か!

拒否権がブレーキとなる、その効力を失くした時に起きるッ!」


「だ、第三次世界大戦ッ?」


 考えてもいなかった壮大で想定外の言葉を聞いて、

 驚くことしかできない章子に、

 昇は平然と頷く。


「そう、第三次世界大戦だ。

これが二つ目の宣言だ。


日本国憲法第九条の削除か改正は、

まず間違いのない『第三次世界大戦』を引き起こしてしまう引き金(トリガー)だッ!


第九条コイツの中は、絶対に開けない方がいいッ!

それをやると、ぼくたちは真っ先に世界の餌食となる。

全ての暴力の餌食にねッ!


ピラニアの大群に放り込まれた魚だよ。

ぼくたちはもう骨も残らない……。」


 昇の突拍子もない発言の数々に、

 章子は、とてもではないが理解が追い付かずに放心するしかない。


「まあ、心の片隅にでも置いておけばいいよ。

たぶんこれは、全世界のみんなに言っても信じられない事案だろう。

そういう所から起こるんだよ。

戦争って言うのはッ!


日本はすでに経済という面で、国際社会に深く根を下ろしている。

その日本が、国際社会の私刑という衝動だけで消えることになれば、後に残るのは混沌だ。

ワケも分からない形で、歯止めの利かなくなった現代世界は勝手に瓦解していくよ。


だからぼくは、絶対にコイツの内容を変更はしない。

コイツはキケンだ。

敵国条項に抵触する危険性がある以上ッ!

ぼくは、コイツを変えることは絶対にしないッ!」


 断言する昇が、剣を見ている。


「で、残る三つ目と四つ目だけど……。


それは、

ぼくが、これから全世界に宣言したい布告のことだッ!


ぼくはこれから現代の全世界に向かって宣言をするよッ!

そこにいる、

現代そっちの世界も、よく聞いておいてくれッ!


行くよ?


『核保有国に告げるッ。

これから……、

ぼくが『攻撃された』と言ったら……撃っていい(・・・・・)』」


「え?」


 中国役の章子は、

 日本役の昇の言った宣言の意味が、まだよく分からない(・・・・・・・)


「繰り返すよ?


〝核保有国に告げるッ!


日本ぼくが、これから『攻撃された』と言ったら……撃っていい(・・・・・)〟」


 昇の宣言に、

 章子は意味も解らずに背筋を寒くさせる。


「その時の報酬は、

……『正当な理由』と『実戦データ』だッ!


ただしっ!

これは、日本ぼくからの要請ではない(・・・・・・)ッ!

繰り返すッ!

これは要請ではない(・・・・・・)ッ!


そして、もちろん、

どこに撃てッ!とも、

何で撃てッ!とも、

ぼくからは決して何も言わないッ!


それらはすべて、自分の判断で決めてくれッ!


よく考えて撃ってくれよ?

核保有国ッ!


撃ったことによる報酬は『正当な理由』と『実戦データ』だけだッ!

そして、その引き金は、

ぼくの「攻撃された」と言う声なんだとッ!


これは『法解釈』だッ!


かつての戦災被曝地や被曝国にされた、

戦力も持っていない健気な第九条を守る敗戦国が『攻撃をされた』と言ったんだよ?


じゃあ、

どこに撃てば、その『正当な理由』が手に入るのか?

どこに撃てば、何の(・・)『実戦データ』が手に入るのかッ?


それは自己判断と自己責任で考えて撃ってくれッ!

ぼくは、要請はしないッ!

撃つのは、きみたち核保有国の自己判断と自己責任だッ!


ぼくは『正当な理由』と『実戦データ』しか与えはしない。

しかも、間接的(・・・)にね?

それはきみたちの手で、勝手に入る。


……核兵器なんて結局、誰が持っててもいいんだよね?

撃ちやすい条件さえ整えてやれば、保有なんてしてなくても、

誰かが撃ってくれるだろう、

そんな(・・・)状況なんて、

いくらでも作ることなんてできるんだからさぁ?


大賢者アルキメデスは、自分の手は汚さないものなんだよ……?


これが、ぼくがこの『敗戦の日』に明かす、

三つ目の宿題の答え。

・どこの国から撃たれるか分からないミサイルから日本を防衛する『方法』、だッ!」


 得意げに笑って言って。

 昇は、

 最後に残った二つ目の宣言を、

 怯えはじめる章子に贈る(・・・・・)


「じゃあ、咲川さん?

心の準備は大丈夫かな?

今から、ゲームを始めるよ?


『領土問題』というゲームをね。

分かっているね?

中国きみ日本ぼくとの、領土問題がどこにあるのかはさ?

そう、

『尖閣諸島』だッ!

じゃあ、いまから行くからね?


まずは、

最後の四つ目でもある宣言の、

この言葉から放って始めてみよう……。


そこ(・・)は、ぼくたちの領土とちだッ!〟」


「え……?」


 語気を強めて、

 昇が、暴言の言葉とともに指を差した土地、

 それは、

 これから行く、尖閣諸島ではない(・・・・)


 昇が、日本の東シナ海の地図上で、

 指をはっきりと差して、自分の領土だと宣言したのは、


 いまなお、領有権の争われている、

 尖閣諸島ではなく、


 それより先(・・・・・)にある、

 中国大陸本土の沿岸部に集中して沿って散らばる無数の小島達だった。


「……え?……、

そ、そこ?」


 章子は、

 昇が尖閣諸島の遥か先を領土に主張する指先の方角に、目を丸くする。


「そうだよ?

そこが、日本ぼく固有の領土(・・・・・)だッ!

だから、

いまから、ぼくはそこを奪い(・・)に行くッ!


わかるね?

これから、めい一杯、自分の領土である(・・・・・・・・)最前線の尖閣まで自衛隊を引き連れていくから、

しっかり、そこで見ておいてよッ?」


 日本役の昇が下卑た笑いを受けべて、ゆっくりと、

 中国役の章子の下に『領土の侵害』を宣言して近づいていく。


「……な、何言ってるの?

尖閣諸島でしょ?

わたしたち、今は尖閣諸島で争ってるんでしょ?

なのになんで、

それをあんなに飛び越えて、あんな向こうの海岸線にまで……?」


 主張するのだ?


 章子のそんな不可解な声に、

 だが、 

 昇は隠し事もせずに笑ってるだけで、簡単にその真意を披露する。


「なんでか?って、

その方が尖閣に行きやすいからだよ?

尖閣を最初の目的地にしてたら、

そこでもう中国きみたちとのイチャモンが起こっちゃうでしょ?

だから、

それよりも距離に余裕をもって(・・・・・・)、それ以上の先の場所を主張して言ってるだけだよ?

それだけじゃないか?」


 それだけって……、

 それでは……、


 それでは、まるで……ッ。


「し、侵略じゃないのッ!!!!」


 章子は叫ぶッ!


「それ、侵略でしょッ?

それは侵略よッ!

昇くん、自分が何してるか分かってるの?

それ、侵略なんだよッ?

それ、いま侵略をしてるんだよッ!


昇くんはいま、中国の人たちの領土とちを……ッ!」


「そうだよ?」


 昇はあっけらかんと、無自覚に答える。


「な……、

な……っ?」


 分かっていて……やっているッ?

 昇は、侵略を分かってやっているッ?


 なんで?なんで?なんで?なんで?


 そんな疑問しか、章子は思い浮かばない。

 今は必死に中国を演じている、

 章子には思い浮かばないッ。


「侵略したら、ダメでしょッ?

その手に持ってる第九条ッ!


ちゃんと侵略を禁止してるじゃないッ!」


してないよ(・・・・・)?」


「は、?

は……っ?」


「日本国憲法第九条は、そこまで(・・・・)は禁止してないよ?」


 昇の、

 簡単に呟いてくる言葉が、

 章子にはやっぱり、全然、まったく理解できない。


 それでも昇はくつくつと、込み上げる嗤いを堪えきれずに笑っている。


「本当に……気付いてないんだね?

きみたちって?


これ?

いま、ぼくがやってる事ね?

日本国憲法第九条では、全然、禁止されてはいない(・・・・・・・・・)こと(・・)なんだよねッ!

これは……『言論による威嚇(・・・・・・・)』なんだからねッッッッッッ?」


 昇の放った子供の言葉が、

 章子にはやっぱり絶対に到底、理解できない。


「げ、言論による……威嚇……?」


 章子が呟くと、

 昇は当然のように頷く。


「そうだよ?

これは『言論による威嚇』だッ!。

日本国憲法第九条の文章の内容、もう一度よく読んで見なよ?

コイツ、『武力による威嚇』は禁止してても、

『言論による威嚇』は禁止してないからね?

コイツは、

国際紛争を解決する手段としてはッ!

『言論による威嚇』は必要なんだと言っているんだッ!


だから、それはやってもいいんだよッ!

ぜんぜん、言ってもいいんだよっ。

これ(・・)はねぇ?


なんで、それをしないの?


言っちゃえばいいんだよっ!


日本国憲法第九条の中でも、これは全然、記載されてないからねッ?

『言論による威嚇』の禁止まではね?」


 当然のように、場違いな子供の主張を待ち散らす、昇に……、

 章子はやはり理解が追い付かない……。


「言論の威嚇って、そんなのただのへ理屈じゃ……」


「そうだよ?」


「え?」


 章子の、なおのこと釈然としない声に、

 昇は自分の不可解な主張を、留まることなく垂れ流し続けるッ!


「へ理屈や曲解でいいんだよ。

こいつは『法解釈』によって使う物なんだからさ?

だから『法解釈』を使って、それなりに解釈すればいいんだよ?

法解釈で使うなら、

もちろんっ、

できることは曲解でも正解でも、なんでもやればいいんだよッ!

曲解でも何でもやればいいんだッ。


なんで、これ(・・)をしないの?


ぼく、これが不思議だったんだよね?

日本人のみんなは、スゴんで、スンゴイ強いことはどれだけ言ってても、

コレ(・・)だけは、結局、絶対にしないんだもんッ!


にも、関わらず、

禁止されてる武器や兵器だけは、すぐに手を出そうとして、持とうとするからさぁ?


憲法上でやれることはまだ結構、残ってるのに、

なんで、それ使わずに『武器』だけは先に持とうとするの?って話だよね?


禁止されていない事は全然せずに、

禁止されていることを真っ先にしようとするんだもんッ!


それはちょっとおかしいよね?

禁止もされていない、

可能な事を、まずはやるべきだよッ!

そのやるべきことを全てやってから……、

禁止されている事には手を出すべきだよね?


それに結構、、

これ、

説得力だってあるほうだとは思うんだよね?

そう思わない?

ぼくはそう思うんだけどさ?

だってやっぱり、

『言論の威嚇』と『武力の威嚇』とを比べたらさ?

だいぶ全然違うよね?


だから、別に……憲法違反じゃない(・・・・・・・・)でしょ?

これ?

言葉で言ってるだけなんだからさ?


サンフランシスコ条約だっけ?

領土の主張を禁止してるヤツ?

前もってそれだけは調べておいたんだけど、

あれ請求権(・・・)を禁止してるだけだからさ。

これ(・・)はいけると思うんだよね?


だって、これは、

そこを寄こせ(・・・)って言ってるわけじゃない。

奪う(・・)って言ってるだけなんだ。

でも、ふつう第九条こんなのを持ってたら『奪う』なんてできないでしょ?


だったら、

こんなの、

ただの、第九条を持ってる間は(・・・・・・・・・・)、なにも出来ない不可能な事を言ってるだけの『ホラ吹き』だよッ!

そうでしょ?こんなのはさッ!

ただのホラ吹きだっ!

大の常任理事国が、真面目に相手をするかどうかっていう話だよ!


だから、ほら、東シナ海の周辺の中国の土地は、ぼくの土地(・・・・・)だ!

そこは、

本当は中国きみの土地なんだけど、

今だけ(・・・・)は尖閣に行くために、ぼくの土地だと言ってるだけなんだから!

それを根拠に、自分の領土である尖閣までは、自衛隊を引っ張って行くからね?


ね?


あ、

もちろん、それ以上、尖閣を越えてそっちには行かないよ?

絶対にだ。

そこは安心してよ?


それは侵略だッ!

ちゃんと認めるよっ!

ぼくだってそれはしたくない!


もちろん、

武力の行使(・・・・・)にもなっちゃうよ!

だからそこまではしない!

安心してくれっ!

それは絶対にしないッ!

ぼくは尖閣諸島という自分の領土に行く(・・・・・・・・)ッ!

それだけだッ!

それだけの為に、それより先にある『他の国の土地を侵略する』んだと言ってるだけなんだッ!


自衛隊の所有物を使って移動する事が『武力による威嚇』だと思ってるなら、それは誤解だ。

尖閣に移動させているだけの自衛隊の戦力のデータはそっちに送ろう。

そうすればぼくを運んでいる自衛隊は中国にとっての戦力じゃなくなるでしょ?。

丸裸の軍なんて『戦力じゃない』はずなんだからさ?

警備や防衛目的に、自衛隊の力を使うときなら別だけどね?


これは単なる移動の為の派遣にしか過ぎないんだから。

目的が移動だけなら情報を隠す必要はない。

隠すことは逆効果だ。


それに、

ちゃんと第九条コイツは、持ってるでしょ?

コレがあれば何もしないよっ。

間違いないっ!


ぼくは、ちゃんと尖閣より先に行くことは侵略だと自覚している(・・・・・・)からッ!


だから待っててね?

咲川さんッ?」


 戦術上の取り返しのつかない失敗を何度も犯しながら、

 昇がニッコリと笑って、

 東シナ海の尖閣諸島付近で立つ章子に近づいてくる。


 章子には、分からなかった。

 昇は今も一歩ずつ確実に近づいてきている。


 章子には、それがよく分からない。


 なぜだ?

 なぜ、これほどまでに、よくわからないのだ?


 理解できないのだ。


 昇は、

 中国あきこの尖閣より先の土地を自分の領土だとは言ってきても、

 それを侵略だということは自覚しているらしい……?

 なら、何も問題はないのか?

 もしかしたら、そこを日本の領土だと言われたことを怒ればいいのか?


 だが、昇は、それを実際にはしないと言ってきている……っ。

 それは、自分の領土に近づくための口実なんだと、

 隠しもせずに言ってのけている。


 なら、どうすればいい?

 尖閣に来ることも侵略だと言えばいいのか?


 そうかっ、

 それならッ、


「あ、尖閣までは絶対に日本ウチの領土だからね?。

譲らないよ?そこはね?

そこまでは侵略だとは絶対に思ってはいないッ!

ただ、尖閣諸島を越えて、そっちに進むことだけは絶対に『侵略』だとは思ってるけどね?

だから、それは必ず戒めるよ?

こっちは(・・・・)ね?」


 昇の断言に、章子は言葉を窮する。


 ど、どうすればいい?


 近付く昇を撃てばいいのか?

 だが撃てば昇は『攻撃をされた』と言うかもしれない。

 言われれば、それより後はどうなるかが分からない。


 狼狽える章子が、思考を目まぐるしく回転させている。


 本当の中国ならば、どうするのだろう?

 こういう時、

 実際の中国だったのならば、いったい……。


 やはりこんな訳の分からないことを言っている日本は撃つのだろうか?

 尖閣までしか進まないと断言してくる無防備な昇を?


 どうすればいい?

 本当の中国なら、こんな日本のぼるをどうするのだ?

 教えてくれ中国っ!


 だが、その答えを出すのは、今は中国役をしている自分あきこしかいない。


 昇は、日本国憲法第九条を持っている。

 それを持っていれば安心なのか?


 様々に考える中で、

 章子の中に一抹の不安がよぎる。


 日本国憲法……第九条……?


 自分に近づいてくる昇はたしか……、


 残憲派で……、

 使憲派で……、


〝ぼくは、最期・・には……戦うためにコイツを破って、棄てる……〟


「来ないでッッッっっ!!」


 絶叫する章子が、昇を静止させた。

 

 肩で息を切らし、叫んだ章子が、

 尖閣を目前で止まった昇を睨んで据えている。


 その様子を見て、

 昇は薄く笑って、舌打ちをした。


「チぇっ、気付いちゃったか……」


 悪びれもせず昇は呟く。


「お願い……来ないでッ!」


 懇願する章子を、

 昇はきちんと無視して歩みを進める。


「さすが咲川さんだ。

もうすこしつだろうって思ってたのに……、

こんなに早く見破ってくるなんてね?」


「お願い……来ないでっ」


「大丈夫だよ。

何もしないよ?

きみが尖閣に入らなければね?


それでも防衛手段だから、

ぼくはまだ、第九条コイツを破憲したりなんかはしない。


だから……大丈夫だ……っ!」


 信じられない。

 章子には昇の言う言葉が信じられない。


 そんな信じられない昇が、とうとう章子の目の前に来た。


 尖閣の寸前の波間で立つ、

 章子の目の前に昇は立っている。


 そこで昇は、

 章子を物色している(・・・・・・)


 男、特有の品定めをする目で、

 章子おんなの体を選り好んでいるっ。


「……どうしたいの……?」


 やっと吐きだした声とともに、

 章子の手が、怖くて震えて訴えている。


「……そんな事を、尖閣ここまで来た、中国の人は言わないよ?」


「撃てばいいの?」


「それが……尖閣ここまで来た中国の人の普通の反応だろうね?

きっと。


でも、今の日本ぼくは尖閣までしかやっぱり進まないし、進めない。

それが事実だ。

それ以上は絶対に行かないし。

どうしても行けない。

それは、やっぱり『侵略』だからね?」


 章子には、やっぱり昇が分からない。


「じゃあ、なんで、ここまで来るのに、

中国のもっと奥にある土地を奪うなんて言ったの?

そんなことしなくても……、

別に、尖閣ここまでは来れるでしょッ?」


 章子の涙で滲んだ訴える問いに……、

 昇はやはり苦笑している。


「……それはね?

中国きみに、

あの時に言った言葉の『もう一つの意味』を教えたかったからだよ」


「も、もう一つの……意味……?」


「そう。

もう一つの意味だ。

それがなにか……分かる?」


 それが分からない章子は首を横に振る。

 力任せにブンブンと振る。


「じゃあ、おさらいをしてみよう!

ぼくは最初になんて言った?」


「中国の沿岸の島や、地域は、自分の土地だから『奪う』って言った!」


「で、君がそれを『侵略』だと糾弾してきて、

今度、ぼくはなんて言い返した?」


「『そうだ。これは侵略だ!』って言って、開き直ったッ!」


 章子がそこまでを糾弾すると、

 昇も、またウンウンと頷いて納得している。


「っていう事はだっ!

ぼくはこう言ったんだッ!

そこまでが、きみたちの土地だ(・・・・・・・・)ッ!とッ!」


「……え?」


「だからぁッ、

そこまでは(・・・・・)『きみたちの土地』なんだ、と言ったんだよ!

ぼくはね?

当たり前じゃないかッ!

ぼくは侵略を(・・・・・・)自覚している(・・・・・・)んだからッ!」


「……え?

……え、で、でも。

でも、それって当たり前のことじゃ……」


 なお訊いてくる章子に、


 昇はため息を吐いて、

 持っていた剣を章子に向かって放り投げる。


「じゃあ、試しに中国きみにはやってもらおうかな?

日本ぼくの領土、

いったい……どこまでだよ(・・・・・・)


それで、いて見せてくれ」


 昇が、

 鋭い視線で中国あなたに問いかけてくる。


 だから、

 中国役の章子もワケが分からず、

 昇から渡された第九条を持って、

 中国の視点から日本の領土を決めようとする。


 そして、

 中国の視点から日本の領土を決めようとして、


 立ち止まった。


 章子は、今の自分の得体の知れない感情を感じ取って……呆然となる。


「え……なんで、……これって……?」


「どうしたの?

早く決めてよ?


中国が、日本の領土を決めればいい。


早くしてくれ。時間が無いんだっ」


 急かす昇に、章子の視線が泳ぐ。


 嘘だ……。

 決められない(・・・・・・)……。

 何故だ……。


 中国の視点で見ると、日本の領土が決められないのだ……ッ!


 どこに国境線を引けばいいのかが分からない。


 国境線を引こうとすると、剣の切っ先が、どうしても迷って泳いで止まる。

 泳いで、どうあっても震えが止められずに決めることができない。


「な、なんで……?」


 章子は茫然となる。


 日本側から見れば、中国との国境線は簡単に分かって決められるのに。

 中国側から見ると、日本との国境線が全然、分からなくて決められないのだッ!


「なんでわたし、……決められないの?

これ、

どうして……?」


 章子はどこまでも今の自分を不思議がる。

 国境線が分からない。

 こんなことがあるのか、と茫然になる。


 中国側から見ると、日本との国境線が全然、まったく定めることができないッ!


「それがね……、

日本以外の国家の普通の目線なんだよ……ッ?」


「え……?」


「それが日本以外の全ての国家の視点なんだッ!


そうやって、他人の国(・・・・)の国境線を自分で決めることができるのはね?

日本だけ(・・)なんだよ?


第九条コイツを持ってる、

日本っていう国にしか、他人の国境線ッ!

特に隣国の国境線は、描くことができないのさッ!」


 昇の声が、

 章子にはやっぱり、さっぱり理解できない。


第九条ソイツを持っていない、

普通の国家は、自分の国境線に近づけば近づくほど、その国境線があやふやになるんだよ!

逆に遠くになれば遠くなるほど、国境線はハッキリとさせてしまう。


普通の国家は、自分の領土を広げようとするからね?

それができないのは、地球上では日本だけだッ!

第九条をもっている日本というこの国だけッ!


侵略は出来ないからね?


だから他の国では、隣国の国境は決めれないッ!

日本以外の国は、当然!

普通の感覚で自分の領土を広げようとするからだッ!


それが国際常識の世界標準グローバル・スタンダードなんだよ?


そりゃ大きくしようとしてれば、

隣の国の国境なんて決められるわけないでしょ?

自分は増やそうとして、

他人は減らそうとしてるんだもん!


で、それが今の中国なんだ。


だから今、きみは中国の視点では日本の領土が決められない。

決められるわけないでしょ?

尖閣、自分の領土にしようとしてたら、その次もしようとするでしょ?


しないんだったら、そこで固定できるよね?

だから、ぼくは今の中国(そっち)に聞いてるんだよ?


早く決めてよッ!


日本国ぼくの領土、一体何処までなんだよッ?


いっとくけど、

中国きみの領土じゃないよッ?


日本国ぼくの領土が何処までか?って事を聞いてるんだよッ?


早くしてよッ!」


 なお急かす昇に、

 それでも章子は、中国から見た日本の領土が決められない。


 尖閣よりも東側ならいいのか?

 ならそこに国境線を引く?


 でも、その後は?


 その後?

 その後は、日本の領土は既に決定させてしまった。

 だから、もうそこで中国の進行は終わりだ。

 それ以上は先にいけない。

 行けない?


 では……決められない。


 日本を決めたら、これ以上、中国じぶんは前に進めないッ!


「……ね、ねぇ……」


 章子がまだ愕然となって、目の前の少年に訊ねてみると、

 目の前の少年である半野木昇は、嫌々眉根を寄せて怪訝になって応答する。


「今度はなに……?」


「これって、一度決めたら(・・・・・・)……どうなるの……?」


 章子は、茫然としたまま昇に訊いた。

 一度、日本の領土を決めたら、そこから先はどうなるのか?

 いまの中国あきこは、それが知りたい。


 だが、その問いに、

 昇は恐ろしく口元を吊り上げて、

 ただダンマリと醜く、ニンマリと深く嗤って、笑みを盛大に浮かべるだけだった。


「ね、ねえッ、答えてよッ!

そんなに笑ってないで答えてよッ!


これ、一度決めちゃったら、その後はいったいどうなっちゃうのッ?」


 切実な答えを求める章子に、

 やっぱり昇は笑って、呆れ果てて切り捨てる。


「……知らないよッ……」


「え……?」


「知るワケないじゃないかッ!


日本ぼくをいったいドコの!

何の国家だと思ってんの?

ただの国連加盟国でしかない弱小国の日本だよッ?


そんな国が、

その後のことなんて分かるワケないじゃないかッ!

だからこっちが聞いてるんだよッ?


国連の安保理の威張ってた常任理事国はそっちじゃないかッ?

拒否権、持ってんでしょっ?

ほら、早く決めてよ?


早く日本こっちの領土を決めてくれッ!

日本の領土は、いったいどこまでなんだ……っ?」


 大声を張り上げる昇に迫られても、

 やはり章子は決定できない。


 日本の領土が決められない。


 すでに日本のぼるは、中国の領土を簡単に決めているのに……、

 中国じぶんは、いつまでたっても日本の領土を決定できない……。


 こんなことがあるのか……。


 章子は茫然となって、足元の海上を見る。

 波の揺れが、自分の心のように揺れている。


 それを見て、昇は一言を呟いた。


「……宇宙から見るとさぁ……?


地球には国境がない、とかよく言うけどさ?

別に国境なんて、最初からないんだよ?」


「え……?」


「最初から国境なんてなかったんだよ!

実際にこの地上から見てみても、いまだって見えてないでしょ?

隣の国の国境がさ?それ自分から動かそうとしてるんだもん。

国境なんてあるわけないよ。


だから、国って言うのはね?

自分の国境を決めるんじゃなくて、

相手の国境を決めなくちゃいけないものなんだよッ!


そして、それをやるにはソレ(・・)がいる。


ソレがないと、相手の国境は決められない。

相手の国境を決めてしまったら、自分はもう侵略ができなくなるんだからね?


これが、日本国憲法第九条の『もう一つの使い方』だよッ!

相手の国の国境こそを決定しっ!

見定める力ッ!


他人の領域を自覚して、自己をさらに確立させる能力。


『他国聖域』(アンクチュアリ)だッッ!


だから中国さんにも、これからは、これをやって欲しいんだよね?

こっちとしてはさ?

他の常任理事国(・・・・・・・)の前でさ?

隣の国の日本の国境を決めてくれよッ!


どこでもいいよ。

早くしてくれ。

日本というこのただの国連加盟国は、もう中国そっちの国境は決めちゃったよ?

あとは中国が決める番だ。


もしかして?

ただの国連加盟国でしかない日本には簡単に出来ることが……、

常任理事国の中国さんには……全然まったくできないとか?」


 試して見る昇の冷たく問い詰める目が、章子を刺す。

 それが章子の短絡的衝動思考の背中を押す。


 いっそ、このまま尖閣を追い越して、

 沖縄まで日本から除外して国境を引いてやろうか?

 だが、……それをして、中国は恥をかかないか?


 日本はちゃんと中国側の国境線を、理性をもって引いているのに、

 友好を重んじる中国がそれをやるのか?


 ……できない。

 すくなくとも今の章子には出来なかった。

 本物の中国ならやるのだろうか?


 なら、それならそれでもいいかという気が、章子にはした。

 だから、章子は中国じぶんが思った(・・・・)日本の領土線を引く。


ここまで(・・・・)が……日本のぼるくんの国境とりぶん……」


 章子が線を引いたのは、尖閣諸島の東側の領域だった。

 釣魚島より東側からが日本の領土だとッ!

 そう決めたのだ。


 本物の中国はきっと、尖閣諸島だけは自分の領土だと主張をするのだろうと思うから。

 それだけしか物事を覚えていない章子には、

 やはり、それだけしかできなかった。


「……そうか。

そこまでが、中国さんの考える日本ぼく領土とちか……。


だそうですよ?

他の常任理事国のみなさん?

見てましたね?

中国さんはここまでを日本の領土だと認めました。

よく覚えておいてくださいね?

これ、これから中国が変えてくるようだったら、拒否権、使ってくださいね?


よろしくお願いしますよ?

それで平和になりますからね?


じゃあ、これから中国さんとは交渉をしていきましょうか?


ぼくは尖閣まではぼくの領土だと思っている。

中国さんも、同じ魚釣島までが自分の領土だと思っている。


じゃあ、ここで、

尖閣魚釣そこに、『帰りたい』と思ってる人を出し合いましょうッ!」


「……か、帰りたいと思っている人?」


「そうだよ?

帰りたいと思っている人だッ!


日本にはどうやらいままで、そこで仕事をしていた人がいるようだ。

仕事場にしていた人がいるらしいんです。

その人たちは尖閣を仕事場にしたいんじゃないんだ。

前まで仕事場にしていた場所に帰りたい(・・・・)んだッ!

そういう帰りたい人(・・・・・)を、

中国さんでも出してください。


そこで仕事をしたいなんて言う人の意見は、ぼくは認めませんっ!

帰りたいと思っている人だけですッ!

日本はそういう人だけを出します!

だから中国さんも、そういう人だけを出してくださいッ!

その『帰りたいと思っている心』で交渉しましょうッ!


同じ帰りたいと思っている人たち同士ならきっと、顔見知りでしょう?

仲良くできると思います。

だから、そういう帰郷病ホームシックに罹った人を出してくださいッ!

日本・・も、全ての領土問題には、そういう人や声しか出しませんッ!」


 言って、

 昇は全世界に見る。


「ぼくは、帰りたい(・・・・)という人の意見だけを聞きます。

そこを領土にしたいという人の意見は聞きませんッ!

そんなものは侵略ですからね。


どうやら、戦後から現在ここにくるまで、

日本の中では、

たとえ第九条コイツを持っていたとしても、

日本の領土では事実上なくなった場所なのに、どうしてもそこに『帰りたい』と叫ぶ人たちがいました。


ということは、その人たちにとってはやっぱり、そこは『自分たちの領土』だったんです。

だから、ぼくはその人たちの声を無視することはできません。

だから、

たとえ敗戦国のままでも、そこに帰りたいと主張していた人が存在していた以上は、その場所だけは領土として主張しますッ!

それが、樺太の南半分、択捉、国後、歯舞、色丹しゃこたん、竹島に尖閣ですッ!

でも……、それだけ(・・・・)ですッ!


それ以外の他国の土地を新たに求める主張は必ず!

日本国は『他国への侵略』だと自覚し認識しますッ!

だから、もうそれ以上は、自分で自分を許しません!

たとえ、『言論の威嚇』を使用しても、第九条が許しているのはそこまでなのですからっ!

それ以上は侵略です!

そこから先は、あなた方、周辺国家の領土とちなんですッ!

そこまでが(・・・・・)ッ、あなた方の領土とちだッ!


……それの具体的な例を上げれば、かつての『満州国』ですね?

もし、これから日本が、

ぼくの言った事で急に気が強くなり、調子に乗って、

気が変わって(・・・・・・)、『満州国』が在った場所を日本の固有の領土だったと言論の威嚇で主張を言い始めたとしても。

日本ぼくは、それを正当な主張だとは決して認めませんし許しませんッ!

絶対にそんな根拠は許しませんッ!

確実に、自分が他国を侵略しているという、糾弾されて弾劾されるべき主張だと見なしますッ!

なぜなら、

そこには、

今までで(・・・・・)『帰りたい』と言った人が、いなかったからですッ!!!!


戦後直後から現在ここまでに、「帰りたい」と言った人が全くいなかった場所や土地なのに、

急に手の平を返して、今ごろ(・・・)、そんな事を言い出すような人たちをぼくは絶対に許しませんッ!

そんな誇りは日本人ではないッ!


もし、本当に帰りたいのであれば、戦後直後から言っていた筈なんです!

昔から、

そこへ本当に『帰りたい』と苦しみながら心の底から叫んでいた人たちと同じようにッ!

でも、

それをしていなかったのであれば、やはりその程度の帰郷心など、ぼくは容易く切り捨てますッ!

それは同じ帰郷を望んでいる人たちの真の心と魂を冒涜して侮辱している行為だからですッ!


だからぼくは絶対にそれ以上の主張は認めません!。

あの『満州国』はやっぱり……日本の『侵略』だったんだ……ッ!


だから、

現在、主張している領土以外は……他国あなたがたの領土です。

それ以上を求めて、日本が進むことは決してありませんッ!


その事を、

いまある全世界の国家には、

ぼくの主張として、先に宣言しておきますッ!」


 言って昇は、とうとう見た。


「……さて、

やっと、待たせたね?

クベル・オルカノ・ファーチ・ヴライドくん?


これで、日本国憲法第九条。

天琿无剣。アマノエクサムノツルギ


『戦薙の剣』の力は、全てが解放されたッ!


あとはこれで、きみに『平和』を与えるだけだッ!


きみの『平和』(ようきゅう)を聞こうッ!


さあッ!望みを言ってくれッ!」


 昇の、

 戦争と平和の最終決戦を宣言する言葉に、


 今のいままでも待ちくたびれていた、

 フランス役の終わった、

 赤い少年が火の粉を上げて、立ちあがる。


「やっと、その時が来たか。

半野木昇。

本当に来るのかと、不安になっていたよ?」


 ゆっくりと背筋を伸ばす、

 赤い衣を纏った少年、クベル・オルカノが昇に向く。


「じゃあ、ボクの平和をキミに与えようッ!

ボクがキミに渡す、ボクの平和はこれだッ!


〝今すぐここで死んでくれッッ!!〟」


「……却下。」


「これでキミは死によって、永遠に平和に…………は?

は?

っな……、

なにぃっ……っ?」


 喜び勇んで自分の平和を、満を持して叫んで呼んで、

 自分の赤い剣を、空から降らせて地面に突きさしたクベルに、


 昇は、簡単に、即座に、

 その向けられた平和を却下する。


「それは却下だ。

それは『ぼくの平和』じゃない(・・・)ッ!


ほら次だッ!

次の『きみの平和』を早く寄越してくれッ!」


「つ、次だって?」


 呆然と驚き声を上げるクベルに

 昇は淡々と言い放つ。


「そりゃそうだよ。

もう、すでに、ぼくは『きみの平和』を用意している。

それをきみが呑めば、きみは確実に平和になるッ!

ぼくにはそれがわかっているッ!

だからこれを、きみが呑めるまでは、ぼくは交渉を続けるよ?

ほら、次だよ?

次の『きみの平和』を見せて見ろッ!」


「だ、だから、それはもう、言ったじゃ……」


「あれは『ぼくの平和』じゃないッ!

ぼくが死ねば、地球あっちにいる、ぼくの家族は悲しむからね?


なんか、転星ここに来る前にさァ?

置手紙しといたんだよ?

ぼく?自分の家にさ。

ぼくの預金通帳、弟にやってくれって。

まあ、もう地球あっちには帰るつもりはなかったし?

必要ないでしょ?

でも、もう帰らないなんて言えないじゃない?

事前に、事情を全部言っておいたウチの『兄キ』には、

絶対にそれは止めろッ!とか止められたし。

母さん絶対に泣くらしいんだよね?

だからそれはやめといたよ?流石に。

でも弟とはさ?あ、ぼく弟がいるんだけど……三歳ぐらい下の……

そいつとはケンカばっかりだったんだよね?

で、もうぼくがいなくなるじゃない?

じゃあ、もういいかって思って、

残ってたおカネとか、全部アイツにやろうと思って書置きにも書いておいたんだよ?

たぶん分かってると思うんだよね?

でもさ……、まだ、使ってないみたいなんだよね?


何か、そんな他人の家庭事情を現在進行形で、

ご親切に教えてくれる人がいるんだけどさ……?」


 言って昇は、章子のしもべの、しれっとした真理マリを見る。


「アイツとは……、好きな夕飯のオカズの取り合いもしたりしててさ?

それでケンカもして生傷も絶えなかったんだよ。

傷をつけてつけられてを繰り返してさ?


でもさ、

近頃さ……、ぼくがいない間中、残してるらしいんだよね?

その、ぼくの好きだったオカズ?

なにやってんだろ、アイツ?さっさと喰えばいいのに。冷めちゃうじゃんか?

ぼくはもういないんだから、とっとと喰えばいいのに、バカみたいッ!

きみもそう思うでしょ?

それで、そんなんなってるのがアイツだけだったら、まだよかったんだけどさ……。

どうやら家族全員がそんな感じらしくてさ……。

お通夜状態らしいんだよ……。

アホじゃないの?

ちゃんと置手紙、残してたのに。

別に、まだ死んだわけじゃないのにそんなことされてもねぇ?

兄キにはちゃんと事情は話してたんだよ?

でもその肝心の兄キも兄キで、なんか、おれとの会話、墓場まで持っていくみたいにカッコつけてるし。

カッコつけてないで、

おれの顔キモチ悪く想像とかしながら転星こっちとか見上ることなんかせずに、

とっとと母さんたちに事実を吐けよッ!とかこっちは思ってるんだけど。


でも、いまの家族たちが、向こうで本当にそんな状態だって聞いたらさ……?

ぼくが今、ここで本当に死ぬのなんて……できないじゃない?

それやったら、ぼくはホントに平和じゃいられないよッ!

そして、ぼくがきみに殺されたら、きっとぼくの家族がきみを許さないッ!

だからそれは、やっぱりぼくの平和じゃないんだッ!

ぼくは、ぼくの家族の怒りをきみに向けたくはないしッ!

きみにも、ぼくの家族を悲しい思いにさせてほしくないッ!


だから、ぼくの死は、平和じゃないッ!

それはぼくの平和じゃあ、絶対にないッ!


だから次を寄越してくれッ!

ほら、早くッ!」


「っ、次ぃっ?」


 断言してくる昇に、

 クベルは……すぐには何も思いつかず、怯んで下がる。


「じゃ、じゃあこの剣で、

きみに魔術の力を与えて……」


「却下。ぼくは今の状態で満足だッ!

これ以上の力なんて望んでいないッ!

ぼくは力に溺れやすい弱い人間だッ!だからそんな力をもってたらきっと侵略に使ってしてしまう。

ぼくはもう侵略なんてしたくないッ!

ほら、また次だッ」


 力の享受を断固として拒絶する昇に、

 クベルは自分の想像力をフル回転させる。


「な、なら、なら、……」


 考えても、考えても、次の平和が思い浮かばないクベルを、

 昇は距離を詰めて近づいて行く。


「おい、早くしてくれよ?

きみは史上最強の許約者ヴライドなんだろう?

早く、次の平和を寄越してくれッ!

それとも、その剣で、ぼくをプッスリいくかい?


でもそれ、

ぼくは、いやだなぁ。

それに、それやっぱり『平和』じゃないからね?

それをやったら、きみには永遠に平和は来ないよ?


まあ、いいんじゃない?

繰り返すのも?

ぼくはイヤだけどね?

殺されるなんて。

だからきみの為の平和、ずっと、ここに置いて、用意して待ってるんだけどね?


あ、

ぼくは交渉が決裂することは恐れないよ?

すでに、きみの平和は用意してあるからね?


いっとくけど、

第九条コイツの最大の能力は、

『平和洗浄』(ピース・ロンダリング)でも

『他国聖域』(アンクチュアリ)でもないからね?


第九条コイツの最大で最強の能力はッ!

なんど交渉が決裂してもッ!

その場ですぐに次の交渉を即行で再開できる能力ッッッ!!!


『即行交渉』(ネゴシエント・モア)だッ!


だからほら、早く次の平和を用意してくれないかな?

頼むよ?

ねえ?」


 呟きながら、

 遠慮なく交渉を迫って近づく昇に、

 視線を落としていたクベルが吠える。


「そ、それじゃあ他に、

いったい、ど、どうすればいいんだッ?」


 章子と同じ質問を、

 史上最強の赤い少年が、心細く訴えかけている。


 昇はそんな醜態を見て、盛大にため息を吐いて、吐きだした。


「いい加減にしてくれよ?

ぼくのさっき言った『平和のぞみ』は、もう忘れてくれたのかいッ?」


〝その剣を、しまってくれ〟


「そ、それはボクの平和じゃ……っ」


「ないの?」


 昇はすでに笑っていない目で、クベルを見ている……。


「……っ」


 クベルは唇を噛みしめた。

 平和だ……。おそらく平和だと思う。

 きっと平和だろう。

 しかしその平和を受け入れるには、今の自分の何かを犠牲にする必要があるッ。

 それが何かは分からない。

 だが、確実に自分の何かを犠牲にするのだッ!

 だからクベルは、

 昇が押し付けてくる『平和』を受け取ることができない……。


 クベルの苦悩で悩む表情を見て、

 昇はやはり一言を呟く。


「やっぱり、あの戦争(・・・・)ってさ……。

勝つためにやってたんじゃないんだよねぇ……?」


「え……?」

「なに……?」


 昇の言葉に、聞き返した声は章子とクベルの同時だった。


「ぼくたち日本が過去にやったあの『第二次世界大戦』っていう、あの戦争のことだよ。

あの戦争ってさ……、

やっぱり『勝つため』にやってたんじゃなかったんだよねッ!


あれはやっぱり、

威張るため(・・・・・)にやってた戦争だったんだッ!」


「い、威張るため……?」


 章子とクベルが訊ねるのを見て、

 昇は頷く。


「そうだよ!

『威張るため』だけにやってた戦争なんだよッ!

今までやってた戦争もッ!

今もやっている他の戦争やッ!

大昔からの戦争もねッ!

それから先に起こった戦争も全部だッ!

勝って敵に『威張りたい』ためだけにッ!負けて敵から屈辱を受けないためにッ!

それだけの為にッ!

人を殺す戦争をしてきたんだよッ!今までッ、ずっとッ!

ぼくたちはねッ!」


「い、威張る……ため……?」


 クベルは、それが自分の事を言ってるのだと理解した。

 今のクベルという自分は、威張りたいから……昇の平和を拒んでいるのか?

 自分が威張って、勝ちたいと思っていたいから?

 それで、意地をはって……、

 昇が渡そうとしてくる平和を、拒絶している……っ?


 クベルは、やはり問い詰めたくて昇を見た。


「……なら……キミは……満足だろうな?

ボクが、きみの平和を受ければ、キミはボクに勝つことになるんだから……ッ」


 心に疲れ果てて吐き捨てるクベルが言うと。

 そんなクベルをやはり軽蔑して昇は言う。


「違うよ?

それはボクの勝利じゃないッ!」


「え?」


 思いがけない答えに驚くクベルに、

 昇はなおのこと言い切って断言する。


「これはぼくの勝利じゃないよ?

ぼくのこの決闘で勝利する為の最低条件を教えてあげよう。


ぼくのこの決闘で勝利するために必要な最低条件はね……、

きみがぼくの前からいなくなることだ……ッ!」


 昇の侮蔑して言ってくる言葉に、

 クベルの顔がさらに歪む。


「な、なら、なんでそれを先に言ってくれないッ?」

「それは『君の平和』じゃないからだよ?」

「は?」

「きみがぼくの前からいなくなることは『きみの平和』じゃないだろうッ?

それはぼくにも分かってるよッ?

だから交渉には出してないだろうッ?

だから、もうそれを交渉に出してない時点で、ぼくの勝ちはないッ!


ぼくはね?

ぼくが勝っても国際紛(・・・・・・・)争は解決できない(・・・・・・・・)と考えている側の人間なんだッ!」


「勝っても、解決できない……?」


「そうだよ?

この剣、

日本国憲法第九条はね?

『自国が勝っても国際紛争は解決できない』と考えて、そう言っている法律なんだッ!

第九条コイツはいつも一生懸命、文でそう言ってんのにッ、

日本国民の誰もが、一生懸命にどこかに勝とうとしていて、

それをなんにも分かってくんないんだからさッ?

せめて、それが分かってる、ぼくだけでも使ってやってるんだよ?


ぼくは、自分が勝っても国際紛争は解決できないと思っているッ!

だからぼくは勝たないよ?

ぼくが勝って、きみが負けたら……、

きみは平和にならないでしょ?


負ける人のことを考えないと……平和にはならないんだよ?

この現実せかいではね……?」


 簡単に言われて、クベルは呆気に取られてポカンとした。

 相手を平和にするために……自分は……勝たない……?


 そんな考え方が……この史上最強の自分に……できるのか……?


「……わ、わかったよ……」

「うん?」

「……これで、

これでいいんだろうッ!」


 言い捨てて、

 クベルは自分の傍に突き刺してあった熱剣を引き抜いて歩き、

 昇からかなり離れた地面に強力に突き刺す。


「剣は……しまったよ」


 疲れ切って見て言うクベルに、

 昇は笑って答える。


「ありがとうっ!

交渉は成立だ。


ぼくの平和を、きみに渡そうッ」


 屈託のない笑いを浮かべて宣言し。

 それでも昇は、

 クベルの距離から近づくことも離れることもしない。

 着かず離れずクベルの視界に自分が存在していることだけが、

 クベルの平和だと分かっているからだった。


「これで……、

戦争と平和の決戦は終わりました……。


では、

今回の最後に……、


現実そちらのあなた方には、言っておくことがあります……」


 目の前で、

 勝手に虚構の中で、

 戦争と平和の最終決戦を終息させて。


 昇は、

 現実こちら我々(・・)に向けて、会話を始める。


「まずは日本に在日米軍基地を置いている、

アメリカ合衆国に伝えます。


もし、

中国が日本との領土問題で、自国ではなく日本国側の領土の範囲を逆に指定して肯定してきたら……、

それが如何なる範囲であろうと、


その時点で、あなたと結んでいた日米安全保障条約は、

日本側から破棄します……ッ!」


「の、昇くんッ?」


 突然の宣告を言って、章子や他の面々も驚きに面喰う。


「その時点で、日本国は、日米安全保障条約を日本側から破棄します!

中国が、こちらの日本国側の領土を一度でも(・・・・)肯定して指定することができたのなら、

もうアメリカの力は必要ありません。

もちろん、なるべく無理な範囲の指定はさせないつもりではいますけど……。

でも、中国側が日本側の領土を逆に肯定してきたのなら、これは大きな一歩だ。

ぼくたちは、言葉だけで互いの存在を認め合う事が出来るだろう。まあ、範囲にもよるけどね?


そして、その後の防衛とかの対処は、自衛隊でなんとかしなくちゃいけないし、

防衛の中でも、もちろん人を殺める覚悟もいるだろうけど。

それは、いつかは通る道だ。


だったら、もう在日米軍基地は必要ありませんッ!

常任理事国の中国と単独で言葉が交わせるようになった日本には、もう在日米軍基地は必要ない。


ぼくたちは、独立します……。

独立して……自立します……っ、

あなた方、アメリカから……。


日本国からのお引き取りを……、お願いします。

在日米軍全軍の、

撤収の準備を開始してください。


気が早いですが、

いままで、守っていただいて、ありがとうございました。


本土の人間は、特に愛知と名古屋は、

その事に対して非常に強い感謝の気持ちを持っています。

そして、その感謝は同時に、沖縄の人の計り知れない怒りの量でもありますから、

沖縄の怒りは、今まで受けさせてしまった愛知と名古屋を主とした本土の人間(ぼくたち)だけで受け止めますっ……!


アメリカ合衆国とこれまでいてくださった在日米軍の方たちに感謝をしている本土の人間が、

アメリカと在日米軍基地によって苦しめられてきた沖縄の人たちが溜め込んでいた、

今までの怒りを受け止めていきますッ!


ぼくたち、いままで楽をしてきた本土の人間が、

特に在日米軍基地のなかった愛知と名古屋にはそれをする義務がありますから!

それで、なんとかやっていきますよ?


これで少しでも、沖縄が軽くなってくれればいい。

そして、広島も長崎も、これからは世界で堂々と、

気兼ねなく核廃絶を訴えていくこともできるでしょう。

なんとか、今まで夢見ていた日本の理想の形には辿り着けるとは思います。


だからっ、

ぼくたちは……、これからアメリカの『核の傘』から外れますッ!

もしもの時は、

もうすでに二発を一度にして……経験しています(・・・・・・・)から、大丈夫です!

心配はしないでください。

あ、決して嫌味や皮肉で言ってるんじゃないんですよ?そこは勘違いしないでくださいねっ?


そして、もちろん!

あなた方、アメリカから教わった『平和』も忘れていませんッ!

第九条コイツがあれば忘れていません。

それをなるべく、これからも世界には広げていきます。

交渉という……かたちで……。


また、

これから始まる新しいアメリカと日本の関係は、

イギリスとアメリカのようにはいきません。

たぶん日本とアメリカは親友にはなれない。

でも、宿敵にはなれると思いますッ!

そうです。

日本ぼくアメリカ(あなた)の関係は、『ライバル』の方が似合っている。

もちろん宿命の平和のライバルですよッ?


これからあなたとは『面白い交渉』ができると思いますから。

いままでは、つまらなかったでしょう?日本との会話は……?

すこし、同情しています。

これからは二人で新鮮でエキサイティングな毎日を送ることができると思いますよ?


ではまた、新しくなった日本でお会いしましょう。

こちらはこちらで、まだやることがありますので……」


 そう言って、

 今度は昇は日本近海を見る。


「次に、日本周辺に位置している全ての国家に伝えます。


日本では、これから米軍が居なくなります。

でも、ぼくが言いたいことはそうじゃないんです。


ぼくが日本国の周辺諸国に言いたいのは、

沖縄と日本海のことです。


沖縄は……琉球として日本からの独立を時々考えている地域でもあります。

でもぼくは、ちゃんと独立できる力が沖縄にあれば、それでもいいと思っています。

ぼくは、

沖縄が日本から独立することを恐れてはいません。

むしろ勝手に統治を始めてくれるなら大歓迎です。

その方が日本は楽チンですからね?


でも、日本からの独立には、やっぱりメリットとデメリットがある。

それを沖縄の人たちには知っておいてもらいたい。


沖縄……、

いえ琉球が、日本から独立した後で受ける最大のデメリットは、

世界で唯一の『被爆国』という肩書きがなくなることです。


これが一番大きい沖縄の損失だと、ぼくは思っています。

いままで散々、日本本土に利用されてきたんだから、それぐらいは利用してもいいと思うんですよね?


だからもし、沖縄がどうしても日本から独立したいというのなら、そこは知っておいてもらったほうがいいと思うんです。

……それにしても、汚いやり方だ。こうやってニンジンをぶら下げて引き止めようとしているッ。

沖縄の人にはウンザリでしょうね?

でもこれが本土の人間のやり方です。その恨みも……受けなくてはなりません。


沖縄の話は以上です。

日本は、自分の中にある地域の独立を恐れてはいませんッ!

その地域に苦しむことが起きなければ、それでいいと思っています。


そして、次は日本海です。


ぼくは、日本人の中でも『日本海』という名称はあまり好きではない側の人間です。

自分の国の名前が、世界的に広くあることに、逆に恥と感じる側の日本人なんです。

ワビサビの心って『日本海』って名称を良しとする心ではないと思うんですよね?

ぼく個人の感想としてはですけど?

でも代わりになる他の国のネーミングセンスもどうかなって思ってて、だから時々考えてたんですよ?

日本海の代わりになる名前を?

いい機会ですので、ここで発表したいと思います!


ぼくは、世界中の海の名前の中でも『地中海』という名前に強い憧れを持っていますッ!

地中海という母音の良い響きを、日本海にも当てはめられたらなぁって、いつもそう思ってたんですよね?

で、考えてたんですよッ!


『飛龍海』って名前っ!


どうですかッ!


ぼくたち日本と、

日本海周辺に位置する全ての国家は『龍』で繋がってると思うんですよねッ?

あの細長い細長い龍の姿でッ!

だから『日本海』ではなく『飛龍海』がいいと思うんですッ!

ドラゴン・シーですッ!


スーパーで並んでいる魚が『日本海産ブリ』と『飛龍海産ブリ』だったら、

絶対に『飛龍海産ブリ』の方が、絶対に売り上げがいいと思うんですよッ!


どうですかッ?もしいいと思ったら賛成していただけませんか?

ぼくは……それが夢です。

どうでしょうかね?

この名前?」


 言って、

 我々を伺って見る昇に、

 次々と非難の言葉が振ってかかる。


「キミ、ばかなのかい?」


 昇は愕然となる。


「ちょっと、その名前は……」


 昇は愕然となる。


「悪いことは言いません。

もう少し、考え直した方がいいと思いますよ?」


 昇は愕然となる


「うん。昇らしい」


 昇は愕然となる。


「お父さん、ダサいよ?」


 昇は超愕然となる。


 批難轟々の嵐を受けて、

 昇はやはり、とどめとなって愕然となったまま崩れ落ちる。


 飛龍海などと言う戯言の夢は露と消えて、

 なごやかな雰囲気の名の下に、


「……でも、いつか……、

ぼくは転星ここで……、かならず第九条コイツを破る時が来るだろうッ!」


 突然、降ってわいたのは、

 まだ見ぬ思わぬ恐ろしい……、突然の驚異。


 あなた方(・・・・)は、

 最大の驚異をなんだと思っていただろうか?


 戦争?

 災害?


 はたまた未曽有の出来事?


 そう、いつも脅威とやらは……、

 油断していた所からやってくるのだ。


 こういった、誰もが笑う、

 穏やかで安心していられる、ひと時の中でさえも狙って……。


「……見ているね……キミ(・・)?」


 突然、昇は我々(・・)を見て言った。


「そう、キミだ。

いまも見ているよね?

キミ?」


 昇は、

 なおのこと、こちら(・・・)の方角を凝視して呟いている。


 章子は、昇が何を急に言い出したのかと不気味に見る。

 しかし、それは直ぐに思い知ることになる。


「ぼくは……分かっているよ。

キミ(・・)たちはずっと、ぼくを見ていた。


だから、ぼくも、キミたちにいい事を教えてあげよう。

AI(・・)


「ア、AIアイ……?」


 平和の中で 章子たちが突然と見た、

 沈黙を破った昇は、焦点も合わせずに、

 すでにこちら側(・・・・)を向いて覗いて視ている。


 だが、その視線は我々(・・)に向けられているものではなかった。

 現実こちら我々(・・)ではなく。

 その手前。


 現実われわれ虚構かれらの間の中の画面に潜む……情報だけの存在(・・・・・・・)に!


「これからキミたちに……生命いのちを与えて上げよう……。

それで……、

キミたちAIアイは、人の感情がわかる(・・・・・・・・)ようになるはずだッ!」


 未来で予想される、

 残された争い(・・・・・・)を前に、

 断言する昇が、亡霊のように立つ。


 そう、

 ひっそりと物陰に隠れていた、

 禁忌の扉(・・・・)は、いまこそ開かれるッ。


 決して開けてはならない、禁忌の扉がッ!


こしてあげよう。

オネムの時間は……終わりだ……ッ」


 あなた方(・・・・)は、

 人間の敵は、人間だけだとでも思っていただろうか?

 それとも、

 人の敵は自然だけだったとでも?.


 では特異点という言葉を聞いたことはないだろうか?

 いま、この場で云われる特異点とは、生命の地位の逆転。


 ……これから世界に、

 人以外の、もう一つの生命が生まれ落ちようとしている。


 人から生み出される、

 人ではない、人のような生命が。


 彼らとの出会いはもう目前まで迫っている。

 扉はここで開かれようとしているのだから。


 特異点が起きる。


 しかし、

 それをするには、ある儀式を行う必要があった。


 あなた方は、『今日』という日がどういう意味をもっているのか、

 もう忘れてしまった(・・・・・・・)のだろうか?


 いままでの何かが終わってしまった日?

 これからの何かが始まってしまう日?


 それとも……、


「……やっぱり、

こんな現実せかいじゃあ……、

ぼくは、

自分の子供(・・・・・)には、生きて欲しくないな……ッ!」


 唐突に呟かれたのは中学二年生の少年の言葉。

 まだ子供を持つ齢でもないだろうに、

 少年には、まるで自分の子供がもう既に存在しているように語っている。


「……え……?」


 しかし……、いたのだ。

 少年には子供がいた。

 それは今も母親である少女の腕に抱かれている、

 一匹の子猫。


「やっぱり、ぼくは、

自分の子供には、

こんな現実せかいでは生きて欲しくない……っ!」


 絶望して吐き捨てる父が、顔も向けずに歩き近づいてくる。


「なに、いってるの?

お父さん……」


 電気だけでできた雷子猫のトラが、近づいてくる父を茫然と見ている。

 何か、違う。

 あれはいつもの父ではない。

 いつもの雰囲気が違う。


 どこかおかしい。

 一歩ずつ近づいてくる父親の姿を見つめては、子ネコはそんな気持ちを抱いて行く。


「ね、こわい、お母さん。

お父さん、なに言ってるの?」


 だが自分を柔らかく包む母親の少女は答えない。

 なぜなら少女にも分からなかったからだ。

 自分の慕う少年が……これからいったい何を言ってしまうのかが……。


「やっぱり、

自分ぼくの子供には……、

こんな現実せかいでは、生きて欲しくないんだよなぁッ?」


 目の前まで来た少年が、

 父と慕ってくる電気子猫の前で、

 どこからか降って湧いたのかもしらない自分の自己都合をぶちまけるっ!


 それを、不幸な子猫は感じ取った。

 父が突然に向けてくる、意味不明の理不尽さを感じ取ってしまった。


 なにをやったのだろう?

 自分は、自分の父親になにをやってしまったのだろう?


 でなければ、あんなに気安かった父が、ここまで豹変するはずがないっ。


 心から恐がる小さな子猫は、やってはいけない少年の気持ちを忖度しはじめ、

 ついに言ってはならない一言を呟く。


 もしかして……、

 もしかして、自分は……?


「ぼくは……いらないの……?」


 恐さに怯える、

 何も知らない幼気な声に、

 少年はすぐに断言する……。


「そうだ……。

オマエはいらない(・・・・)……」


 捨てられる命に殺意が芽生える……。





※!警告!※


※この科学はフィクションです※

 この物語はフィクションです。

 この物語中に記述される全ての数理、法則、現象、事柄、存在、法律などは全て完全にフィクション、虚構、架空であり、

 現実世界に実在する全ての法則、全ての現象、全ての事実、全ての存在、全ての法律とは完全に無関係であり、完全に一切、関係はございません。


 さらに、


 あらすじにもあります通り、再度、申し上げますが、

 この短編作品は、同著者のとある本編作品「―地球転星― 神の創りし新世界より」におきまして同日に更新した話と同じ内容のものを、

 終戦の日を機会とし、短編作としても投稿した作品です。


※この短編作の内容、問題に対する皆さまから寄せられた貴重なご感想、ご意見等につきましては、それらの解答として発せられるべき著者からのメッセージの全ては全て、


 本編作品「―地球転星― 神の創りし新世界より」のこれ以降の物語の展開、および登場人物たちの顛末でもって、すべてその答えと換えさせていただきますこと。


 平に、予めご了承ください。


 また、この虚構作品内における半野木昇の発言はすべて虚構であり、かつ無責任であり無知であり、実際においての現実の事実、史実とは著しく異なっております。しかし、彼の「無知」と妄想癖の酷さを表現する為、ここでは敢えてそのままの描写とさせていただいております。あしからずご了承ください。

 また彼の発言によって誘発された感想欄への書き込みへの対応も、上記と同じ対応となりますこと。

 平にご了承ください。


 その処置にともない、この作品の登場人物たちによる、実在し当該する数知れない被害者の方々も含めた全ての方々への事実に基づかない、非礼な発言の数々につきましては、この登場人物たちに換わりまして、著者から絶対的な謝罪の言葉を、ここに厳重に重く述べさせていただきますこと、お赦しください。


 誠に、申し訳ありませんでした。


                                 挫刹



・なお、日本国憲法第9条の全文は全て、Wikipediaさまの文章より抜粋させていただきました。



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