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私と冒険者と日常  作者: アイリス卿
王都ベルンイン編
34/47

第34話 義弟と義妹

ミューラさん視点でございます

「ミューラさん‥‥ありがとう。」

「いいんですよセイラさん。でも私はアランちゃんほど‥‥大変な思いはしてなかったから‥‥綺麗ごとに聞こえてしまったかもしれませんね‥‥」


 顔に取りつく影が少し薄くなり、笑顔を見せてくれるようになったアランを上がらせた私達、セイラさんはアランちゃんの背中を見ながら、もう少し浸かって居るようだったので、私も残ることにした。

 アランちゃんのお婆ちゃんだというセイラさん、最初こそ疑ったけど、妙に納得した。


 見た事もない綺麗な顔、銀髪、青い目。

 同じ血を流して居なければあり得ないほどの風貌は納得するには十分過ぎたのだ。


「そんな事はありませんよ、ミューラさん。」


 そして、アランちゃんにはセイラさんとものすごくよく似ている部分がある、それは、慈愛というのだろうか? 受け入れてもらえそうな雰囲気というのだろうか‥‥? 優しさとは違う、アランちゃんとセイラさんが血縁者であるというには十分な理由が確かにあるが、特に似ているのは、喋り方と‥‥笑顔、表情だ。


「ありがとうございます、セイラさん。」


 そしてもう一つ、私は一応は女だが、女の私でもうっとりしてしまうような‥‥魅力。


「あの子の身体に流れている血、半分は私達と同じで、半分はミューラさん達と同じ人間の血です。あの子の母は私達の娘で、父親は人間なのです。どこで娘があの子の父親と出会ったかはわかりませんが、やはり親子ですね‥‥よく似ていますよ。」

「そうなんですか?」

「えぇ‥‥娘もよく、過去を気にして居ました。ですが、あの子の父親‥‥娘の愛した男性が、ミューラさんと同じ言葉を娘に言ったのです。過去を受け入れ、好きになっていこうと。」

「そうなんですか‥‥」


 それだけじゃない、私達と同じ人間の形をしているが、明らかに違うという‥‥雰囲気ではなくて、言葉で言い表せない何か。

 それは、人によっては受け入れる事の出来ないことだ、だが、私には関係ないことだった。

 私にとっては、アランちゃんには悪いかもしれないけれど、自分の子供、カレンと同じように愛する我が子だと思って居る。

 実の母親と父親が居ても、私にとって、アランちゃんはもう一人の子供なのだ。そう、カレンと同じように、アランちゃんを愛している。


「ミューラさん。」

「はい?」


 愛する子供2人の事を考えて居たら、セイラさんに話しかけられ、顔を向けると。


「お話があります。聞いていただけますか?」


 セイラさんが、アランちゃんの真剣な表情と瓜二つの顔で私を見つめ、言葉を放った。


「今頃、夫がカールさんにも伝えているでしょう。実は、私達には考えて居ることがあって。」

「はい‥‥?」

「シリウスさんに、アランが両親の元へと向かう際の供として一緒に向かうことを、許可して欲しいのです。私達ももちろん共に行きますが、アランとシリウスさんからは見えない所から、付いて行こうと思って居ます。」

「‥‥それは‥‥どうして?」


 セイラさんは言葉を続けるが、納得いかない事がある。

 それはシリウス君についてだ。


「シリウス君‥‥アランちゃんを女性として見て居ます、2人きりということになるでしょう、その‥‥‥‥」

「はい、わかっています。」

「では、どうして‥‥?」

「アランが王宮にて過ごしている間、ほぼ不眠不休で彼女の傍についていたのが、夫ともう一人居たのです。それがシリウスさんです。」


「‥‥シリウス君が‥‥?」

「えぇ、彼も人間の男性なので、その‥‥手を出すタイミングはいくらでもあったでしょう。ですが、彼は留まった。私と夫は人間ではないです‥‥人間の男性についてもそれなりに理解はしていますし、曾孫が出来るのは是非歓迎したいとも思って居ます、ですが、シリウスさんは、性という制御の難しい本能を、理性と、覚悟で、押さえつけることが出来た男性です。」

「‥‥‥‥」

「勝手ではあると理解しています、本音を言えば、アランが幸せならそれでいい、ご存じかと思いますが、アランはシリウスさんの胸に抱きしめられている時が、一番落ち着いて、安心してしまう‥‥」


 そう、アランちゃんはシリウス君に、気づいては居なくとも、好意の感情がある。見て居てわかるのだ。

 私がカールに抱かれている時と、同じ何だと思う。


「まだあの子には早いと思います‥‥」

「えぇ、早いですね。」


 年に見合わない心を持ったアランちゃん、同年代からすれば見た目も中身も大人びて見えているだろう。


「シリウスさんが、彼女の傍に居る事で、アランは成長できると私は思って居ます。」


 だが、それを知って居るのは他の皆も同じだ。


「シリウス君が‥‥?」


 シリウス君がアランちゃんの成長を助けることになるのはわかっている、だが同時に危険だとも。


「アランは、シリウスさんに迫られたら断ることが出来ないでしょう。ですが、シリウスさんはそのようなことはしない。」

「どうしてわかるんですか?」

「長らく、人間達の事を見てきました。私達妖精は、人の心の色が見えます。良くない事を考えて居れば暗い色を‥‥良い事を考えて居れば、美しく輝いて見えるのです。男性が女性に抱く下心というものは、暗い色に見えます。ですが、シリウスさんのものは違った。」

「‥‥どう、違うですか‥‥?」


 シリウス君と他の男が違う所‥‥?


「彼は、アランを愛して居ます。それも深く、熱く、静かに。」

「‥‥‥‥」

「理性が強く、常識があり、辛抱強く、アランを理解したいという強い思い。彼の行動、言動、表情、態度、全てから伝わります。どんなことがあっても、命に代えてアランを守るでしょう。娘の夫のように。」


 そうなんだ‥‥シリウス君、アランちゃんを‥‥


「誰にでも出来ることではありません、現に最初こそは良からぬ事を考えていたでしょう。ですが共に過ごしていく日々の中、彼の色は、変わった。誰かを守るという力強い決意は、彼に力を与えた。」

「力‥‥?」

「ここに来る旅の道中、アランは長旅に疲れ歩くのも辛い時があったでしょう、シリウスさんに与えられた力は、小さくはないアランを背中に背負い、疲れを感じさせずに歩き続けることのできる”超回復”と呼ばれるもの、そしてもう一つ、”超感覚”です。」

「‥‥‥‥まさか‥‥」


 聞いたことがある、冒険者の中には特別な力が目覚める人が居るという。

 シリウス君も冒険者をしているが、その中でもカールの弟だけあって、優秀だ。だが特別という訳じゃない。才能というものがあった訳ではなく、要領の良さと持ち前の根気を活かした努力が実を結んでいた。


「力に目覚める人間には2種類の人がいます。1つはシリウスさんのように、私達妖精の血を受け継ぐ者が近くに居る事で、精霊達の試練を乗り越えた人に与えられる、”妖精の加護”。もう一つは神に愛され産まれた時から持つ人間だけが受ける事の出来た”神の加護”‥‥1000年に1人見れればよいと言われるほど珍しいものです。」

「それが‥‥シリウス君‥‥?」

「そうです、シリウスさんの持つ”妖精”と”神”の加護は、一切の制限がなく、死ぬまで機能し続けます。」

「‥‥‥‥」


 アランちゃんと出会った事で力に目覚めたというシリウス君、言われてみれば可笑しいと思う事はいくらでもあった。

 つい最近まで、長旅をし終えてここに来た時は、何日もぐーたらぐーたらとしていては、居酒屋に行ったり、酔いつぶれて迎えに行くこともあった。

 だが、アランちゃんとここに来た時からだ。最初はただ痩せ我慢というか、見栄を張って居るのだと思って居た。でも違った。

 体力をつけたの一言では納得のいかないことばかり、不眠不休でアランちゃんを見守っていたことも、疲れた表情の1つでも出てきてしまいそうだが、そんなものは一つもなかった。


「代償は無く、恵まれたの一言で済ませてしまえばそうですが、とてつもない幸運をその身に宿している証拠です。その幸運と、力が、アランとシリウスさんを守るでしょう。なので、彼に懸けます。」

「アランちゃんの事を‥‥ですか?」

「はい、曾孫はまだまだ先のことになりそうですが、アランが生涯を共にする男性なら、私達はシリウスんが良いと思って居ます。」


 セイラさんは随分とシリウス君の事を気に言って居るようだ、そこまで言うなら、私はアランちゃんの事をシリウス君に任せよう。

 

「わかりました、私は良いと思います。」

「ありがとうございます、ミューラさん‥‥私達の孫の事を深く考えてくれて、感謝の言葉しか湧いてきません。」

「良いんですよ、だってアランちゃんの為ですから!」


 もし、アランちゃんがシリウス君と結婚したら、私達の子供ではなくなってしまうけど、妹になるのかな。

 私にはシリウス君しか義理の弟がいないから、ちょっと遅いけど、望んでいた妹が出来るのだ。それはとても良い事で嬉しい。

 先の事だけど、楽しみだった。


やっぱファンタジーなら必要でしょ、贈り物的な奴!

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