第31話 彼の腕の中
「‥‥ん‥‥」
「起きたか‥‥アラン。」
「おじい‥‥ちゃん?」
「あぁ‥‥爺ちゃんだよ、アラン。」
目が覚めると、私はおじいちゃんの膝の上ではなく、ベッドに居た。
おじいちゃんが運んでくれたのだろう、まずはお礼を言わないと‥‥
「おじいちゃん、運んでくれて、ありがとう。」
「良いのだ‥‥寝足りないなら、まだ寝ててもいいぞ‥‥?」
「ううん、スッキリしたから起きる‥‥」
ベッドから起き上がり、少し寝惚けている目で周りを見てみる、すると‥‥おじいちゃん以外にほかに二人が居た。
「あれ‥‥? セイラさ‥‥」
「アランっ‥‥」
フワッと香る優しい匂い、強く抱きしめられて、何度も安心した人の胸。
「お婆ちゃんと呼んで‥‥もう‥‥セイラさんと呼ばれるのが耐えられない‥‥私をお婆ちゃんて‥‥呼んで‥‥」
「‥‥おばぁ‥‥ちゃ‥‥」
ずっと我慢してたんだ‥‥だから泣いて居たんだ。
「会いたかった‥‥セイラではなく、お前のお婆ちゃんとして‥‥会いたかった‥‥」
強く私を抱きしめるお婆ちゃんは、震えていた。きっと泣いてるんだ‥‥
「泣かないで‥‥お婆ちゃん‥‥」
背中に手を回して、抱きしめ返す。
この温もりが、お婆ちゃんの温かさなんだなって思うと‥‥泣けてくる。
「うぅ‥‥」
「あぁアラン‥‥私の可愛い孫‥‥」
鼻が詰まり、上手く息ができない、それでも離れたくないから‥‥涙でお婆ちゃんの服を濡らしてしまうことになっても、強く抱きしめ続けた。
「よかったな、アラン。」
男性特有の低い声でも、特に聞きなれた人の声。
お婆ちゃんが私を離してくれて、その人の事を見ることができた。
「‥‥シリウス‥‥」
「やぁ、アラン。」
彼の優しそうに眼を細める所、彼の男らしい顔を見て‥‥彼に抱きしめて欲しくなった。
自分の口から言うのは恥ずかしいから‥‥飛び込めば、抱きしめてくれるだろうか。
「おいで、アラン‥‥」
どうしようかと悩んでいたら、やっぱり彼が腕を広げてくれる。
そうしてくれるから、私は安心して飛び込めるんだ。
「シリウス‥‥」
お婆ちゃんの匂いも好き、でも‥‥シリウスの匂いも好きなの。
「今日も色々あったな、アラン‥‥心配したよ。」
「うん‥‥」
ズズズっと私の鼻をすする音が、ベッドがあり高そうな絵が飾られた明るすぎない小さなこの個室に響く。
鼻が詰まって居ても、彼の匂いがわかる‥‥スゥっと吸い込んで、胸一杯に満たしていく。
シリウスは、そんな私の頭を撫でて、好きにさせてくれるのだ。
「ワシらはまたいつでも会える、今はシリウスに任せておくとしよう。」
「そうですね、シリウスさん、アランをお願いします。」
「はい‥‥ありがとうございます。」
彼に夢中になっていたら、お爺ちゃんとお婆ちゃんはいつの間にか部屋から居なくなっていた。
どこに行ったのかとシリウスに尋ねると、2人は少し王様に用があるんだ、また明日会いに来てくれるから、と言って、私を胸に押し付ける。
そうなんだ、と私は納得して、再び彼の胸にうずまった。
「なぁアラン‥‥」
「うん‥‥?」
彼が私に問いかける。
「君のお爺ちゃんとお婆ちゃんから話を聞いたよ。アランのお父さんとお母さんは、ちゃんと居る。君が落ち着いたら、会いに行けるようになるよ。」
「‥‥‥‥ほんとっ‥‥?」
「あぁ、ホントさ」
シリウスは笑顔で、私に教えてくれた。
私には両親が居る事、2人もお母さんが居る事、お父さんが居る事。
「嬉しい‥‥」
最近、泣いてばかりな気がする、でも嬉しかった。
そっか‥‥会えるんだ、私。
「あぁ。会いに行こう。君を連れていくよ。」
「シリウスが連れて行ってくれるの‥‥?」
「あぁ、任せてくれ。」
「‥‥お爺ちゃんとお婆ちゃんは?‥‥一緒に来てくれないの‥‥?」
「もちろん一緒だよ、だから安心して、今はゆっくり休もう?」
「‥‥うん。」
胸に広がっていくじんわりとした温かさは、再び睡魔を呼び寄せてしまう。
抱きしめられて、シリウスの心臓の音を聞いていると、瞼が重くなり、彼の低い声が、また私を眠くさせていく。
「よかったな、アラン‥‥アラン‥‥?」
私は、また彼の腕の中で眠ってしまうことになりそうだ、それを許してくれる彼に感謝しつつ。意識を手放すことにした。
「ふふっ‥‥こうも無防備だと、少し辛いな‥‥でも今は我慢するよ。君が、本当に安心できる時まで。」
最後に、シリウスの少し嬉しそうな声が聞こえた気がした。




