第26話 来訪者
今日から、ベルンイン王国は1週間に渡る大きなお祭りが行われる。
青い目のライオンがもうすぐ顔を出すからだそうだけど‥‥実をいうと、私とシリウスはもう会って居た。
凛々しい姿、猛々しい姿、厳格そうな雰囲気と、お年寄りの言葉を使うライオン。
お爺ちゃんというのは失礼かもしれないけど、そんな気がした。
あの時、逃げる様になってしまって申し訳なさと失礼ではなかっただろうかと考えつつ、お話する機会なんてないかも知れないだろうけど‥‥もしあるなら伝えたい。逃げてしまってごめんなさいと素直に言えば許してくれるはずだ。
あの時は、私を助けようとしてくれたんだと思う、傍から見れば‥‥シリウスが私に言い寄って居る様に見えていたのだろう。だからあんな風に遠ざけようとしてくれてたのかな。
冷静に考えていると、とても優しい方なのかなと思う。
見ず知らずの私を助けてくれるくらいだから、人が好きなのかな?
「アランちゃん? 誰か扉を叩いてるから、確認しにいってくれる?」
考えに耽っていると、ミューラさんにお客様が来た事を伝えられ対応することになった。
「どちら様ですか?」
「私はベルンイン王国、現国王からの使いにより参った。アランという女性の住まいはここでよろしいだろうか?」
「えと‥‥はい、アランは私です。」
「ふむ、ソナタがアランだな? 伝えよう。」
現在のベルンイン王国、国王様から私に‥‥何の用‥‥? 訳が分からずポカーンとしていると、目を丸くするような話が飛んできた。
「本日、国王よりソナタは王宮に参上せよとのご鞭撻が下された。準備がよろしければソナタを連れていきたいと思うが。どうだろうか?」
「‥‥へっ!?」
「アランちゃん? どうした‥‥へっ!?」
戻ってくるのが遅い私の様子を見に来たミューラさんも目を丸くして驚いていた。
それもそのはずだ‥‥鎧を付けた人達が扉の前で数人待っているのだから。
「突然押しかけてすまない、ソナタの名を‥‥」
「私は‥‥カール・ディキソンの妻、ミューラと‥‥」
「あぁ‥‥!! 彼の仕事ぶりは王宮内部でも関心が上がって居る、熱心であり、誠実であり、責任感のある男だ。彼の選んだ女性というだけはある、美しい。」
「ありがとうございます‥‥この度は‥‥どういったご用件で‥‥?」
「こちらのアランという女性を国王が王宮に招待したいとのことだ。そのことで参った。」
「へっ!? うちのアランちゃんが何か!?」
「特に悪事などはしてはいない、少し込み入った話でな、ソナタには話せないのだ。ではアラン、参ろう。」
「あっ‥‥は、はい‥‥行って‥‥きますっ‥‥」
半ば連れ去られるような感じだったが‥‥馬車に乗り込んで、窓の外をボケーッと見ていると、私に国王様からの言葉を伝えに来た人が口を開いた。
「突然押しかけて済まない‥‥」
「あ、いえいえ‥‥大丈夫です。」
「ふむ‥‥食事は済ませてあるか?」
「へっ‥‥!? い、いえ‥‥これからでしたけど‥‥」
「そうか、ではついてから食事をして頂こう。客人として招待されているから緊張せずとも良い。」
「‥‥は、はい‥‥」
「あぁ、自己紹介が遅れたな。」
足を組みなおし、一息置いて、続ける。
「私は国王直属の親衛隊隊長、ジーナ・カラメルだ。此度は突然押しかけて済まない。」
「あ、はい‥‥私は‥‥アランって言います‥‥名はありますが、性はありません‥‥」
「ふむ‥‥捨て子だったのか?」
「はい‥‥ここの孤児院で育ちました。」
顎に手を当てて、私を見ている。
「そうなのか‥‥済まないな、私の親衛隊としての身分上で、一応は確認しなければならなくてな。」
「はい、大丈夫です。気にしないでください。」
「ふむ、歳はいくつか?」
「15です。」
簡素なやり取りが続く、国王様の近くで働いているというジーナさん。職業柄上、どうしても国王様と会う人には確認を取らなければならないらしい。
大変な職業だと思う。
「15か‥‥それよりも幼く見える」
「‥‥よく言われます‥‥」
「気を悪くしないでほしい、王宮に着いたら食事をしてもらうのだが、ついでに服を着替えて頂こう。」
「あ、はい‥‥わかりました。」
さすがに、身分の違いがありすぎて、着替えなければいけないようだ‥‥どんな物を身に着けることになるのだろう。
「ジーナ様。到着致しました。」
「うむ、では行こうか、アラン。」
「は、はい‥‥」
王宮は大きく、カールご夫妻のお家からでも見えてはいたが、近くに来るとやはり大きい。
「アラン、急げ。」
「はい、すみません。物珍しくて‥‥」
だがゆっくり見ている暇はなさそうだ。
失礼がないように、私なりに気を付けよう。




