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私と冒険者と日常  作者: アイリス卿
王都ベルンイン編
25/47

第25話 見た事の無い顔、そして

「シリウスの手って‥‥大きいよね。」


 無言で歩いているのに気恥ずかしさを感じてしまって私は口を開く。

 握ってる手を強く握ると、彼も痛くない程度だけど握り返してくれる。

 ゴツゴツとした骨ばった手、色んな消えない傷がある優しい手。


「そうか‥‥? 男の手なんてみんなこんなものだよ、アランは小さくて子供みたいだな。」


 シリウスからしたら私は子供のように見えるらしい、当然だと思う、あまり身体は大きくないし、女性らしい膨らみはないから。

 身体の成長が上手く出来なかったのだろうか? 私はまだ15歳だから、あと5年は成長できるはずだけれど‥‥その頃には少しでも大人っぽくなれて居たらいいなと思う。


 20歳になった私はどんな人になっているんだろう? 今とあまり変わらないのだろうか‥‥? お仕事はしているのかな? それとも結婚をしているのかな? もしかしたら子供や旦那さんと一緒に過ごしているのかな‥‥色々考えてみたけど、私はお仕事をしてそうな気がしてる。


「今、何を考えて居るんだ? アラン。」

「うん、その‥‥20歳になった私はどんな事しているんだろうなって思って、あんまり想像できなかったけどお仕事はしてそうだなーって。」

「仕事か‥‥どんな仕事をその時のアランはしているんだろうな。」


 今思えば、私に出来る事と言ったら、掃除か料理くらいしか思いつかない。

 何かそれに関わることをしてるんだろうか?


「もしかしたら俺と結婚してるかもしれないな。子供は何人欲しい? 俺は2人欲しいと思ってる、男の子がいいな。」

「ふふっ‥‥何言ってるの?」


 それもいいなー、なんて‥‥思う。

 シリウスが私の将来の旦那さんだったら、きっと優しくて、子供達にはとても甘い人になりそう。

 何となくだけど、そんな気がするんだ。


「嫌じゃないのか?」

「何が‥‥?」

「俺と‥‥近い将来結婚することだよ。」

「‥‥別に‥‥嫌っていうか‥‥」


 急にそんな事を聞いてくるから‥‥反応に困ってしまう。

 

「はははっ、すまんすまん、アランをからかいたくなってしまってな‥‥許してくれ。」

「‥‥ばか。」


 私はムっとして、彼の背中を叩く、彼はそれでも笑ってた。

 

「シリウスこそいいの? その時は私なんかで。」

「‥‥なんかだなんて言うなよ。」


 彼は私の言葉に、歩みを止めて、真剣な目をして正面に立つ。


「君は”なんか”何て言う存在じゃない。自分の事を嫌いなのかもしれないアランならそう言うだろうと思ってた。俺はそれに腹が立った‥‥だから言わせてもらう、君は君自身を含めて、”なんか”だなんて扱っていいはずがない。それはしてはいけない事だよアラン。誰でも君を”なんか”として扱う事は許されない。」

「‥‥シ、シリウス‥‥?」

「君の目は綺麗だ、透き通るその青い目を見た時、最初は宝石だと思った。そして髪だ。その光り輝いて

サラサラとしている銀髪を見ていると‥‥美しいと思う。」

「やだ‥‥何急に‥‥」


 シリウスは今まで見た事のない真剣な顔をして私にそんな事を言う‥‥私を綺麗だと言ってくれた初めての人はシリウスだった。

 その時は少し驚いた顔をしていたけれど、今は違う。


 初めて見る彼のその顔。

 彼の顔をよく見れなくなってしまう。


「君の心は、君を良く思って居ないのかも知れない‥‥でもこれだけは言わせてくれ。」

「‥‥‥‥」

「誰であっても、アランを低く見ていい人なんて、居ないんだよ。」

「‥‥わかった‥‥わかったから‥‥その顔‥‥やめ‥‥」


 やめて、そう言おうとした。


「止めない。君が本当にわかるまで俺は言い続ける。」

「‥‥‥‥っ」


 胸が締め付けられる、彼の顔をよく見れなくて‥‥苦しい。

 嫌な苦しさじゃない、でも苦しい。喉が熱くて‥‥胸がうるさい。ドクドクとさっきまでは緩やかだったのに‥‥


「アラン、俺は絶対に君の両親を見つける。そして君に会わせてあげたい。」

「‥‥私の‥‥?」

「そうだ、確信して居る訳じゃないが、どこかに居るはずだ。必ず会わせる。俺も会ってみたいしな。」

「どうして私‥‥の‥‥為に?」


 そこまでしてくれるの‥‥?


「アラン‥‥俺は‥‥」

「‥‥黙って聞いて居れば‥‥困っているのがわからんのか? 少し黙れ若造。」

「‥‥え‥‥青い目の‥‥ライオン!?」


 私達の話を聞いていたという声は、少し怒声が混じって居る気がした。

 声のする後ろに振り替えると‥‥そこにはベルンイン王国の象徴となっている青い目のライオンが居たのだ。

 猛々しい姿と、澄んだ青い目、少しだけお年寄りの雰囲気を感じたが、そんな事を感じ続けて居る暇なんてなかった。


「ベルンイン王国の象徴である青い目のライオン‥‥敢えて光栄だ、だが申し訳ない、今は取り込み中でな。」

「黙れとワシは言ったぞ‥‥」

「俺とこの女性の話に首を突っ込まないでもらおうか‥‥大切な話をしている最中でな。」

「そこの娘は困っていると言うのは二度目だ。」


 2人‥‥というのはおかしいかもしれないが、青い目のライオンとシリウスは私を挟んで睨み合いをしている。

 どちらも‥‥どことなく怒って居るのだろうか‥‥? 悪い事をしてしまったなら謝ってここから居なくなった方がいいと思った私は口を開いた。


「あの‥‥王国の象徴であるライオンさん‥‥すみません、その‥‥私は大丈夫ですので‥‥もう行こう? シリウス?」

「‥‥待っ‥‥アラ‥‥」


 彼の手を取って突然現れたライオンから逃げる様に、その場から去った。

 ライオンが何かを言いかけていた気がしたけど‥‥気のせいだろう。


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