第1話 朝食はサンド
ケッ、リア充が。
「あれから数か月‥‥時間の流れっというのは早いな。アラン。」
朝食を食べている私に声を掛けてくれる人は冒険者のシリウス。私を気味の悪い森と、暴力を振るってくるオジサンから助けだしてくれた人だ。彼とはあれからずっと一緒に居るのだけど、最近彼の事がわかるようになってきた。
「そうだねシリウス、私はもう1年ほど経っている気がしてるけど‥‥実際はまだほんの数か月なんだよね。」
「あぁ・・・俺も君と同じ事を考えてた、実際に過ごした期間よりももっとずっと一緒に居る気がしてたよ。」
シリウスは私より9つ上の男の人で24歳、私は15歳だ、周りの人達からは年の離れた兄弟か恋人に見えるのだろうか、旅の道中で街や村に寄ることがあるのだけど、そこで買い物をしている時よく言われる、可愛らしい妹さん、可愛らしいお連れさん、それを言われる度に私は少し恥ずかしくなる。シリウスも似たようなもので恥ずかしがって顔を赤くするのだ、それを見て私はまた恥ずかしくなってしまったりする。
「ここ最近野宿ばかりで大変だろう、今日は少し長く歩くぞ?そうすれば村につけるはずだ、そこで今日はゆっくりベッドで休もう。」
シリウスは気を利かせて私にそう言ってくれる、でも私は野宿も嫌いじゃないのだ、シリウスが傍にいるから外でも安心して眠れるし、それにシリウスは私に出会うまで干し肉と硬いパンばかりで毎日を過ごしていたそうで、栄養の偏りがあったからか最初は顔色が真っ白だった。そこで私は助けてくれた恩返しとして毎日食事の用意をさせてもらうことにしたのだ、シリウスは冒険者なので魔物に遭遇しても動じず寧ろ食料だと喜んで狩りに行く。狩られた魔物肉をその日のうちに調理をし、食べられる野草の知識がある私は野宿をするときにシリウスについてきてもらって一緒に採るのだ。そうして肉や野草によってバランスの取れた食事を食べられるようになったシリウスは最初に会った時とはまるで顔色が違っていてコケていた頬がわずかに膨らみを取り戻し綺麗な本来の顔へと戻ったのだ
「うん‥‥でもあまり気を使わなくてもいいんだよ? 私野宿でもへっちゃらだし、シリウスが居てくれるから安心して眠れるし、あっ‥‥でも私が居るからシリウスが安心して眠れないんだよね‥‥?」
シリウスは私という荷物を背負いこんでくれているから毎日が大変なはずなのに、毎晩周囲を見張ってくれているから安心して眠れることを私は忘れて、自分勝手なことを言ってしまっていた自分の軽率さに気付いた。
「いいんだアラン、俺は君が毎日美味しい食事を用意してくれるから一人の時より少しも苦じゃないし、それに見張ってる時もあるが魔法で周囲に結界を張ったりしているからちゃんと眠って居る、だからそんな申し訳なさそうな顔をしないでほしい」
しょぼくれて下を向く私の頭を優しく撫でながらシリウスはそんなことはないと言ってくれた。一瞬で沈んだ胸の内が軽くなり、優しさに胸が温かくなったのだ。
「ありがとう、シリウス」
私は笑顔でシリウスの綺麗な瞳を真っ直ぐに見てお礼を伝えた、ジっと見られて恥ずかしかったのかシリウスは目を逸らした。彼は恥ずかしがり屋なのだ、なんだか少し可愛い。
「ただ‥‥な、アラン、君も女の子なんだ、あまり外で男に無防備な姿を見せてはいけないよ。それにしてもこのハニーラビットのサンドは美味いな、君の作る料理はどれも美味い、どうやったらこの硬くて不味かったパンをこんなに美味い料理へと変えられるんだ?」
真剣な顔をして何故美味しく作れるのか? 聞いてくるシリウスは本当に料理というものがわからないらしい、冒険者の人はシリウスのような人が多いと街のおばさん達が言っていたけれど本当のようだ、それなら私にもシリウスにしてあげられることが出来てよかった。このままずっと料理作ってあげられたらいいなぁって思う。
「硬いパンだって、何かおかずを挟んだりするだけで美味しくなるものなんだよ? こんなの簡単だから今度はもっと凝ったものを作ってあげられるといいなぁ、シリウスは何が好きなの? シチューとか?」
「君はシチューも作れるのか‥‥」
凝った料理で思い出した。オジサンは料理を作ることが仕事であったがそれも出来なくなって暇になったんだと思う、そうして私はオジサンの目に留まり孤児院から引き取られたのだ、孤児院でも私は食事を作るのが毎日の仕事だった、孤児院では色んな子達が居るけどみんないい子で私が住んでいた孤児院の修道士の女性、お母さんと呼んでいた人が色んな料理を教えてくれたのだ。
「材料さえあれば作れるよ、だから食べたい時は言ってね」
昔の事を思い出しながら自分の作ったハニーラビットという魔物の肉を焼いて、食べられる野草のシャキシャキとした触感が特徴的なクーレという葉と一緒に硬いと言われていたパンを少し湯気に当てて柔らかくし、真ん中を切り具材たちを挟んで、少し塩を振ればハニーラビットのサンドの完成だ。
「‥‥結婚しよう」
「え?」
「いや、なんでもない」
なんて言ったんだろう? 考え事をしていたから上手く聞き取れなかった、何でもないって言ってるから大したことではないのだろうけど、気になる。
「さぁ、食べたら出発しよう」
「うん、道中で川があればいいね、お魚料理作って食べよう?」
「そうだな。というか魚料理も出来るのか? ますます‥‥結婚したい」
「え?ナニ?」
なんでもない、そういってバクバクとサンドに噛り付くシリウスは急いで食べ過ぎて喉に詰まったらしい‥‥慌てて水を飲んで死ぬかと思った‥‥と青白くなりながら言うのだ、それがたまらなく面白くて私は吹き出して笑ってしまった。
くそっ、リア充が。