第12話 暖かさⅡ
「アランちゃんはお野菜を切ってくれる? カレンはお肉をこねるのをお願いするわっ」
「はい!」
「はぁ~い!」
3人で今晩の食事の準備をしていると、後ろからは盛大な笑い声がたくさん聞こえて来た。
「ふふふっ、珍しくハメを外して居るわね、あの人っ」
「楽しそうですねっ」
「そうねぇ、あとで混ぜてもらいましょうかっ」
「混ざるー!」
今日の献立は、牛肉のハンバーグと、夕方に採れた新鮮なベルンイン王国の象徴である、青い目のライオンが好んで食べたとされている黒いキャベツとコアバードの骨でダシを取ったスープ、小さいが食べ応えのある赤いジャガイモ、そしてベルンイン王国の特産である茶色いご飯だ。
「コアバード以外は全部王国で採れたものなんですね?」
「そうよぉ、ここは豊かな土地が多くてね、私も昼間はカレンと一緒に畑に行くのよ? 明日一緒に行ってみる?」
「あ、行ってみたいです!」
青い目のライオンとはベルンイン王国が出来上がる前に住んでいた精霊らしい、初代ベルンイン国王は、そのライオンと話をして譲ってもらうことになったそうだ、その代わりとして、作物を育て、この土地を枯らさない様にすることが条件だったらしい。
ベルンイン王国の国王は、青い目のライオンに感謝をし、国の象徴として国旗に飾り、忘れない様に、大切にしているらしい。
時折、青い目のライオンがベルンイン王国の城門の前に来るそうだ、その度に1週間にわたるお祭りが開催されるだとか。
「本当に良い所よここは、子供もすくすくと健康に育っていってくれるしね。何より国王が良いわね!」
「そうなんですか?」
「そうよぉ? 私は他の国から嫁としてここに来たんだけど、ここはもう別格、何より私達国民は、医療でお金は取られないし、食物は豊富で人の出入りも多い、国王様は5代目なんだけど、先代の国王様よりも、私達の事を大切にしてくれているのよっ」
ミューラさんはニコニコと分かりやすく話してくれるから私はつい手が止まってしまっていた。
とても楽しいお喋りだ、こんなの初めてだった。
「あ、野菜、切り終わりました!」
「こねこね終わったー!」
「はーい! それじゃあハンバーグを焼いて行こうねぇー!」
じゅうじゅうとハンバーグの焼ける音に交じって、良い匂いがしてきた、お腹の虫がゴロゴロとなってしまう。
カレンちゃんも同じみたいで、お腹が空いたよーとミューラさんのエプロンを引っ張って居る。
「ふふふっ、素直で可愛いわね二人とも、後は焼いて運ぶだけだから、3人の所に行って待ってなさいっ」
「はーい!」
「わかりました、後はお願いします!」
「お願いされました! 任せなさい!」
カレンちゃんと手を繋いで、キッチンからカールさんたちの所に戻ると‥‥
「お、戻って来たか、今日はどんなお手伝いをしたんだい? カレン。」
「今日はねぇ~、アランお姉ちゃんとお肉をこねこねしたよー!」
「そうかぁ! いつもありがとうなぁ! 今日の食事はいつもの倍美味しいな!」
カレンちゃんと軽々と抱き上げて、ニッコリと笑っているカールさん、見てて微笑ましかった。
「親バカだな兄貴、なぁ? アーロン」
「いつものこったろ、それよりアランちゃん、椅子に座りなよ、一緒に話をしよう」
「うんっ」
広いテーブルと座り心地の良い椅子に腰を掛けると、カレンちゃんがカールさんから離れて、私の膝の上にちょこんと乗って来た、ヤッパリとても可愛らしくて抱きしめてしまう。
「えへへーっ」
「‥‥羨ましい‥‥」「ぐぬぬっ‥‥」
「おいお前達‥‥」
そうこうしている間に、料理が運ばれてきた。
どれも出来たてな上に、美味しそうだ。
「出来たわよー、たくさん食べてねー」
「おう、久しぶりの義姉さんのメシだなぁ。」
「半年ぶりくらいか、それじゃあ、頂きまーす。」
「いただきま~す!」
私も頂きますをして、まずはスープから手をつける、口の中に広がる黒いキャベツのスープはほんのりと塩味が利いていて、キャベツの噛み締めた時、もきゅっとした歯触りが楽しい。
牛肉のハンバーグはジューシーで、コショウが隠し味のようだ、ピリっとした舌への刺激と、ミューラさん特製のソースが甘じょっぱくて美味しい、ご飯がとても進む。
何よりも驚いたのがこの茶色いご飯だ。
米粒は硬く、良く噛めば噛むほど、甘さを感じて来る、東の国には玄米というこの茶色いお米に似たものがあるという。
「どれも美味しいです!」
「そう? よかったわ、お代わりもあるからねぇー」
「ミューラ、お代わり。」
「俺も」
「俺もお願いしまーす」
どんどんお代わりをしていく皆、カレンちゃんはハグハグと一心不乱に食べて居る。
ミューラさんはニコニコと器にご飯を盛り、渡していく。
「ふふふっ、大人数での食事はいつも以上に美味しいわねっ」
「そうだな、ミューラ。カレン? 良く噛んで食べるんだぞ。」
「ふぁーいっ」
「こらこら、口に物を入れながら喋るんじゃない‥‥」
なんだか、自分もこの暖かい輪の一部になった気がして、嬉しかった。
将来、自分が家庭を持つことになったら、こんな風になりたい。そう思う。




