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愛しき乙女の断罪~国と元婚約者の結末~


 どうも、お久しぶりです。三笠広生です。


 遅くなってしまいました。加えて読者様たちが納得していただけるかわかりませんが、愛しき乙女番外、どうぞ。


 このお話ともうひとつお話があります。(1/2)


 彼女、エルリール・ヴィスパー公爵令嬢が故郷、五代都市【クジャラ】を去って数ヶ月、都市は崩壊への一歩を踏み出そうとしていた。



「一体どういうことだっ!」


 一室で声を荒げているのはヴァレンシア国王である。


 ヴァスト・ヴィスチアーノ・ヴィ・ヴァレンシア。金の髪を後ろに流し、歳はとっているが王としての威厳と人として厳かな雰囲気を持っている人物。

 他に部屋にいる者たちは声こそ荒げなかったが顔色を悪くしている。


「そ、それが東南方の地から『汚染』が確認されたとの連絡がありまして……」


 伝令役であろう兵士も顔色を白くしている。


「何故汚染されている!『封』は施していたはずだ」


 地が黒く染まりし時、魔物が地より湧き出でる。古い文献に記載されていたことだ。

 だがそれを食い止める為、才ある者たちが協力し土地ごと『封』を掛けて流出を防いだ。その才ある者たちは後に『魔法使い』と呼ばれ、各都市に散らばった。もう何百年も前のことである。


「……そ、それなのですが何分他の地よりも広大で、『魔法使い』を探すのは困難かと……」


 『封』とは『魔法使い』たちが各々の力を使い、基点を定めて『穢れ』を縛り付けて封印したことだ。

 それのお陰で魔物が出ることは無くなったが、何故魔物が湧いて出てくるのか分からないまま。


 ギリギリと歯軋りをし、王は地図を持って来させるように言った。

 問題を解決しようにもその大本が分からないと解決のしようもない。しかもクジャラの東南方の土地は広く、『魔法使い』の家も広い間隔があり、探すのも時間がかかる。

 土地が汚染されてすぐなら、『封』を施せば汚染は止まるが探すのが遅れればそれだけ『封』をするのも時間が掛かり、被害が拡大してしまう。


 顔をしかめ、王は兵に指示を出しすぐさま行動するように命じた。


「……一体何故、『封』が解けたのだ?」


 誰も分からない返ってこない問いを再び口に出す。


「……そう言えばメルヴィス、君の婚約者、エルリール君は『魔法使い』の家系だったね。元気にしているかい?最近は顔を見ていないけど」


 暗くなった場を転換させるように明るく口を開き、そうメルヴィスに言ったのはヴィクトール・ヴィ・ヴァレンシア。王位継承第1王子である。金の長髪を肩口で一つに纏め、180はあろうかという長身だが人を威圧するような雰囲気ではなく穏和な人柄の人物だ。


「そうだな、それは私も気になる。彼女とはよく顔を会わせていたからな」


 次に口にしたのは王位継承第2王子、アルヴァス・ヴィ・ヴァレンシア。金の髪を短く切り揃え、精悍な顔立ちをしている。こちらも180の長身だがヴィクトールとは違い、人を寄せ付けるような雰囲気はない。


「私も気になる。彼女、可愛かったし、何よりあの綺麗な薄蒼色の髪の毛と蒼い瞳、宝石みたいだったなぁ……あと、可愛いかったし」


 彼女のことを思い出し、自分の髪の毛をいじっているのは王位継承第4位、ヴィヴィアン・ヴィ・ヴァレンシア。金の長髪を頭頂部で一つに纏め、負けん気が強い凛々しい顔立ちの女傑である。


「エルリール?……あぁ、彼女のことですか。彼女とは別れましたよ、兄上。だって彼女、重いんですもん。書類の仕事が終わって外に出たら、彼女ずっと待っていたと側仕えから聞きましたよ。その他にも夜遅くに来て、茶と菓子だけを届けただけというのもありましたね」


 『いい迷惑でしたよ、何がしたかったのか、今だに分かりません』と何でもないことのように笑いながら言うメルヴィス。しかし、彼は気付かない。その場の雰囲気がどうしようもないほどに凍ってしまったことに。


「……別れた、とはどういうことだ?メルヴィス」


 ヴァレンシア国王が、いや一人の父親として息子(メルヴィス)に訪ねた。


「メルヴィス、あなた……」

 ウルヴァス・ヴィレイ・ヴィ・ヴァレンシア。国王の妻、そしてヴィクトール、アルヴァス、メルヴィス、ヴィヴィアンの母である。

 母は息子の起こしたことに絶句し、口元に手を当て二の句が告げれなくなっていた。


 ヴィクトールとアルヴァスはただ黙ってメルヴィスを見ていた。いや、ヴィヴィアンは今にも噛み付きそうな表情で睨み付けていた。


「いや、ですから婚約だって父上たちが勝手に決めたことじゃないですか。私はメルフィーが好きだったのに……だからいい機会だったんですよ、彼女と別れるのは」


「……メルフィー?メルフィーとはもしかするとメルフィール・クハルド嬢のことかな」


 ヴィクトールが微笑みながら問いかける。


「えぇ、そうです」


 そう答えた後、国王からため息が溢れた。それもそうだ、いくら第3王子だとしても王家の血が流れている。それに相手にも気品などがあり、釣り合わなくてはいけない。だから当然の如くふるい落としがある。


 メルフィールはふるいで落とされ、エルリールは残ったのだ。それで国王たちに認められたのだがメルヴィスは彼女(エルリール)と別れ、落ちた(メルフィール)に行ってしまった。

 確かにメルヴィスの意思で選んだ婚約者では無かったし、まだ正規に婚礼の儀もあげていなかったがそれでも彼女と愛し合っていると思っていた。

 通常余程のことがないと別れないし、婚約破棄もしない、というかできない。平民なら未しも自分達は王家の血が流れているのだ。純血であり高潔である、そんな真似はできない。


「それは彼女(エルリール)に不満があったからなのかな」


 ただ純粋に気になっていたことを訊ねた。


「いえ、違いますよ兄上。不満がなかったから(・・・・・・・・・)ですよ。だから僕は彼女と別れたんです」


 自分は何もおかしなことは言ってはいないと言う風なメルヴィスに言葉を失う。そして思う。息子(メルヴィス)もまたおかしいのだと。


「……気付けなかった私の落ち度でもある。だが、王族(わたしたち)の振る舞いではないな」


 もう一度深い息を吐き、片手を顔に当て項垂れる。そして暫くしてそう呟いた。


「……メルヴィス、お前を辺境に飛ばす。と言いたい所だがまだ飛ばさん。今はどのような者の手でも借りたいところだ。事が落ち着いたらお前とメルフィール家の者を飛ばす、分かったな」


 メルヴィスは驚愕し、そして騒いだが父親や母親、兄妹たちは耳をかさなかった。


「……一体、何が悪かったのだ」


 誰もいない部屋で、そうメルヴィスは呟くしかなかった。




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