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作者: みず

僕は壁の前に立っていた。

その壁には相合傘が一つ。

相合傘の下には男女の名前が書かれていた。


子供の頃から女の子に興味がなく、恋愛をしたことがなかった。

誰かを好きになることもなかった。

幼稚園を卒園して小学生。

小学校を卒業して中学生。

頭に部活しかなかった中一。

受験勉強を頭に入れ塾に通いだした中二。

難関国立高校に合格するため本格的に勉強しだした中三。

人間関係が全くと言っていいほど構築されていなかった。


ある日の夜、僕は塾の帰り道、トボトボと歩いていた。

「あれ、真也じゃん。塾帰り?」

後ろから唐突に話しかけてきたのは僕の幼馴染である、加代だった。

僕は軽く頷く。

「真也ってさぁ、どこ受けるんだっけ?」

「国立のとこだよ、難しいとこ。」

少し間があってから加代は口を開いた。

「…私もね、そこ、受けるんだ…。」

僕は驚いて歩く足を止めた。

なんで、なんで加代が、クラスでも順位は下の方の加代が、クラスでいつも首位の僕と同じところに受けるんだ。

落ちるに決まってる。

「私ね、頑張ったの。去年の夏から密かに塾に通ってて、模試ではA判定出てさ…。」

ニコッと笑ってきた。

A判定!?

僕は再び歩き始めた。

僕は…僕はB判定だったっていうのに。

あんなに頑張ったのに、努力したのに、なんで、いつも頭悪かったこんなやつに負けてるんだよ…!

今まで歩いてたよりも速く歩いた。

加代が追いつかないくらいに速く歩いた。

加代は何か言いたそうだったが、僕は止まらなった。


あれから幾日か経ち、試験当日。

試験会場の教室に入ると、そこには真面目に勉強している、加代の姿があった。

真也も椅子に腰をかけ勉強を始めた。

五教科の試験が終わり、加代の方を見ると疲れたのか机で眠っていた。

声をかけようとも思ったが、気まずかったのでやめた。

家に帰って、自分の部屋に着くとすぐに眠ってしまった。


起きたのは翌日の九時だった。

僕の受けた国立高校は面接がないため筆記試験だけで合否が決まる。

リビングに行くと母が誰かと電話していた。

悲しそうな顔だった。

僕はいつものように顔を洗い、朝飯を食べた。

そして、テレビをつけニュースを見ていた。

すると、母が、

「真也…落ち着いて聞いてね。」

テレビの音量を少し下げて、軽く頷いた。

「加代ちゃんがね、事故にあったそうよ…」

事故…事故…事故…!?

呼吸が荒れ、鼓動が激しくなり、冷や汗が出てきた。

目からは大粒の、大量の涙が出てきた。

僕はおかしくなった。

何をすればこの気持ちを抑えられるかわからなかった僕は、家を飛び出して、とりあえず走った。

走って走って走って走った。

雨が降ってきても真也は走った。

顔がグチャグチャになっても走った。

なんで、なんで、あのとき、声をかけなかったんだ。

あれが最期だと思うわけない。

もっと、加代のこと見てあげていれば…

あの時も、塾帰りの時も、ちゃんと話を聞いていれば…

後悔しかない。

悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい辛い…

少し落ち着いて、見上げると加代の家だった。

家の前で悶えた。

「うわぁぁぁぁああああ!!」

地面を何度も殴った。

涙が落ちるのを何度も見た。

すると、家のドアが開き、誰かに抱きしめられた。

加代の姉だった。

その時気づいた。

こんな思いをしているのは僕だけじゃない。

増して、僕なんかよりも家の人の方が悲しいはずだ。

僕はなんてこんなに常識知らずなんだ。

自然に出てきていた涙を必死に堪え、すいません、と姉に一言言うと立ち上がって歩き出した。

「加代は…加代はいつも真也くんの話をしてたよ。加代をありがとうね。」

拳を強く握り、歯を噛み締め、必死に涙を堪え、大きく、はい、と返事をした。

家に帰って母に病院の場所を聞き、家から少し遠くなので、車で送ってもらった。

病室に入ると、加代の母と父、それに医者の姿があった。

すかさず、加代の側に行き、加代の手を握って、お疲れさま、と一言ささやいた。

真也は泣かなかった。

加代は過労によって、フラフラしていたところ、赤信号に気づかずに飛び出して、ワゴン車に跳ねられたそうだ。

植物状態、加代の今の状態だ。

加代は少し、笑っているように見えた。


翌週、加代の写真を持って合否の発表を見に行った。

ドキドキしながら番号を確認すると僕の名前が。

加代の名前もあった。


入学式の日、教室に行くと加代の席があった。

加代は欠席扱いされ、三年間席が用意されていた。


入学式の帰り、昔加代とよく遊んだ公園を通りかかった。

そこの壁には二人で書いた相合傘が。

真也はその壁をそっと撫でた。


十年経った今、公園の壁にはまだ相合傘残っている。

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