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短編集

異世界の酒場でオーナー兼情報屋やっています

作者: 樹 泉



 俺は神様にチート能力を貰って転生した。転生先は剣と魔法のファンタジー世界。この世界にはレベルとスキルがあり、俺が貰ったのは「検索」というスキルだった。魔力を消費して様々な事を調べられるスキルで凄く重宝している。

 小さい頃から検索を使い効率の良い身体の鍛え方をしていた。

 最初は魔力も少なく調べられる事も少なかった。どうやら難しい事、俺が知らない事には多くの魔力が必要になるらしい。

 魔力が尽きると気絶する為、一日の終わりに検索を使っていたら経験値が溜まりレベルが上がった。レベルが上がると能力が上がるらしく、俺は周りより早く強くなった。


 十歳の時住んでいた村が魔物に襲われ、村は全滅した。

 十歳とはいえレベルの上がっていた俺は魔物に勝てると思い向かって行ったが、所詮は井の中の蛙、魔物の群れに呑みこまれてしまった。結局は子供の力だったのだ。

 遊びで隠密系のスキルが取れており、何とか危機を乗り越えた俺は迷宮都市という大都市に向かった。

 迷宮都市には初心者専門の迷宮と熟練者専門の迷宮があり、子供の俺でも冒険者になり迷宮に潜る事ができた。

 検索の力を使い効率の良いレベルの上げ方、時々ランダムで現れる宝箱の摂取して来た。

 十代半場になる頃にはそれなりに名の売れた冒険者になっており、熟練者専門の迷宮に潜っていた。

 検索の力は周りに言えるスキルでは無かったのでソロで潜り続けた。

 最短の道を通り、宝箱を開けて行く。その為に探索系のスキルを上げて行った。戦闘は気配を消し死角からの一撃にかけた、良く言えばヒットアンドウェイ。悪く言えば暗殺術という名の危険能力で切り抜けて行った。


 十八歳になった頃俺は自分の限界を知った。

 俺の戦闘方法はステータスを上げてのゴリ押し、ギリギリの戦闘には向かない。所詮前世はデスクワーク専門の職業で運動は苦手だった。レベルは上がっているが咄嗟の行動は本物の上位の人間と違いすぎる。それにソロで活動していたせいか器用貧乏なのだ。

 俺は所謂優男で筋肉が着きづらい。顔も女顔名前も女名、良く女子と間違われる。名は体を現すとは良く言ったもので、前世からの俺のコンプレックスだ。

 一生遊んでいける金とレアな魔道具。魔道具とは魔法が籠った道具だ。それを多く持っている俺は勝ち組なのかもしれないが、これ以上の迷宮の攻略は無理だろう。

 では何をしよう? 色々考えた結果、前世で趣味だった料理技術を生かし酒場を開こうと思った。この世界の料理はまだまだ応用が利く。

 同じく冒険者に向かないだろう数人と、そろそろ冒険者を引退しようとしていた人を引き抜き王都に酒場を開く準備をした。

 料理の材料は迷宮でいっぱい取っているし、それを保管しておける魔道具も持っている。酒は迷宮の宝箱からも発見したし、食器類も宝箱から出て来る。

 酒場を開くのに必要な材料は殆ど揃っているのだ。

 冒険者組合は俺が引退するというと、何を冗談を。という顔をしていたが、俺が王都に移り酒場様の店舗を買い、引き抜いた冒険者達と移ると途端に騒ぎ出した。

 確かに俺はトップクラスの冒険者だった。あのまま冒険者をしていれば十年、二十年は前線で戦えていただろう。でもそれもレベルが上がるからだ。カンストがあったら俺はそこでお終いだ。所謂プレイヤースキルが乏しいのだ。

 冒険者組合と話し合い、魔物の大発生など緊急事態を除き、俺は冒険者を引退した。


 最初は顔見知りの冒険者や商人が王都に来た時に寄ってくれた。だが、俺の出す珍しい料理や酒場にしては治安の良い店内に王都の人も少しずつ増えていった。

 最初は冒険者相手に迷宮の手ほどき、情報などを売ったりもしていて、俺のいるカウンターに冒険者が溢れる様になった。

 悪乗りした冒険者が情報と引き換えに迷宮金貨を置いていくようになった。迷宮金貨というのは迷宮から出る金貨の事だ。どんな迷宮からも出て来る金貨は純金で、金として換金する事もできる。換金すると銀貨十枚になる迷宮金貨はそれなりに当たりと言える。

 金の相場は一番小さな銅貨が一枚百円程で、銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨百枚で金貨一枚、金貨百枚で白金貨一枚になる。金貨以上になると目にする事もなく死んでいく者も居るほど金額になる。白金貨は国と国との取引で使われたり、高価な魔道具の対価に使われたりする。

 俺も幾つか白金貨で取引される魔道具を持っているが売る気はない。店で使うからな。


 俺が店で料理を作ったり情報を売ったりしていると、いつの間にか二十歳になり酒場は繁盛していた。

 そんなある日、下町にある酒場には珍しく身なりの良い男が店にやって来て、一番右奥のカウンターに座り迷宮金貨をカウンターに一枚置いた。


「情報を買いたい。良いだろうか?」


「いらっしゃい、良いですよ。周りに聞こえない様に魔法をかけておきますね」


「頼む」


 俺は風魔法を使い、音を散らした。音を消す膜の様な物を作り俺と客の空間だけ隔離する。


「実は我が家の家宝が盗まれてしまったのだ。どこにあるか探してくれないか?」


「名前とどんな形をしているか教えて頂けませんか?」


 俺がそう言うと依頼人は名前と家宝形を言っていく。家宝は「メーリアのティアラ」と呼ばれ名の通りティアラである事。形の詳細は絵を渡してくれた。


「三日後にまた来る。それまでに分かるだけで良い、調べておいてもらえないだろうか」


「確かに承りました」


 直ぐに調べる事もできるがそれでは不自然過ぎる。三日後に場所を教えればいいだろう。

 店が終わった後に検索を使い調べていく。「メーリアのティアラ」は昔降嫁した王女が持って来たティアラだそうだ。それを家宝にしている家の目星も付いたが、それはどうでも良い。少しずつ検索を絞って行くと、迷宮都市のブラックマーケットに流れている事が分かった。オークションに出されるのは二週間後、三日後に教えても間に合うだろう。

 とりあえずオークションの場所や、流れた経緯を紙に書いていく。


 三日後にやって来た場違いな貴族はまたしてもカウンターの右奥に座ると迷宮金貨を一枚置いた。


「お客さんこれを」


「ありがたい」


 やって来た場違いな客に報告を書いた紙を入れた封筒を渡した。

 こうしてこの依頼は終わったと思っていたら、翌日開店前の店に場違いな客はやって来た。


「これは礼だ、受け取ってもらいたい」


 そうして差し出されたのは白金貨。


「流石にこんなにはいただけません」


「当家からの礼だ受け取って欲しい。頼む」


 そう言うと貴族だというのに頭を下げて来た。俺は白金貨を受け取る事にした。

 その白金貨は王都と迷宮都市の孤児院に寄付した。その際、ちょろまかした孤児院は書類を作り騎士団に密告しておいた。


 家宝の件から少し、以前の場違いな客以上に場違い感の激しい人間がやって来た。金髪碧眼の整った顔に仕立ての良い服を着たザ・貴族といういでたちの男だ。

 その男はカウンターの右端に座ると迷宮金貨を一枚取り出した。

 はー、また厄介事か……。


「いらっしゃい」


「これを調べて欲しい」


 そう言って差し出されたのは一枚の封筒。


「一週間後にまた来る。それまでに調べておいて欲しい」


「承りました」


 俺が封筒を受け取るとつまみとワインを注文され、俺は厨房に入って行く。

 

 店が終わり封筒を開けると驚くべき事が書かれていた。

 何とこの国の妃達の誰かが命を狙われているとの事だった。誰が狙っているか不明、正体を探る様にと書かれている。

 検索で探って行くと妃達は誰も狙われていなかった。

 それに疑問を思った俺は今日来た貴族を調べる事にした。

 調べた貴族は意外に大物で宰相補佐だった。宰相補佐程の人間だ、情報に誤りがあるだろうか? 宰相補佐について調べていくと多くの諜報機関に同じ内容の依頼をしている事が分かった。

 可笑しくないか? こんな事をこんなに多くの人間に調べさせるだろうか? もし調べている事が分かれば相手は寄り巧妙に仕掛けて来るのではないだろうか。

 そして俺は何故そんな依頼を出したか調べる事にした。

 答えは此方を試していた事だと分かった。ようは試金石だ。


 一週間後にやって来た宰相補佐に最初から魔法で音を消した空間を作った。


「やあ、こんにちは。それでどうだい、何かわかったかな?」


 宰相補佐はニヤリと笑うと席に着いた。


「いらっしゃいませ宰相補佐様。お妃様方を狙う者はいらっしゃいません。全ては当方達の試金石に使っただけ」


「……くくく、ははは。その通りだ、素晴らしい!」


 宰相補佐は上機嫌で手を叩く。


「本来の依頼は此方だ。直ぐに開けてくれるかな」


 そう言って差し出されたのはまたしても一枚の封筒だった。

 受け取って直ぐに開けると前の事以上に驚くべき事が書かれていた。


「此処に書かれている事は……」


「全て本当な事だ」


 上ずり掠れる声で聞くと宰相補佐は肯定して来た。

 紙に書かれている事はこの国の第二妃が王太子殿下の命を狙っているという事だ。その証拠を集めて欲しいと書いてあった。

 物証を集めるのに検索だけでは無理だ、この依頼断ろう。

 俺は封筒に紙をしまうと宰相補佐につき返した。


「申し訳ないがこの依頼断らせてもらいます」


「それは出来ないね。これは機密情報だ。知ったからには受けてもらう」


「ですが……」


「これはこの国の宰相補佐としての命令だ。……では良い連絡を待っている」


 そう言うと宰相補佐は店を出て行った。


 俺は店が終わると直ぐに検索を使った。証拠を掴むためだ。

 証拠になる物を探っていると、やはりだいたいは第二妃が持っている。だが一部が第二妃の実家、王都にある別邸に置かれている事が分かった。

 如何するか……。冒険者時代のスキルを使えば忍びこめるが。

 証拠は掴めませんでした。で納得するとは思えない。しょうがない、行くか。


 貴族の邸宅が並ぶ貴族街。その街並みを暗闇に紛れて進んでいく。索敵系と隠密系のスキルを総動員して駆けて行く。

 ひと際大きな邸宅に差し掛かった所で壁に張り付く。見張りはそれなりで、火も灯っている。最も火の届かない門と門の間から一っ飛びで壁を超える。

 敷地に入ると犬も放たれていたが獣避けの香を焚き建物の壁までやって来た。

 二階にあるバルコニーに跳躍すると手すりを掴んでバルコニーに立つ。

 宝箱を開けるスキルを使い鍵を開けると中に入る。

 入った部屋は当主の執務室だ。

 検索で調べた通り金庫を探し鍵を開ける。


「これか?」


 明かりを点けず素早く書類を見て行くが暗視のスキルのおかげでおぼろげだが文字が読める。

 証拠を抜きとると漏れが無いか検索を使うと、取り忘れは無い様だ。

 それにしてもこんな書類持っていたくは無いよな……。このまま宰相補佐の屋敷まで行くか。

 入って来た時と同じく屋敷を出ると宰相補佐が住む屋敷まで走って行き、屋敷に侵入する。


「宰相補佐様、起きて下さい」


「な!? オーナーか」


「これを、依頼品です」


「何!? 早く見せてくれ。……これは確かな物証だ。良く短時間で集めた物だ、依頼したかいがある」


「では私はこれで」


 ほー、これで厄介事は終わった。明日に備えて寝るぞー!




 え!何で宰相補佐が?

 証拠の品を渡してから一月、店に宰相補佐とローブで顔を隠した男が入って来た。


「やあ、オーナー。こないだぶりだね。これはお礼のお金だよ」


 素早く魔法で音を消す。


「今日も話が合ってね。オーナー、国の諜報員にならないかい?」


「いえ、私はこの店のオーナーで満足していますので」


「そうか、困ったな」


 宰相補佐は本当に困ったような顔をしていた。しかし俺は国に飼われる気は無い、面倒くさそうだ。


「君は証拠を掴む為とはいえ貴族の屋敷に侵入し、物を取った。これは立派な窃盗罪だよ」


 ローブを纏った若い男が楽しそうに言って来た。

 ドキっとしつつローブの男を見る。何者だ? 

 ばれない様に検索を使い相手の正体を探る。

 って、おい! マジかよ!

 俺がローブの男の正体に吃驚していると、ローブの男がさらに言葉を続けた。


「諜報員になってくれれば貴族の屋敷に侵入した事も、窃盗した事も不問にするよ。だって国の為の諜報だもの」


 ッグ、こ、こいつ。権力を使って来た。

 俺では権力に対する力は持っていない。しがない一般市民だからな。迷宮都市なら名は知られているがそれまでだ。このまま逃げるか? 逃げる事は出来る。だがそれじゃあお尋ね者だし、この店の皆に迷惑がかかる。


「勿論普段はこの店を運営していてくれて良いよ。情報を優先的に国に上げてくれれば良いかな。ああ、お金はちゃんと払うから」


「グ、仕方ないですね。普段は店で普段道理働きます。何かあったら連絡下さい。あんた腹黒過ぎるだろう、王太子殿下!」


 少し頭に来て言葉遣いが悪くなる。

 クソ、首輪着きか……。


「ははは、褒めても何も出ないよ」


「褒めてないわ!」


「うーん、僕の正体を見破ったその眼力。それに何より僕の正体に気付いてその態度、気にいったよ」


 何だ? 悪寒が!

 この後俺は王太子にこき使われるようになる。

 何だっていうんだ、こんちきしょう!


お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 私は「情報屋」と聞いたら「情報の売買」を想像するため、「検索」スキルによって「情報の販売」だけを行っている本作をとても面白く感じました。 また、今後陰謀蠢く貴族社会に関わっていくことになる…
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