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半端竜と紅い幻想  作者: 紺川 幸
1/4

プロローグ

・・・−−−轟音が鳴り響く・・・−。


「侵入者は何処にいるんだ!!!?」


「不明ですっ!!撃退組からの通信はありません!」


 ドタドタと人が慌ただしく走り回っている音がする・・・−。


「何と言う間の悪さだ・・っ!!これからだと言う時に!!!」


「博士っ!!お逃げ下さい!!侵入者が不明な以上危険です!」


 ー・・・ボーっとする頭の上のあたりで大人二人が何か話している・・−。


「・・・全く!!無粋な連中だ!!これだから頭の悪い奴は・・「博士っ!!」」


「わかっている!!そう急かすな・・・。」


 そのうちの、よく知る一人がおもむろに近づいてきた・・・−。


「−・・すまないね。君との逢瀬はまたの機会になりそうだ・・・。」


 そして、長く真っ白な指で少年の右まぶたのあたりから顎のあたりまでをスルリと撫で上げた・・・。


「・・・君は私の最高傑作だ・・。必ずまた会おう・・−。」


 瞳をうっとりと細めながらそう言うと、二人とも部屋を出て行ってしまった・・・。



 ・・・−どれぐらい経っただろうか・・。二人が出て行ってからあまり経っていない気もするし、

とても長い時間が流れた気もする・・・。最近は時間の流れがあやふやになってきている・・。

・・・もうどーでもいいけど・・。気付けば何かを破壊しているような音が近づいてきている気がする

・・。


  ・・・・・もういっそ、この音の主に全てを終わらせてもらおうか・・。


  ・・−−そうだ・・・どうせこのままここにいても何も変わらない・・・。


  ・・・なら最期に、自分の死に方ぐらい、選んで終わりたい・・・。


 そう思い少年は横たえていた身を起こした。そして長く横たわっていたせいか、何か薬でも打たれたの

かぐるぐると回る視界を戻すため二、三回目を閉じたり開いたりを繰り返した。視界が正常に戻ると、横

たわっていた台の上から落ちるように下におりた。


・・最近栄養を取っていなかったせいか膝が笑い思うように立てなかったが、なんとか周辺のものをつか

んで立ち上がる。そして、ゆっくりとおぼつかない足取りでドアの方に向かう。


・・この混乱のせいなのか、ドアのロックは解除されていたので何の障害もなく部屋を出ることができた。

部屋を出ると見覚えのある廊下はガラスや先ほどまで壁であったであろう破片が散らばっていたが、気に

することなくペタペタと音のする方へ歩いていく。


・・どうせすぐに治るのだ破片が足にささろうが関係ない。


 ゆっくりと、しかし着実に音に近づいていった。音に近づくにつれて、破片や瓦礫が多くなってきたが

気にせずそのまま進むと・・・声が・・・・聞こえてきた。


「ったったのむっ!!たすkr「ヒュンッ」・・」


「っ!?ああああぁぁ!!!?」「ヒュンッ」


 たくさんの悲鳴や泣き叫ぶ声と共に、なにか、空気をさくような音が聞こえる・・・。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」「ビュンッ」


 ・・・ーーどうやら侵入した人のところまでたどり着いたらしい・・・・・・。


 そう思い、ゆっくりと、顔をあげると、目に飛び込んできたのは・・・・・・・・・・・・・・・・。



「・・・っ!?」


 



    

  赤、赤、赤、赤、赤、赤、赤、あか、・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



 ・・・目に痛いほどの赤だった・・・・床や壁だけではなく、天井にまで達した、赤。

 そして次に目にしたのは・・・・・・・・・・・・・・・・・・金色だった・・・・・・・・・。



 ・・・思わず、息をのんだ・・。あまりのその光景の凄惨さに、・・あまりにその、美しさに・・。


 赤黒く、いくつもの肉片が飛び散るなかでも、その金色は一房たりとも汚れてはいなかった・・・。


 ・・・−−体の芯がぞくぞくっと震えた・・。“これ”だ、と思った・・・・。


 この凄惨な空間でも微動だにせず、圧倒的なチカラを見せつける。凄まじい、“暴力”。


 

 ・・・これほどのチカラがあれば・・なにも、失わず、誰にも、奪われない・・・・・・・。



「・・・・ん?」



 ・・少年の息を飲む音が聞こえたようだ・・・。その圧倒的暴力の主がこちらを向いた・・・・・。


 ・・・きれいな人、だった・・。オレの貧相な言葉じゃ言いあらわせないほど・・・・・・。


 ほっそりとした顔のかたちに、スッと通った鼻。まわりの赤よりも、もっと深い紅色の切れ長の瞳。

真っ赤な口紅が塗られた薄く、形の良い唇。赤い軍服を着こなしたしなやかでそれでいて豊満な体つ

き。このような場所でも霞もしないその存在感。


 そして、なによりも目を奪われたのはその、髪の色だった。鮮やかで、とても艶のある金色の髪・・。

その髪はその人の腰のあたりまであり、かるくウェーブがかかっていた。


「・・・坊や、この研究施設の子よね?その右目・・・・・・・・・・。」


 その人の言葉には応えず、周りの状況など気にもせず、ペタペタとその人の近くまで歩いた。

するとその女の人はきょとん、とした目をしてから軽く微笑んだ。



「・・どうしたの?ここはまだ危ないからどこかで隠れていてほしいのだけど・・・。」


「・に・・・・ださい。」


「うん?」


 ・・・少年の声が聞き取れなかったのだろう。彼女は軽く首をかしげながら彼の言葉を待った。

 少年は久しぶりにしゃべったせいでかすれながらも今度ははっきりと声を出した。





「オレに・・戦い方を・・教えてください。」


 今度はちゃんと聞こえたらしい。少し目を見開くとすぐに細めてオレの目を真っ直ぐ見つめた。


「・・・どうして?」


 少年は少しだけ言葉に悩んでからこう応えた。


「・・・・死なないために。」


「・・・・・・・・そう。」


 ・・もう誰かに奪われ、死んだように、人形のようにならないために。そんな思いを籠めた言葉だっ

た。それに応える彼女の言葉は短かったが、何かを感じたようだった。


「・・・あなた、名前は?」


「・・名前・・・」


 物心ついた時からここにいる彼には名前などなかった。大人たちはほとんど話しかけてはこなかった

し、仲間たちも見た目の特徴でお互いを呼び合っていた。少し考えた少年はこう言った。


「・・決まった名前はないので、好きなように呼んでください。」


「うーん・・そうねぇ・・・。」


 彼女は少年の顔をじっと見て、うん。と一人頷いた。決まったようだ。


「・・うん。そうね、じゃあ今日からあなたは“グレイ”と名乗りなさい。」


「・・・ぐれい?」


「そう。あなたの瞳の色よ。少し珍しい色ね。全く彩度が無いはずの無彩色なのに、何故か引き込まれる

・・・。それにその、右目、あなたのじゃないでしょう・・?」


 そう言うと彼女はその綺麗な指で、軽く少年のまぶたの上をなぞった。


「・・グレイ。」


 少年はくすぐったそうに小さく目を細めながら噛みしめるようにつぶやいた・・。

そしてスッと彼女の目を見つめる。そして今度は彼から問いかける。


「・・お姉さんの名前は・・・?」


「・・・ああ。忘れてたわね。」


 うっかりしていた、と小さく笑うと彼女は応えた。


「私の名前はマリア・リュミエール。マリアと呼んでね。」


「マリア・・。」


 微笑みながら言う彼女の言葉をまた、少年は噛みしめた。その様子に彼女は華やかに笑う。


「・・じゃあ、行きましょうか。」


 そう言うと、彼女は踵をかえし振り返らずに真っ直ぐに進んでいく。


「はい。」


 その背中を眩しそうに見つめながら少年は遅れることなくついていく。






 ある日世界中に衝撃が走った。秘密裏にしかし大規

模に行われていた研究施設が終わりを迎えたのだ。そ

こでの研究には、人間、亜人、多種多様な人種が集め

られ、非人道的な実験が行われていたらしい。その研

究施設には関与が疑われる権力者も多く存在し、長ら

く放置されていたようだ。しかし、ある集団によって

その施設はあっけなく幕を閉じ、実験体として捕らわ

れていた子供たちは軍によって保護され、幸せな生活

を送ることを約束された。


しかし、その子供たちの中の一人の少年の記録が抹消されたことを知るものはいない。




そんなことはまるで意に介さず運命は巡り、廻る。


これから起こることなど考えることなく、少年はただひたすらに真っ直ぐと金色の背中を追い続けた・・。

 


   ・・−−ただ真っ直ぐに・・・・・・・・。

 








 


 





主人公最強もの、はじめました。



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