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ザ・シークレットヒーローショー  作者: 夕凪 もぐら
へなちょこマコと悪質なバディ
6/50

硝煙はシャンプーの香りがした

 



 勇気ある後退を気取り、スタコラと敵前逃亡を決め込むぼく。こういった絶妙で最悪なタイミングで見計らったように現れるのは、いつだって椎名さんだ。


「おお、本当に来るとは思わなかった。お姉さん嬉しいよ。まあ、こんなところで立ち話もなんだから、中へ来いよ」


 これまで椎名さんと接してきて、この場を簡単には、逃げられないことは予想がつく。ぼくは長期戦を覚悟した。茶菓子くらいはだしてくださいね。そんなのねーYO。そんなやりとりを終え観念して室内に入る。


 中は薬品の刺激臭がすることも、怪しげな機具で溢れかえっていることもなく、ごくごく一般的ないい匂いもする女の子の部屋だった。


 ピンク色の遮光カーテンに水色のソファー、そしてその水色にちょこんと座るブロンドの女子。彼女の顔はぼくと椎名さんを観ながら引きつっていた。


「しのちゃん。だれ? この人だれ?」

「シャロン。前に話したろ? あたしの相棒」

「マコトって言ってたから女の子の名前だと思った。日本人の名前難しい」


 怪訝な顔のリーダーらしき人物。その視線が交差した。

 

 ずきゅん。


 なんとも恥ずかしい脳内の効果音。その病的にして暴力的なほど美しい容姿。ぼくの胸の真ん中を撃ち抜く銃弾。硝煙はシャンプーの香りがした。


 警戒されたのか、はたまた嫌われたのか、リーダーはマッハ5のスピードで、ソファー陰に隠れる。


「お望みのチームメイトだ。大丈夫、あんたの同類だから怖くない」


 小動物にそうするように、椎名さんは「ちっちっちっ」と舌を三回鳴らし、人差し指で隠れているブロンドのリーダーを呼ぶ。


 身の丈およそ一五〇センチ台後半、髪はシルバーブロンドのセミロングストレート、二重瞼ではあるがそこまで派手な印象はない。椎名さんは美人と言ったが、所謂いわゆる可愛い妹タイプってやつである。


「ええと、チームメイトって、このチームにするの? 気は確かなの? 言い出した私が言うのもなんだけれど、もっと有意義なチームが他にたくさんあるよ」

「ええい。せっかく連れてきたのに追い返すな」

「そっか、しのちゃんがそう言うなら仕方ないね」


 ちょ、ぼくチーム入るなんて言ってない。そう言葉にする暇もなく、あーでもない、こーでもないと、騒ぎ出す女ども。


「シャロン。気をつけな。こいつはね、今朝このあたしがいるにもかかわらず、いきなり着替えだして、ボクサーパンツ一丁になる、札付きの変態だよ。きっとあの後ハァハァ言ってたに決まってる」


 途端ぼくから距離を取り、再びソファーの後ろに隠れるリーダー。違うんだ。その話はそう言うのじゃないんだ。


「さて、そろそろ新生チーム第一回目のミーティング始めるか」


 仕切り出す椎名さん。これじゃ誰がリーダーなんだか解らない。


「まずは自己紹介だな。あたしたちはお互いのことをびっくりするぐらいに知らない。友達未満恋人未満ってやつだ。あたしは椎名 志乃。ここに来る前は軍にいた」


 なるほど。薄々変だと思っていたのだ。如何にここがユナイテッドステイツであるからとはいえ、彼女は銃火器の扱いに慣れ過ぎている節があると思っていたのだ。やはり軍にいたのか。いや軍にいたとしても異常と感じるほどの物ではあるのだが。


「じゃあ次、シャロン。バチッと決めてくれ」

「あ、どうも。えーと、私はシャロン・オールグリーンと言います。人に話せるようことは自慢じゃないけど正直何もない。一応ハーバード飛び級で卒業してるぐらいかな」


 ぐはっ、負けた。ハーバード飛び級は反則だよね。学歴だけが自慢だったのに。


「最後。マコト。初対面だろ?」


 椎名さんはぼくに話を振る。一瞬だけ何を言おうか考え、言葉を吟味し、声という音に変換する。


「マコト・カンダガワと言います。ミズオールグリーン初めまして。実はぼく、そろそろこの情報局を辞めようと思っているんだ」


 しーんと、静まり返る室内。我ながら最低のタイミングでカミングアウトしてしまったような気がする。ぼくともあろう者が、白けた雰囲気の片棒を担いでしまった感が、否めない。


「あ、ごめん。喉とか乾くよねー。ちょっと飲み物持ってくる」


 訊かなかったことにしたのか、シャロン・オールグリーンなる女史は、何くわぬ顔で立ち上がり、玄関の隣にあるキッチンへ向かう。難しい顔をした椎名さんと二人室内に取り残される。


「本気なのか? ここ辞めてどうするつもりなんだ?」

「そうですね。ミュージシャンでも目指してみようかと。こんなにスタイリッシュでカッコいいぼくを、芸能界が放って置くはずがないと思うんです」


 ぼくのその優秀な頭脳は素晴らしい芸術を生み出し、知的な思考は五線譜に乗りメロディとなることであろう。無論幼い頃から勉強ばかりだったぼくは楽器を奏でる事など出来ないが、音楽とは魂で奏でるものではないか。


 頭を駆け巡る未来予想図。バンド結成。口コミで話題となり徐々に伸び始めるセールス。テレビ出演。そこで知り合ったアイドルとの熱愛報道。音楽性の違いによるバンドを電撃脱退。ソロデビュー。美人アナウンサーと結婚。生まれる第一子。不倫スキャンダル。その後ドラッグに溺れ、覚醒剤で捕まるも妻が多額の保釈金を出してくれて仮釈放。


「そしてぼくは家族の愛に気づき、敏腕プロデューサーとして仕事に復帰、八十歳の誕生日、孫たちに囲まれ大往生するのだ」


「ねえ、独り言? それ独り言なのか?」


 そう言って、ため息を吐いたのは椎名さんだった。


「兎に角、ぼくは音楽業界の逸材なので、こんな後ろ暗い仕事はやってられません。だからチームとやらにも参加できない」

「あんたがやる気ないなら仕方ないね」


 言い出したら訊かない椎名さんも、ぼくの熱意に若干諦めムードである。


 その時だ。後ろから殺気を感じた。それはまこと恐ろしい殺気である。しかしだ。その優秀な頭脳がウリなぼくではあるが、実は戦闘にも長けている。先にも述べた通り、幼い頃からやっていた空手で心身共に、鍛錬されている。本気を出せばもの凄く強い。


 そんなエリートで万能なぼくは瞬時に、辺りを見渡す。シャロン・オールグリーンがいない。つまり後ろで感じる殺気は、シャロンの物だ。分析し勝ち誇るぼく。


「フハハハハ-。甘いぞ、シャロン・オールグリーン。ぼくを誰だと思って……ぐはっ」


 振り返りざま、頭に鈍くて強い衝撃。


 薄れていく意識の中、なんとか目を開ければ、金属バットを肩に担いだシャロン・オールグリーンが揺れていた。


「悪いけど、ぐずぐずしてなんかいられないんだな-」


 にんまり笑う彼女を観たが最後、ぼくの視界はゆっくり闇に支配されていく。


 意識を失う直前、ずるずると聴こえるだらしのない音は、恐らく自分が床を引きずられる音だ。


 ああ、女って怖いな。




 

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