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ザ・シークレットヒーローショー  作者: 夕凪 もぐら
へなちょこマコと悪質なバディ
5/50

これは平穏などではない

 



「あたしのチームには、あんたの力が必要なんだ。またあたしと一緒に世のリア充どもに天誅を下そう」


 ぼくらの仕事は世のリア充とは関係がないが、たしかにぼくの有り余る才能はチームとやらに有益になることだろう。十年に一人の逸材だからな。ぼく。まあ、自称だけれども。


「悪いんですけど、先約いるんですよ」


「リーダー……女だぜ。しかもトビキリ美人の」


 それを訊いて、ちょっとだけ揺らぐ自分が嫌だ。おまけに本当は先約などいないのだけれども。友達がいないからな。


「どうせ彼女もいないんだろ?」


「彼女くらいいますよ」


 一〇八人の脳内彼女のことだけれども。


「取り敢えず、一度でいいから、仕事終わったらラディックスストリートの十三番地にある女子寮の二〇三号室に来いよ。リーダーの部屋でミーティングだ。待ってるからな。さもないとあたしの配下、四十七人の刺客があんたを付け狙うぜ」


 嘘だ。配下どころか、彼女には友達さえいない。


 椎名さんと駐輪所で別れ、中央情報局の二〇〇エーカーという広大な敷地を見渡し、四方に目を配らす。まだ人はまばらで静かだ。


 本部のエントランスにあるガラス扉を開け中へ入ると、目の前に大理石の壁があり、こう書かれていた。


『汝、真実を知るべし。真実を知れば真実は汝を自由にする』


 ヨハネの福音書第八章三十二節の引用文。ぼくらの仕事をなんともドラマティックに表現しているが、研修中の身で早くも知ってしまった。……世の中には知らない方がよいことの方が多い。


 ハリウッドの映画なんかでは、ぼくら職場はよく悪者に扱われるが、一応公務員みたいな物なので流石に法に触れることはないと、高を括っていたのだけれど、蓋を開けてみれば後ろ暗いことが、出るわ出るわ、目を覆いたくなる。


 ぼくは頭を振り、雑念を払い除けながらも四階にある総務課の事務所に入る。働かざる者食うべからず。仮採用の身だからといって、本格的にキャンプが始まるまで、訓練ばかりしているわけではない。


 窓際の特等席に座り、窓の外に目をやる。次第に通勤する職員でいっぱいになる駐車場と駐輪場。様々な人種の同僚たちが一斉に入ってくる。途端に騒がしくなる室内。


 仮採用の研修生や先輩職員たちは、始業のベルが鳴るまでの僅かな時間、談話して過ごす。ぼくは一人ノートパソコンを開き仕事に取り掛かる。べ、別に話し相手がいなくて持て余している姿を誰にも観られたくないとか、そんなんじゃない。仕事を早く終わらせたいだけだい。


 とくに誰と絡むわけでもなく、朝礼も終わる。


 窓際族はつらいね……なんて新社会人にして社会の厳しさを学ぶ。実に有意義な新生活。不純異性交遊までの道のりは遠い。


 寝てるんだか起きてるんだかの九時から十時。足にはちょいと自信のあるザ・ファームでの体力テスト。居眠りしていた十一時から十二時。お腹がすいた十二時半。一人ぼっちの昼休憩。上司のカツラが気になった昼下がり。トイレを我慢した終業前。


 いやー。今日も良く学び、よく働いたなー。今日はこれ以上の課題はないので、帰り支度をしていると、研修生の中のお調子者が「今日課題も訓練もないし、今から飲みにいこうぜー」なんて言い出すものだから、皆次々とそれに賛同していく。


 今年度の仮採用組はそこそこ団結力が強い。縁談がダメになった教官の力とも言えよう。そこに『五人組を作れ。余ったらクビ』みたいなイジメの温床になり兼ねない、PTAの人が聴いたら発狂しそうなミッションを与えられたものだから、馴れ合いは増長する。


 どうしよう。ぼくは現在未成年なのだ。アルコールを飲んだことがバレたら、本採用から落とされてしまうかもしれない。


 そんなこんなでどうやって誘いを断ろうか、あれこれ検討していたが、最後まで声が掛かることはなかった。


 うすうす気づいていたけどね。あー、誘われなくてよかった。どうせ断るつもりだったもんね。いやーダーツとか食事とかだったら行ったんだけれどさ。…………ぜんぜん寂しくなんかないからね。


 そうだ。椎名さんに付きまとわれているから、ぼくも彼女のチームとやらに所属していると思われているのかもしれない。


 ぼくはあの言い出したら訊かない我が儘女に一言文句でも言ってやろうかと、チームリーダーとやらの住所に向かう。


 別に『リーダー……女だぜ。しかもトビキリ美人だ』という、椎名さんの言葉が一日中、脳裏にこびりついていたわけではない。断じて違う。


 情報局新米女性職員たちが多く暮らすラデックスストリートの最果て。この辺一帯はアンダーグラウンドに生息する金のない新入女性職員のシャングリラである。


 そしてその中でも一番奥に位置する棟に、椎名さんの言っていた部屋がある。ぼくは坂道を立ち漕ぎで必死に登り、クタクタになりながらたどり着く。


 オートロックもない不用心なエントランスを潜り、階段を登り、扉の前でインターホンを押そうとすると中から、「あああー、にんげんにくい。にんげんにくいぜー。あばばばぁぁぁー」という、とてつもなく残念で、なぜだかどこかで聴いたことがあるような雄叫びが発せられる。椎名さんの声ではない。


 推測するに、これは件のリーダーなる人物が発しているものに違いあるまい。


 ぼくは踵を一八〇度返し、もと来た道に戻ろうとする。今ならまだ引き返せる。人の道に戻れる。冗談じゃない。ぼくは何を期待していたのであろうか。椎名さんの所属するチームのリーダーなど、冥府魔道の魑魅魍魎に決まっているではないか。




  

 


  

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