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ザ・シークレットヒーローショー  作者: 夕凪 もぐら
間章 氏家国友の場合
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間章 氏家 国友2

 



 マサオミは変わった。俺が自分のトレーニングに明け暮れている間に。


 人を殺し、殺し、殺し、殺しつくし、人類最悪と呼ばれるまでになっていた。殺し屋としてのみを取り上げれば、殺しに興味を失った俺の遥か上をいくことであろう。マサオミにはそれくらいの才能があった。当初からこの常軌を逸した狂気に気づいていたなら、俺はあの時、マサオミを殺していたことであろう。今となってしまえば、俺にとってどうでもいいことである。


 今回の仕事もチョロい。ただマサオミが小汚いヤクザと手を組んだのだが、マサオミはなぜかホストという立場を取り、俺がマサオミのボディガードをしている。


 そういえば先日マサオミの指示で戦ったメガネの小僧、洗練はされていないものの、どこはかとなく遠藤清虎の動きに似ていた気がする。


 そんなことを考えていた矢先、その当事者である小僧が、ホストクラブハーデスの扉を開ける。金髪の女と一緒だ。俺はバックヤードから、その様子を伺う。


 彼に掛けられる全ての声をスルーして、一直線に一番奥にあるビップ席に向かう。マサオミの席だ。


「マサオミさん。ちょっとツラ貸してくれませんかね」


「だれぇー? この子」


「ははは、ウチの期待の新人だ。マユミ呼ばれたのでちょっと行ってくるよ」


 あっさりと笑顔で誘いに乗るマサオミ。余裕なのであろう。


「それにしても能美さんはばらしたって言っていたんだけど、まさか幽霊か?」


 店を出て軽口を叩きながら連れ出す裏路地。ひと気はない。俺はゆっくりとマサオミの後ろについていき、ここぞとばかりに前にでる。


「つるっぱげ、悪いけどあんたには勝てる気がしない。二人掛かりだ」


 彼は言うとそれを隣の女が止める、直ぐに否定する。


一対一サシでいいよ」


 ぽきぽきと拳を鳴らす女。笑わせてくれる。


「ばかばか、いくら椎名さんでもこいつは無理ですって。次元が違う」

「面白い。マサオミ。手を出すなよ」


 やれやれと言った顔で首を傾げるマサオミ。育ての親の顔が見てみたい。


「おい、女。俺は二人掛かりで構わない。銃を使ってもいい」


 女はまるで俺が可笑しなことでも言っているかのような、小馬鹿にした表情で鼻を鳴らす。


「ステゴロでいいよ」


 にぃっ、と歯を剥いて女が、笑った瞬間、俺の全身が毛羽立つ。この感覚、久しぶりだ。彼女は間違いない。戦士だ。


「失礼。見た目に惑わされるところだった。俺が悪かった。女、名を訊いてもいいか?」

「椎名志乃。あんたは?」

「氏家国友だ。手加減はしない。全力をもってお前を屍に変えよう」


 俺はこの拳で何百人と殺してきた。本気を出せる相手など両手で数えるほどだった。彼女は強い。間違いなく。血沸き肉踊るとはまさにこのことだ。


「いざ」


 俺は攻防一体の構えを取る。ボクシングで言うところのピーカブースタイルだ。小刻みにフットワークする。


「マコトから訊いたよ。霊長類の中で二番目に強いんだってね」


 俺の天下無双の必勝パターンはスピードにある。だが彼女は俺の繰り出す攻撃を全てスレスレで躱す。まさかここまでとは。


 しかし、この時はまだ自分が敗北するとは夢にも思っていなかった。


 大きなモーションから彼女の拳が俺に迫る。隙だらけだ。なのに避けようとした俺の躰は動かない。否、動くより先に、既に彼女の拳は俺の鼻面にあったのだ。


 遠藤清虎に負けた。あれから俺は血の滲むようなトレーニングの果て、更に強靭な肉体を手に入れた。


 しかし俺は飽くまでも霊長類であった。化物に叶う筈がない。


 時速百キロで走るダンプカーに正面衝突されたような衝撃。俺は遥か後方に吹き飛ぶ。まさに一蹴。俺では化物の前に立ちはだかるには、役者が足りなかった。


 薄れていく意識の中、清々しい気持ちだった。ああ、こんなにも俺より強いやつはいるのだ。



 

 

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