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ザ・シークレットヒーローショー  作者: 夕凪 もぐら
間章 氏家国友の場合
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間章 氏家 国友1

 



 俺は日本の裕福な家庭で生まれ、何不自由なく暮らしていた。


 そんな俺に転機が訪れたのは七歳の時。父と母そして俺の家族三人で海外に旅行に来ていた。古い記憶だが鮮明に覚えている。


 今にして思えば場所が良くなかった。それに母が気がつくべきだった。母と俺はシリアの国境付近で数人の男に囲まれていた。面白半分に暴力を振るわれ、七歳の俺の眼の前で母は男たちに犯され、殺された。


 まだ幼い俺は男たちに拾われ、そのままゲリラの兵士として訓練を義務付けられた。後に訊くところによれば、旅行自体が、俺と俺の母を殺害する父の殺害計画であった。父は地元ゲリラに日本人のサラリーマン一月分程の謝礼を払い、そして何一つ手を汚さずして帰国後多額の保険金を受け取ったそうだ。


 彼らは手慣れていて、幼い俺の心がギリギリのところで壊れない様に、パイプを俺に与え紫色の煙を吸わせた。咳き込みながらも俺の感情は徐々に麻痺していった。


 銃を取り戦闘を初めてしたのが九歳の時、男たちに羽交い締めにされ、先端をオイルライターで炙って殺菌した一本の注射を打たれる。これを打つと不安や緊張が無くなり、背筋がすーすーして、数日間寝なくても、数日間何も食べなくても平気だった。欠点は勃たなくなること。


 夜は毎晩取っ替え引っ替え俺は男たちに犯された。俺もいくつもの村を焼き払い、捕まえた女を犯しては殺し、郷に入れば郷に従った。


 麻痺した脳神経のギリギリのところで、俺は母の顔を覚えていた。俺は強くなった。この部隊の誰もが勝てない程に。


 ある日、母を犯した男を殺し、そして部隊を皆殺しにした。すっかり馴染んでしまっていたが、俺の脳髄は、そして本能は、復讐すべき相手を覚えていたのだ。


 部隊が貯めていた端た金を奪い、そして俺は日本に帰国する。もう一人殺すべき相手がいる。父だ。


 俺は日本の裏社会から手を回し、ありとあらゆる方法を駆使して、やっとの思いで父の居場所を突き止める。そして驚愕する。やつはあろうことか、新しい家庭を築いていたのだ。子供までいた。幸せそうだった。


 俺は白昼堂々、彼が買ったであろうマイホームに侵入して、彼を結婚相手の眼の前で惨殺した。そして次にその結婚相手に手を掛ける。子供の眼の前で犯してやろうかと思ったが、それだけは出来なかった。


 俺は自分がされたと同じく、その子供を連れていくことにした。


 自分の名字が不愉快で俺は母の旧姓氏家を名乗り、子供には俺が殺した母親の旧姓馬場を名乗らせた。後から知った話ではあるが、彼は彼の母親の連れ子でどうやら俺とは血が繋がっていないのが、救いであった。


 目的を失った俺は途方に暮れ、馬場に殺しの手解きをした。彼は真綿が水を吸うように飲み込みが早く、また俺と違って頭が切れた。


 そして俺自身は裏稼業で生計を立てると共に、自分より強い人間を探した。


 新宿にある裏賭博の地下闘技場では、アルティメット総合格闘技の世界チャンプを一蹴。仕事で敵に回した機関銃を構えた福建マフィアだって全て殴り殺した。


 もう俺に敵はいない。もう俺にはマサオミを一人前の殺し屋に育てること以外に生きる意味などない。そう思っていた。


 そんなある日のこと。


 登録していた裏賭博の地下闘技場からお呼びが掛かった。珍しい。俺は相手を殺しちまうし、そもそも試合にならないから、このところお呼びが掛かることなんてなかったのに。俺は軽く運動でもするつもりで、部屋を出る。


 俺が会場入りすれば、チャンプの登場に湧く観客たち。政治家や著名人だっている。薄汚い連中だ。


 青コーナーより現れたのは、ボロボロの道着を着た冴えない中年であった。遠藤清虎。訊いたことのない名であった。


「あんた。まあまあ強そうだな」


 へらへらと食えない笑みを浮かべる気持ちの悪い男であった。


 そして鳴るゴング。やつは独特の歩法を使い間合いを詰める。古武術の一種であろうか。ちょこちょこと小煩いハエを叩き落そうと、俺は攻めるがギリギリのところで躱されてしまう。


 いいだろう。認めよう。こいつは弱くない。


 俺は本気を出そうと少し間合いを取り構える。彼もまた独特のすり足を止め、構えを取る。


「俺は空手家だ。なあ、あんた空手の真髄って知ってるか?」


 よく試合中によく喋る男であった。俺は無視する。


「一撃必殺さ」


 やつは動いた。俺はやつの当て身を予想しカウンターを狙う。……が、来ない。タイミングを崩した俺の力ない拳は当然やつに当たることなく避けられる。そして決められるクロスカウンター。


 一ラウンド三十秒。生まれて初めての敗北であった。





 俺はその日から生きる意味を取り戻した。遠藤清虎、やつに勝つために、血の滲むようなトレーニングを再開する。



 


 



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