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ザ・シークレットヒーローショー  作者: 夕凪 もぐら
へなちょこマコと最愛の怪盗
36/50

アケミとルーシーとスズ



 二度目のクラブオルフェウス。繁華街のネオンは一つまた一つと光りを灯していく。


 しかし肝心のオルフェウスは、まるで店休のように暗いままだ。


 店の前で椎名さんと待ち合わせだが、一向に彼女は来ない。


 店は開かない。椎名さんは来ない。そんなどうしようもない状況に根気のないぼくは意を決して、店の木製扉の鍵穴にピッキングを試みる。専用のツールを差し込み、内部の凹凸の感触を瞬時にイメージし、ツールを変えること数分、景気のよい音と共に開錠される。ザ・ファームでの訓練が久しぶりに役に立つ。


 次にセキュリティーシステム。某警備会社のステッカーが貼ってあるので、なんらかのセンサーが発報する可能性が高い。扉の周りを見渡すとインターホンの隣に、五センチ四方のディスプレイが付いた小さな端末が壁に埋め込まれている。


 ぼくはカバーをはずして、中の基盤に刺さった配線のコネクターを一本抜き、バッグから出した簡易型のスタンガンをコネクターの金属部分にあててショートさせ、解除ささセキリティを解除させる。


 次はカメラと……見渡すが幸にして作動しているカメラは一台もない。準備は整いぼくは恐る恐る重たい扉を開ける。薄暗い店内はむせ返る嫌な臭いで満ち溢れていた。


 何の臭いであろうか?


 そんなことに意識を取られながら、赤いカーペットの上を歩くぼく。無造作に置かれた何かに躓く。こんなところに何が……躓いたそれを見たぼくは、口を押さえた。


 そこにあったのは黒服の支配人の死体だ。


 店内に充満していたのは、この黒服の死体の臭い。彼はホステスもボーイもいない暗い店内で一人孤独に死んでいたのだ。胃液やら何やらが込み上げてくるものだと思っていたがそうでもない。中東の任務で慣れすぎていた。


 不意に背中に何か固い物を押し当てられる。ぼくは一流の工作員だから、それが物騒な物だってすぐにわかる。


「あれー。お兄さんまた私に会いに来てくれたのかな?」


 少年のような少女のような、ハスキーで魅惑的な声。


「ああ、そうなんだ。だけど今日営業してないみたいだから帰るよ」


 背中に突き付けられた固い物体。ぼくは両手をあげる。香水の臭いが死体の異臭に混じる。


「相変わらずつれないなあ。お兄さんは」


「勘弁してくれ……アケミ」


 ぼくの背中に当てられた拳銃は、そのジャケット越しの質感さえも禍々しい。


 クラブオルフェウスにて、死体を見つけて後ろからキャバ嬢のアケミに銃を突き付けられるぼく。しかしその銃が火を吹くことはなく、すぐに下ろされる。


「まったく薄情ね。まだ私が誰なのかわからない?」


 安全を確認して振り返るぼく。緊張はまだ解かない方が身のためだ。そして彼女を見る……見るが見れば見るほど心当たりが見つからない。


「ルーシーよ。ルーシー・ホァン……ラングレーのアジア料理店でキスした仲でしょ」


 ああ、そう言えば見たことのあるような鼻筋。たしか椎名さんと旧知で怪盗とかいっていたあの。


 そこまで言うとキャミソールの怪盗は、テーブルに置いたシャンパンをラッパ飲みし始める。


「まこちゃん。あの時、私はあんたに会いに行ったんだよ。いい加減気づけよ。スズだよ。スズ」


 酔わなきゃこんなこと言えますかってな、具合に豪快にシャンパンを一気にあおる怪盗は、意味不明なことをピンクのラメの入ったクチバシで何度も口走る。


 スズ? スズって誰だ。脳内にカラカラとペダルが回る音がして、あの日の記憶が甦る。


 いや、嘘だ。彼女が、くせ毛を無理矢理に押さえ付けた引っ詰め髪で、分厚い便底眼鏡を掛けて、無感情で愛想のない委員長のスズであるはずがないのだ。そもそも骨格が違う。


「えーい悪党め。ぼくは騙されないぞ」

「ふふふ、スタイルいいでしょー」


 偽スズはぼくに肩を見せる。薔薇のタトゥーが彫られている。


「スズにタトゥーなどない」


「三年前、胸を大きくしたのね。その手術した医者が下手くそでね。普通なら脇の下から切って手術するんだけど、誤って肩まで傷が残ってしまったの」


「スズはそんなにスタイル良くない」


「ダイエット頑張ったもの」


……


「スズはくせっ毛だよ」


「縮毛矯正ってやつよ」


……


「スズは……そんなに人と上手くコミュニケーションをとれない」


「そうね。貴方の知っている貧乳の深津ふかつスズはもう死んだわ。私は生まれ変わったのよ」


 胸を大きくしてしまってから、彼女は人格まで変わってしまった。もうぼくの知っているスズはどこにもいないようだ。なぜあの時、声を掛けてくれなかったのか、なぜ戦わなくてはいけなかったのか、なぜシャロンを狙っていたのか、わけがわからない。


 唯一の救い。ぼくはそれに気づいた。その端正で綺麗な形の鼻は、そのままの形で残っているのだ。


「何よ。昔の友だちが綺麗になったんだから、素直に褒めなさいよ」


 『昔の』って部分がどこか寂しかった。


「それでさ、まこちゃんたちはこの女を探してるんでしょ?」


 怪盗は前にぼくから奪った写真を出す。


「秘密だ」


 適当にはぐらかしても意味などさほどない。


「まあ、どうでもいいわ。私もね、この女追っているんだけど、私はこの女自体にさほど用はないの。用があるのはこの女の裏にいる能美っていう男」


「つまり?」


「ねえ、まこちゃん? 私たちの利害関係って一致していると思わない?」


 長い睫毛をばさばさと瞬かせる怪盗。


 正直椎名さんは行方不明、マリーさんは役立たず。ぼくに断る理由などあるはずがないのだが、今のこの目の前にいる怪盗を信じて良いものなのか。


 きっとこの怪盗は、呼吸するように嘘をつく。嘘が誰よりも嫌いだったスズなのに。


「わかったよ。共同戦線を張ろう」


 それでも結局弱いぼくは怪盗の……否、最愛の幼馴染、深津スズの誘いを断ることはできなかった。男は未練がましいものだ。


「じゃあね、まず潜入して欲しい場所があるんだけど」


「その前に一つ教えてくれ。そこに倒れている黒服……誰が何のために殺した?」


 話の腰を折られて面食らった表情の怪盗。彼女は少しだけ不機嫌な声で答える。


「能美の側近で馬場ばば 雅臣まさおみって男よ。いい? この男とあともう一人氏家うじいえと言う大男とだけは関わっちゃいけない」


 馬場雅臣、国籍不明、既に世界の要人数百人を殺した、人類最悪の殺し屋と怪盗は言う。氏家国友、日本国籍、地球上で二番目に強い霊長類と怪盗は言う。


「二番目? 一番は誰さ」


 ぼくは心当たりがあるにも関わらず問う。女盗賊は何も返事をしない。




 



 


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