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ザ・シークレットヒーローショー  作者: 夕凪 もぐら
へなちょこマコと最愛の怪盗
33/50

キャバクラへ行こう

 



 昔から時間を潰すのが苦手だった。


 東日本有数の歓楽街は、昼間もにぎやかな喧騒が辺りを埋めつくす。


 手がかりは、マダムパンサーほ写る写真と、島田組という物騒なキーワードだけ。


 きらびやかな夜とはまた違う、忙しない街並み。行き急いぐ人々が交差点を行き交う。


 ジャパニーズマフィアの事情なんて誰に訊いていいものやら、兎に角ただ漆黒を待つ。


 ただ一人、宛てもないままに歩く、小汚い路地裏。人込みが嫌いだからなのか、罪人としての性なのか、人目が落ち着かない。


 ただ一人歩く……何かを忘れている気がする。


 ただ一人歩く……その何かについて思いを巡らそうとしたところで、バッグに入れたスマートフォンから着信音が鳴り響く。


 取り出す携帯電話。未登録の番号がディスプレイに表示される。ぼくは辺りを見渡し、緊張しながらその電話にでる。


「だれだ」


『だれだじゃないでしょ。ちゃんと登録してね。マリーの番号』


 なんだ。マリーさんか。


「はいはい、登録しておきますよ。それで? 何かありました?」


 吐きたくもない溜め息が自動でこぼれてしまうぼく。失礼な話かもしれないがマリーさんの声を聴くと気分が滅入るのだ。


『帰るのいつ頃になるのかなと思ってさ……まこくんミス椎名とばっかり遊んでて、ちっともマリーのこと構ってくれないからさ。ゴシップガールは構ってくれないと死んじゃうんだぞ』


 電話の向こうの愛らしいマリーさん。いや、騙されてはいけない。この人これでラングレーで出会った魑魅魍魎の中でも一番タチが悪い人物なのだ。


『えーと、寂しいからお店閉めてマリーもそっちに行くね。店の売り上げ使ってタクシーで』


 何から突っ込めばいいのであろう? 結局店を閉めてしまうことであろうか? はたまた車で片道数時間かかる、桃源町にタクシーでくるところであろうか?


「いやいいっすよ。ちょちょっと情報集めて帰りますから」

『もう無理。タクシー呼んじゃったから』

「そうだ。島田組について何か知らないすか? マリーさん裏社会のこと詳しそうだし。情報がそれしかないんです」

『島田組? それなんの情報だか知らないけれども、桃源町の風俗店および飲食店の過半数が島田組の息がかかっている。桃源町イコール島田組と言ってもいいよ』


 あらら、どうやら渡されたのは広範囲過ぎるヒントだったようだ。それこそ地図の代わりに地球儀を渡されたようなものだった。


『兎に角、急ぐよ』

「いいですよ。来なくて」

『なんでまこくんは何時もそうつれないこと言うのかなー。ミノルはもうちょいフランクだったよ』

「だったらミノルの処に行けばいいですよーだ」


 そういって電話を切る。登録はしない。


 風俗店か。ぼくは財布を開ける。そこにはニッコリ笑う福沢諭吉が六枚。もう少しもってくればよかった。




☆ ☆ ☆



 アズールの空は、その深い蒼を徐々に失い、どっぷりと闇が支配していく。


 それに反比例するかのように、街のネオンたちは一つ、また一つと光を灯して、その宝石のような人工的な光はきらびやかで、空の星さえ見えなくなる。


 それまで何もしなかったわけではない。


 組関係の事務所を探しだし、その近隣に聳える雑居ビルの七階、『クラブオルフェウス』の看板を前に生唾を飲み込む。


 事前の聞き込み調査によれば日本ではこの形態のパブをキャバクラと呼び、キャバ嬢と呼ばれる女子たちを侍らせてお酒を飲む、まことけしからん場所である。


 我が母国ジャパーンはいつから大和の御霊を捨て、こんな破廉恥な趣向になったのであろうか。兎にも角にも中へ行かねば話にならない。


 ワンセット二万円。


 かなり割高だが、聞き込んだ情報の中では、組関係者がもっとも出入りしている店である。


 ぼくは女が苦手だ。しか-し、これも情報収集のためだ。これは仕方のないことなのである。


 勇気を出してぼくは店舗の洒落た木製扉を開ける。学問のすゝめを提唱する諭吉くんを六枚握り締めて。


『クラブオルフェウス』


 その薄暗い店内に敷かれた赤いカーペット。少し低めに設定されたエアコンの温度と。鼻につく様々な香水の混じりあったむせ返る臭い。


 別に緊張などしているわけではない。ただ女が苦手なだけ。本当はいやでいやで仕方がないのだ。


 ボーイに案内された席は、広いフロアの隅っこで、店内を見渡せば様々な客層が得意げに自分の話ばかりを、人形みたいなキャバ嬢に話している。


 なに? ここ? 何するところなのかわからない。


「お隣り失礼します。アケミです」


 突然黒髪の美女がぼくに頭を下げる。細い手がぼくにおしぼりを渡し、手を拭き終わったおしぼりを返すと、綺麗に折りたたみ名刺を渡される。


 アケミと書かれた名刺を読んでいると、まるで密着するようにぼくの隣に座るキャバ嬢のアケミ。


 正面の席には、誰もいないのに、わざわざ狭い隣に座るカルチャーショック。


 ぜんぜん女には興味無いが、ぼくの隣に座ったのは途轍もなく美しい女だった。シャロンごめん。ぼく日本で浮気するかも。


 鮮やかな黒髪をアップにして、きらびやかな露出の多いドレスと髪の間に、白いうなじが見える。


 うなじ同様の白。腕だったり足だったり胸元だったり、その透き通るような白は薄暗い店内でも眩しいほどだ。


 そして何より印象的なのは鼻。その白く小さな顔に、綺麗に整った鼻筋は、彼女が西洋人なのか東洋人なのかさえも不詳にさせる。


「どうしたの? そんなにジロジロみちゃて? 私変かな」


 何も言えないぼくは、首を横に振る。


「ごめん。ぼくは人探しに来たんだ」


 やっとの思いで、言葉を紡ぎ、懐から例の写真を取り出す。


 アケミはぼくの手から、手と手を絡めるようにゆっくりと写真を取り、数秒間それを眺める。


「こちらこそごめんね。せっかく来てくれたのに。ちょっとわからない」


 写真をぼくに返して、微笑む。悪意を感じない柔らかな笑み。


「そんなことより、お兄さん。せっかくだから飲もうよ」


 グラスに注がれる、ハウスボトルのブランデーとミネラルウォーター。



 



 

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