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ザ・シークレットヒーローショー  作者: 夕凪 もぐら
へなちょこマコと最愛の怪盗
31/50

ホールインワン

 



 こんな朝早くからオープンするエロショップ。一体ダレトクなのであろうか。本日も午前より猥褻物を陳列するシークレットヒーローショーはオープンする。


 シークレットヒーローショーって、秘密の英雄譚を補助する猥褻物を売る店って意味なのであろうか。


「夜からマリーくるからさ、そしたらあたしとお泊りデートだ。喜べ」


 露骨に嫌な顔をするとこの人本当に傷つくので、適当に肯定して店の掃除を始め、昨日入荷したばかりのDVDをレーベル順に並べていく。巨乳、セーラー、その他諸々、精神衛生上よろしくない職場である。


「お泊りデートってどこか行くんですか?」

「ちょいとエージェントと会う手筈になってるんだ。桃源町に行く」


 椎名さんは金庫から硬貨をバラしてレジに入れる。桃源町とは随分遠い。ぼくの記憶では東の歓楽街である。車で高速を使ってもざっと二時間は掛かると予想される。日本に着いたばかりなのに、なんと人使いが荒いことだ。


 昼になったが一人として客が来ることもなく、これではぼくらの人件費のが高く付くことにマリーさんは気づいているのであろうか。あの人、頭良いふりして、あまり物事を深く考えないからな。


 そんな物思いに耽る昼休憩。ジャパニーズどん兵衛をお箸で啜り、コンビニのシャケおにぎりをかじる。やっぱぼくにも日本人の血が流れているんだな。美味しいや。


 厳しかった父を思い出す。今思えばあの人何者だったのであろうか。ずっと変だと思っていた。幼いぼくとミノルは世界最強の格闘家に預けられたり、スタンフォードを飛び級できるようなカリキュラムを学ばされたり。もしかして母さんは情報局の人間で親父に近づいたスパイだったのかもしれない。


 昼食を食べ終え店内に戻ると椎名さんが悪戦苦闘していた。


 椎名さんは相変わらず乙女で店に並ぶ猥褻物の殆どを直視さえできないので、粗方ぼくが殆どの仕事をこなす。マリーさん大変だっただろうな。


 夕方になると派手な格好でマリーさんが出勤してくる。ブルーのキャップに丈の短いティーシャツ。へそが観え隠れしている。デニム生地のホットパンツから日に焼けた健康的な脚が二本伸び、ヒールの高いサンダルを履いているを足の指にはカラフルなジェルネイル。ジャラジャラ光るブレスレットが眩しい。


「んじゃ、同棲二日目にしていきなり悪いけど、ちょっとした新婚旅行だと思って行ってきてよ。店番はマリーしておくから」


 流暢な日本語で話すマリーさんは億劫そうに言う。


「早く帰って来てね。まこくんは新商品のテスターやってもらうんだから」

「ちょ、マリーさん訊いてないです。何ですか新商品って」

「それは帰ってからのお楽しみ。大丈夫ちゃんとマリーが手伝ってあげるから」


 そう言ったマリーさんは妖艶に微笑む。東洋人なのか西洋人なのかも不詳な笑みにゾッとする。この人いちいちエロいんだよなー。


「早く行くぞ。マコト」


 マリーさんとイチャイチャしていると不機嫌になる椎名さん。本当モテる男は辛いですね。ぼくは「楽しみにしておきます」とマリーさんに相槌を打って椎名さんと店を出る。


「運転よろしくな」

「言うと思いました。晩飯、奮発してくださいよ」





 



「へぇー、そのエージェントとは、直接会うの初めてなんですね。珍しいケースだ」

「信用できるか、まだ見定め中ってとこさ」


 休む間もなく、出発したぼくと椎名さん。ぼくは助手席に椎名さんを乗せて、東の歓楽街『桃源町』とやらへ向かう。


 明日の朝九時にその協力者エージェントと会うそうだ。


「せっかく今夜こそピザでも取ろうと思ってたのに、気分が台なしです。晩飯奮発してくださいね」


 高速インターを降り、帰宅ラッシュの国道で渋滞に捕まる。イライラとハンドルを指でトントン叩いてはリズムを取り、またそれにいらつく。


「しかしこの車暑いなぁ。エアコン付けたらどうだ?」

「壊れて動かない」


 中古で買ったポンコツプジョーに座るぼくの心拍数は椎名さんの言葉で更に上がる。


 結局桃源町付近に着いたのは、夜の十一時過ぎで、開いてる店は居酒屋なる日本版パブの様なところしかなかった。


「スコッチあるかな?」

「さあ」


 十一時を過ぎているにもかかわらず、活気のある店内。


 おしぼりを持ってきた店員にスコッチがあるか訊くが、無いと即答され渋々椎名さんはジャパニーズ焼酎を頼む。


 その飲むペースの早さは尋常ではなく、高々数十分で三本の瓶を飲み干してしまう。


「マコトお前も飲めよ」

「いや、ぼくは運転があるから」

「なさけない。嗚呼なさけない。だからあんたはいつまでたっても二流スパイなんだよ」


 すっかり出来上がってクダを撒く椎名さん。大袈裟な身振り手振りが鼻につく。正直付き合ってられない。


「あたしが若い頃はな。あれはデルタフォースでまだ駆け出しの頃のミッションだった」


 いよいよ武勇伝を語りだした椎名さんは、最早手におえない。結局飲みに飲んだ相棒は、途中でぶっ倒れて、ぼくがおぶって店をでる。


 駅前にまるで西洋のお城みたいなピンクのモーテルがあったので部屋を取る。ホテル・ホールインワン。


 室内はキングサイズのベッドが一つ。日本にいたのは小学生までだったがこう言うモーテルめいたホテルをなんと呼んだか。ら、ら、ら、ラブホテル?


 なるほど。ラブなホテルでホールにインなわけですな。こりゃ巧い。さすが落語が文化な我が母国。いちいち鬱陶しいネーミングセンスだぜ。まあ、シークレットヒーローショーよりはマシか。


 贅沢も言っていられないので、ベッドに椎名さんを適当に乱暴に心を込めて放り投げる。


 ごろごろと二転三転して、肩やら肘やら足が変な角度に曲がっているが、ぼくは男の子だから細かいことは気にしないように努める。


 さて、ぼくもシャワーでも浴びて寝るか。


 明日はエージェントに会うのか。人付き合いが苦手なぼく。緊張しないわけでもない。


 椎名さんが何か寝言を言っているが気にせず、着替えを出してバスルームへ向かう。




  

 

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