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ザ・シークレットヒーローショー  作者: 夕凪 もぐら
へなちょこマコと最愛の怪盗
29/50

極東の小さなアダルトショップ

 


☆ ☆ ☆



 快適に飛ばす環状線。初めて走る日本の国道。不機嫌そうにぼくの愛車のプジョーの助手席に座る椎名さん。


「無茶苦茶だな」

「そう言わないでくださいって。今夜はピザでもとりましょう。奢りますよ」

「車いつの間に買ったんだ?」

「向こうでは全然金使いませんでしたから貯まっちゃって」

「悪人みたいな顔してるぜ」

「悪人ですもの」

「まあ、あたしもそろそろカップ麺に飽きてたところだし、嬉しいんだけどさ」


 それにしても椎名さんの案内するアジトとやらは中々辿り着かない。ぼくをどこへ連れて行くきなのであろうか。


「向こうじゃ、かなり言わしてたらしいじゃん。モサドのやつらがお前のことアメリカのヒナドリって呼んでたぜ」

「ちょ、それぼくの黒歴史になりそうなんで、あんまし広めないでくださいね」


 本部の上司が優雅にティータイムを過ごしている頃、ぼくは灼熱の砂漠で、神に使えるイスラムの戦士たちと死のダンスを踊っていた。


「向こうで雇ったエージェントを二人亡くしました。一人は家族がいて、一人は一緒に酒を飲むいいやつでした」

「へぇー、酒なんか飲むようになったんだな。大人じゃん」

「ぼくのミスで二人は死にました。家族をもつ方のエージェントはインターネットの動画サイトで公開処刑されました」

「ああ、知ってる。それでその後、お前がそのテロ組織を一人で皆殺しにしたことも」

「最初からそうしておけば、だれも犠牲にならずに済んだのに、ぼくは本当にダメなやつですね」

「ああ、そうだな。だからあたしがいないとダメだな」


 メビウスの輪みたいな環状線は、自分自身に出口のない自問自答を繰り返させる。椎名さんがいてよかった。


「あ、新須賀町あらすかちょう入ったな。新須賀劇場ビルの交差点を右な」


 ぼくが子供の頃からあった劇場ビルは今も尚ここにあった。ずいぶん街並みは変わってしまったが、変わらない僅かな面影にノスタルジックを感じてしまう。


 劇場ビル、時計塔ビル、泡沫城の三つの建造物を、地元に住む者は新須賀トライアングルといい、商店街となっている。幼き日ミノルと共に、憎き父に連れられてよく来ていた。


「懐かしいのか? 元々この辺に住んでたらしいじゃん」

「ええ、まさか任地がこの辺りなんて思いませんでした」

「東アジア支部の拠点のひとつだからな。この辺りは。さて劇場ビルの裏に車付けてくれ。駐車場はないけど、この辺は駐禁とられないから」


 劇場の裏には大きな廃棄されたバスが置き去りにされていて、その後ろに愛車を停車。車を降りた椎名さんに続き、劇場ビルの傍にある怪しい雑居ビルに足を踏み込む。


「オフィシャルでないあたしたちにも表向きの身分ってやつが必要だからな。あたしとあんたはここの従業員ということになる」


 そう言いながら乗り込むエレベーター。椎名さんは何も書かれていない五階のボタンを押す。ちなみに四階と六階は性風俗店である。なんだか本屋で例えるとエロ本とエロ本の間に、もっとヤバイ物を隠してレジに向かうような心境である。なんのこっちゃ。


 ちーん、となんとも安っぽい音が響きエレベーターのドアが開く。想像以上に明るい照明。辿り着いた目的地に絶句。


「ようこそ。こちらアダルトショップ『シークレットヒーローショー』でーす」


 どうやらエロ本の例えは色んな意味で間違っていなかったらしい。


「そして、こちらにおわすお方がこの店の店長だ。挨拶しとけよ」


 レジには髪をアップにした細身の女性の後ろ姿。ぞわぞわっと全身に鳥肌が立ち、脳内からけたたましい警鐘が鳴り響く。


 『きけん、きけん』胸の鼓動が止まない。


「おい、マリー。マコト連れてきたぞー」

「遅いよ。ミス椎名。あんたがいないとマリーがシフト出ずっぱりになるんだからね。あ、まこくん久しぶり。堅い話は後にして制服用意しておいたから、これ早く着て来て。そしてマリーと変わって」


 あんたFBIじゃなかったのかよ!


 そんな簡単なツッコミさえ入れることはできなかった。





 制服は半袖のシャツとスラックスに変な色のエプロンだけだった。


「ああ、まこくん似合う似合う。さすがミノルのお兄ちゃんだね。スタイルいいじゃん」

「なんかひょろひょろで弱そうじゃん」

「いや、えっとすいませんけど、いい加減この仕打ちの説明をしてもらえませんか?」


 キョトンとするマリーさん。椎名さんと目を合わす。


「働かざるもの食うべからずだよ。任務がない時はここでの給金のみの生活になるからね。じゃんじゃん働いてー。ちなみに全然売れないのだけれど」


 マリーさんはほれほれと言いながら、商品であるアダルトグッズのスイッチを入れヴゥイーーンヴゥイーーンと動かしぼくに見せてくれた。あちゃーな映像である。それに売れないのは当然である。こんな美人店員二人の前で大人の玩具を買える勇者などいないであろう。客に同情する。


「こいつの選ぶ商材っていつも微妙なんだよ。上海のミッションの時なんてドリアンだぜ。やってらんねーよな」

「こいつって言うな男女」

「ああ、もうお願いなんで喧嘩しないでくださいよ」


 泣く泣くぼくは店頭に立つ。あとはミス椎名に色々教えて貰っておいてー。と、タイムカードを切って足早に店を出て行くマリーさん。




 

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