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ザ・シークレットヒーローショー  作者: 夕凪 もぐら
へなちょこマコと意地悪ゴシップガール
22/50

狙撃

 



 何台ものパトカーが停まっていたのは見覚えのある地味な建物。それはシャロンの住むアパートだった。少し遅れて救急車も来る。母国日本のものと比べずいぶん無骨なデザインである。


 まさか。嫌な予感がした。


 パトカーから降りた州警察と話していたのは我が弟、神田川実。どうしようもなく嫌な予感がした。


 止めどなく降る粉雪はぼくと椎名さんの肩にのしかかり、背中を少し重たくさせ、真実を知ることを面倒にさせる。


 ミノルはぼくと椎名さんに気づくとすぐさま警官を押しのけかけ寄ってくる。呼吸は荒く、顔は酷く焦燥しているように見える。


「シャロンが狙撃された」


 救急隊員は簡易なタンカに人を乗せ、シャロンの部屋から出てきた。嫌な予感はとは当たるものでそのタンカに乗っているのはシャロンだ。遠目であるが見間違えることはない。左腹部あたりから多量の血を流している。



☆ ☆ ☆



 シャロンが目を覚ましたのは次の日の夕方だった。ぼくがたまたまお見舞いに来ている時である。


「ばーか。大袈裟なんだよ。ちょっと腹掠っただけなんだって? 心配させんなんなよな」


 そう言いながら真っ赤な目をしたぼくは、シャロンを強く抱きしめた。感情が一気に昂ぶっての失態である。


「いたい。いたい。痛いちゅうに。マコトどうしてここに? 私撃たれたの? なんとなく覚えてるけど」

「難しいことは後に考えよう。兎に角無事でよかったよ」


 キョロキョロとあたりを見回すシャロンはここが病院なのだと気付き、ため息を吐く。


「おや、お邪魔だったかな?」


 深く低く底しれなさを感じる声が病室の入り口から聴こえた。気配など無かった。そこには白髪の幾らか混じった髪の毛を綺麗に纏め清潔感のあるダークスーツを着こなす、中年の男性がいた。


 ディーゼル・フォースター氏である。


「フォースター課長。あんた、どうしてここへ?」

「彼女は直属の部下だからね。ミスターカンダガワ、ゲームは終わってない。油断しすぎだ」


 シャロンはフォースター氏の顔を見ると途端に黙り込む。彼はぼくに近づき人差し指をぼくの顔に向ける。


「ミスターカンダガワ。彼女は我々の大事な商品なんだよ。ちゃんと守り抜いて貰わないと困るじゃないか」





 彼はキャンプ前のぼくにこんなことを言った。彼女の命は狙われていると。


 ぼくはこのゲームにシャロン・オールグリーンを守るという立場で参加したのだ。


 初めはダーウィンが刺客なのだと思っていたが違った。やつはただただ目的もなくあんな人間であった。


 命を狙われ始めたのは、シャロンがワシントンからファームに戻ってから直ぐだった。ぼくらは毎日崖を登らさせられていた。暗殺なんてのはここから突き落とすだけで、上手いこと事故に見せかけられる。最初の刺客は頂上から崖を登るシャロン目掛けて大きな岩を落とそうとしていた。


 それに気づくことは、シャロンの周りを注意深くみていたぼくにとって酷く簡単であった。


 女医に預けていた手持ちの鞄から、女怪盗からくすねたままだった五十口径で頭を撃ち抜いた。


 人を殺したのは初めてだった。


 死体は崖の下の森に落とし、夜中にこっそりと埋めた。


 次の刺客は野外戦闘の訓練をしている時に実弾銃でシャロンを狙っていた。


 茂みに隠れていたぼくは相手に気付かれないよう十善にタイミングを計り、飛びかかり両手で首を絞め殺害した。


 銃とは違い、徐々に相手の命が消えていくのを手触りでわかるのが気持ち悪くて、その日何度も嘔吐した。





 ぼくは顔を伏せたままのシャロンの柔らかい髪の毛を、そっと撫でた。


「シャロンはぼくが守りますよ」

「ふむ。それでこそ私が見込んだ男。私を失望させないでくれ」


 そう言ってフォースター氏は見舞いの花を花瓶に挿し、菓子をシャロンに渡す。


「私はね。きみに嫉妬しているのだ。毎晩狂ったように私を求めてきたそこの女が、最近拒むのだよ。好きな人ができたとほざく。お笑いだ」


 そんな捨て台詞だけ残して出て行くフォースター氏。シャロンは少し困ったようにぼくの顔を覗き込む。


 「マコト。ごめん……」シャロンは、いつもの負けん気はどこへやら、浮かない顔をしている。


「なあシャロン。このまま二人して逃げちゃおっか」


 ぼくの問いに生まれる沈黙。


「財閥派がどうとか、オールグリーン家がどうとか、全部忘れてぼくと二人で。そうだバンドでもしながら世界を回ろうぜ。ロックスターを目指すんだ」

「マコトはしのちゃんが好きなんじゃないの?」

「ぜんぜん好きじゃないやい。どこか遠い場所で二人で暮らそう」

「なにそれ? プロポーズ?」

「あっ……そういう意味じゃなかったんだけれど」


 青白い顔を真っ赤にするシャロン。どんなツンデレで返されるのか楽しみだったのだが、思いもよらない反応だ。そしてぽろぽろ泣き出した。


「からかわないでよ。お願いだよ。前にも言ったけど私は濁った月。ねえ、もしも私が宇宙人でもお嫁さんにしてくれますか?」


 なんて応えたらいいのかわからない。まだ出会ったばかりだ。そんなぼくの表情を読み取ったのかシャロンは続ける。


「マコトにとっては、私など今まで出会いと別れを繰り返してきた数多くの人たちと同じなのかもしれない。でも私にとっては、世界で唯一対等に私の話を訊いてくれた人なんだよ」

「ちょっとまてよ。今まではそうだったかもしれないけれど、これからがあるじゃないか!」

「そんな素敵な物が私にあるのだとしたら、その未来、マコトと一緒にみたいよ」


 やばい。押されている。このままでは、後生大事に守ってきた童貞設定に傷がついてしまう。


「まってくれ。彼女もできたことがないぼくがいきなり結婚だなんて、気が早いだろうに」


 人は大きな幸せを目前にすると、途端に臆病になる物だ。


「だったら、百歩譲って結婚を前提にお付き合いするってのは、どう? 清く正しい交際をするの」


 結局煮え切らないぼくはそれに肯定する。


「ふつつかな貧乳ですがよろしくお願いします」


 そう言ってぼくの右手にがっしり握手するシャロン。






 

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