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ザ・シークレットヒーローショー  作者: 夕凪 もぐら
へなちょこマコと意地悪ゴシップガール
20/50

まだ負けじゃない

 


 



「自分のことは自分で何とかします」


 だが正直これで無一文のぼくは昼食にもありつけないのだ。


「君はそう言うと思ってたよ」


 悔しかった。


 人類最強の格闘家、遠藤清虎の愛弟子であるこのぼくが、ダーウィンの前では赤子同然であることが。


 悔しかった。


 あんなにも綺麗だったシャロンの顔を傷つけられたことが。


 悔しかった。


 ダーウィンを前にして、挑むことを拒絶してしまった自分自身が。


 ぼくは医務室を出て吠えた。腹を空かせて吠えた。まだ負けじゃない。





☆ ☆ ☆





 あれから何ヶ月くらい経ったのであろう。


 すっかり日にちの感覚はなくなってしまったが、どこはかとなく肌寒いので、今年も下旬に差し掛かっているとみえた。


 いつもの崖を登り終えたぼくは、大地の感覚を確かめたくて、その場に寝っ転がる。不本意ではあるが、すっかり逞しくなってしまった。


「今日は私の勝ちね」


 一足先に木陰で休んでるシャロン。大分前の話になるが、彼女はホスピタルで入院してから二週間ほどで帰ってきた。


 顔もすっかり以前の美しさを取り戻していたが、綺麗だったブロンドの髪の毛はバッサリと短く切ってしまっていた。


「何よ、その顔?」


 何よ、じゃねーよ。本当に本当にあの髪がぼくは好きだったんだ。


 しかしこのシャロン・オールグリーンを含めて、さすがはみんなケースオフィサー候補たちだ。伊達にここまで生き残ったわけじゃない。リタイアしなかった数人は、この世の物とは思えぬ冥府魔道の人外ばかり。


 椎名さんにいたっては、あらゆる武器を使いこなし、どんなシチュエーションの戦いも全て勝利している。教官たちさえ手も足もでない。


 戦闘という分野だけなら最高の成績を納めている。そういうぼくも模擬戦で彼女に一度も勝てていない。


 その時だった。


 崖から登ってくる荒い呼吸の人物が一人。ドナルド・ダーウィン。ぼくたちは諜報員としてのスキルを彼の下で学んだ。


 彼は掛け替えのない恩師である。


 ぜぇーぜぇーとたんの絡む息絶え絶えなダーウィン。


「遅かったですね」


 ぼくたちの顔を恨めしそうに見るダーウィン。息が苦しくて何も言えないようである。


「一つぼくに訓練でもつけてくれませんかね。実戦で試してみたいやつがあるんですよねー」


 息のあがった中年の顔は、段々と青くなっていく。


「うわっ、青くなってる。ウケる-」


 隣でケラケラ笑うシャロン。ぼくは指をぽきぽきと鳴らし、戦闘に備える。






 その日の午後、ぼくたちケースオフィサー候補全員は宿泊施設のロビーに集められた。


「皆様。半年間お疲れさまでした。長かったファームでの生活も今日で最後になります。今後皆様のご活躍を期待させていただきます」


 ハンドマイクを片手に、顔中傷だらけでぼっこぼこの暴君ドナルド・ダーウィン。顔を引き攣らせながら、爽やかなスピーチをぼくらに送る。


「ささやかではございますが、今後ご活躍される皆様へ、我々から贈り物がございます」


 欠伸をしながら並ぶぼくたちに職員は、黒いスーツケースを渡す。


 その場で中を開けて見れば真っ黒い紳士服が入っていた。


 ブラックスーツ。オーダーメイドの高級品のようだ。


「三時間後ヘリにて本部まで戻って頂きます。早速部屋で着替えてきてください」


 ありがたい。服は度重なる訓練でかなりワイルドでパンクロッカーな感じになっている。綺麗な服で帰れるのは少し嬉しいや。


 部屋に戻りすぐさまシャワーを浴びる。洗面の鏡に映る自分の身体に嫌な筋肉がついてしまった。


 髪の毛を乾かしながら、『ぼく頭脳派なのにな』と独り言のつもりで呟く。


「そう思ってるの自分だけだって」


 ぼくの独り言が聞こえたのか、ミノルは言った。失敬な。そんなことはない! ぼくは頭脳派だ。


 ドライヤーを鏡の前で髪をセットしてるミノルの身体に投げつけてやる。


「いてっ、何すんだよ」

「うるさい。ぼくは頭脳派だ。それとも何か? ぼくが純情派だとでもいいたいのか?」

「兄貴のはぐれっぷりを見ればそれもありかもな」


 ぼくはぷりぷりと怒りながらも、ブラックスーツを身にまとう。


「俺は準備できてるぜ」

「ああ、行くか」


 シャツの襟を直し、ジャケットの裾を翻して、半年間世話になった部屋を出る。もう戻ることはない。



 

短いですがキリがいいので。

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