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ザ・シークレットヒーローショー  作者: 夕凪 もぐら
へなちょこマコと意地悪ゴシップガール
19/50

どうもすいませんでした。

 


 次にクローゼットを物色し、その後ベッドの下をぼくがまさぐっている時に、状況は一変した。


「あんたたち何してるの?」


 眠たそうな目を擦りながら、ゆっくり起き上がるマリーさん。氷つくぼくとパンティを頭にかぶった変態。


「やいやい。ネタは上がってんだ。子供たちに預けてない方の、ぼくの手荷物を返せよ」


 マリーさんは狼狽えるでもなく、怒るでもなく、ミノルの頭に被せられた自分の下着を引っぺがす。


「言いたいことはそれだけかなー? マリーね、安眠を妨害されてとても不愉快なのだけどー。子供たちに預けてない方の手荷物ならちゃんと医務室に預けたよー」


 沈黙が産声を上げる室内。空調の音だけが静かにこだます。なんだこれ。ただの早とちりだったのか?


 ミノルは大慌てで「ほらみろ兄貴。俺はマリーを信じてたんだ」などの寝言をほざきだすが、マリーさんの白い目は未だぼくら二人を睨んだままである。


「どーもすいませんでした」


 結局ぼくたち神田川兄弟はボクサーパンツ一丁になり、頭にパンツを被せられ、土下座し、それをマリーさんの携帯電話の写メで撮られるという謝罪することで、どうにか許して貰えた。


 夜は更けていく。






「おはよう。椎名さん」


 翌朝、宿泊施設の食堂にて椎名さんの隣に座り話し掛けるが、椎名さんから返事はなく、立ち上がり他所の席へ移動してしまう。


 おかしい。避けられている。


「あ、に、き」

「おお、ミノルか」


 食堂に入ってきた弟は食堂にある掲示板を指指していた。


 そこには頭にパンティをかぶり、ボクサーパンツ一丁で土下座する、ぼくとミノルの写真が大きく貼り出されていた。


「くっ、これがおしゃべりマリー。恐るべし」





☆ ☆ ☆





 そして朝食を食べ終えたぼくたちは集められ、地獄のプログラムは開始した。


 それぞれのエキスパートたちが講師を勤める講座は、一齣百四十分に及ぶ。


 最初にやらされたのは、基礎体力の科目。最初に登らされた崖を四往復も五往復もするものだった。


 人間の限界を超えて、へとへとになりながら次にやらされたのは格闘技。


 清虎に空手を習っていたので、立ち技には少々自信があったのだが、身の丈百五十そこそこの椎名さんに一蹴されて終わった。椎名さんを始め、ここに集うのは冥府魔道の猛者たちばかりである。


 簡単に言えばただ酷い目にあっただけだ。


 身体中を負傷しながらの昼食。


 しかし昼食は有料で、財布の中身は有限である。節約のために大したカロリーを摂取しないことにした。


 午後は座学。他国での諜報活動に置けるノウハウ、語学、雑学などの学科科目と、ちょっとしたロールプレイだ。


 ぼくにでさえ、非常に難解な講座であったが、午前の地獄に比べれば、それは天国であった。


 そして夕食を終えて、夜の講座。先の訓練で多少は慣れた銃火器。弾薬こそペイント弾な物の、その武装は本物であった。


 気持ちばかりのプロテクターとゴーグル。


 手渡されるのは拳銃ではなく、大きく古びた突撃銃。


 その弾丸に当たると、プロテクター越しでも、物凄く痛いことが容易に想像できる。椎名さんに撃たれた股間の古傷がひりつく。


 まさか初日からドンパチやるなんて思いもしなかったが、ここで初めてここに来る前に組んだ五人組のチームが生かされる。シャロンは不在だが、椎名さんに、ミノルに、マリーさん。


 かなりの精鋭揃いである。で、あるが、ぼくらのチームに不穏な不協和音が鳴り響いていた。マリーさんと椎名さんが口を訊いてくれないのだ。大人気ない。そこはチームとして割り切ろう。





「いたたたた。むちゃくちゃしやがって」

「仕方ないだろ。訓練なんだから」


 結局一日中酷い目にあったぼくは全ての講座を終えたあと、全身ミミズ腫れの身体をベッドに沈ませた。


「なんでお前あんなに銃扱えるんだよ」

「んっ? ああそれ言わなきゃいけない?」

「言えっ、弟よ」

「もともと俺さ、こっち来てからちょいちょい練習してたんだよね。なんか銃とか非日常に憧れてたから、そういう仕事に就きたかったんだ」


 聞く話によれば、あちこちの射撃場を回っていたらしい。


「まあ、ペイント弾とはいえ、人を撃ったのは初めてだったけどな」


 さして興味のない話を聞いていたら、なんだか眠くなってきた。今日みたいな地獄が毎日続くのだ。明日も早い。もう眠ってしまおう。筋肉痛やら何やら、体中激しい痛みで、寝返りさえうてない。


 ただ重力だけにまかせた身体が、スプリングベッドを沈ませる。しかしながら、眠ってしまいたいのに、なぜだか中々寝付けない。


 隣から鼾が聞こえる。


 基本弟は昔から、ぼくより早く寝て、ぼくより遅く起きる。彼の太い神経が羨ましい。







 こんな生活が何日も続いた。それはとある日の出来事だった。その日は雨だった。


 ぼくらはひたすら崖を登り続ける。高い崖が何度も崩れて、何人も怪我人、リタイア者がでる。


 そろそろ誰か忘れてしまったかもしれないので、もう一度言っておきたい。


 ぼくは少し前まで普通の大学生であったのだ。麻痺してしまった自分の感性が怖い。


 やっとのことで登り終え、一休み。


「遅い」


 午前の訓練施設から午後の訓練施設や宿泊施設へ移動する時、誰もがこの崖を登らなくてはならない。それは講師や職員たちだって例外ではない。


 ぼくより一足先に崖を登り終えていたダーウィン。


「これもプログラムの一環だ。たらたらするんじゃない」


 また自前の特殊警棒で顔面を殴られるこめかみを少し切り血が飛び散る。初日の一件以来、厄介なやつに目を付けられたものだ。


「どれ、俺様が根性叩き直してやる。これもプログラムだ。かかってこいよ」


 ぼくは服に付いたドロをはらい、首を横に振る。


「やめときます。そろそろ昼休みですから」


 ぼくの返答にダーウィンは舌打ちを一つ。


「詰まらん。この腰抜けめ」


 左手でぼくの胸を軽く突き飛ばす。そして機嫌悪そうにクダを撒き散らしながら、歩いて行ってしまう。


 ホッと一息。昼休みのため、一旦宿泊施設に戻る。





「またダーウィンにやられたのね」


 ずぶ濡れの服のままぼくは、医務室へ。切れたこめかみを女医さんが消毒してくれる。


「あいつ今はあんなに偉そうになったけど、元はニューヨークスラムでスリ師をしていたただのこそ泥よ」


 何だって? ダーウィンがスリ師?


 嫌な予感がして、びしょ濡れのジャケットの内ポケットに手を入れる。


 財布がない。


 どうやら安全のため、常に身につけておいたのが、今度は仇になったようだ。


「本当性格悪いやつね。ちょっとお仕置きしておこうか?」


 はたして女医さんにそんなことができるのであろうか? もし仮にできたとしても、それはぼくのプライドが許さない。




 



 


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