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啼く鳥ver

2016年、あけましておめでとうございます( `ー´)ノ

そんなわけで随分と遅いお正月SSですー。

あ、本編ですか?そうですね・・・一難verを投稿する頃までには・・・(ぐはっ)

2話目に一難ver投稿予定です!

やっぱり、菊さんの特性蜂蜜檸檬ティーはいつでも美味しい。

身体中の気だるいのもなくなったわけではないけれど、少し和らいだ。ガンガンと煩かった頭の中も、今はふわふわと軽い。

……――はる。

ああ、いい声。

高くも低くもない温もりに溢れた声。

そう、まるであいつの声……。


陽季(はるき)!蜜柑!蜜柑!蜜柑!!蜜柑持ってきた!!」


……頭痛が振り返してきたかも。




本日、お正月なり。

しかし、風邪にやられた俺は借りている部屋で寝込んでいた。

そして、去年と変わらずに近所の居酒屋で朝から飲み食いしている月華鈴の仲間が入れ替わり現れては、自称「俺のお世話」をしていた。

俺が“自称”と言うのも、俺は彼らに世話された気がしないからだ。

何故なら、蘭さんは俺の隣で一升瓶を飲み干し、俺の汗だくの服を問答無用で剥ぎ取っただけ。双灯(そうひ)は演歌を熱唱。やよさん、ことさんは二人でボードゲーム。真広(まひろ)(いつき)は昼寝をしてただけという。

唯一の救いは菊さんのお見舞いだけだった。

冷えぴた替えてくれたし、蘭さんに奪われて下着姿で震えていた俺にパジャマ渡してくれたし、蜂蜜檸檬ティー作ってくれたし。

そんなこんなで、一息吐いて眠っていたら、洸祈(こうき)に蜜柑コールで起こされたというわけである。

「あのさ……」

「うん?」

「さっきからつまみ食いばっかりで俺が1つも食べれてないんだけど……俺の為に剥いてくれてるんじゃないの?」

毛布にくるまり、布団の上に寝る俺の横で炬燵に入る洸祈は、炬燵テーブルに肘を突いて蜜柑を黙々と剥いては口に入れていた。俺の為に持ってきてくれた蜜柑がどんどん消費されていく。

汗で流した分、渇いた口に蜜柑のチョイスとか、洸祈にしては気が利いてるなぁとか思ったのに――

「え?昼ドラには蜜柑でしょ」

病気の俺は昼ドラに負けたのか。

と、洸祈が昼ドラから目を離しはしないが、俺の口に蜜柑を一房寄せてきた。

「……でも、今日は特別にあげてやらなくもない。ほら、あーん」

さて、洸祈をあまり知らない人は誤解するかも知れないが、これはツンデレ洸祈の『べ、別に陽季の為じゃないんだからな!ついでだから!昼ドラ蜜柑のついで!オマケだから!か、勘違いすんなよ!!』だ。

俺には分かる。

だから俺は「あーん」と素直に蜜柑を唇で摘まみ、ゆっくり味わって燕下した。

風邪で食べられるものが限られているせいか、凄く美味い。そして、洸祈が剥いてくれたという相乗効果で更に美味い。

つまり、たった一房の蜜柑だが、最高に美味かった。

「美味しいよ。ありがとう」

「…………うん」

無意味に指を絡ませてはほどく洸祈の背中が見え、そんな彼の耳が僅かに色付く。

照れちゃって……何て可愛いんだ、俺の恋人は。

洸祈が来てくれてから本当に調子が良くなってきた。明日には全快しそうだ。




「…………ふぁ……」

視界が薄暗い。木造の天井が見える。

確か……俺は昼寝していた。

昼ドラを見る洸祈の背中を最後に見た気がする。

洸祈が俺に蜜柑を剥いてくれて、可愛くって、愛しかった。

まだ少し頭がぼーっとするが、楽にはなった。

しかし、部屋は暗いし静かだ。

洸祈は帰っちゃったかなぁ。

…………すぅ。

「…………帰ってなかったんだね……」

下半身は炬燵に。肩から上は俺の毛布の中に突っ込んで洸祈が寝ていた。

毛布の中を手で探れば、俺の脇腹辺りで洸祈の髪に触れる。

よしよしと撫でてやった。

「よし、動こうかな」

時計を見ると、6時半。

月華鈴は2次会突入の頃合いだろう。

そして、俺達はそろそろ夕飯の時間だ。俺のお世話をしてくれた洸祈の為に夕飯を作らなくては。




何か陽季が足りない。

陽季の脇腹に頭くっ付けて陽季パワー貰ってたはずなのに、何か足りない。パワーが足りない。

「陽季が足りないぃぃぃ……」

陽季を探して両手を毛布の中でさ迷わせるが、何も触れない。それどころか、温もりすらない。

陽季が消えた。

「陽季っ!!どこだ!!!!」

炬燵から身を出し、しゃがむ。毛布を剥ぎ取り、置く場所もないし寒いから肩に掛ける。壁に背中を隠し、熱源兼光源として炎の小鳥を2羽創造する。

最後は即席の武器としてテレビのリモコンを構える。

いや、忘れちゃいけない。

陽季の匂いのする枕を腕に確保だ!


「え…………洸祈、何してるの?」


部屋唯一のドアが開き、パジャマに半纏、エプロン姿の陽季が俺を見て首を傾げた。

チチチと小鳥達が陽季の両肩に留まる。

「何してんの?は俺の台詞だ!陽季は病人だろ!!」

「えっと……そんなに怒らなくても……お夕飯作ってるだけだよ」

「飯作りは俺がすんの!!陽季は黙って寝てればいいんだ!!」

「いや……調子良くなったから。今度は俺が美味い飯ご馳走する番で……それに洸祈は飯作れないだろ?」

……………………は?

俺が何だって?

陽季を想って美味い蜜柑持ってくる気遣いパーフェクトマンの俺に何だって?

「俺だって飯ぐらい作れる!!」

「何言ってるの。作れないでしょ。出来るのは電子レンジでチンだけでしょ?ここは俺に任せて。お粥だけど、超美味いの作るから」

「沸騰も茹でもできる!」

「はいはい。電子レンジね。じゃあ、オーブンは使えるかな?」

「クッキーは琉雨(るう)が作るから、俺は使えなくていいし!」

「オーブンはクッキー以外も作れるからね。まぁまぁ、もう作っちゃってるから。あと15分以内にはできるよ」

陽季は火を気にしているのか、やたら背後を気にする。

俺のことを片手間に扱うなんて許せん!!

「――ヤダ!!」

「……え?」

「俺が仕上げする!」

「え…………不味くなる……」

「何?何か言った!?」

「あ……いいえ。……どうぞ、洸祈シェフ」

ふむ。よろしい。

カチリと火を止め、陽季はエプロンを外した。

これ見よがしに肩を落として溜め息を吐いたのは見ないふりだ。

「なら、その戦闘服は脱いでこれに着替えてください」

「ん」

俺は陽季毛布と陽季枕を下ろし、リモコンを炬燵テーブルに乗せる。

「んじゃ、陽季はお布団入ってて」

エプロンを掴み、陽季を部屋へ押し込んだ。その時、俺の頭を撫でようとする陽季の手からは逃げておく。

しゅんとする陽季。

でも、俺だってしゅんとしたいのだ。しかし、これもシェフになる代償。料理に集中しなくては。

「この鳥は?」

「陽季のおもり。ほら、寝た寝た」

「う…………うん……でも洸祈、1つだけ……」

「何?」

もう何言われても俺は止められないけど。

「あのね……火事は止めてね?」

「って…………そんなことしないから!!」

心底心配そうな顔して前振りするから何かと思えば。少しは信用しろっての。

俺はドアを閉めた。


俺様シェフの力なめくさって……美味いの作ってやるからな!




どうしよう。

洸祈はそそっかしいからなぁ。心配過ぎる。

嗚呼、心配で風邪が悪化する。今、背筋にゾクゾク来たし。

てか、洸祈って料理できないでしょ。

火、見れないし。

あ…………うちIHじゃん。

でも、本当に美味いお粥作る予定だったのに。

『っ……あちっ…………』

え……火傷してるの!?

このおっちょこちょいがぁ……。

「うーん……寝れない……寝れないよぉ……」

チチ。

チチチ。

「君達も心配なんでしょ?」

チチ。

チチチ。

真っ暗の部屋で淡く光る小鳥達も気になるのか、閉められた扉の前をうろちょろしている。

自分の創った魔法の小鳥にすら心配される洸祈。

でも、本当に洸祈は家事に関しては駄目人間なのだ。

ろくに部屋の掃除できないし。洗濯機の使い方も怪しいし。服畳むとぐちゃぐちゃだし。できるのって言ったら、粘着テープを転がして塵を取るやつぐらい。

そして、料理とか最悪。ひたすら不味いものを作る。まぁ、出来合いのものを温めるのは大丈夫だが。

しかし、味付けが悪いのだ。

「オリジナルヘルシーレシピ!」とか言って、味付けに冒険するせいで悲惨なことになる。

「料理は発想重視」とかプロっぽいことを言う前に、基本を出来るようにして欲しい。というか、出来ない奴に限って、プロっぽい台詞を決め顔で言うのだ。

俺は小鳥は監視役と思いきや、そうでもないと気付いて毛布ごと扉の前へ移動した。

チチチと鳴く鳥達は俺の作る毛布の小山に飛び乗る。

『お粥にチーズ入れるつもりだったの?陽季ってマジで料理のセンスないじゃん』

チーズ粥美味いのに……。

俺の弱った胃には流石に無理だが、洸祈の分に入れようと台所にチーズを用意していたのだ。気持ち、洸祈のはイタリアンなお粥になる予定だった。ブラックペッパーを少し振り掛けて……ドリアに近い感じだ。

『お!あんじゃん!青汁投下!!!!』

ぎゃーっ、止めてくれ!!

『あとは……』

冷蔵庫を開ける音がする。

これ以上何入れる気だ。

『こ、これは…………プリンだ!!』

ぷ・り・ん!!!?

『病人はゼリーとかプリンしか食えないって聞くし……』

「ま……まさか……」

『プリンも投下ー!!!!』

うげ。

吐き気が……。

『プリンに醤油でウニじゃなかったっけ?……おしょーゆ……あった!!』

も……もう止めて……。食べる前から俺のHPが0になるから……。

『でも、本当にウニ味になるのかな?……ま、陽季のだし、いいや』

洸祈、確信犯の発言してるよ。

俺で試す気満々。俺を殺す気も満々。

『はる、あと4・5分だからー。待ってろー』

手際は早いな。もたもたして俺に止められないようになの?

しかし、俺の命もあと4・5分……。

くそぅ。こうなったら、死するのみ。洸祈の手で死ぬくらいなら、自分で先に死ぬぞ。

先手必勝だ。

「携帯……二之宮(にのみや)の電話番号……よし」

俺は枕脇に携帯と二之宮の電話番号を書いたメモ用紙を並べ、毛布を被る。

小鳥を一羽メモの上に立たせれば――準備完了。

「こ、洸祈っ!!苦しいっ!!熱が……熱が振り返して……!!洸祈ぃっ!!」

ばんっ。

直ぐにドアが開いた。

「はる!?」

洸祈が俺に駆け寄る。流石、俺の恋人。

「洸祈っ……体が熱い……た、助けてくれ……」

俺の迫真の演技に洸祈の表情は驚き、やがて俺の身代わりと言わんばかりに痛そうにする。……なんかごめん。

でも、俺の為に二之宮に連絡するんだ。偶然、携帯電話と電話番号を書いたメモがここにあるのだから。

さあさあ!

「待ってて!俺が今すぐ体にいい料理持ってくるから!食べたら直ぐ良くなるから!!」

「え………………」

何言っちゃってるの?料理より医者呼ぼうよ。ねぇ。

「ほら、ウニ粥!ウニ粥だよ!!」

お盆に“ウニ粥”を乗せて大声を出す洸祈。

緑の液体に白米が浮かび、富士山形のプリンが湯気に震える。そして、カラメルだか醤油だかが、白米と緑の海に染み込んでいた。

「カオス……」

プリンの甘い匂いが仄かに香り、しかし、見た目はヘドロ、沼……青臭さもする。

「陽季の好きなウニだよ」

そうだね。寿司ネタはウニが好きだよ。

でもね、醤油プリンはウニじゃないからね。

プリンだからね。

デザートだからね!

「洸祈……これウニじゃない……」

「ウニだよ!」

と、声高々だが、俺は知っている。

俺を実験台にしていることを……。

「熱に浮かされて、幻覚見てるんだよ。ほら、ウニ粥。美味いから」

レンゲにお粥――否、グロテスクな何かを取り、ふーふーと冷ましてくれる洸祈。

おい、作った本人が冷ましながら鼻を摘まむな。

「マジで……美味い……っ、美味いから、っ、マジで……」

笑いを堪えるな。

洸祈はえいえいと俺の唇にレンゲを押し付ける。

しかし、悪意の満ちたそれを俺は食べるなどできない。意地でもだ。

「陽季!食べなきゃ良くならないだろ!」

違うよ。食べたら死ぬんだよ。

「食わないと死ぬから!陽季死ぬから!食え!!食え!!…………食わないと別れるからな!!!!!!」

「なっ!?」

「食わなきゃ別れるから!!!!!!!!」


お前はそう言うことを……洸祈の虐めっ子!!!!

後で地獄の底から訴えてやるからな!!!!!!


そして、洸祈と別れたくない俺は“ウニ粥”を食うしかなかった。




「も……もう…………死ぬぅ…………」

「は、はる……?はる!?陽季!陽季!!陽季ぃいい!!!!」


洸祈は叫び、陽季はぐったりと瞳を閉じた。

~おまけ(という名のエピローグ)~


「うわ……崇弥、超激マズに決まってるものを与えたねぇ」

「決まってるって酷いな。体に良いのと、美味いの入れてんだろ?つまり、ヘルシーで超激ウマに決まってるものだ。ほら、二之宮の大好きな健康志向」

「一緒にしないでよ。でも、醤油プリン?……嗚呼。ウニ味らしいって噂の……いやね、そこまでしてウニ食べたいの?って話だよね。プリンがそれはもう大量に余っていて、このままだと腐るしかないってんなら、醤油かけてみてもいいと思うよ。でもさ、違うよね。わざわざ醤油プリン試す時じゃないよね。わざわざ大トロに餡蜜かけてみるのと同じだよね。馬鹿だよね。阿呆だよね。いや、君は馬鹿で阿呆だったね」

「いや、分かってて試した」

「あ、そうなんだ。嫌がらせ?陽季君と喧嘩でもしたの?」

「だって、正月から風邪引くから。一緒に初詣行きたかった」

「それ、年中風邪引く君には絶対に言われたくない言葉だと思うよ」

「だから、言わないで青汁醤油プリン粥作ったんだ」

「そうかそうか。逆恨みだね。取り敢えず、陽季君は何ともないみたいだから、僕は帰るよ。でも、これで暫くは陽季君をお世話し放題だね。やったね」

「うん」

「そうだ。この白衣あげようか?お医者さんプレイできるよ?」

「貰う!」

「じゃ、僕は帰るね。お医者さんプレイで陽季君の体を色々弄くって元に戻せそうになくなったら、僕を呼んで。その時は陽季君を魔改造してあげるから」

「分かった。その時はまた呼ぶ」



「――って、おい!!!!お前ら俺の枕元でいい加減にしろ!!!!!!」

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