ありがとう
ティルデでは無数の死体が林立していた。
そのすべてがスケルトンだった。
本当にここが死者の国なのだと言わんばかりに。
しかし、スケルトンは俺たち生者に何もしてはこなかった。
ただ立ち尽くし、ただ動かずに、ただそこにいた。
街の中を進んでいく俺たちに眼窩を向けることすらしない。
子どもと思しきスケルトンがいた。
男のスケルトンも、女のスケルトンもある。
この街のすべての人間はアンデッドに変えられたのだ。
今、ここにいるスケルトンを残して、それ以外はレギオンとしてウムラウトに送り込まれたのだろう。
街の中にはガレキの山と化している家も少なくなかった。
それはドラゴンの爪痕か。
昔、どこかでこんな風景を絵物語で見たことがあったような気がした。
気のせいかもしれない。
俺にはその絵物語の名前というのは出てこなかったのだから。
「油断するな。何をきっかけに襲ってくるか分からないぞ」
ハルモニアが兵士たちに警戒を促す。
しかし、何も起こらずにどんどんと奥へと進んでいった。
その先には城がある。
かつてはアキュートの王が暮らしていただろう王城がそびえている。
その尖塔は潰され、城の威厳は落ち、今では半ばガレキの山に埋もれるようだった。
やがて様相が変わっていく。
道の両脇をスケルトン達が整列していた。
まるで俺たちを出迎えるように。
歓声どころか、ざわめきひとつなく、静謐に包まれたままの通りを行く。
そして辿り着いたティルデ城の正門。
そこにはひとりの男が待っていた。
ガミジンを自称する者。
ルークが見たこともないような笑顔で俺たちを出迎えた。
「ようこそ、おいで下さいました」
演技じみた礼。
舞台上の役者のつもりか。
「ババアは倒した。後はお前だけなんだろう?」
ルークが一層笑みを強くする。
それは笑いというよりも、凶相に近い。
その表情はこの男の内面そのものだ。
狂っているのだ。
狂っていないはずがない。
周囲にこんなにも死体を侍らせて、それでまともにいられるはずがない。
この男もまたつい先日までは生者に囲まれていたのに、そんな状況よりも今の状況の方が心躍るとその顔が語っていた。
「やっぱりそうお思いなのですね。良いでしょう。まずはもてなしを」
ルークが両の手を合わせて鳴らす。
始まりの合図。
渇いた音が響く。
その音にスケルトンが動き出す。
眠りから覚めた死者たちが一斉にその眼窩を向ける。
生きる者への憎しみすら思わせるように。
「防御陣形!」
明らかに周囲のスケルトンの方が数が多い。
だからといって、その命令は正しいのか?
俺がハルモニアに疑問を示すよりも先にルークは城の中へと歩き去っていった。
邸で出会った時と同じ策は取らないつもりらしい。
あるいはそう思わせるのが狙いか。
周囲には膨大な数の白が並ぶ。
見渡す限りの白。
すべてが骨。
かちゃりかちゃりと硬質で、それでありながらも軽い音が連鎖する。
スケルトンには武器はなかった。
ただこちらへと距離を詰めて来て、手を伸ばす。
あのレギオンと同じように。
既に取り囲まれてしまっている。
「怯むな!相手はすべてただの骨身。武器すら持たない哀れな死者だ!死者に弔いを!穏やかな眠りを!打ち砕け!!」
兵士たちが構え、武器を振り下ろす。
それで最初のスケルトンが為す術もなく崩れ落ちると兵士に安堵が走る。
脅威ではない、それが分かって。
俺もまた剣を取って振るった。
何の手応えもないと感じさせるほどに、あまりにも簡単に倒せていく。
それに変化が生じたのは、後方からの叫びだった。
見ればひとりの兵士が刃に倒れるところだった。
見た目はただのスケルトン。
しかしどうやらスケルトンソルジャーが中には混じっているようだった。
刃を隠すように近づき、それで刺したのだ。
「油断するな!厄介なのが混じっているぞ!」
倒れた兵士を内側に引き入れて、穴を塞いで陣を保つ。
緊張感が増す。
だが、そんな緊張感をいったいどれほどの間、維持しなくてはならないのか?
段々と、焦りが兵士の中に生じていくのが分かった。
「……何人残せば、ここを維持出来る?」
ハルモニアがひとりの士官に尋ねた。
このままではじり貧になりかねない。
まだまだスケルトンはいる。街中のスケルトンが集まって来ているような気すらする。
散々見かけたスケルトンは考えると、逃走経路を塞ぐために街中に散らせて配置していたのかもしれない。
どこまで逃げてもスケルトンは追ってくるだろう。
変に撤退しようとすれば、より被害が大きくなる可能性もあった。
目の前には城がある。
そこには敵の総大将がいる。
ならば、そちらに攻め込む方が早い。
そこまで考えて、嫌な気配を感じ取る。
思考が誘導されているようだ。
何人で来ようとも、ルークには防ぐための幾重もの策を用意していたに違いない。
待ち構えるとはそういうものだ。
そんな待ち構えている相手にどうすれば良い?
考えても、答えはすぐには出ない。
尋ねられた士官は答える。
「出来れば全部を、と言いたいのですが、中だってどうなってるか分かりゃしませんからな。200残して行って下さい。それでこの場を維持し、退路は確保します」
「すまない。頼む」
「良いってことです。英雄に勝利を。死者に眠りを」
ハルモニアと士官との間で話が決まってしまった。
ハルモニアが俺を見る。
その目には冴え冴えとした決意がある。
「行きましょう。エキオンとアカツキの突破力ならば、進めるはずです」
「……分かった。アカツキ、先行しろ。エキオン行くぞ」
ハルモニアの提案に、ルークの策に乗ることを俺は選んだ。
策にはまっているうちは、相手だって劇的な策というのは使ってこないだろう。
相手の策に乗ることが、この場に残る兵士達を守るような気がした。
いや、これは確信だった。
結局、ルークの目的はどこまでいっても俺なのだろう。
その目的は、あのババアの願いを引き継ぐことなのではないだろうか?
俺に見せたいものがあるなどと言ってはいるが、その実、俺の身体をなんとしてでも手に入れたいだけなのではないだろうか?
アカツキがスケルトンを割り砕く。
その後をゴキゲンとカタブツが続き、エキオンが俺を守るようにして進んでいく。
俺の後ろはハルモニアとドジっ子とがフォローした。そこに100の兵士たちが続く。
途中、スケルトンソルジャーにもかちあったが、それでも簡単に割り砕いて進み、城の中へと入り込んだ。
入り込んだ瞬間に門が閉じる。
外の騒ぎが遠くになる。
閉じた門からは炎が上がった。
まるで逃げるのは許さないと言わんばかりだ。
「元より今回の首謀者を倒すまでは戻れない道だ!進むぞ!」
城の内部は中庭を取り囲むようにして回廊状にいくつもの間が連なっている。
砦としての城ではなく、宮殿としての城だ。内部を行軍出来るようには出来ていない。
そのために、100人もの兵士にとっては進みにくい構造になっている。
ドラゴン騒ぎの際の混乱によるものか、それとも後に盗人が出たのか、荒らされている部屋は多い。
一度、大きな部屋、騎士の間と呼ばれる場所でスケルトンの待ち伏せにあった。
数も少なく、危険な個体もなかったために、すぐに倒して奥へと進む。
今のはきっとドアベル代わりだろう。
依り代が砕ければ、それで俺たちがどの辺りを進んでいるのかが分かる。
途中の階段でもスケルトンと戦いになる。
今度は高所を陣取って弓矢を浴びせかけて来た。
こちらにも被害が出たが、ハルモニアの魔法で大方を片付けてからの突撃だったので、最小限の被害と言えた。
こうやってじりじりとこちらの兵力を削っていくつもりなのだろうか?
そんな疑問が生じた頃に、やがて大きな部屋へと出る。
そこはおそらくは謁見の間だったのだろう。
そこにずらりと並んでいるのは骨身を晒したスケルトン。
手には盾と剣が握られている。
盾には紋章。
その紋章から察するに、王の親衛隊だろうか。
ならば、これまでのような弱兵などではありえない。
奥には14体の鎧姿を侍らしたルークがいた。
1体はイースだ。
残りの全身鎧の正体はレッドスケルトンか何かだろうか?
まさかすべてがデスナイトなどということはないだろう。
「思っていたよりも多くの方にお越しいただいたようですね」
声は部屋の中に響き渡るようだった。
俺は小声でハルモニアに告げる。
「周りのスケルトンを頼む。俺はルークを倒す」
「分かりました。お気をつけて」
邸の再現となってはたまらない。
俺はまだ話を続けようとしているルークを無視して走り出した。
「打ち合わせは終わりですか?まあ、そう来ると思っていました、よ」
ルークが床に手をついた。
魔法式など展開している様子はなかった。
そのはずなのに炎が床を走る。
「な!?」
躱せたのはまだ距離があったからだった。
もしも間近でやられていたら、躱せなかっただろう。
俺に続いて走り出していたエキオンとアカツキは躱しただけでなく、既に体勢を整え直して走り出している。
その前に全身鎧とイースが立ちふさがる。
「さあパーティーのはじまりです!」
ルークの言葉に周囲のスケルトンが殺到した。
俺へと襲いかかってくるスケルトンを鎧姿が受け止める。
ハルモニアに預けたゴキゲンとカタブツだった。
「カドモス様!行って下さい!」
剣を構えて走る。何よりもルークを、イースをなんとかしなければならない。俺の背後で剣戟の音が響き渡る。
ハルモニアと兵士たちとが応戦にはいったのだ。
遅れた俺を置いていって、アカツキがまずルークを守るように立ちふさがった全身鎧に到達する。
それをアカツキは無視するように跳んだ。
そこで立ち止まれば、待っているのはルークの魔法だ。
危険な魔法使いを自由にさせてはおけない。
アカツキは天井にまで達して、再び天井を蹴って急降下する。
その先にはルークがいる。
だが、ルークを守るようにイースが立ちふさがる。
拳を突き出したアカツキに対して、イースは正面からその拳を受けたりはしなかった。
大振りされた斬撃はイースのその腕を狙って叩き付けられ、アカツキが衝撃に飛ぶ。
さすがに業物でもない剣での斬撃ではどうにもされないが、再び距離が開いてしまう。
そこにエキオンが切り込もうとして全身鎧に阻まれる。
レッドスケルトンすら斬り伏せたエキオンの剣技が止められていた。
「馬鹿な!?」
「ただのスケルトンだなんて思ってたんでしょう?」
そこにルークが魔法を完成させて炎の柱を出現させる。
エキオンは読んでいたように飛び退って躱していた。
「ディガーダーはデスナイトほどではありませんが、それでもただのスケルトンではない!」
どうやらルークの周りに配されているのは特別製のようだった。それもまた俺の知らないスケルトン。
「随分とババアに愛されていたんだな?」
「私はカドモス様とは違って、あの方をずっと敬愛して参りましたから!」
またルークが床に手を突く。
今度は俺も何が起こるか分かっていたので対処出来た。
何をしているのかにもおおよその予測がつく。
あれはきっとインシネレイションなのだ。
あらかじめこの部屋の中にレイラインを張り巡らせ、それに必要に応じて魔力を通して魔法を発動させているのだろう。
ネクロドライブの依り代に魔力を通すのと、インシネレイションとを応用して魔法としているのだ。
コイツはどんだけの才能を持っているんだ?
強大な魔法をただ操るだけじゃなく、こんな俺が見たこともない魔法までも使いこなしている。そして結局俺が辿り着けなかったデスナイトにすら辿り着きかけているのだ。
「私とカドモス様には埋められない差がございましょう。逃げ出した者と、自ら側へと願った者とでは、教えていただいた知識が違う!」
俺の眼前にディガーダーが立ちふさがる。
俺もまた魔力を励起させていた。
肉体強化をすれば、俺でも一時的にエキオン並みの力が出せる。
エキオンは防がれたが、俺はこれがただのアンデッドではないと知っているのだ。
剣を振り上げる。
それはディガーダーよりも早かった。
「が!?」
振り下ろそうとして、それが出来ずに身体が固まる。
俺の意志によるものではない。
突如として飛来した魔法によってだった。
スナップサンダー。
ごくごく微量の雷撃を放出する弱い魔法だ。
殺すことはおろか、気絶すらさせられないそんな攻撃魔法の中でも最弱の部類に入る魔法。
それをルークがディガーダーの影から俺へと放っていた。
こいつ、大技に頼るだけに見せて、こんな小細工まで!?
硬直は一瞬だった。
だが、その時には既にディガーダーの刃が俺へと迫っている。
何とか刃を合わせた時にまた身体が硬直する。
右手と左手で交互に雷撃を放ったのだろう。
そうと分かった時には剣から手が離れる。
ルークは強い。
もしかしたら俺に匹敵するくらい。
そう思っていたはずなのに、どこかで俺はまだ侮っていたのかもしれない。
所詮は、スケルトンに守らせて魔法を後方から討つくらいしか戦う方法を持たないだろうと。
その侮りのツケを払えと言うように、別の角度から迫っていたディガーダーが剣を振り上げていた。
どうする?
この手に剣はない。
後ろに下がる?
後ろにはまた別のスケルトンが迫っているとも限らない。
アカツキはイースを押さえるので手いっぱいだ。
エキオンもまた、今やっと1体のディガーダーを斬り伏せたところ。
俺の方には間に合わない。
魔力を解放して離脱する。
それしかない。
そう思う俺の視界の端でルークが床に手を突こうとしていた。
俺が躱した先を見定めて、あの炎を走らせようとしているのだろう。
ゲームの駒は配置済み。
俺がどう動こうともこれで詰みだとその目が語っていた。
それでも躱さなければ刃が落ちる。
ただで済むはずがない。
完璧な罠だった。
今までのルークの行動も含めて。
偽りの自分しか、この瞬間まで見せずに来たのだ。
これがルーク。
これがガミジン。
確かに悪魔を自称するだけの力がこの男にはあった。
刃が迫る。
例え詰んでいたとしても、俺は諦める訳にはいかない。
未来を掴みたいんだ。
だから。
「カドモス様!」
叫びが聞こえた。
俺の未来が叫んでいた。
その叫びに応える者があった。
俺の手から離れたはずの俺の力。
俺の両肩が掴まれる。
そのまま引かれ、俺は後ろに下がった。
代わりに前に出たのは2体の鎧姿。
ゴキゲンとカタブツ。
カタブツが盾でディガーダーの斬撃を受ける。
同時にゴキゲンが前に出る。
ディガーダーへとナイフを向けて。
ナイフは鎧の隙間に正確に刺さる。
その内部にあるであろう骨身をも壊すように。
それは達成する前に砕かれた。
ゴキゲンの鎧ごと、その骨身まで。
盾で防がれたディガーダーが刃を走らせていた。
斬撃を受けたゴキゲンがよろめく。
カタブツもまた最初に俺へと斬り付けて来ていたディガーダーの斬撃を受け止められずにいた。
カタブツにも刃が通る。
かつて俺を助けて死んでいった者たちの姿が蘇る。
ニック。
フィリップ。
ルークが床に手を突いた。
炎が走る。
それを俺は自分で跳んで躱す。
走る炎にゴキゲンとカタブツが滅び去る寸前の残された魔力でもって動いていた。
まるで道連れにするようにそれぞれが1体ずつのディガーダーに掴み掛かり、引倒す。
4体のアンデッドが炎に包まれる。
俺を守ってまたスケルトンが滅んでいく。
ただの骨身。
その魂は生前のものとはなんら繋がりはない。
それでも、滅んでほしくはなかった。
「エキオン!!」
「応!」
エキオンがルークに迫る。
ディガーダーがまとまってそれを阻む。
俺もまた剣を拾ってルークに迫る。
魔力を励起させて。
俺はもうルークだけを見ていた。
またしても俺に向かって雷撃を放っていたが、今度は注視していたので躱せる。
迫る俺とエキオンにルークが魔法式を展開する。
今度は大技だ。
それが分かった瞬間にエキオンを見た。
まるで俺がエキオンを見ると分かっているようなタイミングで、エキオンもまた俺へと眼窩を向けていた。
そして頷く。
俺が何を狙っているのか、分かっていると言うようだった。
脳裏の魔法式に別の魔法式を重ね合わせて魔力の奔流を起こす。
鼓動。
同時に魔力が満ちる。
純粋な力に変換される。
俺は跳ぶ。
最初にアカツキがやったのと同じように天井へと到達して、そして見る。
「これならどうします!?」
ルークが魔法を放つ。
業火が柱となって吹き荒れる。
その先は俺でもアカツキでもエキオンでもなかった。
それは部屋の中央近くで戦っていたハルモニアに向かって。
悪魔め。
そう心の中で毒づきつつも、俺にはルークがそうするんじゃないかと思ってもいたのだ。
きっとコイツはそういうことをするだろうと。
ハルモニアは突如として現れた業火に目を向け、その目を開く。
だが、俺は信じていた。
俺がかつて造り出し、そしてずっと今まで俺を守って来てくれた最後の骨身を。
リンクス。
1体の鎧姿がハルモニアを掴んで放り投げていた。
その膨らんだ鎧の胸は確かにその中身が女であると示している。
既にその中にはただの骨身しかないというのに。
その手には弓も矢もなかった。
ハルモニアを掴み、離した時点で何も持ってはいなかった。
その顔が何かを探すように頭を巡らせて、そして確かに天井に張り付くように、ほんの一瞬だけそこに留まる俺を確かに見た。
ありがとう。
それは俺の言葉だったよ、リンクス。
そして炎に包まれる。
俺はそれをもう見てはいなかった。
天井を蹴って跳ぶ。
天井が衝撃に崩れた。
崩れた部分が落ちるよりも先に俺は飛翔する。
エキオンもまた跳んでいた。
俺と同じ敵を目指して突き進んでいる。
その先にいるのは未だアカツキと戦っているイース。
イースが接近する俺とエキオンに気付いて振り返る。
それはアカツキを前にしては、あまりにも大きな隙だ。
アカツキが翻る。
頭部を一撃で刈り取ろうとする蹴りは、躱しきれずにその頭部に衝撃を残す。
僅かに体勢が崩れた。
そこにエキオンが斬撃を放つ。
刃ががっちりと、引くことすら許されずに噛み合う。
「あの時、殺しておけば良かったな」
エキオンの言葉にイースは何を言われたのか分かっているのかすら定かじゃなく、なんの言葉も反応もなかった。
視界の端にルークが再び床に手を突こうとしているのが見えた。
だが、俺は宙にいるから、その炎は届かない。
「まったくだ!!」
俺にどんな恨みを持っていたのか、今では知りようがまったくない。
恨みを晴らしたいなら生きて俺に挑みかかれば良かったものを、こうして悪魔に良いように利用されて、それでお前は満足なのか?
刃を突き出し迫る俺にイースが身じろぎするように動こうとしたが、それをエキオンが許さなかった。
ルークもまた炎を走らせられない。
それをすれば、火に包まれるのはエキオンばかりでなく、イースも諸共だ。
「滅びろ!」
刃がその頭を確かに刺貫いた。
「がぁああああ!!」
叫びはルークから。
その手の依り代が砕けたのだろう。
そこに、エキオンが斬撃を、そしてアカツキが蹴撃をイースに見舞う。
イースの身体が両断され、砕け散った。
「あぁああああああああ!!」
振り上げたルークの左手から真っ黒な渦が生じていた。
それはやがて黒い炎となる。
響くのはどこか金属音にも似た破砕音。
そして吹き上がった炎が破裂するように、ルークの左手が弾けた。
本体を破壊されて、その依り代が砕けたのだ。
そこに1本の槍が飛翔した。
ハルモニアの槍だ。
そう思った瞬間にはルークの右肩に深々と刺さる。
ディガーダーが邪魔で、その心臓には突き立てられなかったのか。
「よくも!カドモス様のスケルトンたちを!」
「ディガーダー!時間を稼げ!食い止めろ!!」
ハルモニアの怒りの叫びと同時にルークが叫んでいた。
肩の槍を抜きもせずに、奥へ向かって逃げていく。
その先にはまだ通路がある。
「カドモス様!追って下さい!」
ハルモニアの叫びに、兵士たちが気勢を上げた。
口々に叫ぶ。
死者に弔いを!
英雄に勝利を!
「エキオン!アカツキ!」
「言われるまでもない!!」
エキオンとアカツキがディガーダーを倒して道を切り開く。
その後に俺も続き、ルークを追った。




