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スケルトンの述懐  作者: ぎじえ・いり
本物のビフロンス
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リッチ

 レギオンには意志がある。

 砦を崩し、飛んでくるガレキに対処し、そして今、自ら雪崩を起こして2体に襲いかかった。

 意志があるのは明らかだった。

 では、その意志の主体はどこにあるか?

 1体1体のゾンビにか?

 そんなはずはない。

 ひとつひとつが全体としての意志を持っている、そう考えるよりは、意志を持った何かが全体を統制していると考えた方が俺は自然だと考えた。

 どこかにあるはずなのだ。

 レギオンの主体たる存在が。

 俺があの2体に命じたのは、その2体の捜索だ。

 まるで依り代のように、全てを意志のままにする存在があるはずなのだ。

 2体のスケルトンが無数の死体に飲み込まれて姿を消した。

 飛び去って躱したかのように見えたが、再び着地するよりも前に死体の波の方が早く2体に到達していた。

 宙で剣を、拳を振るったが、それでも飲み込まれてしまう。

 あの2体は特別製だ。

 すぐにどうこうなったりはしない。

 レギオンには武器などないのだから。

 その肉体でもってしか、攻撃する手段はないのだ。

 それでも安心は出来ない。

 あの内部がどうなっているのかは、俺は知らないのだから。

 それこそ溶かされでもしたり、あるいはレイラインそのものを消失させるような魔法が仕込まれていたりしたら、どうにもならない。


「なんだ?」


 右手に違和感を覚えて、思わず声が出た。

 そこにはエキオンの依り代たる刻印がある。

 茜色にほのかに光っていたのだが、その光が不意に消えた。

 まるで魔力が通わなくなったように。

 再び魔力を通そうとしても、なぜか魔力は通わない。

 エキオンに、アカツキに魔力が行っていないと言わんばかりではないか。


「……まさか、干渉しているのか?」


 あそこには無数のアンデッドが集っている。

 おそらくはネクロドライブの系統の魔法で造られたアンデッドが。

 そのレイラインと、2体のレイラインとで干渉し合って俺の魔力が届きにくくなっているのか?

 もしも、そうなら2体はやがて魔力が枯渇するだろう。

 そうなってしまえば、残るのはただの骨身と変わらなくなってしまう。

 どんなに強力なレイラインがあっても、魔力がなければ機能はまるで違う。

 まさか、そんなところまで狙ってやったとは思えないのだが、それでも起こってしまった以上は対処しなくてはならない。


「ガラクタ!走れ!」


 ドジっ子が肩から飛び降りるのと同時にガラクタが走り出す。

 あの中から即座に救出し得るのは、ガラクタしかいない。

 今では2体がいたであろう場所の上にこそ山が出来ていた。

 蓋をし、二度と外へは出さないという意志が見えた。

 ガラクタが迫るのを察知して、レギオンが動く。

 それはガレキが飛来した時と同じ動き。

 首をもたげるように、一部が伸びて空を目指す。

 その一撃でもってガラクタを迎え撃とうというのだろう。

 それが分かっていても、ガラクタを止める訳にはいかない。

 なんとか躱し、そしてそのまま衝突させていくらかでも吹き飛ばし、2体が脱出出来るようにする他ない。

 伸びたレギオンの首が振るわれた。

 そのタイミングは早くないか?

 未だガラクタは走っている。

 今、振るってしまえば、アカツキの蹴りのように、自在には戻ってはこれないだろう。

 空振るかと思った首がぴたりと止まった。

 タイミングが早かったために、それはまるで迫り来るガラクタの鼻先に突き付けられるようだった。


「な……」


 起こったことに言葉を失う。

 何が起きたのか、俺には分からなかった。

 ガラクタの頭が炎に包まれている。

 まるでドラゴンのファイアーブレスを食らったかのように。

 だが、今、相手をしているのは決してドラゴンなどではない。

 まさか、ルーク?

 ガラクタが膝をつき、そして俺の胸の古鍵がピシリと割れた音を立てる。

 膝をついたガラクタ越しに、レギオンの首のその先端が見えた。

 そこにいたのはルークなどではなかった。

 俺にとっては見慣れた魔物だ。

 骨だ。

 骨身がそこにいた。

 まるで讃えよと、自らを尊大に見せるように、両手を広げてそこにいる。

 その仕草に、ひとりの老婆が頭をよぎる。

 人があの内部にいるのは不可能だ。

 耐えられるはずがない。

 人の身体では無理だ。

 だが、人をやめていたら?

 人ではなかったら?


「ありえない!!」


 現実を否定するように叫んだ。

 これが夢であってくれと願うように。

 虚しい願望だった。

 夢なはずがない。

 もしも今が夢ならば、ハルモニアと見た未来すらも夢になる。

 現実だ。

 あそこに骨身の魔物がいて、レギオンを操り、そして魔法を使ってガラクタを攻撃した。

 甲高く、どこか澄んだ音が胸に響く。

 古鍵が割れ落ちる。

 ガラクタが崩れ落ちた。

 魔法を受けて滅んだのだ。

 ガラクタの残骸すらも、飲み込み、レギオンはこちらへと進んでくる。

 まるで骨身を指揮者に行進するように。


「……ありえない」

「カドモス様!?しっかりしてください!」


 ハルモニアの顔が眼前にあり、声も聞こえているのだが、まるでその間には薄皮一枚が張られているように、遠くに感じた。

 アンデッドの魔力は有限だ。

 だからアンデッドが魔法を使えるようにすることは、あまり意味がない。

 アンデッドが魔法を使えば、それは自らの魔力を枯渇させ、損なう行為に他ならない。

 だが、エキオンは魔法を使う。

 それはエキオンの魔力が俺と共有されているからだろう。

 俺が生み出す魔力を使うことで、自らが動くのに必要な魔力を減らさずとも魔法を使えるのだ。

 リッチというアンデッドがいるとは聞いていた。

 実際に見たことはない。

 なぜなら、それを口にするババア自身が未だに造り出せていなかったからだ。

 魔法を使えるアンデッドの創造自体は出来ると言ったが、俺はそれ以上詳しく尋ねたりはしなかった。

 あの頃の俺には知識が足りていなかったのだ。

 エキオンを造り出した今ならば分かる。

 あの時点で、リッチも造り出せたが、ババアにとっては自ら動くのに必要な魔力を消費してしまうアンデッドでは意味がなかった。

 ババアが造り出したかったのはデスだ。

 真に死を振りまく存在なのだ。

 それは、魔力の不足を起こさず、自ら魔力を生み出し、どこにでも行って、誰にでも死を振りまける存在だ。

 恐らくアーレスを、デスナイトを造り出した時点で気付いたのだ。

 魔力を共有すれば、確かに魔力の不足の心配はなくなる。

 だが、それではネクロマンサーが死ねば、アンデッドも死ぬ。

 ネクロマンサー自身がアンデッドの弱点になってしまう。

 既に先が見えている死に損ないの老婆には、それではせっかく造り出したアンデッドがどうなるかが見え切っていた。

 魔法を使えるならば、自ら魔力も生み出せなくては意味がない。

 それができれば、魂を依り代に分けずに、アンデッド自身に全てを持たせられる。

 その方法が分からない限り、ババアはリッチを造る気はなかったのだろう。

 あそこに魔法を使えるアンデッドがいる。

 それはつまり、魔力を生み出せるアンデッドの造り方が分かったのだ。

 だから山を出て、国を襲い、そしてまた俺に会いに来た。

 デスを造り出すために。

 人を死に至らしめるあらゆる方法に精通した存在を俺に見せつけるためなどではないだろう。

 言われなくても分かる。

 デスを造り出す最後の素材は俺なのだ。

 死の象徴。

 死そのもの。

 人々をドラゴンから救ったミレニアム1世とは正反対の、邪悪そのものだ。

 自ら進んで悪を為すどころか、自らが悪と成って世界を壊すことになってしまう。

 英雄。聖人。そんな存在から一番遠い存在に。

 人間の敵だ。

 他でもない、この俺がそれになるのだ。

 そんなのは。


「嫌だ」


 心配気な顔が俺を見ていた。

 俺がデスとなれば、そんな顔も真っ黒に塗りつぶし、あのレギオンと共に世界を壊して回ることになる。

 そんなのは嫌だ。

 絶対に。


「……もう大丈夫だ。そんな心配そうな顔をするな。お前の色んな表情を見たいとは思うが、そんな顔は見たくない」

「本当に大丈夫ですか?」


 どこか決意を感じさせる目だった。

 俺が嘘だと言えば、俺の代わりにあれに戦いを挑みそうなほどに。


「ああ。ハルモニア、自分の手を見ろ」


 俺の言葉にハルモニアが自らの手を見た。

 そこには指輪がある。

 そこにあるのは約束だ。


「俺は約束を違えたりはしない。約束は果たす。それを破るのは人でなしだけだ」


 そうだよな?ゴキゲン?

 ハルモニアの背後にいるゴキゲンが視界に入って思い出す。

 人殺しと人でなし。

 このふたつは違うのだ。

 俺は人殺しであっても、人でなしではない。

 守ると誓った。

 この国を。

 ハルモニアが生き、暮らして来た世界を。

 俺がなるのはそれを壊す存在じゃない。

 守る方の存在だ。

 英雄。

 聖人。

 なんだって良い。

 自らに魔法を掛ける。

 全身の魔力を励起させる。

 心臓が高鳴る。

 魔力が回る。

 敵がいる。

 世界を壊す敵だ。

 ハルモニアのいる今を、共にある未来を壊す敵だ。

 依り代である古鍵を束ねた鎖を外してハルモニアに掛けた。

 ハルモニアが意図をはかり損ねて俺を見る。

 少しだけいつもの無表情に近い。

 少しは冷静になったということだろう。


「レギオンを、リッチを倒す。だから、協力してくれ」


 勝てるかどうかは俺次第じゃない。

 そんな戦いは苦手だった。

 グリパンと組んでいる時でも、そう思っていた。

 勝率が悪くなる気すらする。

 でも、それは過去の自分だ。

 今の自分は違う。共に未来を見た相手と戦おう。

 俺が何をするかを話し、そして俺は走り出した。

 世界を壊す敵に向かって。

 まっすぐに。






 馬から下りて走った。

 膨大な魔力が全身を巡る。

 堪え難い痛みと熱が全身を支配している。

 それでも足を止めずに向かっていく。

 遠近感が狂うほどに巨大な相手だ。

 その先頭にリッチがいる。

 あのババアとして思えない敵がいる。

 本当に、あれが本物のビフロンスなのかは分からない。

 すぐに排除しなければならない敵であるということだけは確かだ。

 ルークのやり口を思い出す。

 スケルトンで動きを封じて魔法で焼き払おうとした。

 エキオンとアカツキもそうならないとは限らない。

 早く。

 接近する俺を察知したのだろう。

 いつくもの死体が絡み合うそれはさながら触手だ。

 鞭のようにしなり、唸りをあげて俺へと襲いかかってくる。

 最初の一撃は上空から。

 俺はそれを何とか跳び躱す。

 次の一撃も叩き付けるような一撃。

 大地が削れ、砕けたゾンビが飛び散る。

 今度はギリギリだった。

 同じように次は躱せない。

 そう思う俺を襲うのは、今度は横から。

 薙ぎ払うように大地を削り、何体ものゾンビをすり潰しながらもそれでも勢いは緩まずに迫ってくる。

 脳裏の魔法式に別の魔法式を重ね合わせて魔力の奔流を起こす。

 鼓動。

 同時に魔力が満ちる。

 純粋な力に変換される。

 俺へと至る直前に跳ぶ。

 その俺の目前に骨身があった。

 顎が開く。

 声帯などないはずなのに、言葉を紡ぐ。


「坊や」


 まるで冷水を浴びせかけられたように、ぞっとした。

 咄嗟に手にした剣を振ろうとして、その剣が止められる。

 いつの間にか迫っていた、背後からのゾンビの手で。

 骨身が声を上げて笑う。

 耳障りな笑い声。

 生者をあざける悪魔の哄笑。

 剣だけでなく、腕を、足を、身体を掴み取られる。


「さあ、せっかくの再会だけど、アタシが興味があるのは坊やの身体の方さ。だから」


 魔法式が展開される。

 吹き荒れるのは炎か。

 地獄の業火、それに焼き尽されるのが俺の最期。


「アタシのものとおなり」


 いつもババアには自信しかなかった。

 すべてにおいて、自分がこの世の何よりも勝っていると。

 自分の有能さを疑わない。

 骨身のアンデッドに記憶がある不思議よりも、納得があった。

 確かにこれはあのババアに他ならないと。

 ババアならば知らないのだ。

 時にそれは自らを滅ぼし得ると、


「嫌だね。絶対に」


 力を込めて否定する。

 自らに魔法を掛ける。

 何度でも魔力を回してやる。

 例えそれがどんなに俺自身を傷つけても。

 今が最期の時じゃない。

 足掻け。

 生きている限り。


「俺は未来を掴む。お前には捕まらない」


 幾本もの矢が飛来する。

 リッチの側のゾンビが身体を伸ばしてその身に受けた。

 ただの矢であれば、それはゾンビですら滅ぼし得ない、脆弱な反抗にしかならないだろう。

 だが、矢は紫電を放ってゾンビの身を弾いた。

 すべての矢が破裂する。

 俺の剣を、身体を掴んでいたゾンビも弾けた。

 下方からドジっ子が矢を放ったのだ。

 ハルモニアが紫電をまとわせて。


「邪魔をするなぁ!」


 ゾンビの群れが触手となって伸びる。

 それでハルモニアを襲うつもりなのだろう。

 同時にリッチの魔法が完成する。


「無駄よ。全ては無駄な足掻き。アタシは全てを焼き尽す。全ての墓に火を灯し、死体を蘇らせ、世界に恐怖を目撃させる!」


 伸ばした両手から炎が迸る。

 巨大な火柱。

 触れればそれだけでこの身を焼き尽す業火。

 それが放たれた時には、俺も魔力を解き放っている。

 紫電の矢に弾かれながらも俺を拘束しようとしていたゾンビを蹴りとばす。

 その衝撃だけでゾンビは弾けとんだ。

 炎の奔流を下に見た。

 そして右手に、胸に、魔力を宿す。

 濁流となった魔力を残さずそこへと注ぎ込む。

 ふたつの刻印に。


「いつまで寝ている!滅ぼせ!死と炎の悪魔を!敵がいるぞ!俺の敵が!世界の敵が!英雄となるんだろう!」


 果たせなかった約束だ。

 必ず英雄に。

 そうなる前にグリパンは死んだ。

 もうその魂はどこにもない。

 それでも俺は約束を果たしたい。

 リッチが姿を現しているのは、内部に入ればエキオンとアカツキに察知され、内部から直接攻撃されるのを嫌ったためだろう。

 2体を押さえれば、後は俺を倒すことなど造作もないと。

 ただの人間ひとりくらい、すぐにどうこう出来ると。

 宙にある俺へとゾンビたちが手を伸ばす。

 先を争うようにお互いを掴み、引っ張り合いながらも天を目指す。

 俺のいる天を。

 また自らに魔法を掛ける。

 その瞬間、全身から血が噴き出した。

 全身の血管が負荷に耐えきれずに、魔力を表に逃がそうとして裂けたのかもしれない。

 血のしぶきが舞う。

 血煙をまといながらも、重力に引かれて降下する。

 それでも俺は魔力を回す。

 リッチもまた再び魔法を使おうとしていた。


「アタシこそがビフロンス!ドラゴンなき世界を恐怖で支配する新たな王だ!」


 王とは国と民がなくてはならない。

 その国も民も、ババアは手に入れた。

 すべてが炎で焼かれて影絵と化した国と、そこを徘徊する魂を失った亡霊の民。

 確かにコイツは王となった。


「王とは死に、やがて次の王に取って代わられるものだ。お前は確かに王だ。ならば俺がお前を打ち倒し、新たな王となる!」


 かつて大司教は言った。

 たったひとりの聖人が現れる、それだけで救われる多くの民がいると。

 だが、これは逆もまた有り得るのだ。

 たったひとりの悪魔が現れる。それだけで死ぬ多くの民もまたいる。

 自分が聖人になれるとは思わない。

 人々を、存在しているだけで救い得るような者になれるとは。

 だが、もしかしたら王にはなれるのかもしれない。

 邪悪な王を打ち倒し、そこに新たな国を築くのだ。

 そこには生者が安らかに生き、死者はそれを支えるだけで良い。

 千年の王国は無理でも、俺は安らぎが欲しい。

 そのためならば、国を造り、王にもなる。


「俺こそがビフロンスだ。すべての邪悪を焼きつくし、死者の悔いを奇跡によって救い上げる!蘇れ!英雄になるなら今だ!ギース・グリーンパンプキン!」


 リッチの身体は半ば死体の中。

 その胸の上だけが現れている。

 その骨身のあばらを掴む者があった。

 鎧われた手だ。

 緑色の鎧が茜色の燐光をまとっている。

 その手があばらを割り砕いた。


「なぜだ!?なぜコイツがここにいる!?」


 かつて英雄となるべきものがいた。

 ひとりは魔性を持って人に襲いかかり、もうひとりは道の半ばで潰えて消えた。

 俺は願う。

 そのふたりが真の英雄となるように。

 死体の山に封じ込められようとも、消せない茜色の光が現れる。

 咄嗟にリッチはそちらに魔法を放とうとした。

 未だ死体に埋もれたままの頭を出し、手を伸ばすスケルトンに向かって。


「決まっている。英雄だからな」


 俺は笑った。

 リッチの言葉に答えたのは、同じく死体の山から現れた茜色の鎧姿だ。

 死体が宙を舞う。

 斬り刻まれて。


「お前が現れるのはいつも遅い」

「英雄とはそういうものさ」


 きっと世界を救うには願いが必要なのだ。

 強く、真実願わなくてはならない。

 その願いを受けて奮い立つ者がいる。

 今ならミハエル・エンデ大司教が言った言葉の意味が分かる気がした。

 誰かが強く願うだけで、その願う姿を見て救われる者もいる。

 だから俺は願う。

 俺自身に。

 俺に付き従う骨身に。

 リッチが傍らに現れたエキオンにはっきりと迷いを見せた。

 近いのはアカツキの方だ。

 だが自由なのはエキオンだ。

 どちらに魔法を放つべきか?

 その逡巡が骨身からもはっきりと見て取れた。


「ハルモニアを救え。ここはいい」

「ならば任せよう」


 エキオンが飛び降りる。

 そしてリッチが俺を見た。

 俺は未だ宙を舞う。

 そうだ。俺を殺せばすべては終わる。

 だが。


「終わりにしよう。ビフロンス」

「そうだ!お前を殺してすべてを闇に閉ざす!」


 死体が舞う。

 ひとりの骨身の舞いによって。

 アカツキが周囲の死体を吹き飛ばして、完全に表へと出た。

 リッチは確かに俺に魔法を放とうとしていたが、その両腕をアカツキに蹴り落とされる。

 俺は魔法式を書き換えた。

 吹き出した血が魔法によって爆炎となる。

 爆発し、俺を押し出す。

 1体の骨身の悪魔に向かって。


「もう俺は子どもではない。お前を恐れるただの子どもではない。お前はただの幻影だ。消え去れ。俺の忌まわしい過去とともに」


 未来が欲しい。

 その未来は、今だ。

 剣が突き立つ。

 骨身の悪魔のその額に。

 そしてアカツキがその骨身の身体を打ち砕いた。


「滅べ。死体は再び起き上がらないものだ。お前は死んだんだ。受け入れろ。己の死を」


 他人の死を操り、自らの死を遠ざけ続けた悪魔が最期に顎を動かした。


「嫌だね。絶対に。アタシは……」


 そこまでは言葉になった。

 骨身が灰へと変わる。

 風に流れる。

 長年恐怖し、その死を願い続けた骨身の悪魔の最期は、こんなものかと思うほどにあっけない消え方だった。



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