大司教
2016/04/21 改稿。
村に戻り、ナーの何か言いたげな視線をやり過ごして食事を取り、その日は何事もなく終わった。
翌日、早速に村での作業に取り掛かり、それは日が沈む前には切り上げになる。
外の野営地に戻ろうとすると、ナーに引き止められた。
「聖痕教会のミハエル・エンデ大司教様が昼過ぎに到着していたようです」
確かに村へと大層な馬車が入っていくのは見ていた。
代官への客というのも当然考えられる。
だが、わざわざ俺がいるタイミングで現れる以上は、俺にも用があるのだろうとは思っていた。
「大司教?それはまた随分と大物が出てきたな。それもこんな小さな村に」
「カドモス様に会うために、とのことです」
「まあ、そうだろうな。この村の代官や神父に会うためだったらタイミングが良すぎる」
生まれてからこの方、教会の世話になったことなど一度もない。
信仰は勿論、親交もなかった。
それが神父、司祭、さらには司教をすっ飛ばして、いきなり大司教だ。
枢機卿まですっ飛ばされなかったのは、ウムラウトのある東方が西方に比べて熱狂的な信徒が少なく、その影響力が地元貴族を超えることがない土地柄だからだろう。そのために、枢機卿というのは東方ではたったの3人しかいないという。
勿論、教皇が出てくることもあり得ない。あれは西方から動くはずがない。会うつもりがあるなら来るんじゃ無く、こっちから行くことになるはずだ。
呼ばれたとしても、俺が西方に向かうことはありえないが。
ウムラウトも含めて、近隣諸国には枢機卿はいない。
それはつまり、この地で教会の権力者としては最大の人物が現れたということになる。
教会がいつか、何らかのタイミングで接触してくることは想定にはあった。そう思ってルークにわざわざ調べさせたのだ。
なにしろ、サイクロンは確かに言った。
教会との繋がりを。
だがそれがこんな小さな村に突如として現れるとはさすがに想像していない。
トレマでは、誰に話を聞かれるとも限らない。それを嫌ったのならば、嫌うだけの内容を話す気があるということだろうか。
思わず長く息を吐いてしまうと、ナーが窺うように目線で問うてくる。
「……まあ会うさ。とは言え、礼装なんて持ってきていないぞ」
今、持っているのは鎧の下に着こむサーコート、それにいくつかの普段着だけだ。教会のお偉いさんに合うのにどちらも適した服装ではないだろう。
「その準備は既にこちらでしてあります。多少、サイズが合わないかもしれませんが、ご容赦を」
ナーに案内されて通されたのはいつかの代官の屋敷だった。ナーはまだやるべきことがあるからと、いつも通りの無表情で目礼すると入り口で去っていってしまう。
これから教会の人間と何を話すのか、そもそも何をしに来たのか、それを知らなくてお前は良いのか?と思わず言いたくなったが、これから何の話をするのか不明なのは俺もそうだ。
妙な横槍は入らない方が良いに決っている。何も言わずに俺もナーを見送った。
こういう時には傍らにはむしろエキオンがいてほしいところだったが、生憎まだ合流する手筈は整っていない。
ルークは今回の巡回には同行していない。
あいつはあいつで色々とやることがあるという。
俺の従者のように振舞っているが、実際にはあいつはあいつで準貴族という立場がある。実際に俺に関すること以外でも主に流通に関することで、商人に近い仕事を行っているという。
ふとルークがいたら、この段階でもその大司教がどんな人物で、ある程度のどういう裏があるのか、そんな話が出来たかもしれないなとは思った。
色々と不自由が多い。
それはウムラウトに英雄として影響力を持ち、立場を保証してもらうがために生じた税金のようなものだ。今はまだ手勢と呼べるような信頼できる身内というのも少ない。
しばらくは我慢するしかないだろう。
俺は軽くため息をついて、屋敷へと入った。
聞けば、その大司教はこの屋敷で過ごすことになるそうだ。
この村にも教会はある。だがそれは村人が祈るためだけであり、それほどに立派なものではない。いざという時の避難場所になるために、それなりに広さも強度もあるが、大司教という貴人が滞在するにふさわしくはないということだろうか。
今はもうダニエルの後任の代官が就いているのだが、小役人程度の印象しかない。その代官の命令で代官の従者から着替えを行い、微妙にサイズが合っていない礼装に愛想笑いをされつつ案内された食堂で大司教に俺は会った。
「お初にお目にかかります。ミハエル・エンデと申します。どうか以後、お見知り置きを」
「カドモス・オストワルトだ。さて、用件には想像が付くが、果たしてどこまで想像通りかな?」
俺の言葉に恰幅の良い大司教は笑みを見せる。
年齢は40代後半といったところか。
顔に刻まれた皺がその笑みを一層柔らかく見せていた。
真っ白な法衣に身を包み、温和な禿頭の聖職者といった風情だが、その中身もそうとは限らない。何しろ聖痕教会だ。サイクロンが嘘を言っていなければ、未だドラゴンの存在を秘匿し続けている人類の敵といっても良い組織なのだから。
「そうですね。確かに私に期待された役目というものはございます。しかしながら、私はその前にオストワルト様のことを知りたいと思っております。まずは語り合いましょう」
そう言って、傍らの酒瓶を手で示した。
グラスに赤い液体が注がれる。
食堂にいるのはミハエル・エンデ大司教と俺のふたりだけ。
今、この場には1体のスケルトンすら置いていない。
大司教も何人もの供を連れてきていたが、この場には同席させなかった。
それはつまり、身内にすら内密にしたい内容を語るつもりがあるということ。
返礼として、大司教のグラスに酒を注ぎ、軽く合わせた。
口の中を湿らす程度に少しだけ含み、その味を確認する。
気になるような妙な味などしない。
それを確かめてから飲み干した。
「心配しなくても、毒など入っておりませんよ」
そう言って、自らは一口にグラスの中身を飲み込んだ。
なかなか無味無臭の毒というのは難しい。
どんな毒でも何らかの匂いなり、味なりがするものだ。
どんなに気を使って精製しても、混ぜ物をすれば本来のそれらに変化をきたす。
昔、散々に暗殺されかかって、知人に頼って教えられた知識は今でも役立っている。実際に、酒にもグラスにも毒が盛られていることはないようだ。
さすがに大司教を名乗るような大胆な刺客もいないか。それはこのタイミングで訪れてくることから考えても、名乗った通りの人物で間違いない。
「長い間の習慣でな。気にするな」
フェレータとドラゴン、それに聖痕教会との関係を秘するために現れたのならば、例え大司教ひとりの名誉と命を掛けても惜しくはないはずだ。
だが、それはどうやら違うらしい。
大司教の穏やかな笑み。
常に浮かべられているそれを見ると、疑いを持って接する、それ自体が何か間違っているのではないか、そんな思いが僅かに浮かぶ。
それほどに、振る舞いには威厳と威儀が見て取れる。
本来であれば、下手に出て、礼を尽くすべき相手なのかもしれない。
しかし、どうしても俺はそんな気にはなれなかった。
前日にグリパンの死体を見ていたせいかもしれない。
こいつらが大それたことを考えなければ、こんな結果はありえなかったのだから。
「さて、悪いが俺には教会と語り合っている暇なんてない。これでも忙しい身でね。それで?用件は?俺から聞いても良いが、そちらがどこまで話す気があるのか分からないからな」
「貴方様がそのように敵意にも似た思いをお向けになられるのは、さぞ大変な思いをされたからなのは推察するに及ばないことでございましょう」
大変な思い?そんな一言で済ませられる事だったか?
じわりと苛立ちが浮かぶ。
それを察したのか、今まで浮かんでいた笑みが消えた。
俺が言葉を発する前に、大司教は用件を告げる。
思いもかけない用件を。
「ドラゴン退治の英雄。私どもはその御方を、教会が認める聖人として迎えたいと考えております」
「なに?」
「オストワルト様はご存じないかもしれないので、説明いたしますと、聖人とは教会が認める奇跡の体現者の事です。最も有名なのは」
「ミレニアム1世」
「おっしゃるとおり、世界に平和を実現したあの御方に相違ございません。ただ、戦争の後では知らない民が多いのですが、あの御方以外にも聖人というのは今までにも幾人も姿を現しておられます」
教会が認める奇跡。
それもいくつかあるようなのだが、最も大きな奇跡、それはドラゴンの討滅に他ならない。
あの自らの他に天敵を持たない魔獣を倒すこと、もしもそれを独力で行える人間がいるならば、それは奇跡だ。
そして、あの哀れな子どもに描かれていた筋書きも朧気に見えた。
今までに現れた聖人について、語ろうとするエンデの言葉を遮って問いかける。
「それは俺じゃない誰か、例えばどこかに秘匿されていた子どもがなるんじゃなかったのか?」
この大司教はどこまで知っているのか?
それを確認しなければならない。
もしも知らないなら、俺の怒りをコイツに向けるだけ無駄なのだから。
「私も噂だけは聞いております。オストワルト様が仰るように、あの御方の再来とも思える子どもは確かにいたようですね。ですが、既に亡くなっているようです。噂、でしかありませんが。私はそんな噂よりも、現実にドラゴンを打倒しえた貴方様こそが聖人に他ならないと信じておりますよ」
知らないわけではないらしい。
知っているからこそ、使者に選ばれたということか。
エンデはしらを切ることも出来たのだろうが、それをしないことを選んだ。
ならば、俺も踏み込もう。
「それで?俺は聖人になって何の得がある?」
「さて、私どもは損得では動きません。ですので、得と言われてしまえば困ってしまいます。ですが、そうですね。いくつかオストワルト様が生きやすい環境をつくる、そのお手伝いは出来ますよ。例えば」
教会が認めた聖人として名前を知らせる。
スケルトンを造り出すそれを、奇跡のひとつとすること。
今、行われている魔法審問も打ち切らせ、教会の影響力の及ぶところならば好きな時に行けるようになる。
今もそのままになっている西方でのいくつかの国々での、抹殺対象のリストから名前を消すことすら出来るという。
何よりも、教会の内部でひとつの力を持った勢力を形成できる。
それはどこの出とも知れない人間が決してたどり着くことの出来ない高みだ。
地域によっては王すらも凌駕する権力を持てると。
ここまで直接的に語った訳ではなかったが、要約すればそういうことだ。
得などないと言わんばかりに始められた話は、まったく逆の結論へと向かっている。
つまるところ、これはなんなのだろうか?
俺を教会内部の権力争いに使いたいということか?
俺の中の冷えた部分が言葉になった。
「くだらない」
「失礼、何とおっしゃいましたか?」
「俺には意味が無いなって言ったんだ」
自分から聞いたことだったが、得があるなしではないのだと、強く思った。
それにもう、わざわざ教会の力を借りなくとも、自らの力で居場所は掴みつつある。
こんな時にこんな申し出をされること自体が邪魔だとすら思えた。
「そろそろ腹芸をするのは無しだ。狂人を育てて英雄を作り出すことに失敗したお宅らのその代役になる気はない。お前らの都合の良い奇跡を生み出せる相手は他に探すんだな」
「そうですか。では、私も率直に申し上げましょう」
エンデは目を見開くように俺を見つめて語りかける。
その目は確かに民衆の迷いを救う聖職者のそれに他ならない。
「確かに貴方様は教会の権力争い、いいえ、派閥争いに利用するべく選ばれました。そういう一面はあります。子どもの件については、おおよそ貴方様の想像通りで間違いないでしょう」
「フェレータを正しく導けると本気で思っていたのか?」
「派閥の中の一部は信じ、一部は反対しておりました。私は反対する側だったと申しておきましょう」
派閥の中の一部が画策し、それを知る一部は反対した。
そして大部分はそんな動き自体を知らない。
そうしたなかで事件は起こった。
フェレータの暴走によって、信じた側は力を失い、反対した側は力を得た。
大司教は再来派という訳だ。
その再来派の中では穏健派なのだろう。
英雄が再び現れると信じてやまない信徒の中でも、殊更な狂信者たちが存在し、それを教会では留めおけなかった。
それを知る立場にあり、止めようとした自分は狂信者などでは決してないと目の前の聖職者は主張する。
「人が正しく生きるには目指すべき目標が必要なのです。そしてそれを体現する人間の姿が。世の中は乱れています。大戦が終わっても、いや、終わったからこそ、目には見えない乱れが様々な場所で人を蝕んでいます」
民衆を導くリーダー。
かつては全土を統一したたったひとりの奇跡の体現者。
その再来を待ち望んでいるのは、目前の大司教だけではないと、穏やかに俺へと語りかける。
「聖人に貴方様はなるべきです。聖人とは個人の望みによって生まれるものではございません。無数の願いが、人間という種族そのものの望みが聖人という存在を生み、だからこそ人々に受け入れられるのです。今回、一部の暴走があり、それによって多くの人々に嘆きと悲しみが生まれた。勿論、それを阻止できなかった私どもにも責任はございます。虫の良い話に聞こえるのも確かでしょう。ですが、分かって頂きたい」
再びエンデの顔に笑みが浮かぶ。穏やかで人の良さそうなそれが。
「たったひとりの聖人が現れる、それだけで救われる多くの民がいるということを。そのことに教会内部の争いも、思惑も関係ないということを」
エンデの言葉は真実を真摯に語っているように聞こえた。
何も知らない人間ならば、無条件に信じるべき相手であると思えただろう。
だからこそ、俺は違和感を覚える。
フェレータがあの時語った教会の姿とあまりにも乖離しているし、何よりも一番大事なことが未だ語られていない。
「そうかな?俺は死人を扱う死の冒涜者だ。死体をあさる、お前らが忌避するべき最上位の存在なんじゃないのか?昔、そうお宅らの教皇様に確かに言われた」
「魔法とは現象です。死すべき肉体が再び動いたからといって、必ずしも邪悪な意志が働いているとは限りません。今の猊下はそう考えております。時代は変わりました。偏見は消えるものです。そういう魔法なのだ、それだけでしょう」
「俺は悪いが聖人になる気はない。もっと言えば、お前らに認められたいとは思えない。なぜだか分かるか?」
それが分からない相手ではない。
何しろ相手は大司教だ。無能な人間が無能なままに祭り上げられるべき位であるはずがないのだから。
だからこそ問いかける。
「ドラゴン」
「正解だ。どこから持ってきた?お宅らの英雄がかつて滅ぼしたと言った伝説の存在を。返答次第じゃあ俺は疑わなくちゃあならなくなる。ミレニアム1世すらも自作自演で生み出された偶像なのか、ってな」
かつて人間を苦しめた天敵。
それはどこから来たのだ?
今回の構図はそのまま大昔にまで遡れるんじゃないのか?
そんな俺の想像は、相手にとっては不快の極みだったのだろう。
初めて大司教の顔に、深いシワが刻まれた。
俺をにらみこそしないが、そんな考えがこの世に存在してはいけないと言わんばかりの苦渋の表情だった。
「その考えは決して、今後想像すらしないでいただきたい。そんなことは決してあり得ない。かつて世界には人間の天敵がいて、そしてそれをあの御方が救ってくださった。それは間違いようのない真実です」
「じゃあ、なぜ今またドラゴンが現れた?それもフェレータを飼いならそうとしていたこの時期に、だ」
「この世の果てから再び現れた、などと言っても通じないのでしょうね」
「当たり前だ。悪いが俺はサイクロンと話をしている。とてもじゃないが、信じられない」
ドラゴンが再び世に現れた。
それがどこからなんて話はどこでもされていない。
思えばそれは不思議なほどに、だ。
既にドラゴンは滅んだ。
誰もがそれを信じているのだ。
まるで洗脳されたみたいに無邪気に世界がそれを信じているのだ。
世で話されている論調はこうだ。
再びドラゴンは現れたが、再び滅ぼされたのだ、と。
英雄が倒してくれて良かった、と。
俺はそんな話はとてもじゃないが信じられなかった。
どこかで誰かが隠していたのだ。
あの恐るべきドラゴンを。
そしてそれが唯一最後の1体だったとどうして言い切れるのだ?
「決して口外しないと、約束できますか?」
「さてね。刺客なんて送られたくないが、真実があって、そしてそれが俺にとって許容できない話ならば、俺は俺にとって真実たる行動を取るだろうさ」
エンデは俺の言葉にしばし、口を閉ざした。
そして俺を見つめる。
やや見開くように、じっと。
いかなる考えが内に生じているのかは不明だ。
俺が聖人になるのか、否か、もしかしたらそれをはかっているのかもしれない。
それによって話すべきか、否か、と。
閉ざされていたエンデの口が再び開かれる。
その目には確かな決意があった。
「ミレニアム1世がどのようにしてドラゴンを退治したのか、これは長い歴史の中で語られる機会はなくなり、やがて詳細は知られなくなりました」
確かにそうだ。
ドラゴンを退治する術が教会にはある。
そう語られながらも、今日ではその具体的な方法というのはまったく語られていない。
ただ、それがあるとだけされている。
「ですが、その術というのは今も教会に残されております。それが今回の事件で使用されました」
「なに?」
なんだって?
ドラゴンを倒す術が今回の事件で使われた?
どういう意味だ?
意味を図りそこねて、俺はただただ目前の聖職者を見つめる。
「ドラゴンは己の他に天敵を持たない。ならば己自身と争ってもらうしかない」
補足的に語られたそれこそが、今回の事件の核心だった。
ドラゴンの天敵はドラゴンだけ。
それほどに力を持った存在なのだ。
だからこそ、ミレニアム1世は戦ったのだ。
俺がスケルトンを操るように。
ドラゴンの天敵たるドラゴン自身を操って。
「馬鹿な」
思わずつぶやきが漏れた。
サイクロンの姿を思い描く。
その胸に刻まれた刻印を。
どこか俺の手に刻まれている刻印に似たそれを。
まるで雷に打たれたように、直感が走る。
サイクロンは知らなかったのだろうか?
その刻印の意味を。
知らされるはずがない。
なにしろそれは出来レース。
子どもが舞台に上がる学芸会。
しかし、その学芸会を企画した人間の方も愚かで甘いとしか思えない。
学芸会に出すのに持たせたそれは舞台ごとすべてを壊せる魔法の杖なのだから。
「あの御方が行使された術は未だ、教会に残っております。ですが、絶対にと、お約束できます。その術は知られざるドラゴンが襲来しない限り、決して外に出ることはないと」
そうでなくては困る。それは俺もそうだが、教会にとってもそうだろう。
教会はミレニアム1世こそがドラゴンを滅ぼしたのだとしたいのだ。
だが、それは結局はドラゴン同士で相争ってもらっただけだなんてことになったら、教会の威信すらも揺らぎかねない。
「リスト、というのはお聞きになりましたか?」
「……聞いた。そうだ、それは何のリストだ?」
未だショックが残る俺へとエンデが聞いてくる。
それで思考を現実へと戻した。それも気になっていたことだ。
リストに名前があったから、フェレータはドラゴンを伴って俺の前へと現れた。
意味もなく名前を書き連ねたりなんてしない。
書き連ねられた名前には何らかの共通項があり、その共通項による目的があったはずだ。
「その術を再び使える候補者。貴方様もその候補者だったのですよ」
ああ、聞いてしまえばそうだろうとしか思えない内容だった。
魔力に自信を持ち、何らかの魔法の極みを知っている。
そういう人間を教会は探していたのだ。
あの大戦の中で、そういう人間をずっと探していたのだろう。
きっとそのリストを俺が見れば、こう思うはずだ。
知った顔ばかりだな、と。
「今日はこれで、終わりといたしましょう。私の裁量を超える話をしてしまった部分もございましたが、私は確信しております。オストワルト様は人々に救いをもたらす聖人たりえると。くれぐれも、今日の話は貴方様の心中に秘されることをお願い申し上げます」
話の衝撃に俺は立ち上がるタイミングを逃して、座ったまま大司教を見送った。
ひとり残されたまま、再びナーが現れるまで俺は動けないままだった。




