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ウォーター

作者: 雷門ららら



 浜風に髪を揺らせて、和辻哲郎は空を仰ぐ。

 海に接するこの綱海市では、日中に海から陸へとかけて浜風が流れる。

 潮の香りとカモメの鳴き声。そんなありふれた海の様子を感じながら、和辻は学校の帰り道を歩いていた。

 頭上からはサンサンと降り注ぐ太陽。そして横を見ればすぐに目に飛び込んでくる、広大な海。

 いつもと同じ景色を見ながら、それでも和辻はそれらに対して新鮮味を失わせない魅力を感じていた。

 海の様子は日によって違うし、香る潮の匂いも風の様子も微妙に違う。

 生まれも育ちもこの町で過ごしてきた彼ではあるが、それでも和辻は周りの景色や自分の境遇に、一切の閉塞感も感じていなかった。


「いや、しかしこの暑さだけは勘弁願いたいのだが……」


 季節は夏。気温は最高潮。

 いくら浜風が流れているといっても、ここは太陽光線の真っ只中。受ける風は心地よいものがあるのだが、それだけでは今の汗だくの状況を改善するにはまったく足りない。

 結果として、和辻はクーラの利いた自分の部屋への道のりを急ぎ、自然とはや歩きになる。

 自分の後からついてくる者の存在など露とも考えないで、和辻は海に接する歩道を歩き続けるのではあるが……。


「ま、まってよ〜」


 舌ったらずな声が後ろから響いてくる。

 可愛らしい女の子の声色。和辻が後ろを振り向くと、現にそこには黒髪の綺麗な美幼女がそこにいた。


「お、お兄ちゃん。歩くの速いよ〜」


「なんだよ、早百合。お前、今日は日直だから先に帰ってて、ってそう言ったじゃないか。日直はどうしたんだ? サボったのか?」


 ノロノロとした進行速度で接近してくる、自分の妹の姿をとらえながら、和辻はそんな言葉を投げかける。

 早百合はその言葉に答える余裕もないように、一心不乱に前進を繰り返すのみ。

 どうやら走ってきたらしく、その顔は真っ赤に染めあがり、息も絶え絶えといった様子だった。

 小学校指定の紺の制服。勿論それは夏服で半そでなのであるが、この太陽の中を走ってきたのだ。早百合の体力はもうほとんどつきかけていた。


「ったく、仕方ないなお前は。ほら、おぶされよ。おんぶしてやるからさ」


「にゃ……お、おんぶ?」


「そうだよ、おんぶだよ。ほれ、おぶされ」


「…………」


 ほれ、といった具合に和辻は、早百合を背中に乗せるためにかがむ。

 それに対して、モジモジというように体を揺らせる早百合ではあったが、意を決したように目の前の背中をみつめながら、飛びつくように和辻に抱きつく。

 小柄な愚妹の体温を感じながら、それでも早百合の体重が重いなんてことはありえず、和辻は颯爽と早百合の体をおぶりながら立ち上がる。

 早百合はいきなり視線が高くなるのを感じ、体が宙に浮くのを感じた。それに対して返すのは、小学生らしい無邪気な笑顔で、楽しくてしょうがないというような表情を覗かせる。


「ったく、お前いつもいつも「子供扱いしないで!!」とかなんとか俺に言ってくるくせに、こういう時にはそんなこと気にしないんだもんな。ずるいぞ、お前は」


「えへへへ、お兄ちゃんの背中は落ち着くんだからしょうがないじゃ〜ん」


 表情も声色も無邪気に染めながら、早百合はそれと同時に和辻にさらに抱きついた。

 和辻の座高に少し足したくらいの小柄な身体を、これでもかと和辻の体に密着させる。

 もはや互いの体温はおろか背中越しに伝わる心臓の音が聞こえ、互いの汗を制服ごしに交換しあうまでにその密着ぶりは高まっていた。

 今は夏であり、真夏であり、外はサンサンと照りつける太陽によって攻撃を受けている現在の状況なのではあるが、しかし和辻は妹のそんな暑苦しい行為を邪険に思ったりはしない。

 むしろ自分に甘えてくれる、という嬉しさが胸のあたりにジンと響き、まんざらでもないように感じていた。

 背中に妹を背負い、和辻は歩いていく。

 こうして見ると、今でも自分のことを焼き付けてくる太陽もこの夏という季節も、なんだか愛しく思えてくるから不思議だ。

 ふと目線を横にやると、海岸線がどこまでも伸びていくビーチにさしかかっていた。

 休みになるとこのビーチには海水浴の客で満杯になる。それを目当てにできあがる海の家も、今では臨戦態勢にはいったように準備を完了しているようで、遠目に見ても、すぐにでも開店できるようになっているということが分かった。

 そしてそのビーチからさらに目を遠くにやると、当然のことながら海が見えてくるのだが、しかし和辻が目線を落とすのはそのさらに向こう。

 ブウー、と今、汽笛を鳴らしながら発進していく一隻の船だった。

 一昔の石油を運ぶタンカーを思わせるような重厚な作り。

 巨大であるという認識はできるのであるが、その大きさをどう表現すればいいのか思いつかないような、そんな次元の巨大な船。

 しかしそのタンカーは、一つ不可思議な部分があった。

 いや、そのタンカー自身の構造上は別段おかしいことなど何もないのであるが、その後ろ。そのタンカーが引っ張るような形をとっている、大きな島のようなものが異様なのである。

 島。それは島である。

 タンカーの後ろ。海の上に巨大な陸地ができているように見える。

 それは信じがたいことにタンカーに引っ張られ、移動を開始しているのであるが、これは一体どういうことだろう。

 タンカーの何倍もの大きさを誇るその陸地は、しかし厳密な意味では陸地ではない。

 それを構成しているのはビニールである。それと類似するのはビニール製のプールを思い浮かべれば正しく伝わるかもしれない。

 現にその陸地を思わせるビニール製のソレは、内部に水をためている。

 海水ではない。真水である。

 人間が飲むことのできる。貴重な資源。

 この日本に残された最後の力といってもいい「水」という資源がビニール製の巨大な袋にいれられて運ばれていく。

 それは勿論、その巨大な陸地を引っ張るタンカーも同じこと。タンカーの内部にあるタンクには、走行に支障のないギリギリまでに真水が溜められていた。

 外国への水の輸出。そのためにそのタンカーは、はるばるここ日本から日本海を越えて北上していくのである。


 そのタンカーを、並々ならぬ、睨みつけるように見つめる和辻。

 そんな視線に気付いたのか、早百合は和辻をこちらの世界に戻すために質問を送ることにした。


「お兄ちゃん。あの船って外国に行くんだよね」


「ん? ああ、そうだよ」


 背中から聞こえてくる妹の言葉に、さきほどまでの厳しい表情から一転、柔らかい顔つきになりそう言う。

 早百合はいつもの兄に戻ったことを感じ取って、一安心といった様子。そのまま動き続けていくタンカーを見ながら言葉を続ける。


「でもさ、お兄ちゃん。なんで水なんて輸出するの? 蛇口を捻ればかってに出てくる水なんかが、なんで外国で売れるのかな?」


「……それは違うぞ早百合……それは違う」


 その和辻の言葉を聞いて、早百合は自分が地雷を踏んでしまったということを理解した。

 せっかく、さきほどまでの厳しい感じのお兄ちゃんから優しい感じのお兄ちゃんに戻ったというのに、これではまさしく逆戻りだ。

 早百合は自分の失策に呆れながら、しかし兄と会話を行う以外に選択肢はなかった。


「……えーと、私忘れちゃったんだけど……確か、日本以外の国ではなぜか人間の飲める水がなくなっちゃったんだっけ?」


「なくなった、というよりは出なくなってしまった……水が湧き出なくなってしまったんだな。完全に水がなくなったわけじゃないんだ。農業用にでも他の動物用の水でも、そういうものならばことかかないほどには水は存在するんだよ。

 だけどな。なぜかはまだ分かっていないんだが、不思議なことに人間の飲める水っていうのがほとんどなくなってしまったんだよ。

 人間用の水なんてのは本当に今の世界では貴重なものでな……水はあるんだよ、水は。だけど農業とかそういうのに使うにはまったく問題がないんだが、しかしそれを人間が飲むと、死んでしまうんだよ人間は……原因は不明。

 何かの化学物質が地球全体に蔓延しただとか、そんなことが言われているけど信憑性も何もあったもんじゃない……とにかく、人間の飲める水っていうのは、現在ではとっても貴重なものなんだよ。この日本にいては分からないかもしれないけどなあ」


 そんな和辻の言葉を聞いてはいた早百合ではあったが、その言葉の半分も理解できてはいなかった。

 それは和辻の言っている言葉の意味も勿論そうだが、それ以上に水が貴重だというその意味が分からなかったのである。

 だって、水だったら横を向けばあるし。と早百合は視線を横に移し、どこまでも広がる広大な海原をみつめる。

 海水と真水の区別さえつかない幼いその少女は、やはり和辻の言葉を理解するには早すぎた。

 しかし和辻の言葉はほとんど本当のことであり、現在の世界の問題を如実に表している言葉であるのは確かなことだ。

 10年ほど前から始まった原因不明の人間の死。

 それの原因がなんとか人間の飲んでいる水にあるというのは分かったのだが、しかしそれ以上は分からない。分かっているのはとにかく水がやばいということだけ。

 それも湧き水、に限られた水が危険であるということが、最新の研究で分かっている。

 地球の内部から湧き出る湧き水をいくら徐水処置を行ってもいくら薬品消毒をしようとも、原因不明の死はとまらなかった。

 それも人間にだけその効力が現れたというのだから、事態は悪化の一途をたどるだけであった。

 現在では、人の飲める水は雨水だけという有様。

 ここで、なんだ雨水は飲めるのかそれならば大丈夫ではないかと思うかもしれないが、それは甘い。

 雨水といって、その量は膨大なものになるのではないか思うかもしれないが、しかしその量は微々たるものなのである。

 20年前まで、地球上に存在していた水の70%を補っていたのが湧き水。雨水は全体の30%を占めるにすぎなかった。

 単純計算で地球上の水の70%がなくなってしまったと同義。

 人間の飲料に対する水だけが問題なので、この数字はもう少しはマシにはなるが、それはほんの少しマシになるというだけ。

 地球上の飲み水がなくなりつつあるという事実は変えようがなく、世界各国の平和がおびやかされつつある。

 第二次世界大戦後続いてきた、かりそめの平和は段々ときな臭いものに変わり、戦争の火種はちゃくちゃくと準備されつつある。

 水、という人間には欠くことのできない資源をめぐって、世界各国が動き出そうとしているのである。


「にゃあ? お兄ちゃんの言ってることよく分からないよ。もっと分かりやすく喋ってよ〜」


「…………」


 妹の間延びしたような声に、またもやこちらがわに呼び戻される和辻。

 しかし、この我が妹の知能数は大丈夫なのだろうかと、和辻は少しだけ心配になる。

 いまどき「にゃあ」だとか返事をしていると、近所に住む危ないお兄さんあたりに連れて行かれるのではないか、などと和辻はその光景を脳裏に思い浮かべた。


 そんなことになったら、俺はそいつのことを八つ裂きにして熱帯魚のえさにするんだろうな。それくらいが丁度いい。犯人には生まれてきたことを公開させるように残虐な姿を晒してもらおう。


 ふっふっふっふ、などと怪しく笑い始める和辻。それを見て早百合は和辻の背中でビクっと震える。

 時々、自分の兄が何かとんでもなく危ない人に見えてしまうことがあるから、困ってしまう。


 だって、ほら。今だってお兄ちゃんの目は犯罪者のソレだし……。


 早百合は身の危険を感じながら、しかし和辻に背負われているという現在の状況から逃げ出すことはできない。

 今までもこのように身の危険は感じてきてはいるが、今回もまた何事もなく事が済んでくれればいいな、と祈ることしかできなかった。


(いや、まあ…………その、お兄ちゃんにだったら別に……その…構わないんだけど……)


 一人顔を赤くしている早百合は、恥ずかしさを隠すようにさらに兄との密着の強化をはかる。

 結果として和辻の体は、ぎゅうっと締め付けられることになるのだが、妹のそんな行動に兄は、しょうがないな〜、などと思っているのが丸分かりのニヤけた顔で歩き続ける。

 義理ではあるけどそこには美しい兄と妹との関係があるらしく、今日も和辻と早百合の仲は安泰である。

 これは何も今に始まったことではないのだが、しかしはたから見ていると家でもベタベタ外でもベタベタでは、いい加減うっとおしく感じてしまうのではないかと邪推してしまう。

 まるでその関係は兄と妹というよりは、恋人同士であり、和辻と早百合の年齢さと体格の違いを見るにつけ、危ない関係に見えなくもない。

 それでもそんなことは2人は気にした様子もなく今日もイチャつき始めるので手に負えなかった。

 今も早百合は和辻の背中で幸せそうな表情を浮かべながら、目の前にある兄の後頭部に頬づりをしている。

 それを受けて、和辻もまたまんざらでもなさそうな表情を浮かべるにいたり、事態はいよいよ危ない様相を呈し始め、近所の住人が警察への連絡をしようかしまいか悩む種をまた増やしていく。


 このように実に仲のよい兄と妹なのではあるが、しかし今日この頃、早百合にとっては由々しき状況が侵攻しているのもまた事実だった。

 それはもとより和辻の関わることであり、というかもはや「女」絡み。

 ほら、後ろから聞こえてくる。

 慌てたような足音がタッタッタと……。


「て、哲ちゃん。奇遇だね〜。い、一緒に帰ろうよ」


「…………帰ろう」


 タッタッタ、とそのまま和辻の前に現れた女の子2人が言葉を発する。

 その姿は見事なまでに女子高生で、見事なまでに瓜二つだった。

 双子で和辻のクラスメート。一条かなめ、と、一条みやこ、である。

 最初に口を開いたほうが、幾分はつらつとした感じの、かなめで。大人しそうで事実大人しいというか無口な女の子が、みやこである。

 どちらもなんの嫌がらせか髪型も何もかも同じで、雰囲気という外見を別にしたらどちらがどちらだか本当に分からない。

 しかし、こうしてみてみるとその違いはれきぜんで、明るいほうと暗いほうという区別が簡単につくのだから便利なもの。

 これがミステリー小説ならば、彼女達の特性が遺憾なく発揮されるのだろうが、しかしこの物語はミステリではないので宝の持ち腐れである。

 そしてそんな無駄なスペックを誇る双子の姉妹を、さきほどから睨みつけている存在がここには一人。

 言わずと知れた、早百合ちゃん。

 可愛らしいお目めはどこへやら、今ではそのつぶらな二つの瞳は三白眼へと変貌し、愛しい兄の前に現れた邪魔者を睨みつけている。


(いやいや、奇遇ってあんた今走ってきたでしょうが間違いなくお兄ちゃんめがけてさ)


 そんな悪態を心の中でつきながら、兄の背中に乗っかった状態で一条姉妹に無言の圧力を加えていく。

 その早百合の圧力に、真正面から相対する一条姉妹。

 和辻への告白未遂事件があってからは、早百合の2人に対する嫌悪感はいっそう強まっていた。

 なんていっても、まさか身代わりの変わり身の術まで使って、兄のことをたぶらかそうとしたのだ。

 それはそれだけで万死に値する愚考。こいつらに基本的人権がないのであれば今すぐにでも殺しやるのに、というのが早百合の隠された願望だった。


「ああ、かなめにみやこか、奇遇奇遇……ってお前らの家ってこっちだっけか? 」


 そんな隠れた戦いなど露とも知らず、なんの気なしに和辻は一条姉妹へと言葉を向ける。

 後ろから明らかに走ってきたのに奇遇なわけがないのであるが、そこにはまったく触れないで、お前らの家ってこっちだっけ?と聞くだけである。

 そんな言葉に、背中にへばりついている早百合はため息をつく。

 今ではもう慣れているとはいえ、しかしこいつらがお兄ちゃんの前に現れる原因の一端はお兄ちゃんが担っているのだ。

 こんなにあからさまに迫ってきているんだから、こいつらのこと邪険に扱ってもいいのに……というか邪険に扱ってくれないと困る私というものがありながら。

 なんてことを、プンプンと顔をいからせながら思っていみる早百合。

 和辻はそんな妹の次々に変わっていく表情は見ることができない。できないがしかし目の前に存在する一条姉妹もまた、表情を一転させて慌て始めたのは見て取れた。

 明るいほうの一条も(かなめ)、暗いほうの一条も(みやこ)ハトが豆鉄砲くらったような慌てぶりである。

 暗いほうは日頃そんなに感情表現がないのであるが、今では手を上にあげてどうしようどうしようとダンスを踊っている。

 勿論、明るいのもそれに勝らずとも劣らずに慌てふためいていて、なんとか弁解したいのだけど言葉がでてこないという様子だった。


「ああ、あ、あのね哲ちゃん。これは違うんだよ?」


「……何が?」


「えーとね。うん、確かそう。今日は私達が夕飯の当番だから、商店街まで食材を買いにいく途中だと思うの。うん」


「…………そう、かなめの言うとおり」


「…………」


「…………」


 苦しみぬいた言い訳がコレである。

 さすがの和辻もそんなことは信じられないようであり、早百合にいたってはそんな話を信じるくらいなら詐欺屋の人は苦労しないよプップップとバカにしたような目つきで2人のことを睨んでいる。


「いや、まあ俺はいいんだけどさ……じゃあ一緒に行くか? 商店街。今日は夕飯の当番俺だからさ。丁度食材を買いに行こうと思ってたんだよ」


「え、え〜。ど、どうしよっかな〜。そりゃまあ哲ちゃんがどうしてもって言うなら私は別にいいけどさ……」


「…………一緒に行こう」


「じゃあ決まりだな。早百合はどうする? 家で待ってるか?」


「え? え?」


 兄の突然の言葉に、少々と戸惑っている様子の早百合。

 憎き一条姉妹の誘いを兄がまさか受けるとは思ってもいなかったのである。

 思考はショートし、頭は真っ白。

 そんなわけで沈黙することしかできなかった早百合であったのだが、しかし和辻は何を思ったのか、その沈黙を肯定の意思表示だと勘違いしたらしく「じゃあ決まりだな」などと言って、早百合が買い物に付き合うということを決め付けている。


(いやいや、お兄ちゃん。私何も言ってないから。そりゃあお兄ちゃんの前ではこいつらと仲良いように見せてたから、私が一緒に買い物にいくこと断ると思ってはいないだろうけど……)


 お兄ちゃんに悪い虫がつくのは嫌。だけどお兄ちゃんに嫌われるのはもっと嫌。

 という見事なブラコン一直線の早百合は、その打算により兄の前では一条姉妹と仲が良いようにみせていたのでる。なんといじらしい妹なのだろう。血も繋がっていないし、言うことがない。


 そんな早百合の思いなど露とも知らず、和辻は早百合を背負ったままに歩きだす。

 それを追うように一条姉妹が続き、4人は商店街のほうへと歩を進める。

 商店街までは結構な道のりがあり、本来ならば自転車などを使って行くのが常套手段なのであるが、4人はそのまま徒歩で商店街まで向かおうとしている。

 おそらくは40分くらいはかかるであろう、その道のり。

 しかしそこにいる4人は、そんなことはどうでもいいらしく、楽しげに表情を緩ませているのみである。

 トテトテトテ、とマイペースなペーズで歩みを続ける4人。

 こうして歩いている4人は、一人も言葉を発する者が存在せず、一行にの周りには沈黙が訪れている。

 それでもその沈黙は思わず胃が痛くなるような居心地の悪いものではなく、変な表現だが温かみのある沈黙であった。

 柔らかい、それでいて確かな存在感をもってそこにある今の雰囲気。

 それを感じて和辻は、自分の中に緊張という二文字が完全に消滅しているのを感じた。

 地面を踏みしめる足音と、温かい人間の息づかい。

 それらを感じた上で、さらにその背景には海の匂いと浜風とを感じる。

 日常というありふれたひとコマ。

 普通であるならばなんでもないような今の状況を、和辻は幸せそうな表情で堪能している。

 それは幸か不幸か。

 当たり前のことに幸福を感じるというのが善いことなのかどうかは考え次第であろうが、しかし和辻は今の状況に、ささやかながら幸福というものを感じているのは事実だった。

 昔の自分であったら感じられなかったであろう今の感情。

 あの頑ななまでに他人を拒絶し、自らの殻へと閉じこもっていた時期の自分では、今のような安らかさを感じることはできなかっただろう。


「ん? ……あれ?」


「…………どうしたの? かなめ」


「いや、なんか……」


 それまでひたすらに前進を続けてきた、元気娘かなめが急に立ち止まるかと思うと、辺りに注意を向け始める。

 それにいち早く気付いた、みやこがかなめの近くまで寄っていき、心配そうに自分の姉のことを見つめている。


「…………大丈夫? 体、調子悪いの?」


「ん、いや違う。体はなんともないんだけど……なんか……ねえ、みやこ。なんか聞こえない?」


「…………聞こえる?」


 そう言うとかなめは耳を澄ませて、何かを聞き取ろうとする体勢になる。

 何かが聞こえるというが、しかしみやこには何がなんだか分からなかった。

 現に周りには変な音など聞こえないし、海のさざ波と風の音が聞こえるだけである。

 それでもかなめは、何かが聞こえるらしくて、熱心に辺りに注意を振りまいている。


「なんだ? どうしたんだ。急に立ち止まったりして」


 今、ようやく和辻もかなめの異変に気付いたらしい。

 一条姉妹とは少し距離の離れたところから和辻は2人に声をかけ、一条姉妹の方向へと来た道を引き返し始めた。

 その背に乗る早百合も、突然のかなめの行動に戸惑いを隠せない様子。

 その元気な様子とは正反対に、体が弱く病気持ちのかなめの身に、何かよからぬことが起きたのではないかと、心配気に眉を寄せていた。


「ねえ、何か聞こえない!? 哲ちゃん……なにか、変な……!!」


「聞こえる? ってなにが……」


 かなめの、理解できない言葉。

 しかしそのかなめの様子から彼女がふざけているのではないことは容易に見て取れ、事態は愈々混迷を極めてくる。

 今だに一条姉妹と和辻達の間には結構な距離があり、その距離を埋めようと和辻は急いで歩み寄ろうとするのだが……、



「ねえ、お兄ちゃん。何か落ちてくるよ」


「え?」


「ほら、空から……」



 早百合の言葉に、和辻は空を見上げた。




 ◆◆◆




 空に無数の星達が浮かんでいる。


 キラキラと輝く無数の幻想。


 昼間の空に星がでている。


 それは太陽を浴び、光を返し、その数ともあいまって美しい光景を作り出す。


 ピュー、という音が聞こえる。


 星の光は大きくなりはじめ、星の数さえも増大し始める。


 キラキラキラキラ。


 お星様の一群は、まるで自己を主張するかのようにその煌きを強めていく。


 それらは流れ星のように流動し、今が太陽の時間であることを忘れさせる。


 幻想的な風景。


 それを見上げる者は嫌がおうにも心を奪われる。


 ピュー、という音が聞こえる。


 それはさらに強く、強く、強く。


 破滅の時間が近いことを教えてくれる。



 綺麗な星空。


 その本来の特性。




 太陽の光を返すのは星たる由縁。

 ――――しかしその星は金属片でできていた。




 星の本来の居場所は言わずもがなの宇宙空間。

 ――――しかしその星は地球に流動する。




 寿命は長く永遠の時間を彷徨い続ける。

 ――――しかしその星は明確な目的のために。



 落ちる。

 落ちていく。

 落とされていく。



 その存在は高度一万メートルに。

 肉眼では確認できない高度に存在する。



 鉄の塊。

 人間の醜悪。



 平成38年7月28日午後2時34分。

 綱海市に対する爆撃は始まった。




 ◆◆◆




 何かが落ちてくる音。

 ヒュー、という音が次々と耳に入ってくる。

 落下に伴う、空気との摩擦が生み出す独特のその音。

 その何かの落下音が、まるで音楽のように鳴り響き始める。

 そこからはあっという間だった。

 和辻は何がなんだか分からないままに、その光景を目にした。

 いきなり爆音が響いたかと思うと、目の前の空間が爆発した。

 まるで、何かの花の花弁がいきなり開いたような、そんな錯覚。

 爆発の結果は押して知るべし、破壊の爪あとでしかない。

 空から飛来した何物かがそこにあるすべてを破壊してしまった。

 そう、和辻の目の前の空間。

 一条姉妹が存在していた空間を、根こそぎ絡めとってしまった。

 爆音に爆風。

 さらには煙幕のようなものまでできあがり、辺りの視界はゼロに近くなる。

 和辻は今だ何が起きているのか分からないままに、早百合をしっかりと背負いながら、一条姉妹がいた場所へと歩を進め始める。

 さらに爆発。

 和辻の横10m離れたところに、さらに爆弾が投下された。

 それによって生み出された爆音はもはや轟音であり、人間の鼓膜を破壊するのに十分な音量。

 和辻はキーンと鼓膜がしびれるのを感じながら、しかし歩み寄ることをやめない。

 早百合が背中で悲鳴をあげているが、それすらも耳に入らない。

 頭は真っ白というか、変に落ち着いているのを感じた。

 今だに状況がどうなっているのかは分からないが、変にパニくることもなく、自分を客観的に見ているような錯覚をさえ感じた。

 和辻の意思としては勿論、一条姉妹の安否を気遣うというものであるが、その考えは和辻の頭の中に言語として把握されてはいない。

 ただ盲目的な歩みを続ける和辻は、その意味で自分を失っているということができた。

 あまりの情報量と、現在の状況に対しての情報が少なすぎることもあって、脳が現状の把握を拒否している。

 それでも歩みをやめずに一条姉妹の居た方向に歩を進めるのは、和辻の意識ではなくその根底にある精神とでもいうべきところが命じているにすぎない。

 和辻は歩く。

 爆発はさらに間断なく降り注ぐ。

 しかしそんなことにはまったく頭が働かなく、さらに歩を進め、そして何かを踏んだのを感じた。


 人間の脚だった。


 おそらく左脚であることが予想されるその脚には、何か見覚えのある物が付いていた。

 その左脚がつけている靴。それはこの前のかなめとみやこの誕生日にプレゼントしたものであり、さきほどまで一条姉妹が身につけていたものであり……、

 目の前にさきほどまであった煙幕が少しだけ薄れる。

 目の前が少しだけ見えるようになる。

 そして目の前に、バラバラになった人間の元構成物も少しだけ見えるようになった。

 バラバラ殺人ではないのだから、すべての体がそこに備わっているということはない。

 足りないパーツや、どこにそんなものを収めていたんだと思わず疑問に思ってしまうような大量の内蔵も巻き散らかっている。

 あれおかしいな、なんで右腕が二つあるんだろう。と思ったら、死んだのは2人なのだから当然だ。

 外見上はまったく区別がつかない2人であるから、この腕はどちらのもので、この頭部はどちらのものなのかがまったく見当もつかない。

 爆発で汚れた、かなめかみやこかどちらか分からない頭部は、何か形容し難い表情を浮かべていた。

 舌は口からデレンとでているし、目だって飛び出てしまっている。

 首の部分でその頭部は引きちぎれており、首の骨だけがダラリと下にのびていた。

 その骨の部分を持って、ブンブンと振り回して、ハンマー投げでもしたら面白いのではないか。

 そこにあるのは人間ではなく、奇怪なオブジェにすぎない。

 人間ではなく「物」。

 あははは、なんだこれは、そうかただの人形だったんだ。

 和辻は思わず声を出して笑い、おかしくてたまらないといった具合にその2つの死体を見つめていた。

 くくく、と喉を鳴らし、目には涙まで浮かべる。

 着せ替え人形ならぬ、付け替え人形か。

 体のパーツを自由にお選べになります。自分好みの人形を作りましょう。

 和辻は、可笑しくてたまらいように身をよじらせる。


 しかしそれは一瞬のことだったようで、和辻は今まで自分が何を思っていたのかを感じて薄ら寒くなった。

 自分の今までの思考が信じられず、自分がとても醜い存在のように感じる。

 サー、というように背筋は凍り、自分に対する不信感と気持ちの悪さで吐き気がした。


 爆発がおこる。


 ここにいては危険だ。

 捲き起こった吐き気は、その爆発によってどこかへと飛び去る。

 そして幾分か回復した思考は、一刻も早くここから避難することを進言していた。

 しかし、一体どこへ? というかなぜ綱海市が爆撃などされなくてはならないのだろうか……。


(やはり、ここが真水の輸出港の内でも最大のものだからか?)


 爆撃ということは、どこかが攻めて来たということであり、このような組織だった攻撃が民間人にできるはずもなかった。

 結果としてこれはどこかの国からの攻撃だということが分かるが、それがどこの国からということは分からない。


「いや、どこからの可能性もあるな」


 世界中が敵になる可能性がある。

 それは日本が有している水が目的であり、そしてそれしかこのような攻撃をしかける理由がないだろう。

 現在の日本を占領することで得られる利益などそれしか考えられない。

 しかし分からないのは、なぜ「爆撃」なのかということだ。

 水の輸出施設としての綱海市が目的なのであれば、爆撃などというすべてを破壊する方法をとる必要はない。

 それに、それは占領したあとに自分達の首を絞めることにもなる。

 このような破壊をもたらしてしまっては、自分達がココを使う段になって不都合が生じてしまうからだ。

 そのため、爆撃などという方法を使った理由が和辻には分からず、思考は少しの間、真っ白になってしまうが、


「……そんなことはどうでもいいか……とにかく逃げることが先決」


 目の前に無残にも転がっている一条姉妹の亡骸は、もはや和辻の頭の中にはなかった。

 死んでしまった者はもはや生き返らない。

 無駄な感傷に浸っているヒマがあるのならば、生き残る最善を尽くすしか他に道はない。

 突然の出来事で、頭の機能がマヒしていた和辻は、段々と普段の……いや、昔の自分に戻っていくのを感じた。

 客観的に自己の立っている居場所を把握し、生き残るために必要な合理的な方法を行使していく。


「だとするならば、やはり安全なのは山の上のダム付近と港だな。さすがにここだけは攻撃しないだろう。ここを破壊してしまっては占領する意味がなくなってしまう」


 決まりだな。

 と、呟いた和辻は、おぶっている早百合に声をかけるべく、後ろに振り返りつつ言葉をつくろうとするが……、


 ポタポタポタ、

 ポタポタポタ、

 ポタポタポタ、



 何かが自分の腕を伝わって地面へと落ちていく。

 え? という疑問詞が和辻の表情に現れる。

 背筋がさらに震えるのを感じた。

 そういえばさきほどから早百合の声が聞こえなかったのはなぜだろう。

 これだけの爆発が続きざまに起こり、さらには今もなお続いている現在の状況で、悲鳴の一つもあげなかったのはなぜだろう。

 それに目の前に、かなめとみやこが無残な形で転がっているというのに、それにすらリアクションがないとはどういうことだろう。


 ポタポタっとさらに和辻の腕に赤い液体が流れる。

 それは次々と和辻の腕をつたって地面へと垂れていく。

 さらには、プシャーっと何かが吹き出るような音も聞こえる。

 背中には粘着質をもった温かい液体の感触さえある。


 大量の赤い液体。

 大量の赤い血。


 早百合を尚も背負いながら、その姿を見るために後ろに首をねじる。

 首をざっくりと切り裂かれた早百合が、目を見開いて絶命していた。




 ◆◆◆




「アアアアああああああああああああああああ!!」


 赤い血を次々に放出し続けていく。

 爆発によって飛来した金属片に、首のあたりをバッサリと切り裂かれてできたその傷。

 その姿は本来の人間の形をしていない。

 切り裂かれた首の傷は深く。というか首の大部分は切れてなくなっている。

 早百合の首からは盛大に血飛沫が巻き散り、和辻の腕はおろか背中までも血浸しにする。

 それから連想できるのは、どう見ても噴水だ。

 ブシャー、と景気よく赤い水が吹き出て、マイナスイオンを放出している。

 そういえば暑い暑いと思っていたのが、若干薄れたような気がする。

 なんだそうか、これは噴水のおかげなのだな。とか訳の分からない思考を和辻は浮かべることしかできない。


 パニックというものは、正常な精神を基準にして観測されるからこそパニックであるが、今の和辻はその正常な精神がなくなりつつあった。

 自分の精神が軋んでいくのが分かる。

 精神、などという有物性をもたないものが軋むなどというのはおかしな話かもしれなかったが、しかし軋んでいくのである。


 壊れる。

 狂う。

 発狂する。


 対応できないほどの感情とアドレナリンの異常分泌は、まぎれまなく間違いもなく和辻の精神を破壊していく。

 その原因となっている噴水は、尚も赤い水を噴出するのみ。

 これほどまでの血液がどこに蓄えられていたのかと思うほどに、その放出は長く続いていた。


「だ、大丈夫!! 大丈夫だ!!」


 噴水と化している早百合を背負いながら、和辻は叫ぶ。

 何が大丈夫なのか自分でも分からないまま、しかし和辻は「大丈夫だ!!」という言葉を連呼する。


「大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫。大丈夫!! だ、大丈夫だ!! そ、そうだよ。病院にいけばこんな傷くらい直してくれるさ。たかだか首がきれているだけだ。頚動脈さえ無事ならなんとかなる!!」


 頚動脈どころか、首の骨すら損壊されている早百合の姿を見たにも関わらず、和辻はそんなことを口走る。

 和辻の中ではさきほど見た早百合の姿は都合よく歪曲され、なんとか助かる程度の傷として認識されるにいたっていた。


「病院。そうだよ病院だ。早く病院に行かなきゃ……さすがに病院まで攻撃対象にはなってないだろう。うん、そうだ。大丈夫だ。大丈夫」


 確信をもってそんなことを信じる和辻。

 空からの空爆に、攻撃対象をそこまで絞ることができないことなんて考えればすぐに分かるはずなのだが、和辻はそんな事なんて思いつきもしなかった。

 明確な確信をもって、病院は無事だ。早百合を病院まで連れて行けば早百合は助かる。と信じ込み、もはや皮一枚で首が繋がっているにすぎない早百合を背負ったままで走り出す。


 辺りには尚のこと爆撃は迫り、周囲で爆発が繰り返されているが、そんなことを考える余裕は今の彼にはなかった。

 一刻も早く早百合を病院へ、という妄信じみた思いに駆られ、爆音の中を走り続ける。

 早百合だけは、早百合だけはなんとしても助けなければならなかった。

 思えば自分がこうして人並みの感情を取り戻すことができたのは早百合のおかげなのだ。

 心を閉ざしていた俺を救ってくれたのが早百合。

 ならば今度は俺の番だ。絶対に、絶対に早百合を死なすわけにはいかない。


 ブチ。


 その時、和辻の後ろで嫌な音が聞こえた。

 まるで何かの有機物が千切れるような、そんな音を。


「大丈夫。大丈夫!! きっと……いや絶対大丈夫だ!!」


 その「ブチ」という音は和辻にも聞こえていた。今も尚、ブチブチと何かが千切れる音を和辻は完全に聞き取っていた。

 それをかき消すかのように、そんな音は聞こえないというように和辻は大声をだして「大丈夫!!」と連呼する。

 しかしその大声は、あくまでもその「ブチ」っという音を掻き消すためのものではない。

 意識的にはただ「大丈夫!!」と叫び、無意識的にはその音を掻き消すために叫ぶ和辻。

 しかしその思惑など地球の物理法則にはなんら影響を及ぼすことはなく、決定的な状況を作り出す。



 早百合の頭部が、ブチブチという音をだしながら千切れる。



 首の皮一枚で文字通り繋がっていたにすぎない早百合の頭部が、首からボトリと落ちる。

 それは、リンゴが地面に落ちる様子を連想させるような落下だった。

 自分の体重を支えきれなくなった果実が、その自重故に落下する。

 結果として早百合の頭部は地面に転がることになり、その瞳を見開いた頭部はゴロゴロと地面を転がることになる。


 人間の頭部とは思いのほか重く、その分だけ早百合の体重も減ったわけであるのだが、和辻はそのことを意識することはできない。

 なぜなら早百合の頭部がちぎれるなんてことはあり得ないから。

 そんなあり得ない事象を思い浮かべるほど、自分はバカではない。


 もはや完全にい行き着いてしまった和辻は、地面に転がった早百合の頭部など目もくれず、残った頭のない早百合の死体を背負って病院を目指していく。


「待ってろ早百合。今、お兄ちゃんが助けてやるからな。病院まであと少しだ。頑張れ。頑張れよ」


 返事をするための器官がすでに存在しない物体に対して話しかける和辻。

 和辻は信じているのだ。

 早百合が生きていると、死ぬわけがない。助かるはずだと。

 それはおそらく、首の上がない早百合の姿を見たあとでも、和辻は同じ思考をするのだろう。


 ――――君ねえ、頭のない人間が助かるわけないでしょ。

 ――――なんでですか。助かりますよ。なんでですか。


 この先、和辻は早百合を連れて病院まで辿り着くのだが、彼はそこにいる医者をヤブ医者だと決め付ける。

 早百合を助けられない医者などヤブの他にありない。

 それから和辻は、爆撃が終わった綱海市で、頭のなくなっった早百合を背負いながら徘徊することになるのだが、それはまた別のお話。

 和辻は、おそらく、早百合を治してくれる医者が見つかるまで、決して諦めることをしないのだろう。


(完結)

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[良い点] 文章力がありました。幼い妹や、双子の姉妹など設定も独特で面白かったですね。 [気になる点] これはラブコメではないと感じました。メッセージもよくわからなかった。読んでて暗いです。設定が良か…
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